ゼロの使い魔~果て無き道しるべ~   作:カタクリ

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四話「『ゼロ』の使い魔として」

「私と勝負してみませんか?」

 

ルイズを含め、静まり返る教室。この世界の魔法がどれ程のレベルなのか試してみたいという気持ちもあり勝負を仕掛けてみたが、ただ勝負を仕掛けても、貴族は、たかが使い魔の言葉に耳を貸すとは、思えなかった。だからこそ挑発した。プライドの高い貴族なら、間違いなく乗ってくるだろう。

 

「…本気かい?ルイズの使い魔をいたぶる趣味はない。今なら冗談ですませてあげるよ?」

 

最後のチャンスだと、言わんばかりに聞いてくる貴族。だがこれは、逆にチャンスともとれる。

 

「受けるんじゃないわよ、サトル。確かにあんたの魔法は、威力がありそうだけど一発で疲れる程度じゃ勝てっこないわ」

 

どうやら、ルイズは勘違いしているようだった。一発撃った後に疲れたと言ったのは、確かだが、あの程度の魔法なら1日中撃っていてもMPが枯渇する気がしない。自然回復で賄えるレベルだろう。

 

「心配ありませんよ。ミス、ヴァリエール。私は、絶対に勝ちますから。それでは、勝負を受けてくれた、と思ってもよろしいですか?」

 

「…ああ。その愚直にも貴族に逆らった事を後悔させてあげるよ。この授業の後、ヴェストリの広場で君を待っているよ」

 

この時間の授業は、一人を除いて授業に集中することは出来なかっただろう。新任だという先生には、申し訳ない事をしたが諦めてもらおう。

 

授業が終わると、ルイズと青い髪の女の子と赤い髪の女の子と俺以外、教室から早々といなくなった。ヴェストリの広場に向かったのだろう。

 

「ねえ、あなた本気なの?」

 

赤い髪の女の子が後ろから声をかけてくる。妖艶的ともとれるその容姿に暫し目を奪われる。ルイズとは、異なり大きく膨らんだ二つの胸を強調するように制服を大胆に開けている。

 

「ええ、本気ですとも」

 

「ツェルプストー家の者と意見が合うのは癪だけど…私も反対よ」

 

「そうですか…貴女は反対ですか?」

 

大きい杖を持ち、読書をしている、青い髪の女の子に話かけると質素にも一言返ってきた。

 

「別に」

 

「そうですか。それなら賛成でも良いですよね?2対3で此方に分がありますね」

 

「ん?2対2の間違いでしょ?」

 

ルイズの疑問は、最もだが大事な一人を忘れている。

 

「先程の貴族の男の子ですよ」

 

「それってギーシュの事?そんなの関係ないじゃない」

 

どうやら貴族の男の子は、ギーシュという名前らしいな。さて、御主人様を納得させるには、もう少し骨が折れそうだ。

 

「関係なく無いですよ。元々ギーシュさん、という人の了承を得てますからね。私が勝手に勝負を仕掛けたわけじゃありません」

 

この言葉に偽りはない。両者の納得があったからこその、勝負なのだ。

 

「それは…」

 

「それに、ミス、ヴァリエールは、自分の使い魔の力が信じられませんか?」

 

「…その言い方は卑怯だわ」

 

御主人様からも、了承を得たことでヴェストリの広場に向けて歩き出す。

 

「…すいません。ヴェストリの広場ってどこですか?」

 

固まっている、ルイズとツェルプストー家と呼ばれていた赤い髪の女の子に替わってか、青い髪の女の子が答えてくれた。

 

「あっち」

 

「ありがとうございます」

 

ルイズが呆然としているなか、俺は一人ヴェストリの広場に向かった。

 

「なーんか面白そうね~♪どう?タバサも見に行かない?」

 

「興味ない」

 

「あらそう?でも私は興味あるわ。一緒に行きましょうよ、時間あるでしょ?」

 

「…」

 

「そ、それじゃ行きましょ。ルイズは、どうするのよ?」

 

「私は…」

 

「はあ…誰の使い魔なの?」

 

「っ!…い、行くに決まってるでしょ!」

 

 

 

 

 

 

 

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ヴェストリの広場

 

 

 

「やあ、逃げずに来たことは、褒めてあげるよ」

 

ギーシュという男の子は、杖を構え大勢のギャラリーの中心にいた。広場というだけあり中々に広いが広範囲の魔法を使えば学園ごと吹き飛びそうなのでそこは、注意しなければならないだろうな。

 

さて、この世界の魔法がどの程度のものなのか試させてもらおう。

 

 

「逃げませんよ。私から言い出した事ですし、それに何より、ミス、ヴァリエールに謝罪をしていただかなくてはいけませんからね」

 

「ん?何のことだい」

 

「貴方が負けたらここにいる方全員でミス、ヴァリエールに謝って頂きます。ミス、ヴァリエールの言っていることが本当だったのです。当然ではないですか?」

 

納得していないのか、体を震わせている。何もおかしなことは、言っていないと思うんだけどな…。

 

「別に良いじゃない」

 

「キュルケ…君まで何を言い出すんだい?僕らが頭を下げる必要なんて無いじゃないか?」

 

ギャラリーとして集まっている生徒達からも不満の声が出てきている。正直苛立って仕方がないのだが、ツェルプストー家のキュルケという女の子が口を挟んでくれなければ危なかった。

 

「負けなければ良いじゃない。まさか、勝てないの?」

 

キュルケと目が合うとウインクで返される。どうやら助けてくれたようだ。

 

「…良いだろう。僕が負ければルイズに謝ろう。ただし負ければ、だかね?」

 

薔薇の用な杖を振ると花びらが一枚地面に向かって落ちていく。地面に落ちると光輝き一体のゴーレムが現れる。大きさ的には、一般男性と同じくらいの大きさだ。甲冑から見てもそこまで強くは、見えない。腰には剣が携えてあるが抜く気は無いようで拳を構えている。

 

「僕はメイジだ。僕の代わりに青銅のゴーレムがお相手しよう。文句は無いだろうね?」

 

「魔法が使えるのです。使って当然でしょう。一つだけ質問が」

 

「なんだい?」

 

「メイジ本人に対する攻撃は、してもよろしいですか?」

 

この質問は、かなり重要である。どれ程の数を出すことが出来るのか分からないが、倒しても倒してもキリが無いのでは意味がない。PVPなら直接本人を叩いた方が楽だし早く終わる。

 

「勿論構わないよ。それが出来るなら、だけどね!」

 

そう言いながら更に三枚の花びらが地面に落ちて、三体のゴーレムが現れる。合計4体のゴーレムが現れるが正直内心では、この程度か、とぼやいている。

 

「それじゃあ、始めようか?」

 

その掛け声と、共にゴーレムが素手で迫ってくる。鉄の塊であろうその拳は、生身の人間なら痛いでは、すまないだろう。だが俺には、上位物理無効化があるのだ。この程度の攻撃避けるまでもない。

 

ゴーレムが素手を振りかぶり俺の顔面に向かって降り下ろす。グギッという嫌な音が聞こえ、視界が360度回転する。脳が揺れて軽い脳震盪を起こしているのか目の前がぼやけている。

 

一瞬、何のことか分からなかったが今の攻撃で理解した。どうやら上位物理無効化は、無くなってしまったらしい。ただの人間になってしまい、上位物理無効化まで無くなった俺は、ただの一般人並の耐久力しか無いのだろう。魔法は使えたから、良いものの。この世界の人間が、上位物理無効化を無効にする手段を持っているだけかもしれないが、同じことだろう。ゲーム内のような体力は、無いのだから。

 

「----ル!…サトル!」

 

「ミス、ヴァリエール…」

 

「もういいわ!貴族に対して勝負を挑んだだけでも私は満足よ…それに私の為にしてくれたんだから。だから、もういいの!」

 

その言葉で傷みなんて吹き飛ぶような気持ちになり立ち上がる。空間を探すようにして杖を取り出す。水晶のような美しさの杖を。《ユグドラシル》で美しさだけは、上位に入る、下位武器を。

 

「まだ、戦う気はあるのかい?」

 

「ええ、勿論ですよ」

 

「あら?タバサ帰るの?」

 

「《ヒール/大治癒》」

 

まずは、傷口を治して..軽いとは言え脳震盪起こしてるからな。

 

「…回復魔法?」

 

「それって水系統の魔法を使えるって事?」

 

「あれは…違う。あんなに早く治る魔法見たことない」

 

「あら、タバサ見ていくのね?」

 

「彼に興味がわいた」

 

 

「さて、回復させて貰いましたよ。では、今度は此方の番ですね?」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 

「どうしました?」

 

「何故平民の君が魔法を使えるんだい!?おかしいじゃないか!」

 

成程、つまり焦っているわけだ。此方は、魔法を使えて相手は使えない。普通なら魔法が使える方が強い。回復しかしてないから未だに有利の戦況にいても、負けるかも知れないという気持ちが焦りを生むんだな。ああ、なんて、なんて-----------滑稽なんだ。

 

 

「ふふ」

 

「何がおかしいんだい…?」

 

「ああ、いえ、ふふ。失礼、あまりにも滑稽だったもので、つい」

 

「…取り消したまえ。取り消さないなら君を殺さなくてはならない。誇り高きグラモン家の者として、そして貴族として」

 

ギーシュは、更に4枚の花びらを振るう。ゴーレムの数は合計で8。俺を囲むように今度は武器を構えている。

 

「《フライ/飛行》」

 

「なっ…空を飛べたのかい。それで?僕を倒せる自信は、空を飛べるから攻撃が当たらないとでも思っているのかい?」

 

「いえいえ、そんな理由ではありませんよ。ただ私も痛いのは、嫌なのでね。《ボディ・オブ・イファルジエントベリル/光輝緑の体》《インフィニティウォール/無限障壁》《グレーター・マジックシールド/上位魔法盾》《グレーター・レジスタンス/上位抵抗力強化》《グレーターハードニング/上位硬化》」

 

上位物理無効化が発動しない以上掛けすぎなんて事はないだろう。それにルイズに《爆裂/エクスプロージョン》に似たような魔法を受けたときにダメージを受けたのは、威力が高かった訳じゃなく、上位魔法無効化が発動しなかったからと、考えるのが自然だろう。

 

「体が光っているが曲芸でもやるつもりかい?」

 

「いえいえ、お待たせしました。これくらいで充分でしょう」

 

「何を言って」

 

「終わらせると言ったんですよ。《グレーター・テレポーテーション/上位転移》」

 

「消え、た?」

 

ギャラリーからも認識されないままゴーレムの後ろに移動し腰にさしてあった剣を引き抜く。恐らく魔法で倒そうとしたら、ギーシュという男の子は、死んでしまう。そう思ったからこそ剣を奪ったのだが。

 

「なんだ?」

 

剣を奪った瞬間に周りの動きがスローになる。手の甲の使い魔のルーンが光っている?詮索は後だな…。

 

後ろに回ったことに気付いたゴーレムが素手で殴ってくる。だが、遅い。魔法で強化したのは、あくまでも物理耐性と魔法耐性。速さに補正はかけていない。ゴーレムの右ストレートを紙一重でかわし、懐に入り込み左掌で背中に触り押し込む。重心を崩していたゴーレムは、そのまま地面に倒れることになる。

 

「なっ!ぜ、全員で行くんだ!」

 

ギーシュの焦る声を聞いたゴーレムは、命令を聞くために一斉に武器を、降り下ろしてくる。速さを利用して少し腰を屈めて距離をとる。

 

「ここに集まっている皆さんに、ミス、ヴァリエールの魔法の凄さをお教えしましょう」

 

距離をとった俺に、皆疑いの目を向けている。ルイズは、何故かあたふたしており、隣にいるキュルケと青い髪の女の子、先程タバサと言っていたか、キュルケは、わくわくしながら見ており、タバサは、本を閉じて真っ直ぐと此方を見ている。

 

俺は杖を振りかざしてゴーレムが近付いてくるタイミングで魔法を紡いだ。

 

「《爆裂/エクスプロージョン》」

 

極力威力を抑えて撃ったつもりの爆撃はギーシュの目の前まで地面にクレーターを作りゴーレムを一掃していた。

 

「な、なななな…」

 

腰が抜けたのかその場に倒れるギーシュ。少しやり過ぎてしまったか、とルイズを見ると笑顔で怒りを抑えていた。後でお・し・お・き。と口パクで言われ肩を落とす俺は、ギーシュの降参宣言を聞いて謝罪を求めようとしたときに中年の教師が走ってきた。

 

なんでも、決闘は禁止されているらしく。貴族同士と聞いていたが、これ以降は、使い魔と貴族も決闘は禁止になった。

 

ルイズの部屋に戻るまで御互いに無言だった。

味わったことのない、気まずさと、やり過ぎてしまった事に対する罪悪感に苛まれ口の中は乾燥し、掌が冷たくなっていくのが分かる。

 

後悔という文字が浮かんだ。だがルイズが馬鹿にされているとき、何故か黙っていられなかった。それが使い魔としての義務なのか、なんなのか俺には分からないが。中年の教師のせいで謝罪も無し、これでは、何のために戦ったのか分からなくなってきた。

 

部屋に着き、扉を閉めるとルイズは鍵を閉めた。その行動に疑問を覚えていると、体に軽い重さが加わる。それがなんの重さなのか理解するまで、そう時間はかからなかった。

 

「ミス、ヴァリエール…」

 

「…ありがとう。私の為に戦ってくれて、私の魔法が『ゼロ』じゃないって言われているようで…嬉しかったわ」

 

俺がやったことは、無駄じゃなかったんだと、この小さな温もりから感じていた。

 


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