都内某所の河川敷に作られた野球場。
この日は商店街対抗野球大会の決勝が行われていた。
一回戦で西町を下した南町代表『南町ビッグボンバーズ』。
対するは東町を下した北町代表『北町サザンクロス』。
この二組による激しくもスポーツマンシップに溢れた正々堂々とした試合が行われて・・・
「テメェ!コラ審判!!今のはどう見てもアウトだろーがぁっ!!
今すぐアウトに訂正しろ!ぶち殺すぞ!!」
「馬鹿か老害野郎が!!おい審判、訂正なんかするんじゃねぇぞ!!
いっその事そのクソジジィを退場させたらどうだ!?」
「う・・・(た、確かにその方が面倒が減って良いかも?)」
「ぐっ・・・!
ケッ・・・1点ぐらいちょうど良いハンデだ!いい気になるなよ!」
・・・いや、ヤクザ顔負けの殺伐とした抗争の様な試合だった。
さて、ココで今衝突している二組について説明しよう。
まず、南町チームのキャプテン・五反田厳。
五反田食堂店主にして南町商店街組合の会長を務める男である。
読者の方々はお察しだろうが、本作における鈴音の彼氏・弾の祖父でもある。
そして対する北町チームキャプテン・
北町商店街にてバイク店を経営する元暴走族総長の男である。
「何打たれてんだコラァッ!!北町のクソなんざ三振にできねーのかお前は!?」
「ダーハッハッハッ!パワハラジジィがキャプテンじゃ大変だなぁ!
こっちに寝返るなら歓迎してやっても良いぜ!!」
殺伐どころの問題ではなくなってきた。
この会話で察することが出来ると思うが、この二組、そしてこの二人は非常に仲が悪い。
ただでさえ商店街同士利害がぶつかる上に、この二人・・・いや、この二組の一族はある理由から10年以上前から仲が悪かった。
そして、現在の点数は南町0点、北町3点で北町が圧倒している状態だ。
「おい!例の助っ人はまだ来ないのか!?」
「さ、さっき連絡したら、今用事が終わってもう直ぐ着くと『おーーい!』・・・き、来た!!」
しかし、そこに二人の女が自転車に乗りながら颯爽と現れた。
「おぉ!来てくれたか!!」
「遅くなってごめんね。補習が思ったより長引いちゃって」
「補習受けたの刀奈ちゃんだけでしょ?」
IS学園1年、更識刀奈(17歳、留年中)とシャルロット・デュノア。
この二人こそ、南町が助っ人に読んだ選手達だった。
「お待たせしました。早速で悪いんですけど・・・」
「あ、あぁ、報酬の1万円ずつね。勝てば上乗せで2万プラスだ」
「まいどあり♪」
勿論、有料である。
「お、おい・・・こんな娘二人で大丈夫なのか?」
強力な助っ人と聞いていたのに現れたのがまさかの女子高生という自体に厳は不安な声を出す。
「会長さん、安心してください。
私は運動神経だけなら更識家No. 1。シャルロットちゃんも現役モデルにしてIS学園での球技大会で好成績を残した期待のホープ。
どんな相手だって負けはしません!!」
「そ、そうか・・・とにかく頼んだぞ!あの北町の奴らにだけは負ける訳にはいかねぇんだ!!」
「はーい。それじゃ、行くわよシャルロットちゃん!」
・ ・ ・ ・ ・
「プレイボール!」
6回表南町の攻撃。
バッターはシャルロットだ。
「女子供とはいえ金で呼ばれた助っ人だ。油断するなよ!」
「はい!」
激励を受け、北町のピッチャーは気を引き締めてバッターボックスに立つシャルロットを睨む。
(バカ校とはいえ、体力は半端ない事で有名なIS学園の生徒。油断はしねぇぞ!)
ボールを持つ手に力を込め、振りかぶるピッチャー。
そして、それを振りかぶり、投げるその時・・・
「ふぅ、それにしても今日は暑いなぁ」
突然シャルロットは自身のユニフォームの襟元を掴み、暑がるそぶりを見せ、ピッチャーに対して胸の谷間を見せつけた!
「おおっ!?」
JK、しかも現役モデルのシャルロットの豊満な胸に北町のピッチャーは思わず目を見開き、ボールを掴む手も緩み、投げた球は素人にも目に見えて分かるスローボールと化した。
「いただき!」
当然、そんなスローボールを見逃すシャルロットではなく、勢いよくバットを振って外野までボールをかっ飛ばした!
「し、しまったぁ!?」
「へへ、まず一塁っと♪」
シャルロット、一塁打。
「オイ待てコラァ!色仕掛けなんかどうみても反則だろうが!」
「うるせー!シャルロットちゃんは暑がってただけだ!テメェん所のピッチャーが発情したのが悪いんだろうがぁっ!!」
そしてこの罵倒合戦である。
結局、北町の意見は通らずシャルロットは一塁進出が認められた。
この後、北町ピッチャーは調子を乱してしまい四球を連続。
何とかツーアウトに持ち込んだものの、満塁のピンチを迎えてしまった。
そして・・・
「よーし、ここで決めてやる。代打、更識!!」
南町のリーサルウェポン、更識刀奈が遂に打席に立った!
「フフフ・・・やっと私の番ね」
普段の馬鹿さ、間抜けさからかけ離れた不敵な笑みを浮かべ、刀奈はバットを天に掲げる。
「よ、予告ホームラン、だとぉ・・・!」
そう、予告ホームランである。
その行為がピッチャーの怒りに火をつけた。
「な、舐めやがって・・・!俺はかつて学生時代、甲子園を目指し県大会決勝まで駒を進めた事もあるんだぞ!
その俺に対して予告ホームラン・・・打てるもんなら打ってみろぉーーーーっ!!」
ピッチャーの怒りを込めた豪速球が放たれた!!
[カキィーーーーン!!!!]
たが、そんな怒りを嘲笑うかの如く、刀奈のバットはボールに命中。
予告通りフェンスを越え、ホームランを決めた!
更識刀奈・・・成績ワースト2な彼女だが、身体能力は織斑姉弟に次ぐ学園No.3。
その腕力は伊達では無かった!
「満塁ホームラン!!」
『うおぉぉーーーーっ!!逆転だぁーーーーっ!!』
「そ、そんなバカな・・・」
会心の一打に歓声を上げる南町ビッグボンバーズの面々。
そして、北町ピッチャーはその場に崩れ落ちるしかなかった。
・ ・ ・ ・ ・
その後、逆転された北町は何とか逆転しようとするも、シャルロットの巧みなピッチング(キャッチャーは刀奈)に抑えられ、得点を得られなかった。
しかし、北町もこれ以上の得点を許さず必死で守り抜き、
遂に最終9回裏、北町最後の攻撃となった。
「ギャーハッハッハッ!ざまぁみやがれ北町のカスども!もう何やっても無駄だ!さっさと負け認めて土下座しやがれってんだ!」
「あ、あの老害ヤロー・・・!!」
勝ち誇っている厳に地団駄を踏むジャギ。
このまま北町の負けで終わってしまうのか・・・
「おーい、おじさーん!」
だが、運命は北町を見放してはいなかった!
「お待たせ!助っ人連れて来たよ!!」
「おお!鈴か!!待ってたぞ!!」
ジャギの姪・・・凰鈴音が強力な助っ人を引き連れ駆けつけたのだ!!
「家の老害が迷惑掛けちまったようで申し訳ねえ。
この責は働きを持って返させてもらいます」
その助っ人・・・鈴の彼氏、五反田弾はジャギに一礼し、己が祖父を睨み付ける。
「テメェ弾!凰のクソチビに入れ込むのみならず、北町のカス共に寝返る気か!?」
「黙れクソジジィ!!家を出る時言ったはずだぜ?テメェの
凄まじい気迫で厳の怒号を跳ね返し、弾はバッターボックスに入った。
「早速俺が打たせてもらいます。
決別してるとはいえ俺は奴の孫だ。そんな俺に満塁やツーアウトの状況を任す訳にはいかないでしょう?
叔父貴の信頼を勝ち取る意味も込めて、まずは同点にして見せます」
「・・・よし、良いだろう。代打、五反田弾!!」
ジャギの宣言と共に弾は先程刀奈が見せたものと同じポーズ・・・予告ホームランを見せる。
「予告ホームランなんて、大きく出たね。
鈴の彼氏みたいだけど、こっちも報酬掛かってるんだから、遠慮はしないよっ!!」
好戦的に笑い、シャルロットの手から投げられた球(スライダー)は綺麗な弧を描きながら刀奈のグローブ目掛けて飛んでいく。
この試合において、この球を打てた選手は未だいない!
「・・・フン!」
だが、弾は口元に笑みを浮かべ、そして・・・
[カッキィーーーーン!!]
先の刀奈を上回る大きな音を上げ、そして刀奈の記録を遥かに超える飛距離を見せ、弾の打球は場外へと消えた。
「ほ、ホームラン!!」
『ウオォォーーーーッ!!や、やったぁ!同点だぁーーーーっ!!』
まさに起死回生の一撃。
土壇場で同点に巻き返した弾は凱旋するかのように右腕を掲げながら塁を回り、北町サザンクロスのメンバー全員の喝采を浴びてホームインしたのだった。
「チクショォォーーッ!!あの、クソガキがぁぁっ!!」
勝利を目前に台無しにされ、厳は周囲の目も気にせずブチ切れてバットを振り回してベンチを破壊する。
「よっしゃあ!これで同点だ!
鈴、お前の彼氏は最高だ!!後は延長戦でもう一度ホームランを・・・」
「その必要は無いわ。もう一人、最強の助っ人が来てくれたから♪」
「そう、あの程度の連中にこれ以上付き合う必要無し!」
「そ、その声は・・・」
聞き覚えのある声にジャギは恐る恐る振り向く。
その先にはいたのは、優に2メートルを越える巨躯を誇る、その男は・・・
「あ、兄者!?」
そう、ジャギの兄にして鈴の父、ついでに弾の師匠、凰羅王が満を辞して参戦したのだ!!
「ら、羅王・・・だとぉ!?」
そして南町側で羅王に一際強く反応したのは、かつて10年前に料理対決で負けて以来、因縁の続く厳である。
「あの、野郎ぉぉ・・・!どけ、役立たずの
あの野郎は俺がぶっ潰す!!」
「うわっ!?」
目を血走らせながら厳はシャルロットを突き飛ばし、何と自らマウンドに立った!
「自ら呼んだ選手、それも女子にその暴挙・・・昔から何も変わらん老害ぶりよ。
五反田厳!貴様の醜態、見るに耐えんわ!!」
「うるせぇ!イカサマで俺に勝った分際で偉ぶってんじゃねぇ!!」
もはや何の勝負かも分からなくなりそうな中、それぞれがマウンドと打席に立って睨み合い、一触即発となる二人。
「おい審判、さっさと再開しな。とばっちり食う前にな」
「は、はい!プレイ!!」
場の雰囲気に当てられ、呆然としていた審判はジャギの忠告に慌てて試合を再開する。
(この日をずっと待ってたぜ。テメェをぶっ殺せるこの日を!
俺には野球において最強の最終兵器【燃える魔球】があるんだ!!)
羅王を睨み付けながら、厳はマウンドに入る際にすり替えた球を見てニヤリと笑う。
ただの球ではない。油をたっぷりと染み込ませた球である。
そして、その球を投げると同時に手に隠しておいたライターを着火して引火!
そう、【燃える魔球】とは・・・
「死ぃねぇーーーーっ!!!!」
本当に燃える球なのである!!
「ちょ!?」
「そんな球取れる訳ないでしょうが!!」
慌てて逃げ出す審判と刀奈。
だが、球が向かうのはキャッチャーミットではなく、羅王の顔面だ!
「もう試合なんて関係ねえ!くたばりやがれぇ!!!!」
「・・・愚か者が!」
しかし、羅王は狼狽えず、燃える球を見据え、いとも容易く打ち返した!!
「な!?ぐえぇぇぇ!!」
打ち返されたボールは厳の腹にぶち込まれ、厳の身体諸共河へぶっ飛ばしてしまった!!
「ほ・・・ホームラン、ゲームセットォ!!」
『ウオォォーーーーッ!!!!』
かくして、試合は北町サザンクロスの勝利に終わった。
「あの爺さん、絶対おかしいわよ。もう南町の助っ人なんて絶対しないわ」
「・・・同感」
なお、刀奈とシャルロットはこれを理由に南町と縁切りし、以後南町に助力する事は無かった。
なお、南町ビッグボンバーズの殆どのメンバーがこれから数日内に北町・西町・東町に流れたとか・・・
「ち、ぢぐじょー・・・!次は必ずぶっ殺してやるからなぁ〜〜〜〜!!」
そして老害・・・もとい、厳は未だ懲りていなかった。
今回の話の元ネタはエリートヤンキー三郎です。
人物紹介
五反田弾
一夏の親友で鈴の彼氏。
五反田家からは実質的に家出しており、現在は全寮制の学校に通いつつ、工事現場のバイトと奨学金で学費を賄っている。
羅王とは師弟関係にあり、彼から北斗神拳と料理技術を学び、鳳飯店の跡継ぎとしての修行に励んでいる。
義に熱い熱血漢であり、腕っ節は一夏、千冬よりも強い。
(一夏曰く【俺と千冬姉が二人がかりならギリ勝てそう】なレベル)