「の、残り5分・・・」
「ガツガツガツ・・・ぷはぁ〜〜、ご馳走様!!」
「か、完食お見事です。
凄ぇ・・・ビールまで飲んで5分も余らせてクリアだなんて・・・」
都内某所のラーメン屋、店の窓には『超特盛ニンニク野菜マシマシ豚骨ラーメン&ニンニク餃子30個、1時間以内に完食で無料&賞金1万円!!』と書かれた紙が貼られているその店で千冬は楽々とそのチャレンジを達成。
賞金1万円を手に入れたのだった。
「凄い食欲ですね・・・」
「本当・・・私も食べる方だけど、これは流石に無理だわ」
「いくらラーメンが美味しいとはいえ、私にはとても真似出来ませんわ・・・」
ちなみに、ラーメン屋には虚と刀奈、そしてセシリアも居合わせていた。
ちなみに虚と刀奈は逆ナンパ(失敗)の帰り、セシリアは普段料理担当の子分メイドが休暇を取って透とデートに行った為に外食しにきたという理由で居合わせた。
「おい、ちゃんと動画撮れてるだろうな?」
「当たり前ッスよ。『初代ブリュンヒルデが鉄の胃袋を披露』とか、絶対再生数うなぎ登りですから!」
なお、店側はこの大食いチャレンジを動画撮影し、動画投稿サイトに投稿する事で採算を取っていたりする。
・ ・ ・
「はぁ〜〜、食った食った!おまけにお小遣い一万円も手に入ったし、これで今月分のビール代は確保出来たな。
折角だし先にビール1ケース買っておくか?今夜の晩酌も兼ねて」
「アレだけ飲み食いしてまだ酒飲むんですの?」
「って言うか、臭いキツッ!ニンニクの臭いが半端無いんだけど!?」
「一夏さん、今日はお泊まりデートで正解でしたね。家にいたらニンニク臭で悶え苦しみますよコレは・・・ケッ!リア充が!!いっそニンニクの臭いに悶え苦しんで爆ぜろ・・・!!」
「なーに、後で牛乳でも飲んでおけば大丈夫だ。
それより、さっさと買い物済ませて帰らないと、今日は見たい映画が・・・」
ニンニク臭の混じった口臭を撒き散らしながら帰路に着く千冬だったが、その時だった・・・。
『助けてぇ〜〜っ!!』
「ん?」
河川敷を歩く4人の耳に響く甲高い声、川の方から聞こえたその声が聞こえた方向に目を向けると、そこには・・・。
『助けて!お、溺れる・・・!!』
『誰かぁ〜〜!!や、安雄が、友達が川に落ちたんだよぉ〜〜っ!!』
川に落ちて溺れる子供と、その友人らしき子供が助けを求める光景だった。
「い、いかん!!」
なんだかんだ言っても正義感の強い千冬は脇目も降らず飛び出しだ。
「今助けに行くぞ〜〜っ!!」
言うや否や、川に飛び込んだ千冬は手早く安雄少年を抱えて避難用の梯子へとたどり着いた。
「おい、大丈夫か坊主!?」
「う、うん・・・ありがとうお姉ちゃん・・・」
「良かった。よし、このまま慌てずゆっくり陸に上がって・・・」
梯子に捕まった安雄少年の姿に安堵し、梯子を登るよう促す千冬。
だが、この時千冬は二つ、致命的なミスを犯していた・・・。
「う゛っ!?臭えぇぇっっ!!!!」
「アガッ!?」
ひとつは今の自分がニンニク臭が半端ないという事。
その臭いをモロに嗅いだ安雄少年は思わず千冬の顔面に蹴りを放ってしまい、運悪くその蹴りは千冬の下顎にクリティカルヒットしてしまった。
「ブゲェっ!?」
そのまま水柱を上げて今度は千冬が川へと落ちてしまった。
そしてもう一つのミスは・・・
(あ、ヤバい・・・さっきの大食いが今になって響いて気持ち悪くなってきた上に、腹が重くて・・・)
顎のダメージに大食いの影響、体の内と外両方からのダブルパンチにより、千冬や成す術無く流されて行った。
「千冬さん!?」
「大変ですわ!この川って確か貯水池だった筈」
「は、速く追いかけないと!!」
流されて行った千冬を虚達3人は大慌てで追いかけて行った。
・ ・ ・ ・ ・
それから数分後・・・
「いましたわ!あそこです!!」
貯水池に落ちる寸前の所で服が木に引っ掛かっていた所をセシリアに発見され、千冬は陸へと引き上げられた。
「まったく、人騒がせな・・・ほら、起きてください!千冬さん!!」
「千冬さん起きて!まだ酔い潰れる程飲んでないでしょ!?」
「・・・」
虚と刀奈の二人が千冬を起こそうと揺さぶるが千冬は全く反応しない。
「千冬さん!千冬さーん!?」
「待って下さい・・・ま、まずいですわ。これは・・・!」
千冬の口元に耳を近付けたセシリアの表情がどんどん青褪めていく。
「せ、セシリアちゃんどうしたの?」
「ま、まさか・・・」
「息、してませんわ・・・」
『・・・・・・・・・・・・』
その場を数秒間の間沈黙が支配した・・・。
「わぁぁ〜〜っ!!ちょ、ちょっと!しっかりしてよ千冬さん!」
「ラーメンと餃子が原因で溺れるなんて洒落になりませんわ!!」
「目ぇ開けなさい!さっさと息吹き返しなさい!!生き返りなさいぃ!!」
直後に3人は大慌てとなり、千冬を目覚めさせようと、刀奈は大声で呼びかけ、セシリアは先程以上に強く揺さぶり、虚は往復ビンタを何発も打ち込む。
「・・・」
だが、千冬は目覚めない。
「全然起きない・・・!」
「えーっと、こういう時にやるべき事は・・・」
「まず酸素を供給させないといけないから・・・っ!?」
そこまで言って、3人は不意に動きを止める。
「「「あ・・・」」」
そう、気付いてしまったのだ。
息が止まった者への蘇生及び応急措置に必要な行為に。
【人工呼吸】
3人の頭の中にその言葉が過った。
(人工呼吸・・・って事は、つまり)
(マウストゥマウス・・・即ち、実質的口付け!接吻!キス!!)
(それを今の千冬さんに・・・ニンニクたっぷりのラーメンと餃子でニンニク臭に加えてビールもがぶ飲みして酒の臭いもたっぷりの、今の千冬さんに、キス・・・)
(((無理いぃぃぃぃっっ!!!!)))
計らずとも、この時3人の心は一つとなった。
・ ・ ・ ・ ・
ココは精神世界・・・その中に建てられた神聖なる教会の巨大な十字架と女神像の前に跪き、虚、刀奈、セシリアは手を組んだ拝んでいた。
『神よ、おお神よ・・・!これは何かの試練なのですか!?
だとしたら私は絶対にそれを放棄し、こんな試練を与えたアナタを呪います!!
私の大切なファーストキスを千冬さんに、千冬さんにだけは・・・!!
って言うか私ファーストキスはイケメンの彼氏(まだいない)にって決めてるんですよ!!』
『もし私が千冬さんにキスしようものなら、一生の黒歴史!末代までの恥は必然!!
冗談じゃないわ!!そんな重荷を背負うくらいなら私は死を選ぶ!!!!』
『千冬さんがニンニク入りラーメンと餃子さえ食べていなければ・・・。
いいえ!包み隠さず本当の事を言います!!
本当はニンニクとかラーメンとか、そんなものは関係無しに、私には出来ませんわぁっ!!』
・ ・ ・ ・ ・
そして場面は現実に戻る・・・
(はっ!?し、しまったぁっ!!私とした事が・・・唇に一番近い位置に!?)
最初に反応したのは虚。
不運にもビンタで起こそうとした事が災いし、彼女の立ち位置は千冬の顔に一番近かった。
「・・・せ、セシリアさん」
ココで虚は視線を動かし、標的を無理矢理セシリアにかえようとするが・・・
「出来ません!」
「い、いや、まだ何も『出来ないって言ってるでしょうがぁっ!!』うっ・・・!」
虚が言い切る前にセシリアの絶叫にも近い大声が鳴り響き、それを遮った。
(こ、このバ金待ちめ・・・キレて押し切るだなんて・・・)
(セシリアちゃん、恐ろしい娘!!)
セシリアによるまさかのキレ芸に戦慄する虚と刀奈。
そして、当のセシリアは不意に刀奈へと目を向けた。
「ココは成績底辺同士という事で刀奈さんがやるべきですわ!」
「ゲッ!?」
今度の標的は刀奈である。
「そうですね!そもそもお嬢様、水泳が得意なのに助けに行くのを千冬さんに任せたんですもの!
そういう意味ではお嬢様にも責任はあるかと!!」
「ちょっ!?待って・・・だ、ダメ・・・・・・!!」
矛先を向けてきたセシリア、そしてこれ幸いと便乗した虚の二人に頭をガッシリと掴まれ、千冬の口に無理矢理近付けさせられる。
「い、い・・・嫌ァァァァ〜〜〜〜ッ!!!!」
しかし、ココに来て刀奈の普段活かされない身体能力の高さが最大限に発揮された!
「ウガァァァッ!!!!」
雄叫びを上げながら刀奈は力任せに二人の手を振り解き、その場から走り去ってしまった。
「「な!?」」
「あああぁァァァァっっ!!!!」
そしてそのまま走り去り、何を思ったか刀奈は自ら貯水池へと身を投げた!!
「「に、逃げられた・・・!」」
貯水池を泳ぎ去っていく刀奈を見つめ、二人の間に数秒程の沈黙が流れる。
(ど、どうやって・・・)
(この地獄のキスをコイツに押し付ければ・・・)
そして再び繰り返される心理戦。
その一方で千冬当人の顔色はどんどん悪くなっているが、二人はそんな事など二の次に睨み合う。
ところが・・・
「ヴ?・・・お前達、こんな所で何してる?」
不意に聞こえてきた野太い濁声と共に現れる巨体による巨大な影。
「強蔵さん!?」
「何でココに!?」
亡国機業の巨人・滅茶強蔵軍曹、見参!!
「俺のアパート、この近く。変な騒ぎ聞こえたから来た。
ヴ・・・!?千冬息してない!?溺れたのか!?」
「そうなのぉっ!私達どうすれば良いのぉ?」
「おじちゃん、教えてぇ〜〜!!」
第三者が現れた安心感からか幼児退行して助けを求める二人。
「ヴゥ!!セシリア、お前すぐ救急車呼ぶ!」
「きゅ、救急車!!その手がありましたわぁ!!」
「虚は千冬の口にこれ付けろ!!人工呼吸器だ!!」
「は、はい!!」
普段から持ち歩いている救命キット(亡国機業製)を腰のポーチから取り出し、簡易人工呼吸器を虚に渡し、強蔵は数本の医療針を取り出した。
「ツボを指して筋肉を一部弛緩させる。
呼吸止まってる時間長いなら直接やった方が良い」
解説と同時に強蔵は千冬の体に針を数本突き立て、直後に胸骨の下側から千冬の体に手を差し込む。
「う、嘘!?手が体に!?」
その光景に虚達の目が見開かれる。
千冬の肉体に強蔵の手がどんどんめり込んで行くのだ。それも血の一滴も流す事なく。
「静かに・・・!ヴゥ・・・!!」
何かを見つけたように強蔵の腕が止まり、同時に千冬の体が脈打ち始める。
「し、心臓を直接マッサージしてる・・・」
「俺、これでも医療の心得ある・・・亡国機業じゃ皆それ学んでる・・・ヴ?」
「・・・ぶはぁっ!!」
強蔵の心臓マッサージと人工呼吸器の活躍により、千冬は息を吹き返した!
「に、ニンニク臭い・・・でも気が付いたか?」
「わ、私は何を?」
「溺れて死にかける所だった・・・ちょっと待ってろ。今針抜く」
無事に復活した千冬。
この後彼女はこうなった経緯を思い出し、自身の置かれていた状況を理解する。
「すまん強蔵!お前は命の恩人だ!!・・・うっぷ・・・・・・!?」
感謝の意を示す千冬だったが突然顔色が悪くなる。
「や、ヤバい・・・気持ち悪くなって・・・!」
「「「ゲッ!?」」」
今になって胃の中に残ってたラーメンと餃子が込み上げてきたのである。
所で、話は変わるが貯水池に逃げた刀奈はと言うと・・・
「ぷはっ!皆ごめん!!やっぱり千冬さんの命には変えられない!
3人で協力して千冬さんを助けましょう!!」
一度は逃げたが文字通り頭を冷やして良心の呵責に苛まれたらしく、戻って来たのだが・・・
「あれ?千冬さん気が付いて・・・」
「おええぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!!!」
「ウギャアァァァッッ!!!!」
タイミングがあまりにも悪過ぎた。
千冬の吐いた吐瀉物は刀奈にぶっ掛かってしまったのだった・・・。
結局盛大にリバースした千冬を見て、鼻を摘みながら強蔵は思った。
「ヴゥゥ・・・よ、良かった。直接人工呼吸しなくて、本当に良かった・・・」
それはもう切実に、そう思った・・・。
余談だが今回の活躍で強蔵は当事者達から一目置かれるようになったとか。
今回の話の元ネタは「稲中卓球部」、治療シーンは「刃牙」をベースにしました。
画面の前の皆は状況に関わらず危険な状態の人にはちゃんと適切な処置をしましょうね。
鴇人お兄さん(36歳)との約束だぞb