インドラプトルと会話した後、博士達に何を話してたか問い詰められてしまった。
インドラプトルって絶対肉食だよね。と思って私は咄嗟に「肉が食べたいって言っていたので諭してました」と嘘をついたのには罪悪感があったけれど、初めてできた"名前と呼べる物を与えてくれた友達"との約束を破りたくはなかった。
博士達には会話内容が解らないからそれで納得してくれた、良かった。会話内容を伝えたら博士達は会議の為に去っていき、自由時間が訪れた。
でも、何でインドラプトルは私の今まで疑問に思っていたことをわざわざ問いかけてきたんだろう。
…此処には私の味方はいない。
疑問に思った事を問いかけると、皆嫌な顔ををする。しつこく問いかけると、どうなるかは予想がついた。もっと小さい頃、言うことを聞かなければ痛い目にあわされていたから。
「思考は必要ない。」そう言われてから私は考える事を止めるようにした。
私が人間達の道具として育てられて、使われているのはもう解りきっている。それが、寂しくて辛くて苦しくて…利用しかされない、それしか存在意義が無いし愛されない。だから、考えるのは止めた。
きっと…インドラプトルも私を利用しようとはしていると思う。檻から出るためだろうと察しはつく。
インドラプトルの言うことも最もだ。私は自分が特別である事以外、驚くほどに自分自身の事は何も知らない。
此処が何処で、自分が何者で、どう生まれて、何をさせるつもりなのか。利用の果てに何をさせるかはおおよそ予想はつくが、いかんせん私は戦闘知識とある程度の一般しかないから不安が残るし…確証が得られることに越した事はない。
多分このまま使われていても自分が苦しむ未来しか見えないなら、足掻いてから死んでもいいんじゃないかな、と考えを改めた。
時期を見て、自分に関する資料やこの場所の事を調べよう。
名前をくれたあの子なら、人間達よりも信じていいんじゃないかな、と私は思った。
インドラプトルと初めて対面した数日後。
研究の延長という名の付いた監視を連れてインドラプトルとの面会が始まった。
面会が始まる前、博士の上司に当たるであろうイーライさんという男性は私に命令を言い渡した。
「君は命令に従順であると聞いている。インドラプトルを君の命令に従わせる事はできるかい。」
「会話はしましたが、試みた事が無いので何とも…」
「そうか、信頼関係を築くなり方法は任せるから命令に従わせれるようにしてくれ。」
薄々感じていたけど、やはりインドラプトルを命令に従わせるのが目的で私をそれに使っている、というところだった。
正直な話…重要な事を隠しながら、それでいて私の質問には一切答えず思考を不要とした博士達よりは、私はインドラプトルの方が信用できると感じている。
[よォ、イチ。少しは考えてきたか?]
そう鳴いて、ニタリと弧を描く目と口。相変わらず意地の悪そうな黒く狂暴そうな恐竜、インドラプトルと再び対面した。
[考えてきたよ、私なりにはね。君は、研究員達の手先ではないと信じていいんだね?]
私も返事をするように鳴き、不審に思われないように側に控えていた研究員にインドラプトルのエサの肉を持ってくるように 頼んだ。
[当たり前だろ、話せねえしな。…だからか!テメェ、前は研究員の奴等と同じ態度してやがったのは!]
グワッと大口を開けて威嚇するようにインドラプトルが吠えてきた。いや、実際は怒ったんだけど。そんなインドラプトルを軽くいなしながら会話を軌道に戻す。
[いきなり会った恐竜を信用したんだから誉めてほしいくらいだよ、こっちは。研究員よりは君の方が信頼できると思っただけだよ。時間ないから本題に入るけど、まだ私は君の望んでいる檻の鍵を誰が持ってるかも、この場所の構造も、自分の事も調べれてない。もう少し時間頂戴。]
[…檻の鍵目的でテメェを揺さぶったのは流石に解ったんだな。それでも研究員の奴等より信用に足ると思った、と。]
私は頷きながらも、研究員が持ってきたエサ用の肉をインドラプトルに差し出しながら返事を待つ。
[俺様がテメェの事を知ってんのは、自分の遺伝子がテメェに入ってる事くらいだ。家族の頼みくらい聞いてやる。しっかり調べてこい、テメェにしかできねぇからな…イチ。]
[やっぱり同じ感じがするのは私にインドラプトルの遺伝子が多く入ってるからなんだね。]
研究員の人が呼び掛けてくる。
面会時間が終わろうとしていた。
恐竜の家族。複雑だけれど、でも…初めて自分に向けて言われた、家族と言う言葉に胸が暖かくなった気がした。思わず顔が綻んでしまう。
[暫く待っててね、"イーラお兄ちゃん"。]
私は捏造の会話内容を記したノートを持ち兄に背中を向けて歩き去った。
[イーラお兄ちゃん…か。]
ワケ解んねえ妹ができちまったな。と思いながらもイーラと名付けられた恐竜は満更でもなさそうに何時もの意地の悪い笑みを浮かべていた。