グチャ…グチャ…ズズ…ピチャ…
薄暗い牢の中で、物言わぬ肉塊となった愚かな男の肉を咀嚼し、血を啜り、血を滴らせながら久々の食事をする私は人間からしたら確かにバケモノ以外の何者でもないだろう。
この男の肉以外食べれるものもなければ、拷問されている間はまともな食事が与えられず、常に空腹だったのだから仕方ないと思う。
しかし、この男の肉は不味い。筋肉質だからスジ肉みたいだし、毛も多いから表面はナイフで削りながらじゃないと食べれたものではない。
人間の肉なら脂身の少ない女の肉か子供の肉をいただきたいものだ。
血で濡らした口元を拭い、男の持っていた鞄からこの部屋のものであろう鍵を使い、扉を開けた。
拷問しにきた男が入ってきた時には沢山あった人の気配が近くにはない。
足を進め、上階へ上がると血の臭いがきつくなってきた。間違いなく何かあったのだろう。
血の臭いが酷い、大きな檻がある広い部屋を通り、外に出る。僅かに感じたことのない気配とお兄ちゃんの匂いがした。
「お兄ちゃん…!」
物音を頼りにたった一人の家族の元へ向かうために、鋭い爪と尻尾を使い壁をよじ登っていく。今までずっと屋敷の地下で暮らしてきた私は、外の世界を堪能したい気持ちはあったけど、今はお兄ちゃんが優先だ。
漸く壁をよじ登り、恐竜博物館の透明な屋根の上までたどり着いた。
人間3人と、お兄ちゃん。お兄ちゃんは割れた屋根から今にも滑り落ちそうで、何とか端にしがみついてよじ登れそうだけど、遠くから別の恐竜が近づいてくる。
お兄ちゃんを助けようと屋根を走ったが、その恐竜がお兄ちゃんに飛びかかり、二匹とも落下してしまった。
まずい、下には…!
考えるより先に身体が動く。
屋根から博物館へ跳躍して身を投げ、お兄ちゃん達に尻尾を絡み付かせ、落下地点とは別の場所へ軽く投げつけた。
よかった…
そう思ったのもつかの間、私の体をトリケラトプスの模型の角が貫き、串刺しになった。
串刺しとなった私の体は大量の血を流しながらトリケラトプスの模型を汚して行く。
お兄ちゃんとは別の恐竜は人間が心配なのか急いで上階へ向かっていった。
[イチ!!]
投げつけられたお兄ちゃんが一鳴きして、私に気づいて駆け寄って来た。
お兄ちゃんのまともに歩いてるところ初めてみるや…
[お兄ちゃん…最後に会えて、よかった…]
お兄ちゃんはトリケラトプスの模型によじ登り、器用に私の体を引き抜いた。
もう眠くて仕方ない、瞼を開けていられない私は、唯一の家族に最後のお願いを頼む事にした。
[お兄ちゃん…最後しか役に立てなくて…ごめんね。私の最初で最後の我が儘…聞いてくれる?]