後編 1話(HAPPY)
牢に幽閉されてもう何日経っただろう。何ヵ月か経っているかもしれない。
時間感覚も、朝も昼も何もないからあれからどのくらい時が経ったのかも解らない。
けれど、情報が漏れるのを嫌ったのか、私の耳の性能でも外の音が聞こえない特別な防音室に隔離されている訳だが、部屋が開いた再に何となく気配はわかる。隔離されている此処でも分かるくらいには今日はいつもより周りの気配が騒がしく、いつもいる見張りの人間も少なかった。いつも拷問に来る男が入ってきたときに確認したが、外に見張りはいても、中にはいない。
此処から逃げるなら今日か…
そんな事を殴られながら考えていたら、結構重い一撃を腹部に食らった。痛い。ただの人間なら多分気絶してるか吐いてるだろう。
何故かは解らないが、いつも私を拷問している男は苛立った様子で私の髪をひっぱり、ぐいっと顔を引き寄せてきた。
「くそっ、未だに反抗的に睨み付けてきやがる…お前が言うことを聞かなかったせいで報酬がパアだ。無駄だというのに毎日毎日鎖がついてるのに暴れまわりやがって。どうせ今日までに言うことを聞かないなら殺処分だろ、今日は死ぬ直前くらいまで痛め付けてやる…」
男は何かを出そうとバッグを漁りはじめた。やるなら今かな。
何の為に無駄だと解って毎日暴れてきたと思ってるんだ、この馬鹿は。
肢体に、これでもかと言うほどに大きく力を込めれば、鎖がついている壁の一部が根元からバキバキと音をたてて捲れ上がる。
壁から鎖が外れて使えるようになった手で猿轡の紐と尻尾を拘束していた物も引きちぎる。
自由になった私に怯えるかのように身を縮こまらせながら男はバッグからナイフを取り出して突きだすように構えた。
「こっ、このバケモンがッ!!」
さっさと牢から出てれば助かる確率上がったのにね。
突きだされたナイフを足で蹴り上げ、鞭のようにしなる尻尾で相手の腕を拘束してやった。
一瞬の事だ。殺人兵器として作られた私は、人間一人程度なら造作もないレベルで相手に出来てしまう。
「ひぃっ…め、命令だったんだ!仕方なくやっていたんだ!許してくれ、命だけは…!!」
顔を真っ青にしながら、この期に及び言い訳に続き命乞いを始める男に、こいつはなんて都合のいい頭をしているんだと呆れ果ててしまう。
私にしてきた仕打ちを忘れろと。そんな都合の良いこと有るわけない。腕を拘束している尻尾に力を込めてギリギリと締め上げる。
「本当はいたぶってやりたいけど、時間が惜しいからさっくり殺してあげる。感謝してよね、私のように…痛みで苦しまないだけマシだって。」
そう言って私は、その男の身体を鋭い爪で貫ぬき、心臓を抉り出した。
腕を縛っていた尾を離すと、息絶えた男の身体は重力に逆らわずグシャリと水音を立てて床に崩れ落ちた。
「…おなかすいた。」
この男の肉以外食べれるものは此処にはない。拷問されている間はまともな食事が与えられず、常に空腹だったのだから空腹は当然の事だ。
抜き取った心臓を食い千切りながら「不味…」と小言を漏らす。男の所持品であった鞄からこの部屋の鍵を取り出して扉に向かい、部屋を開け放った。