ただそれだけの物語   作:もっち~!

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出会いは突然に

大きな寝室に肉の叩き合う音が響く。

 

「あぅ!」

 

達したようだ。彼女の表情が、恍惚でありながら、柔らかな表情へ変化していく。余韻を愉しむ彼女の胸と戯れる。達した為、くたびれたようにしおれている乳首は、刺激により力強く立っていく。まだ、欲しいのか?この女体は…まったく、貪欲だな、彼女は。

 

「ねぇ、ずっと、ここにいても良いのよ」

 

潤んだ瞳で僕を見つめる女性、クルシュ・カルステン。この国の王候補の1人である。普段は、軍服を着て男装し、凛とした佇まいを漂わせている。ただ、僕と彼女の腹心であるフェリスの前だけ、女性に変貌するようだ。

 

「そうもいかない。僕の主から密命を言い渡されている。もし、この救いような無い戦乱の時代が終わったら、二人で暮らすのも悪く無いな」

 

「うん♪がんばる…だから、困ったら、いつでも頼ってね」

 

僕に甘えるように縋り憑く彼女。

 

「わかった。そうだ…これを上げる。指を出して♪」

 

左手を出す彼女。

 

「右手だよ。左では結婚指輪になってしまう」

 

「それでもいい」

 

左手を僕の前に差し出す彼女。そんな彼女の右手の薬指に指輪を嵌めた。

 

「お守り程度だよ」

 

嵌めたばかりの指輪を、愛おしそうに撫でる彼女。

 

「さてと…そろそろ行くよ」

 

今日、アレが起きそうである。何者かが、この世界へ転移してきたようだから。

 

「また、逢えますよね?」

 

「あぁ…たぶん…じゃ、行って来るよ」

 

上半身だけ起こした彼女が、僕を見つめている。そんな彼女の唇へ、しばしではあるが、お別れの口づけをした。彼女の腕が僕の首に巻き付く。僕をどこへも行かせないように…

 

コンコン!

 

 

 

---クルシュ・カルステン---

 

コンコン!

 

ドアのノック音、それに一瞬、気を取られてしまった。

 

「クルシュ様、朝食の準備が出来た」

 

「あぁ、わかった。着替えて、すぐに参る!」

 

ドアの方を向き、召使いの者に返答をした。そして、彼の方へ首を動かすと、既にいなかった。もう、行ってしまわれたのですね…

 

------

 

彼と会ったのは、街中であった。フェリスを帯同してのお城からの帰り道だ。

 

「うん?君…病気だな」

 

フェリスに向かって、いきなりそんな言葉を吐いた。

 

「何をいっているの?これでも僕は、最高位の治癒術師という立場だよ。そんな僕が病気だって?!何を言っているのさ?」

 

「う~ん…あまり知られていない病気だよ。病名は性同一性障害。身体と心で性別が違う精神性の疾患だよ」

 

フェリスは目を見開いて彼を見つめた。確かに、彼は見た目も行動も口調も女性であるが、れっきとした男性であったから。それをすれ違い様に、見抜いたようだ。

 

「ど、ど、どうしてそれを…」

 

「先祖還りか?その猫耳は…」

 

フェリスの頭を優しく撫でる彼…フェリスは…彼に…彼の腕に頬を擦り合わせている。マーキング…彼の先祖である猫耳族が、自分の居場所にする為の行為だ。頭を撫でただけで、警戒心が強いフェリスの心を、一瞬で掴んだようだ。

 

「君は心が疲弊しているようだな」

 

え…往来で私に抱きついて来た彼。私は拒否すること無く、その行為を受け入れている。そして、自然に涙が零れていく。どうして?

 

「辛いことや悲しいことは、涙を流すことで、軽減するんだ。それは、人間の本能だよ」

 

彼の頬が私の頬に重なる。心地良い…肌と肌との触れ合い…スキンシップ…もう何年もしていない。こんなにも心が和らぐものだったのか。

 

「落ち着いたかな?じゃ、僕はこれで…あれ?」

 

彼は立ち去ろうとしたが、フェリスが彼の背中に抱きついて離れないでいた。

 

「ちょっと、離れてくれる?」

 

「いや~♪逃がさないからね♪」

 

こんなフェリスを見た事無い。笑顔で彼につきまとっているし。

 

「いや。逃げるも何も…僕は単なる通り縋りだって…」

 

「クルシュ様、彼を持ち帰っても良いですか?色々訊きたいです♪」

 

頷いた私。私ももっと…

 

--------

 

屋敷にしばらく逗留してくれた彼。屋敷の者達は、彼を警戒していた。何者か判らないから。それは当然の行為である。だけど、日を増すごとに、彼への警戒は、彼への敬いに変わっていった。彼は、フェリスにでも判らなかった、家人達の些細な怪我や病気を見つけ、治癒してくれたのだった。

 

「フェリスも形無しだな」

 

「う~ん、悔しいけど、勝てませんねぇ~。って言うか、勝つ気が無いですし♪」

 

フェリスは彼といるのが嬉しそうだ。

 

ある時、フェリスの首に首輪のような物が嵌められていた。

 

「どうしたの、これ?」

 

「彼に貰いました♪ネックレスだと、戦闘のジャマになるから、首の防護を兼ねて、この首輪を頂きました」

 

とても嬉しそうに言うフェリス。羨ましい…私にはくれないのか?

 

------

 

出逢って、この家に連れ込んだ日から、夜は私の床で一緒に過ごしてくれた。彼との添い寝は、朝の目覚めがとても気持ち良い。彼とのスキンシップ…全身の疲れが解けていき、心にのし掛かる重圧をも崩してくれるようだった。

 

「ずっと、いてくれませんか?」

 

彼の前では女の子でいられる。素の自分で居られる気がする。

 

「主から密命を請けているんだ。内容は君にも言え無い。それが終われば、ゆっくり逢えるかな」

 

密命…どこかの陣営のようだ。どこの陣営だろうか?

 

「どこの陣営ですか?」

 

「この世界では無いよ」

 

この世界では無い?どういう意味だろうか?でも、訊いたら後悔する気がする。

 

「この世界が平和になったら、クルシュとフェリスを連れて帰りたい。ダメかな?」

 

笑顔の彼…頷く私。一緒に行きたい。一緒に生きたい。自分が自分でいられる世界行きたい私。

 

「わかった。まだまだ長い時が必要だけど…約束をする」

 

そして、彼と交わった…

 

---------

 

「えぇぇぇぇぇ~!出て行っちゃたんですかぁぁぁぁ~!」

 

彼が仕事に出たことを、家人の皆に伝えた。フェリスが涙をポロポロ流している。こんな彼の姿は珍しい。

 

「でも、戻って来てくれるわ」

 

彼に貰った指輪を皆に見せた。

 

「婚約指輪ですか…ズルい!」

 

フェリスが噛みついてきた。私と二人っきりの時はともかく、家人達の前でのこの行為は珍しい。

 

「何を言っているの、あなたも貰ったでしょ!」

 

彼女の首輪を指差した私。

 

「あぁぁ、てへへへ♪」

 

照れ笑いを浮かべるフェリス。完全にフェリスの心を掴んだ彼。

 

「で、彼の名前は訊いたのですか?」

 

従者であるヴィルヘルムに訊かれた。

 

「訊けなかった…訊いたら消えてしまう恐怖が…」

 

彼の名前を知らない私達。皆が、彼との過ごす時間を惜しむように、彼に名前も正体も訊いていなかったのだ。不思議なことだが、何時の間にか『訊いたら消えちゃう』って、そんな共有した思いが、私も私の従者の者達にも芽生えていた。

 

「彼と再会したら、名前を訊きます。私が訊きます。いいですね?!」

 

特にフェリスに向けて宣言をした。

 

 

 

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