ただそれだけの物語   作:もっち~!

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忘れられた存在

 

事態は、突然動いた。

 

アナスタシア・ホーシンが、僕と商いをしたいと申し出たのだ。代理人として、ユリウスが来ている。

 

「君達の騎士団を雇いたい。報酬は、君の望む事。もし、アナスタシア様が王になられた場合、その権利をエミリア様に移譲する。これが、契約書だ」

 

本物の契約書である。この契約をすれば、エミリアは王になれる。問題は内容だな。

 

「仕事の内容は?」

 

「空飛ぶ鯨の退治だよ」

 

空飛ぶ鯨?どこかの世界にもいた魔物か?喰うと旨いという。

 

「それが出現しているのか?」

 

「あぁ、商人のキャラバンが何度も襲われ、生き残った者はいない」

 

凶暴そうである。どうするかな?

 

「その鯨はなんだ?」

 

まず正体を訊いておく。

 

「魔獣だと思う」

 

「生き残った者はいないのに、なんで言い切れるんだ?」

 

「過去に討伐隊を何度か送り込んでいる。そちらは生き残りがいるんだよ」

 

なるほど…

 

「いつ出るんだ?」

 

「出現の条件は分からない。出現場所はほぼ特定はされているが」

 

「なるほど…調査はしてみるよ」

 

契約書にサインをした。血を流さずに、エミリアの為になるなら良いことだし。鯨は出たとこ勝負だな。

 

 

エミリア達の目を盗み、鯨の調査に乗り出した。出現の場所のリーファウス街道に向かうと、一面に霧が立ちこめていた。確かに魔物の気配を感じる。空気に同化して、様子を見ようとしたが、鯨の1匹が確実に僕に狙いを定めて、突進してきた。

 

『ダイヤモンドダスト』を発動して、ソイツをミンチにした。どうして、空気に同化した僕をターゲットに出来るんだ?って、ミンチにした鯨が再生していく。おいおい…聖剣で真っ二つにすると、2匹の鯨になった。う~ん…分裂再生タイプかな?

 

倒した証拠は無くなるが、灰にするか。僕に掛かっているリミッターを外し、本来の力を纏う。その瞬間、空気は鳴動し、霧が霧散していく。そして、鯨2匹に対して、僕属性の『ダイヤモンドダスト』を叩き込んだ。光の微粒子が鯨たちの身体に突きささり、細胞を灰にしていく。再生しそうな細胞は『強奪』して1箇所に集め、『地獄の業火』で燃やし、灰にしていく。これでどうだ?

 

鯨が灰化しきると、一面を覆っていた霧は、徐々に霧散していった。終わったか?リミッターセットして、僕本来のオーラのダダ漏れを防いでおく。だけど、意識的に漏らした僕本来のオーラのせいで、ここら一面には生物の息吹は消えた。有るのは灰だけの死の風景である。

 

今夜はここまでだな。エミリアのいる屋敷に帰った。

 

 

「あなたは誰?」

 

エミリア達の記憶から、僕の記憶は消えていた。う~ん、呪い系かな?

 

『なんか喰らいましたね?』

 

って、ヤマトから念話が届いた。僕の仲間達の記憶には僕はいるらしいが、この世界の者達の記憶からは消えたようだ。これが、鯨の能力か?

 

「あの霧は『名前と記憶』を食べるのよ」

 

って、サテラ。あぁ、ここに専門家がいた。サテラの記憶からは消えていないようだ。

 

「まぁ、いないことになったなら、それでもいいや」

 

「いいの?」

 

サテラの顔は寂しそうだ。

 

「あぁ、いいよ。離脱時にはサテラだけ、お持ち帰りする」

 

「そう…」

 

ヤマトに契約書を渡し、アナスタシア・ホーシンとの契約の件を頼んだ。これで、僕は自由の身である。僕のヤリ方で、借りは返そうと思う。

 

 

 

---クルシュ・カルステン---

 

毎日が何か空しい。何かを忘れた気がする。とても大切なことを。

 

「どうしたんですか?」

 

フェリスに訊かれた。

 

「誰か大切な人を忘れた気がするのよ」

 

「大切な人?どんな人ですか?」

 

「私の心の支えだった。そんな気がするのよ」

 

「そんな奴がいたら、ボクが覚えているはずですが」

 

そうね。気のせいかな?

 

王選の方はエミリアが王で決まりであるが、形式的な王選が続いていた。フェルトは宰相、私は軍事担当、アナスタシアは商業担当の大臣職になる計画である。フェルトのナイトであるヤマト・ナツキの計画通りに進めていた。4人の候補者がそれぞれのしたいことを実現する為の布陣である。それについて、誰も文句は無かった。文句の付けようも無い計画であったのだ。

 

「疲れていて、現実と幻想の区別が出来ないのかもね」

 

って、フェリス。そうかもしれない。幻想の世界で、彼氏を作ったのかもしれない。疲れから逃れる為に。

 

 

 

---シュウ---

 

サテラと能力を奪ったパンドラと共に、魔女教狩りをしている。サテラが言うには、魔女で生きているのは、嫉妬の魔女とパンドラの二人で、それ以外は死んでいると言う。

 

後、魔女でなくて、魔人っていうのがいた。でも、男には興味が無いので、即灰にして散らしたあげた。これで終わりか?

 

「あと、大罪の司教達もいるよ」

 

ってサテラ。あぁ、脳ミソが揺れるオッサンのお友達か。脳ミソが揺れるオッサンは、見つけ次第、サテラが爆殺してくれた。サテラ曰く『コイツは嫌い』だそうだ。

 

「あいつはキモいよね」

 

って、パンドラ。同意である。あれは脳ミソが揺れすぎていた。

 

 

 

---エミリア---

 

何だろう?スムーズに事が運び過ぎている。裏で誰かが暗躍している気がするが、私のナイトであるファルコンは、気のせいって言うし。なんだろう。何かを忘れているんだけど…誰か、ヒントを…

 

ヒントを求めて、ベアトリスの部屋へ向かった。

 

「何かしら?」

 

私を敵意を込めた視線で睨むベアトリス。

 

「何か、気に障ることしたかな?」

 

「記憶に無いんでしょ?私の怒りはどこにぶつければいいのかしらねぇ?」

 

記憶に無い。私は何かを忘れて、ベアトリスを怒らしてしまったようだ。

 

「ねぇ、私は何を忘れたの?」

 

「大切な者…私にとって大切な者よ!もう、出て行ってよ!」

 

部屋から叩き出された。私はベアトリスの大切な物を忘れたようだ。なんだろう?

 

「ねぇ、パック。なんだろう?」

 

「ボクにもわからないよ。ベアトリスとリンクしていた者かな?」

 

リンクしていた物?なんだろうな?

 

 

 

---シュウ---

 

あれからどれ位経ったのだろうか?ようやく、大罪の司教を全員灰にしてやった。

 

「これからどうするの?」

 

僕に身を預けるサテラとパンドラ。僕も疲れた。心が疲弊している。帰りたい…あの頃へ…

 

うん?警備隊がやって来たようだ。三人で気配を消して、やり過ごす。警備隊にはフェリスがいた。元気そうで凜々しいな。女性であれば…そんなことを考えたり。

 

「うん?何かいるぞ!」

 

あぁ、ユリウスって妖精使いだっけ?気配を読まれたようだ。咄嗟に、その場から転移して逃げた。

 

まぁ、気配を消しても、魔女が二人いるからな。妖精使いにはバレて仕舞うのかもしれない。

 

「どこへ行く?」

 

「城に帰るか…そこしか、帰る場所が無いし」

 

この世界の者達の記憶から消された存在である。この世界に、居場所なんか無い。

 

「あっ!いい場所があるよ。シュウのエナジー補給ができるかも」

 

って、サテラ。スバル一途のサテラとは交わりたくない。かと行って、能力を奪ったパンドラでは抵抗力が無さ過ぎて出来ないし。僕のエネルギーは自然回復に頼っていた。

 

「じゃ、そこへ行こうか。エネルギーが保つかな?」

 

一抹の不安が過ぎる…

 

 

 

---クルシュ----

 

漸く、王選の日を迎えた。候補者は正装をして、それぞれがナイトを伴い、王城へと向かった。王城では、新しい王が選ばれ、当初の人事案の通りに、それぞれが地位に就いた。

 

新しい王が民衆の前で堂々と演説をしている。これからも忙しい充実した日々が訪れるのであろう。

 

私の館で祝賀会を開催した。エミリアも、フェルトも、アナスタシアも笑顔である。それぞれが望んだ未来を手に入れたから。

 

「では、私達はこれで、お暇を貰います」

 

と、ヤマトとファルコンがそれぞれの主君に跪いた。

 

「どうして?」

 

泣きそうな顔のエミリア。フェルトもだ。

 

「我々が配下になるのは、王選までの契約ですよ。お忘れですか?」

 

「え?!そうだっけ?」

 

戸惑うエミリア。

 

「師匠…そんなことを言わないでください」

 

フェルトはヤマトに泣きすがっている。

 

「これからは、あなた方で未来を切り開いてください」

 

「どうして…これからも一緒にいてください」

 

エミリアはファルコンに縋った。

 

「我らの主を、これ以上放置出来ませんので…そろそろ回収しないと」

 

彼らの主?誰のことだ?もしかして、裏で暗躍してくれていたのか?

 

「待て!君達の主とは、どなたなのだ?」

 

「我々は幽玄龍騎士団の団員です。故に主は、騎士団の団長でございます」

 

騎士団の団員?エミリア陣営とフェルト陣営にいた殆どが、団員らしい。

 

「君達の団長に会えないか?」

 

「逢わない方が良いです。今更、逢っても、何も解決しませんから」

 

「交渉したい」

 

「その交渉は拒否いたします」

 

「何?」

 

「一応、僕は副団長ですので、権限はあります」

 

と、ヤマト。副団長なのか…彼が…

 

「ですので、今夜を以て、皆さんとはお別れをいたします」

 

それは、納得出来ない。こんなにも尽力をしてくれて、彼らに礼を尽くしていないから。

 

「礼とかは必要ないです。皆さんが幸せな未来を迎えられることが、なによりですから。帰還の準備を始めてくれ」

 

「了解!」

 

「どこへ帰還をするのだ?」

 

「答える義務は無いです」

 

何も答える気は無いようだ。

 

 

 

---シュウ---

 

監視塔って処で、シャウラという女性からエネルギーを貰いつつ、性欲を満たしていた。

 

「師匠…タフすぎるっす」

 

「はぁ?お前は僕の専用ダッチワイフで良いんだよな?」

 

「なんか違うっすよ」

 

サテラとパンドラは、図書館で読書をして過ごしていた。

 

「団長、迎えに来ました」

 

って、漸く、ヤマトがやってきた。

 

「遅い!シャウラがガバガバで困っていたんだよ」

 

「師匠、やりすぎですって。よく毎日飽きずに、責めまくりますね~」

 

って、シャウラが喜んでいる。

 

「で、お持ち帰りは、その3名ですか?」

 

「サテラはどうする?」

 

「着いていくよ」

 

「パンドラは?」

 

「能力を奪っておいて、放置は許せない」

 

「シャウラは?」

 

「ガバガバで放置っすか?それこそ、有り得ないっす」

 

「3人とも決定だな」

 

「で、クルシュはどうします?」

 

「どうって、覚えてないんだろ?」

 

「ですよね…」

 

こうして、漸く帰還出来る運びとなった。

 

 

 

---クルシュ---

 

毎日をがむしゃらに走り抜けた。平和な世界の礎を築けたと思う。エミリアは長命種であるので、まだまだ若いけど…私は既に引退をした。フェルトもまだまだがんばっているけど…

 

ベッドサイドにはフェリスだけがいる。

 

「クルシュ様…」

 

私の手を握り…私の顔を覗き込んでくれている。

 

「いままで、ありがとう…フェリス…」

 

「いえ、クルシュ様にお仕え出来て、幸せでした」

 

脳裏で走馬燈に撮し出されるように、記憶が再生し出した。幼い時、少女期、恋をした青春時代…え?!恋をした?誰に?記憶が甦って来た。彼のことが…なんで、今まで忘れていたのだろうか?あんなにも恋しく、愛しく想っていたのに…涙が零れていく。

 

「どうされました?」

 

フェリスが私の異変に気づいた。

 

「大切な人を忘れていたわ。どうしてかな…あんなにも愛しかったのに…」

 

もう手遅れだけど…私の命の灯火はもう、消えかけていた。

 

「クルシュ様だけ、行かせません。私も付いて行きますから」

 

ナイフを手にしたフェリス。自害するつもりか…

 

バチーン!

 

え?!フェリスの頬を思いっきり叩いた人物がいた。えっ?何で…

 

「何をするんだ?貴様、誰だ!」

 

フェリスはナイフを構え、臨戦態勢を取った。

 

「死神とでも、言っておくかな?クルシュとフェリスの魂を、貰いに来た。でも、自殺じゃダメなんだよ、フェリス♪」

 

あの人が…あの当時の姿のままのあの人が、フェリスと唇同士を重ねた。

 

「え!スバルきゅん…どうして…今まで、どこにいたの?」

 

ナイフを手放し、彼に泣きすがるフェリス。ズルい…私は起き上がれないのに…

 

「おいで、クルシュ。これからは一緒に、時の狭間を旅をしよう」

 

彼の手を握り、引き起こして貰うと、私の身体はあの当時の姿になっていた。彼に、手を引かれ、私とフェリスは宙に舞う。眼下には、息絶えた私とフェリスの亡骸が見えた。

 

天空を三人で舞い、大空を駆けていく。そして、空に浮かぶお城に、吸い込まれて行く私達…

 

 

 

 

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