中世ファンタジー世界の街並。馬車ならぬ龍車が往来を行き来している。家々の前には露天店が並び、市場が形成されており、そこには民衆で溢れ、活気に満ちた街並である。
ある民家の扉の前にある階段に座る、場違いな恰好の少年を見つけた。上下ジャージ姿である少年。この街、いや、この世界の文化にそぐわない出で立ちである。
「ナツキ・スバルだな?」
僕が声を掛けた。
「なんで、知っているんだ?なぁ、ここはどこだ?俺を元の世界へ帰してくれ~!」
立ち上がり、僕に掴み掛かるスバル。
「まぁ、落ち着けよ。君の能力のことを知っている。既に数回死んでいるだろ?こうして会うのも2回目だよ。前回は、僕の言った事が信じられないで、ここから逃げて…」
僕を睨みつけるスバル。
「俺の能力って…」
言いかけたスバルの口を塞いだ。
「あぁ、君が口にすると、君は死ぬ。そして、また、あの階段に座っているところから、始まるんだよ」
思い当たったのか、項垂れるスバル。
「君の能力は『死に戻り』だ。君が死ぬ事で、この世界全体が、セーブポイントと呼ばれる選択肢の時間まで戻されるんだよ」
「記憶は?俺の記憶だけリセットされないのか?」
「いや、君と僕はリセットされない」
「お前は何者だ?」
「君が『死に戻り』しないようにガードする役目だよ。迷惑なんだよ、君みたいなタイムリーパーはね。時空を管理する者として、看過出来ないんだ。かと、言って、君を殺しても解決出来ない。君を元の世界へ戻して上げてもダメだったよ」
「ダメだった?俺にはその記憶は無いぞ!」
「ここと並行する世界で試したんだよ。君がこの世界を離脱した時点で、死亡扱いになった」
「なんだって…」
力無く地面に座り込むスバル。
「で、数ある並行世界で、君が一番遅い出発でね。ある実験をしに来たんだ」
「実験だと?」
「そうだ。協力してくれるよね?もう死ぬのはイヤだろ?」
スバルが頷いた。
「ダメ元であるのを理解していてくれ」
「わかった…」
スバルを人目の付かない場所に連れ込み、僕達を結界で封じ込めた。これで部外者立ち入り禁止になる。
「テスト内容は、君の完全コピー体を作り、君を元の世界へ、コピー体をこの世界に置く。そんな感じだよ」
「わかった。やってくれ」
途中でジャマされるのは心外なので、スバルの意識を狩り取り、それからスバルの完全コピー体を創造した。これで第一段階クリアである。次に本物のスバルを元の世界へ転移させた。何も起きない…第二段階クリアだ。問題はここからである。コピー体から魂を抜きだし、魂生箱へ入れた。この箱の中で魂は生き続けられるのだ。暫く待つも、何事も起きない。第三段階クリアだな。そして、コピー体を消去して、箱は僕が隠し持つ。ここで結界を霧散させた。どうかな?
時間の揺らぎは感じられない。スバルのいた階段には、スバルはいない。これでいいのかな?次に…彼女と接触だな。ナツキ・スバルが生きているように見せかけないといけない。しばらく僕が彼になり、タイムリセットが起きないかを検証しないとダメなのだ。
街の往来に馴染めない少女を見つけた。彼女からスリが何かを掠め取った。僕は『強奪』で、それを奪い返す。スリには紛い品を『譲渡』して、奪い返した事実の発覚を遅らせる小細工を施した。
「君、今スリとられたよ」
彼女にスリ取られた物を見せた。
「えっ!それ…大事な物なんです…ありがとうございました」
僕に頭を下げる銀髪のハーフエルフの少女。エルフ系は苦手なんだけど…仕事だからな…
「これはこうしてあげる。盗まれないようにね」
ペンダント状態にして、彼女の首にかけてあげた。
「あ…重ね重ねありがとうございます。私はサテラと申します」
紫紺の瞳で僕を見つめているエミリア。
「僕はナツキ・スバルと申します。エミリア様、よろしくお願いします」
はっとした少女。
「どうして…私の名前を…」
その表情は恐怖に歪んでいる。
「僕は相手の心が読めます。ダメですよ、僕を遠ざける為に、魔女の名を騙っては」
「あぁ、そこまでバレているんですね…」
「宿まで送ります。先程から、あなたを見張っている一団がいますので。あぁ、きょろきょろしないでください」
「はい♪」
えっ!僕の腕に躊躇無く抱きつくエミリア。おいおい、初対面でそこまで打ち解けるなよ…エルフに好かれる傾向にある僕は、少し凹んだ。
エミリアの道案内で宿屋へと向かう。人通りが少なくなると、追尾してきた一団に取り囲まれた。
「おい!その女を引き渡せ。ソイツは魔女だぞ!」
みんな手に物騒な物を持っている。
「魔女?君達は、彼女が魔女に見えるのか?目が病気じゃないのかな?」
「貴様!魔女に洗脳されたのか?」
僕が洗脳?有り得ない。迷わず、彼ら全員の心臓を重力狙撃した。これは、一点だけを押しつぶす術である。エミリアの前で、血なまぐさい場面は、そぐわないから。その場で崩れるようにして倒れていく一団。彼らから財布と紙類と金属類などを『強奪』しておく。後で、黒幕を探る為である。
「さぁ、エミリア、先を急ごう♪」
「何が起きたのですか?」
「気にしすぎると、額に皺ができるぞ♪」
僕の言葉で、額を確認するエミリア。あぉ、この世界でも天然系のようだ。
「大丈夫のようです。あぁ、こちらです」
この子は苦手なんだが…仕事だからなぁ…気の進まない僕。
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宿屋に着き、エミリアの部屋に入ると、青髪の鬼族の少女がいた。僕を見るなり、警戒心を強めていく。
「エミリア様、その青年は、どなたですか?」
「ナツキ・スバル様です。助けて頂きました」
僕の腕に更に強く抱きついて来た。胸の感触は悪くない。だが、関わり過ぎると、後が面倒なんだが。
「エミリア様、スバルとお呼びください。レムも同様にそうしてくれるかな?」
青髪の少女がはっとして、僕を見てきた。
「どうして…私の名前を…それにそのオーラは…」
「僕は相手の心が読める。オーラか?君と同じオーラを半分持っている」
「ハーフなんですか?」
「そういうことだよ、レム♪」
同族系とわかり、警戒を解いたレム。
「お前は何者だ?」
エミリアから灰色毛の猫らしき物が出て来た。
「なんだと思う?パック♪」
猫らしき物を抱き締めて、モフモフ感を味わう。
「なんで、僕の名前まで…え…そんな馬鹿な…」
パックにだけ、僕の正体のヒントを流し込んだ。
「嘘だろ…」
驚愕な表情で僕を見るパック。
「パックは僕の敵かな?味方かな?どっちがいい?」
パックの身体が硬くなっていく。そんなに緊張しないでもいいのに。オスには興味は無い。
「味方でありたい…」
絞り出すような声で返答してきたパック。
「良い選択だよ。ここで退場でも、いいんだけどね~」
オーラを通常の物に戻した。
「なんで、ここにいるんだ?」
「ちょっと介入したから、事後確認中だよ」
「そうか…エミリア…この方を仲間にするんだ。護ってくれるから」
って、エミリアに助言してくれたパック。こいつは、エミリアの使い魔のような契約精霊である。
「パックの知り合いなの?」
エミリアが訊いた。
「知り合いでは無いけど…この方の噂は耳にしている。鬼畜だけど、情に脆いとか…女体好きだけど、女性の甘えには弱いとか」
おい!僕の事実をばらすなよ…行動しにくくなるだろうが!営業妨害だぞ!
「女体好きって何ですか?」
エミリアの質問に固まる僕、パック、レム。
「パックが説明しろよ。お前が言ったんだからな」
モフモフしていたパックを、エミリアの耳元に置いた。パックがゴニョゴニョと説明を、ストレートな表現でしているせいか、エミリアの顔が茹だって行く。
「え…あの…私なんかで…役立てますか?」
その言葉に固まる僕、パック、レム。パック…コイツは何を説明したんだ。
「いや…まだ幼いから…無理かな…」
本当の理由はエルフ系だからだ。でも、そんな理由は差別になるから、ダメだよな。
「レムはどうですか?」
真っ赤な顔のレムが訊いてきた。
「お気遣いだけで…あと2年くらいかな?」
「がんばります♪」
何をがんばるんだ?
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夜…何故か、ベッドの上でエミリアとレムに挟まれている。所謂添い寝である。なんか、子供達と寝ている気分だ。僕の放つ『癒やし』のオーラの為か、二人ともスヤスヤと寝ていた。
僕は、あの一団から奪った物を精査していく。財布を1つずつばらして、隠している物が無いかをチェックする。紙類も総て目を通すが、黒幕を示す証拠は無かった。記憶を読めば良かったかな?相手の頭に手を翳すと、記憶が読める場合があるのだ。が、あの場合、エミリアが腕を抱いていたから、無理だったもんな~。はぁ~。
朝、柔らかい物の感触で目が覚めた。レムの唇が僕の唇に重なっていた。僕と目が合うと、レムは真っ赤な顔で、唇が遠ざけていく。
「レム、おはよう。ありがとうな。モーニングキス♪気持ち良かったよ」
「あ…気持ち良いなら…良かったです…朝食の準備をしますので…これで…」
真っ赤な顔で部屋を出て行ったレム。エミリアは隣でスヤスヤ寝ている。あれ?パックもか?ガードにならないだろうに。一人と一匹を起こさないように、ベッドから抜け出した。
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エミリアが、お城へ向かうと言うので、お供をする。で、お城で、彼女と再会した。
「クルシュ、元気だったか?」
「え…どうして、ここに…」
驚いているクルシュ。僕を見つけるなり、僕の腕に抱きついているフェリス。
「え?クルシュさんと知り合いなんですか?」
エミリアに訊かれた。
「まぁ…彼女…」
事実を答えた。真っ赤になるクルシュ。驚いて僕を見るエミリア。
「どうして、私に仕えているんですか?」
エミリアに訊かれた。
「エミリアのガードが、お仕事なんだよ。クルシュとはプライベートなお付き合いだし…」
「あなたの密命って…」
クルシュに訊かれた。
「そう、この子のガード。だから、クルシュの傍に、一緒には居られないんだよ。ごめん…休みの日には会いに行くから♪」
耳元に近づき、クルシュの耳タブをハムハム。
「え…ここでその様なことは…お止めください。そういうのは二人の時に…」
クルシュの顔がゆで上がっていく。あぁ、そうだった。他人の目のある場所では、男装の麗人だったな。
「すまない。旅立って2日くらいだったけど、クルシュに触れたくなっていたよ。ごめん」
クルシュに謝る僕。
「ねぇねぇ、僕には?」
フェリスに訊かれた。
「お供の者は待合室にかな?だったら、待合室で♪」
「残念だけど…お供はそれぞれの仕える候補者の後で、待機なんだよね~」
とっても残念そうなフェリス。
「じゃ、また今度だな、フェリス」
彼女、いや、彼の額に口付けをした僕。
「うん♪約束だよ」
「あぁ」
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謁見は無事に終わった。王候補の者達に、注意事項とか、色々話があった。内容は興味無いので覚えていない。
「エミリア…疲れたよ~」
「はい♪お宿に戻って寝ていください」
エミリアが僕の腕に抱きつき、頭を肩にチョコンと載せて、甘えてきた。
「待て!」
帰ろうとした僕達を、クルシュが止めた。
「胸枕で寝ていい?」
僕の言葉で、真っ赤になるクルシュ。相変わらず、かわいいなぁ~。
「だから…そういうのは、二人の時に…言ってください…」
クルシュの口調が壊れてきた。男装の麗人でいないとイケナイのは、つらいだろうな。
「クルシュ様、ほら、訊くことを訊いて下さい。やらないなら、僕がしますよ」
「ダメだって!私がします。お前の名前はなんと言うのだ?」
「うん?婚約者の名前を忘れたのか?僕はナツキ・スバルだよ。スバルと呼んでくれ」
忘れるも何も、クルシュには名乗っていなかったなぁ。
「スバル…わかったわ、スバル!我が屋敷で休んでいくか?」
婚約者と言ったのに、そこには突っ込まないのか?
「いや、取り敢えず、エミリアを宿まで連れ帰るのが、僕の仕事だ」
残念そうなクルシュ。
『後で、行くよ』
クルシュだけへ念話を飛ばした。
「え!わかった!」
安心したのか、男装の麗人に戻っていくクルシュ。
「君がエミリア様の新しい騎士か?俺と勝負しないか?」
一段落すると、知らない男に声を掛けられた。誰だ、コイツ?
「フェリス、コイツは誰だ?」
「私のスバルきゅんに何をするんだ?おい、ユリウスよ!」
ユリウス・ユークリウス…アナスタシア・ホーシン候補の騎士のようだ。
「フェリス…彼の実力を知りたいと思わないか?」
「知っているから、問題無いよ、ユリウスより強いし♪」
フェリス、焚きつけるなよ。僕は疲れているんだ。
「悪いけど、男に興味は無い。あぁ、フェリスは別だ」
「差別は良く無いよ。君も騎士なんだからなぁ」
性差別したつもりは無い。これは僕の好みの問題である。
「わかった。二度と僕の信念をジャマ出来ないようにしてやる」
ユリウスと二人で競技場へ向かった。心配そうに僕を見つめているエミリア。ユリウスの勝ちを信じているアナスタシアは、余裕の表情である。
「さぁ、剣を構えた給え!」
僕の戦闘スタイルにケチを付けて来た。居合抜きの為、剣を構える必要が無いのに…この世界では、剣を構えないとダメなのか?なら…僕はバトンソードを手にして、オーラを送り込む。このソードはバトン状であるが、送り込むオーラの属性に対応した刃が発現する優れ物である。ライトセーバーをイメージして貰うと良いかな?
「うん?変わった剣だな」
「始め!」
審判らしき者の声、瞬動術でユリウスの懐へ飛び込み、バトンソードを撤収させて、正拳突きを腹部へめり込ませた。
「うっごぉ!」
その場で血反吐を吐いて、倒れるユリウス。
「なんだよ。1発でお終いか?なぁ、フェリス。眠いよ~」
「もう、スバルきゅんたら♪」
フェリスの肩に支えられて、エミリアと共に、クルシュの屋敷へ向かう。マジに眠かったのだ。「ダメだよ、そこで寝ちゃ~」ってエミリアの声が遠くで聞こえる。僕はどこで寝たのだろうか?
目が覚めるとベッドの上だった。両隣にエミリアとフェリスがいて、二人共僕の腕を抱き締めてスヤスヤ寝ていた。これでは、安眠抱き枕状態では無いか…
そうだ♪クルシュの元へ行かないと…