フェルトは恐怖に飲み込まれて居た。目の前では、自分を庇う為にロム爺が両腕を切り落とされて、床に倒れている。
「どうしたの?代金を受け取りなさいよ。死出の旅路のお代よ」
取引相手のエルザが、約束のお金の代わりに、自分達の口封じを仕掛けて来たのだった。
フェルトの全身はロム爺の吹き出した血液で塗れており、彼女の目は既に死んでいる。
「何?もう、精神が壊れたの。じゃ、今楽にしてあげるわ」
エルザが手にしたククリナイフを、フェルト目指して振り下ろした。
カッキーン!
金属と金属がぶつかり合う音、エルザが後に下がった。彼女の前に新敵が現れたのだ。
「貴様、何者だ?」
「エミリア様の騎士…ナツキ・ヤマトだ」
「エミリアの?あの小娘に騎士がいたのか?訊いていないぞ!」
エミリアとはフェルトが紋章を盗んだ相手である。
「あぁ、極秘だからな」
見た目17歳くらいの少年が、笑みを浮かべた。それが、無性に腹が立ったエルザ。
「貴様、ここから生かして出さぬ!」
「それは、こっちのセリフだよ。お前みたなのがいたら、エミリア様に害を為すからな」
『ダークフォール』
少年が能力を発動した。エルザの足元に闇が生じ、エルザを飲み込み始めた。
「何?これはなんだ?」
経験したことの無い恐怖がエルザを襲った。
「お前を闇の世界へご招待だよ。闇の牢獄で無になるまで禁固刑だ」
エルザは少年の目に狂気を見た。自分よりも狂っている者を見た感じである。
「落ち始めたら、闇属性以外の者は、まず助からない」
「お前…狂っている…闇属性だと…」
「あぁ、闇に染まっただけの奴は、闇属性では無いぞ。お前のような奴だよ」
エルザの身体は腰まで闇に飲み込まれた。
「貴様!」
手にしていたナイフをヤマトに向かって投げつけた。だが、ナイフは消失した。
「お前の持っている物は、闇の世界へ持ち込む。お前が無になった後、回収してやるよ」
「お前は、闇の世界を出入り出来るのか?」
「あぁ、闇属性だからな。そもそも、闇の世界の王は、兄さんの息子だし♪」
「なんだって…貴様、闇からの刺客か…」
エルザは完全に闇に飲み込まれ、この世から消えた。
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ヤマトは、フェルトの精神を治癒していく。治癒術は得意では無いが、出来ない訳では無いから。静かに寝息を立て始めたフェルトをカウンターの上に寝かせ、次にロム爺の腕を修復していき、回復術で生命力を元に戻した。
「助かった…儂は皆からロム爺と呼ばれている。その子はフェルトと言うんじゃ。お前の名はなんって言うのだ?」
「僕はナツキ・ヤマト。エミリア様の騎士だ」
「そうかぁ、騎士様か…フェルトの盗んだ紋章を追って来たのだろ?」
「まぁ、そうですが…どうです?エミリア様を護る陣営に入ってもらえませんか?」
目を点にして驚くロム爺。
「儂らは、お前の主の大切な物を盗んだのだぞ」
「あれは、レプリカです。本物はエミリア様が身に着けております」
「なんだって…」
「こちらも用心はしていましたが、我々の目を潜って盗む技量、欲しい人材です。裏の情報なんかもいただけると有り難い。どうですか?僕の配下になっていただけませんか?」
盗人の自分達に、丁重に頭を下げた少年に、心が揺り動かされるロム爺。
「うぅ~ん、ここは?」
カウンターの上でフェルトが目を覚ました。
「そうだ、ロム爺…」
上半身を起こしたフェルトの目に、両腕が再生されたロム爺が映り込んだ。
「治ったの?」
「あぁ、彼に治してもらった。フェルト、お前もだ」
「私も?」
「彼が、あの女を倒してくれた。エミリア様の騎士だそうだ」
「え…見付かったの…私達はどうなるの…」
「彼の配下になり、エミリア様を護る。いいな、フェルト」
事情が飲み込めないが、ロム爺の言う事は信じるフェルトは頷いた。
「では、二人の身なりを変えてましょう。それでは目立ちますから」
ヤマトが手を翳すと、二人の服は古びた物から、新品の物へと変わった。
「魔法使いなの?」
「魔法も使えますが、魔導戦士もどきですよ」
苦笑いするヤマト。実際のジョブは、迂闊に口には出来ない物だからだ。
「ねぇ、そのエミリアって子は、私達の望みを叶えてくれるかな?」
フェルト達の望み、貴族社会を無くし、力ある者は家柄に関係無く、登用される世界の構築である。
「エミリア様が王選で勝ち抜ければ、きっとね。彼女は魔女に似た姿なので、忌み嫌われています。ですから、裏から護ってあげてください。彼女がフェルトの望みを叶えてくださいますよ。フェルトと思いは同じだと思いますから」
ヤマトの笑顔に堕ちたフェルト。ヤマトの心意気に看過されたロム爺。二人はヤマトの配下になった。彼は、身分にかかわらず、能力に見合った全うな仕事を、フェルトの仲間達にも与えてくれ、フェルト達にも給金を出してくれた。ヤマトの配下になって、フェルトの望みは叶いつつあった。
「少なくて、申し訳ない。エミリア様の陣営は、裕福では無いから」
「大丈夫ですよ、ヤマト様。私達から見たら、これは大金ですからね♪」
フェルトは満足げにヤマトへ笑顔を向けた。