---ナツキ・ヤマト---
フェルトについて、僕なりに調べてみた。彼女は、今は亡き王族の生き残りらしい。なので、王選の候補者になって貰った。
「王になれば、したいことが出来るんですよね?」
「いや、フェルトは王になったら、エミリア様に執行代行して貰うんだ」
「え?なんで?」
目を点のようにしているフェルト。まぁ、そうなるよな。
「いいか?フェルトのような実力者は、2番目がいいんだよ。1番目になると独裁者のように見えちゃうから」
「おぉ~、なるほど…」
納得してくれたフェルト。彼女は理解が早くて良い。
「フェルトは王より、宰相とか、大臣とかの方が良いと思うんだ。ただ、王選に出て貰うのは、エミリア様が銀髪のハーフエルフであり、選ばれる可能性が低いからだよ」
「ヤマト様は先を見ておられるのですね。別々に王選で戦い、裏では…う~ん、良い策略です」
「実は、クルシュ様も同じだ。もし、王になられた場合、エミリア様に執務代行をする決意をされている」
「そうなると、残りの候補に勝てば良いのですね」
「フェルトは人海戦術に長けていると思うんだよ。一人で何でもこなしちゃダメだよ。上から指示を与えるだけがいい。時にはエミリア様に、アドバイスを送れると最高だよ」
「表に立たず、一歩引いてですね。奥が深いです」
うんうんと頷いているフェルト。素直で良い子だ。
「で、儂らの領土はどうされます?」
ロム爺が訊いてきた。
「取り敢えず、ここ王都の労働環境を整えよう。それでいいかな、フェルト?」
「ヤマト様についていきます」
「それが一段落したら、エミリア様の侍従と侍女として、仕えるんだよ」
「それは、どういう理由ですか?」
不思議そうな顔でフェルトが訊いてきた。
「フェルトは貴族社会がわからないだろ?エミリア様から習うんだよ。後、僕の兄さんがエミリア様の騎士をしているから。兄さんに、エミリア様共々、帝王学を習うんだ」
「そうか…勉強は必要ですね。貴族社会を知らないと、それすら壊せないのか」
「そういうことだ。どこが弱点かを知る事が大事だ。あと、全てが悪い訳は無いから、良い部分は取り入れるんだよ」
「はい♪」
彼女の笑顔は好きだ。もう、死にそうな顔の彼女は見たく無い。
「領土に関してはエミリア様から少し貰い、徐々に大きくしていく。始めから大きいと、失敗し易いから」
「確かに広い領土だと、見回せないですな」
「うん、狭くても良い領地にするよ」
「そこで、どう運営すれば良いかを学ぶんだよ」
フェルトの頭を撫でながら、諭すように伝えた。
◇
王都にいるフェルトの仲間達への仕事の斡旋が終わり、二人をエミリア様の元へ連れていった。
「王選の候補者を?」
エミリア様が難色を示す。
「エミリア様、侍従、侍女にして貰うのは、彼らの勉強の為です。ですので、お願いします」
僕はエミリア様へ頭を下げた。それを見たフェルトとロム爺も、頭を下げた。
「エミリア、受け入れてあげなよ。エミリアの為にもなる」
兄さんが後押しをしてくれた。
「私の?」
「エミリアの傍で、エミリアを見てもらい、エミリアのダメな部分を指摘して貰え。いいか、弱い者は助け合った上で、競い合ってこそ、強くなれるんだ。一人でうじうじ抱え込むな。銀髪のハーフエルフの前に、お前は王選の候補者だ。フェルトの良い部分を見つけ褒めて上げろ、フェルトのダメな部分を見つけて、注意してあげろ。そして、それと同じ事をフェルトにして貰うんだよ。お互いに、相手を思いやることが大切だよ。相手を蹴落とすタイプの候補者は、王になっても碌な者にならないと思う」
「さすが、兄さん、経験者談ですね」
「だから、お前の兄では、無いって言っているだろ?それは、お前の勘違いだよ」
「ちょっと待って下さい。経験者談って?」
あっ、僕が失言をしたようだ。
「ヤマトぉぉぉぉぉ~!まったく、余計な事ばかりを…」
兄さんが困った顔をしている。マズいなぁ。案件を放り出されると困る。
「ねぇ、スバル…どこかで王様していたことあるの?」
エミリア様に訊かれた。
「まぁ、ちょっとねぇ…」
誤魔化そうとしている兄さん。兄さんはジョブ特性として、嘘の吐けないスキル持ちである。誤魔化すか、はったりを言うことしか逃げ道は無い。
「どんな国ですか?」
フェルトが喰い付いた。サテラも興味あるのか、兄さんをじっと見つめている。
「どんな国って…厳格なルールを持つ国だよ。僕がルール違反すると出入り禁止にするくらいの厳格さだよ」
「スゴい。王様を出入り禁止にするルールって…」
フェルトが興味を持ってしまった。僕を睨む兄さん。うんうん、今回は潔く非を認めよう。
「スバル…あなたは何者なの?」
「僕はエミリア様の騎士です」
「それ以前は、何をしていたの?私は、スバルのことが、もっと知りたいのよ」
エミリア様の耳が朱い。兄さんには惚れない方がいいんだけど。
「私も知りたいです。王様以外に何をされていたんですか?」
フェルトもかな…こっちは興味本位ぽいけど。サテラはじっと兄さんを見つめている。
「う~ん…」
言えないよな…噂の鬼畜本人ですって…
「ねぇ、スバル…あなたが騎士団の団長さんなんじゃ…」
エミリア様が正解に辿り着いてしまった。兄さんはどう交わすのか?
「そう…僕が…噂の鬼畜本人です…」
嘘が吐けないスキル持ち。とても、不便である。
「そうなんだ♪」
って、嬉しそうなエミリア様。
「鬼畜って…まさか、あの噂レベルの騎士団の団長?」
それに対して顔色が悪くなるフェルトとロム爺。まぁ、極悪非道な噂が多いからなぁ。いや、ほぼ事実ではあるが。
「だから…エミリア…」
とても困った表情の兄さん。
「うん?これからも、お願いします」
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固まる兄さん。エミリア様が兄さんの頬に口付けをした。兄さんがエミリア様を苦手とする理由がわかった気がする。真っ赤な顔で兄さんに笑顔を向けているエミリア様。
「なんで?キス?」
「これまでのお礼です。何度も危ない所を助けてもらったし。私には手を出さない節度もあるし…適齢期になったら、サテラみたいにしてくださいね」
あぁ、完全に心が持って行かれましたね。だけど、兄さんは嬉しそうでは無い。苦手なんだもんな。今までに、エルフによる女難を、幾多も出くわしている兄さん。
「なるほど、勉強になるなぁ」
って、フェルト。そこはマネしない方が良いと思う。
---フェルト---
エミリア様に、村を1つ任された。村人達から要望を訊いていく。出来そうな物と、出来なさそうな物に分けてメモしていく。文字はラムさんに習っている。女の子らしさはレムさんに習っている。学ぶことが多くて、楽しい毎日である。
「どうだった?」
ヤマト様に訊かれた。
「牧場の柵を直すのは、出来そうだな」
「言っただろ?フェルトが動いちゃダメだよ。誰かにやらせるんだ。必要な人材と予算を書き出して。ロム爺は、その人材に見合う者を王都にいる仲間から選び、僕は予算を精査して、お金を工面する」
「あぁ、そうだ。自分で手を出したら、独裁者に見えちゃうのか。私って独裁者タイプかな?」
「いいか、フェルト。独裁者は国民全員を下僕として扱える者だ。だけど、フェルトにはなれない。なれない者が独裁者のような行動をすれば、目の上のたんこぶで、暗殺される可能性が高い。だから、ダメだって言っているんだよ。わかるか?」
ヤマト様は私を心配してくれているようだ。そうか、私が死んだらマズいのか。エミリア様も道連れになるかもしれない。ただでさえ、忌み嫌われる銀髪のハーフエルフだし。
「そういうことだ。助け合って、強くなって欲しいんだよ」
あれ?心が読めるのかな?
「あぁ、僕と兄さんの前で、嘘は吐けない。注意しろよ。兄さんは僕ほど優しくは無い」
今まで、嘘を吐いたことが多少あった。バレていたのか…見逃してくれていたのか…
「後、剣術なども習っておいてくれ。兄さんに頼めば教えてくれるよ」
鬼畜なんだろ?
「大丈夫だよ。小さい子には優しいから」
なるほど…
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「そうだな…ナイフなんかどうだ?」
スバル様に剣術を習いたいと伝えると、武器を用意してくれた。
「まず、ナイフの持ち方から」
使い方によって握りが違うのか。いつも咄嗟に握っていたけど。
「質問です。短剣で長剣に勝てるんですか?」
「愚問だ。負ける訳ないだろ?まぁ、技術と鍛錬は欠かせないが」
木で出来た剣を渡された。スバル様は木で出来た短剣を2本持っている。
「それで僕と戦え!」
あんなに短い剣。負ける気がしない。こちらの1/5くらいしかないし。だけど、甘かった。撃ち込んだ剣を短剣で受けとめ、簡単に懐に入られて、胸を揉まれた。うっ!
「わかったか?目を鍛えろ。相手の剣を受け止められる腕力をつけろ。いいな」
「はい…」
鬼畜…何となく理由が…考えていたのとは違う。ロム爺達が見ているのに、身体中をアレコレされる。こういうのって、公開陵辱って言わないか?
スバル様が鬼畜と呼ばれる理由が、分かってきた。手合わせの時、撃ち込まない代わりに、身体のアチラコチラを触られている。胸を揉まれ、お尻を撫で回され、乳首をピンポイントで摘まむし…う~ん、最近では触られることが嬉しく感じたり。スキンシップされているようで、嬉しいのだ。
女子供を弄びって、こういうことなのか。単なるスキンシップ好きって感じに思える。まぁ、噂だし、尾ひれがつているのだろう。
「大変です!魔物が出ました!」
私の任された村の民達が知らせに来た。
「フェルト行くぞ!」
「はい!」
「儂も行きます」
スバル様と私、ロム爺で現場へと急いだ。村に侵入している魔物達。
「フェルト、殲滅するぞ」
って、スバル様は、直ぐに魔物を屠っていく。ナイフでだ。
「団長!私達も戦います」
騎士団の方々が次々に来た。なんだ、この威圧感は。王城で見かけた騎士とは違う。殺気をひしひしを感じる。魔物と交差した瞬間に、魔物が倒れていく。剣捌きがまるで見えない。
「兄さんに、目を鍛えろって、言われただろ?」
ヤマト様が隣に来てくれた。
「相手の剣捌きが見えないと、勝て無いぞ」
ヤマト様の手には、聖剣が握られている。まさか、勇者なのか?
「僕?勇者じゃないよ。まぁ、それなりの能力が無いと扱えない剣だけどね」
って、私達に向かってくる魔物を一刀両断していく。
ドン!
誰かが魔法を放ったようだ。魔物達が大量に倒れていく。これが噂の騎士団の戦いなのか?普通は怯むのに、逆に魔物達の方が怯んでいるように見える。
「埒明かないなぁ。めっちん、発生源を特定して、消せ!」
スバル様の指示で、宙に浮く女性。手には魔導書を持っている。彼女の呪文により、森の奥深くで火柱が上がった。
「あんな奥にか。ファルコン、アイリス、フレイ、行け!殲滅だ」
「了解!」
「残りの者達は、村にこれ以上入れるな!」
スバル様の表情がいつもと違う。引き締まった戦士の顔になっていた。
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魔物との戦いが終わり、怪我人を治癒する騎士団のヒーラー達。ヤマト様は壊れた家を直している。それも魔法でだ。
「フェルト、これが本当の戦いだ。お前は弱い。だから、指示を出す者になるんだ。いいな」
と、スバル様。
「はい」
「指示を出す者も、剣術の鍛錬は必要だ。どこをどうするかの指示を、的確に出さないといけないからな」
「はい」
何も出来無かった。足が竦んで、前に出られなかった。あの時のシーンが、脳裏に浮かんで…ロム爺の腕が、あの女に斬り落とされたシーンだ。
「フェルトは死に直面したのか」
記憶を読まれたのか?
「そうだ。記憶も読める」
そうなんだ…
「いいか、フェルトは一人では無いんだ。怖がるな。ヤマトを頼れ。アイツはお前の騎士だからな」
ヤマト様が私の騎士…
「そうだ。ヤマト様は勇者なんですか?」
「どうして、そう思う?」
「聖剣を持っていますよね?」
私の目利きによれば、あれは聖剣エクスカリバーのはず。威圧感と神々しさを感じたし。
「あぁ、あれか。ヤマトは勇者って言うより、ラスボスに近いんじゃ無いかな?」
うん?逆の立場?ラスボスが聖剣持っちゃダメでしょ?
「大丈夫。僕が魔剣を持っているから」
って、禍々しい剣を手にしたスバル様。それは?見た事が無い。
「これか?魔剣ダークエクスカリバーだよ。聖剣エクスカリバーをコピーして、聖属性を魔属性と闇属性に変えた物だ」
魔剣?エクスカリバーの闇バージョン?コピーして属性変更…錬金術か…
「そんな感じだ。アイツをラスボスにさせない。ラスボスには僕がなる♪」
笑うしかない。弟をラスボスにさせない為に、自分がラスボスになることを、夢見ている兄。ねじ曲がった兄弟愛か?鬼畜的な発想なのか?
「だから、フェルトは気を大きく持て。ラス前のボスが後盾なんだからな!」
なんか、心強い。だけど、ラスボスとラス前のボスが後盾って、言えない気がする。
「そうだな。公言は出来ないか。じゃ、噂の騎士団の副団長が後盾と言え」
あの騎士団の副団長なんだ…ヤマト様は…そうなると団長は…目の前のスバル様を見上げた。
「僕は…う~ん、エミリア様の騎士だ!」
って、ことにしてあげよう。上に立つことが嫌いなのかな?普通は自慢する所だろ思うのだが。う~ん、スバル様への興味が尽きない。
ただ1つ、確信に近い想いが芽生えてきていた。スバル様が王様になってくれないかな。そうなれば、きっと良い国になりそうな気がするんだけど。