道を求める私と   作:双卓

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第一話 帰還

 

 

 

三門市は常時異世界からの侵略者近界民(ネイバー)からの攻撃にさらされている。しかし三門市に住む人々は怯えることなく平和に過ごしていた。それは何故か。

界境防衛機関“ボーダー”と呼ばれる一団が三門市の真ん中に基地を建設し、その周辺に近界民の攻撃が集中するようにしたからだ。

そのためボーダー基地周辺は警戒区域とされ、一般人の侵入は禁止されている。

 

その場所に今、一人の女が降り立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トリオン兵の反応がない謎の(ゲート)ってか。まさかまた人型近界民じゃねぇだろうな」

 

「軽口を叩く暇があるならもっと急げ陽介」

 

「へいへい」

 

警戒区域内を駆け抜ける二つの影はボーダーの中でもA級隊員に属す三輪秀次と米屋陽介だ。

二人はレーダーに示されるある場所に向かっていた。

先ほど陽介が言った通りレーダーに示されているのはトリオン兵の反応がなかった門が開いた場所だ。トリオン兵の反応がなかったといっても何の反応もなかった訳ではない。ボーダー基地のレーダーに対するジャミングでもあるのか正体は分からないが、()()が通った反応はあったのだ。

何の反応もなかったのならそこまで焦る必要はないのだが、その正体不明のものがもし侵略者なら、という事を懸念して急がざるを得なくなったのだ。

 

「もう少しだ。戦闘の準備はしておけよ」

 

「分かってるって」

 

目的地まで残り約100メートルというところで陽介は自慢の槍を構えながら走る。三輪は拳銃型のトリガーの引き金に指を掛ける。

 

 

「何だアレは……?」

 

「黒い玉か?」

 

レーダーの示す場所にあったもの。“それ”は一言で言えば黒い玉だった。それ以上の説明を求められてもそれだけしか答えることは出来ない。“それ”は黒い玉としか形容出来ない見た目のものだった。強いて言うならば人を覆い隠せるほどの大きさがあるという事ぐらいだ。

 

「とりあえず蓮さんに報告を━━━」

 

三輪がそこまで言ったところで目の前の黒い玉に変化が起きた。

黒い玉が急激に縮み始めた。そして風船が割れるように一瞬で拳大にまで縮んだ黒い玉の中から一人の女性が現れた。

 

「人!?」

 

「あら、私の歓迎かな?何も言わずに来たのに感心感心」

 

陽介の驚愕の声をスルーしてその女は綺麗な黒髪をなびかせながら喋る。

そこからの三輪の動きは速かった。何も躊躇うことなく目の前の謎の女に向かって引き金を引いたのだ。

 

「いきなり“これ”なんて、いい度胸じゃない?」

 

しかし、三輪の放った弾丸は目の前の女には当たっていなかった。

いつの間に女は手に黒い棒を持っていた。これで弾丸を弾いたのだろうか。そう考えた時、三輪の眼前に先ほどのものと同じような拳大の黒い玉が迫っていた。

黒い玉は何の抵抗もなく三輪の顔面を貫通した。

 

『戦闘体活動限界緊急脱出(ベイルアウト)

 

無慈悲な宣告と共に三輪の身体は一条の光となってボーダー基地に向かって飛んでいった。

 

「マジか……」

 

「キミもいきなり攻撃してくる感じ?出来れば話がしたいんだけど」

 

「は、話?」

 

「そうそう、お話」

 

ニコッとした笑顔を向けて女は陽介に話しかける。陽介はどうしたら良いのか測りかねている様子だ。

 

女が黒い棒を手放すと、黒い棒はひとりでに変形し、拳大の黒い玉に変化した。そしてその黒い玉は女の背後の空中で停止した。よく見れば同じような黒い玉が合わせて九つほど円を描くように浮いている。

 

「城戸さんっているでしょ」

 

「城戸司令のこと知ってるんすか?」

 

「勿論。私の上司みたいなもんだから。あ、私は小桜奏。よろしく」

 

三輪は勿論、陽介も奏の事を人型近界民だと思っていただけに、緊張が解かれて陽介は槍を下ろした。

 

「さっきはすんません。てっきり人型近界民かと思って」

 

「まぁ、私も何も言ってないのに歓迎されるなんておかしいと思ったのよ。でも悪いと思ってるならボーダーの基地を案内してちょうだい」

 

「了解っす」

 

奏はボーダー基地内部の構造を知らない。何故なら彼女が最後にこの地を踏んだのは大規模侵攻が収まった時だったから。

故に彼女を知る人物は少ない。彼女を知っているのは旧ボーダーと呼ばれる今のボーダーが形になる前の集団にいた人間ぐらいだろう。

 

最高司令である城戸や本部長の忍田とは定期的に連絡を取り合ってはいたが、やはり話に聞くのと実際に見てみるのでは大分違う。

奏は初めて見る光景に密かに心踊らせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボーダー最高司令の城戸は掌で顔を覆っていた。

理由は簡単。A級隊員である三輪が正体不明の攻撃を受けて緊急脱出したという噂と同じくA級隊員の米屋が見知らぬ美人を本部に連れ込んだという噂があっという間に蔓延したからだ。

両者の噂は言わずもがな現在城戸の前に立っている女、奏が元である。

 

「奏くん、帰るなら一言何か言ってくれ。キミが何も言わずに戻ってくるから三輪隊が勘違いする事になる」

 

「へぇ、さっきの子たち三輪隊っていうんだ」

 

他のボーダー隊員が見ると顔が真っ青になるぐらいの華麗なスルーである。

だが城戸は怒らない。共に過ごしていた日々を顧みても定期的な連絡を顧みてもこの女が人の話を聞かないのは分かっていた事だ。なので額に青筋を浮かべる程度で済ませる。

 

「まあまあ、そう怒らないで」

 

「怒っていない」

 

「こっわーい」

 

「フッ」

 

「何よ」

 

「いい年して何を言っているんだ、と思っただけだ」

 

「はぁ!?まだピッチピチの二十代ですが!」

 

「フッ……」

 

などとコントのような会話を繰り広げられる相手は城戸にとって奏だけだったりする。

気を取り直して奏は城戸の正面にある椅子に腰を下ろした。

 

「改めてキミの帰りを歓迎しよう。よくぞ無事で帰ってきてくれた」

 

「堅苦しいのはあんまり好きじゃないけど……小桜奏ただいま帰りました」

 

「久し振りに一杯どうだ?」

 

城戸が飲みに誘うのは上層部の人間ぐらいだ。それに誘うというところからどれ程信頼があるのかが窺える。

隊員たちを誘わないのは未成年が多いからという理由もあるのだが。

 

「いきなりそれとは、さすが城戸さん。でもまだ昼間だよ?ま、それは置いといて。もうそろそろ何か起こるんじゃないの?」

 

「……分かってて帰ってきたのか?」

 

「いやいや、まさか。ただの()

 

奏は昔から勘が良かった。いや、()()()()。約四年前の大規模侵攻もその“勘”で日時を突き止める事が出来た。旅立つ前にそれがサイドエフェクトだと分かったのはいい思い出だ。

因みに“未来視”を持つ迅悠一と合わせれば効果倍増である。

 

「確かに、近々第二次大規模侵攻がくると予想されている。キミの勘もそれを告げているならばほぼ間違いないだろう。迅によれば前回の大規模侵攻とは規模が違う可能性があるそうだ。よって、戦力はいくらあっても困らない。キミのことも頼りにしている」

 

「そのために帰ってきたようなもんだし、任せて」

 

「私とばかり話していてもつまらないだろう。忍田くんや林藤にでも挨拶してきたらどうだ?」

 

「うん。そうするわ」

 

それだけ言い残して奏は城戸の部屋を立ち去った。

密かにつまらないという部分を否定してくれるのを待っていた城戸が少しだけ寂しい気持ちになったのは内緒である。

 

 

 







・小桜奏
第一次大規模侵攻が終結した日の夜に近界へ旅立った。
持っているトリガーは黒トリガーであり、今は亡き親友の形見である。
勘が良いという“超感覚”のサイドエフェクトを持っている。

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