道を求める私と   作:双卓

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第九話 人型近界民

 

時は少し遡る。

奏たちの前に老人の人型近界民が現れた頃。

 

「チッ、たったの二人だけかよ。ハズレだな」

 

「ひ、人型近界民!?」

 

最年長の東率いるB級合同部隊が担当していた地域に門が開いた。そこから出てきたのはいつものようなトリオン兵ではなく、人間。つまりは人型近界民だ。しかもただの人型ではない。角付き、加えて言えば黒い角付きだ。

 

(黒い角……黒トリガーか!)

 

『下がれ太一。相手は黒トリガーだ』

 

部隊の隊長である東は突然の展開だからこそ冷静に最も近くにいた狙撃手の別役太一に内部通信を飛ばした。

 

『この間合いはまずい。距離を取るぞ』

 

東も別役と同じく狙撃手である。本来は何十、何百メートルも離れた場所から相手と対峙するのが戦法から見ても安全面から見ても正解である。このブレードで斬り合ったり弾を撃ち合ったりする間合いは適切ではない。

 

故に距離を取ろうとした直後、何発かの銃声が響いた。

 

「茶野隊か! 逃げろ! 奴は――」

 

音源を探ればそこにいたのはB級部隊茶野隊の二人。先制攻撃だと言わんばかりに自信を持って引き金を引いていた。

これがただのトリオン兵だったならきれいに攻撃が決まってダメージを与える事が出来ていただろう。だが、忘れてはいけない。相手は敵国に攻め入る精鋭の遠征部隊であり、黒トリガー使いでもあるのだ。この程度でやられるなどあり得ない。

 

「チョロチョロしやがって」

 

そんな声を聞いて敵に目線を戻すと、敵のトリオン体は驚きの変化を遂げていた。

まず、被弾したはずの場所からトリオンが漏れていない。それだけに留まらず被弾した場所は不自然に歪み、まるでプールの中に飛び込んだような波が発生していた。

 

「雑魚トリガーが」

 

そして次の瞬間、茶野隊の二人が立っている地面から黒いブレードが生えた。

 

「なっ!?」

 

「バカな!?」

 

呆気なくトリオン体を貫かれ、活動限界を迎えて緊急脱出した。二条の光がボーダー本部基地へと伸びた。

 

『本部、本部。こちら東。緊急事態が発生した。黒トリガー使いがB級合同の担当地域に現れた。今分かっているだけでも弾を無効化する能力と風刃に似た遠距離斬撃がある。このままではここが全滅する可能性がある。至急応援を寄越してくれ』

 

一瞬で手に負えないと判断した東は本部へと通信を入れた。その最中にも距離を取るのを忘れない。

見たところ本気で追いかけようとしている素振りはない。離脱するならこの隙をつかない手はない。

 

『こちら本部。了解した。現在別の場所でも黒トリガー使いが確認されている。そちらは奏が対応している。そこには玉狛第一を向かわせた。彼らが到着するまで持ちこたえてくれ』

 

『了解』

 

「逃げるしか能がねぇのか。しょーもねぇ奴らだなぁ、オイ」

 

本気で追いかける気はないが、そう易々と逃がしてくれる相手でもないらしい。黒トリガー使いはじわじわと距離を詰めてくる。

 

「おうおう、もっと逃げ回ってみろ」

 

東よりも距離が近い別役の足下から黒いブレードが生える。

 

「ぎゃあぁぁ!? あ、東さん!」

 

その数秒後、一筋の光が本部基地へと伸びて行った。

 

(あの攻撃範囲……玉狛第一だけでいけるか……)

 

「へっ、雑魚ばっかじゃねーか」

 

直後、黒トリガー使いの体は真っ二つになり、追い討ちを掛けるように弾丸が降り注いだ。

 

「玉狛第一、現着した」

 

煙の中からは大斧を携えた小南が、東の隣にガトリング砲を構えたレイジとアサルトライフルを構えた烏丸が。玉狛支部が誇る最強部隊、玉狛第一が到着した。

 

「やったんじゃないですか?」

 

「いや、情報によると相手は黒トリガーだ。油断するなよ」

 

「お前たち、思ったより早かったな」

 

並みの相手ならば瞬殺したであろう攻撃を放ったレイジと烏丸に対しての東の感想はそれであった。先ほど本部に報告したばかりなのにもう到着したのだ。予想よりも大分早い。

 

「元々こっちに向かってたんですよ。それで黒トリガー使いが現れたっていうんで、飛ばして来たわけです」

 

「そうか。助かった。だが、木崎の言う通り油断はするな。奴は何らかの方法で弾丸を無力化する術を持っている」

 

「それは厄介ですね。弾丸が無効とすると、いつもの俺とレイジさんで暴れる小南先輩を援護する作戦が使えない」

 

「弾が効かないならブレードで斬ればいいじゃない、って言おうとしたけどそうもいかないみたいね」

 

小南のその言葉に一同は煙が上がる方向に視線を移した。すると、煙が晴れた所にはぐにゃぐにゃと体を液体のように変化させた黒トリガー使いが平然と立っていた。

 

「奇襲作戦ご苦労さん。でも残念だったな。効かねーんだよ」

 

ぱっくりと裂けながら液状化した体で何事も無かったかのようにそう言い放つ黒トリガー使い。

 

「弾丸もブレードも効かないって、反則でしょ」

 

「体を液状化する黒トリガーか。なら、あの黒いブレードもその応用だろうな」

 

「いよいよどうすりゃいいんだって話になってきましたね。こっちの攻撃が通じないなんて。同じ黒トリガーならまだ風刃の方がかわいいですよ」

 

そう話す玉狛第一の三人の足下からブレードが伸びる。が、三人は後ろに飛ぶ事で躱した。

 

「ま、こいつと奏さんなら奏さんの方が恐ろしいけどね」

 

「そうですね。確かにこっちは怖くないですね」

 

「それには同意だ。あの人相手なら俺たちは今ここに立っていなかったかもな」

 

実際に何も考えていないわけではないが、地面から攻撃してくると分かっている事と風刃の遠隔斬撃に比べても幾分か遅い事から三人は避ける事が出来た。

避けた先に罠があったわけでもない。単純な攻撃だったのだ。例えばここで相手が奏なら、飛び退いた先に針山が待ち構えていてもおかしくはない。

三人の奏に対する評価に嘘はないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、退いてくれない?」

 

「それは出来ませんな」

 

所変わって別の戦場。

奏は攻めきる事も出来ず、逃げる事も出来ない状況に苦しんでいた。相手の剣の腕が相当上手な為、無防備に突っ込めば即アウト。距離を取ろうにも不可視の刃が迫ってくる。かといって逃げるのは論外だ。推測の通りなら敵の目的は緊急脱出機能を持たないC級隊員。もしも奏が逃げればこの翁はC級隊員の元へ向かうだろう。一介の訓練生に対処出来るレベルではない。一瞬で蹂躙されて終わりだ。

 

そうして動きを止めた瞬間、絶死の刃が迫る。奏は求道玉を持って防御した。

求道玉に触れたものは消滅するといっても、触れた感覚はしっかりと存在する。つまり消滅覚悟ならば軌道を逸らしたりするのも不可能ではない。

奏は刃との衝突の衝撃で吹き飛んだ。

 

「くっ……」

 

「この刃が防がれたのは貴女が二人目です」

 

「……嬉しくないわよ」

 

反撃とばかりに奏は地面から求道玉を変形させたブレードを生やした。その総数は4。地中から密かに敵の足下へと移動させていたのだ。

だが、やはりというべきか、効果は無かった。相手も慣れてきたのか、当たり前のように避けられる。

 

「攻撃から多彩さが失われてきましたな。そろそろネタ切れですかな?」

 

そうは言うが、そもそも求道玉の攻撃手段は遊真の黒トリガーと違って飛ばすか振り回すかのどちらかしかない。攻撃の多彩さを求められても困るというものだ。

 

「貴方には言われたくないわ」

 

「耳が痛い話です」

 

敵の回転刃にはかなりのトリオンが練り込まれているらしく、求道玉と触れても消滅するまでほんの一瞬タイムラグが生じる。この一瞬が厄介なのだ。求道玉で作った中身が空洞のキューブに閉じ籠るなどして防御に全降りすれば簡単に防げるが、それに徹していては意味がない。その隙にC級の元に向かわれて終わりだ。

奏の今の目標は最高で敵の撃破、最低でもC級が基地に逃げ込むまでの時間稼ぎ。だが、いずれは倒さなければならない敵だ。ならば早く倒すに越した事はない。

 

「ほう、雰囲気が変わりました」

 

「お見通しってわけ?」

 

「ええ」

 

「その余裕、すぐに崩してあげるわ」

 

奏は求道玉を二つ、30センチほどの長さの棒に変形させ、それぞれ両手に握った。先ほどまでのものに比べると大分短い。

そして、直後に残りの求道玉のうち一つを地面にぶつけて土煙を発生させた。威力はかなり抑えてあるが、これで十分だ。

 

全身を覆ってしまうほどの煙が広がった。すると、その煙を切り裂くように目にも止まらぬ速度で奏の体が飛び出した。向かう先は余裕の表情で迎え撃つヴィザ。刹那の時間で到達するほどの速度だ。並みの相手ならば反応すら出来ないかもしれない。だが、この相手は歴戦の戦士。

 

「防御を捨てた特攻。確かに場を切り抜けるには良い手だ。だが――」

 

不可視の刃が展開し、奏を切り裂かんと迫る。

 

「――まだ甘い」

 

奏の体は空中にある。しかも進行方向は固定されている。そこで躱す手段など存在しない。

更に刃は第二、第三と次を用意されている。先ほどまでは防御して吹き飛んだりしたため、追撃が難しかったが、今度は話が別だ。防がれるなど承知の上で一撃目を放ち、体勢を崩す。そうすればもう後は切り裂くだけだ。求道玉は盾のように展開させるにはほんの少し時間がかかる。体勢を崩してから盾を展開するよりも予め刃を用意しているヴィザの方が圧倒的に速い。

 

もはや詰み。少なくとも端から見ればそうだった。だが、

 

「甘いのは――」

 

奏は諦めていない。それどころか顔には闘志が溢れていた。

 

直後に白刃が奏を襲う。その瞬間、奏の体の軌道が不自然にずれた。その影響で刃は奏のすぐ側を通り過ぎた。

 

「そっちよ!!」

 

第二、第三の刃もスピードを緩める事なくスレスレで回避し、ヴィザの元へ到達する。

 

(獲った!!)

 

そのままの速度で短棒を振るう。相手が手に持っている杖のような形のブレードは未だ下を向いたままだ。奏の方が速い。

 

奏はその瞬間、勝利を確信した。

だからこそ、ヴィザの浮かべる不敵な笑みは見逃していた。

 

 

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