道を求める私と   作:双卓

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第三話 玉狛支部

 

 

かつては旧ボーダーの基地であった場所玉狛支部。

趣味は暗躍で実力派エリートを自称している迅悠一は先ほどから立ったり座ったりを繰り返していた。

 

「迅、さっきからどうしたのよ。そんなソワソワして」

 

「べ、べつに?ソワソワなんてしてないけど」

 

「いくらあたしだからって騙されないわよ。今日のアンタはちょっと様子が変だわ」

 

ソファーで頬杖をついた小南が呆れたように言った。普段騙されてばかりの彼女だが、迅の苦し紛れの嘘には騙されなかったらしい。

当の迅が何故ソワソワしているかというと、自身のサイドエフェクト“未来視”である未来を見たからである。

 

「ほら、あたしに言ってみなさい。どうせまた何か未来見えたんでしょ」

 

小南はそう言いながらポテチの袋に手を突っ込む。

寝転がりながら頬杖をついてポテチをつまむ様はとても相談に乗るような人間の姿には見えない。

 

「いや~、ぐうたらオヤジみたいな姿の小南に相談する事はないかなぁ」

 

「はぁ!?ぐうたらオヤジって何よ!」

 

「今の見た目そのまんまじゃん」

 

「ムキー!折角あたしが相談に乗るって言ってるのに!」

 

怒りだす小南を置いて迅は玄関の方向に目線を移す。

 

「何?誰か来るの?」

 

「見てたら分かる」

 

迅がそう言って数十秒後。

玉狛支部の玄関の扉が勢いよく開かれた。

 

「たっだいまー!」

 

この声の主こそ迅が待っていた人物だ。

小南にもこの声には聞き覚えがあったらしく、「嘘……」と漏らしている。

 

「もしかして奏さん!?」

 

「ひっさしぶりね!愛しの悠一くん!」

 

小南を放って奏は真っ先に迅に飛び付く。控え目な双丘が迅に押し付けられるのもお構い無しである。

 

「いや~、悠一くんも桐絵ちゃんも大きくなったわねぇ」

 

しかし奏のものは大きくなっていない。何が、とは言わないが。

 

「ちょ!?奏さんヤバいって!」

 

「ん~?何がヤバいのかな?」

 

普段女子のお尻をすぐに触ろうとする癖にこの状況で迅の顔は真っ赤だ。

 

「む、胸が……」

 

「二人とも私のこと覚えてくれてて嬉しいわ」

 

相変わらずの華麗なスルーっぷりである。

奏は迅を離すと次は小南に迅と同じように抱き付いた。

 

「ボブも可愛かったけどロングでも似合ってて可愛いわ~」

 

小南に抱き付いたまま、まるで小動物を愛でるように頭を撫でる。

これにはさすがの小南も顔を赤らめざるを得ない。

 

「う、うん。ありがと」

 

「あ、林藤さんどこにいるか知ってる?」

 

今度は華麗な話題変換である。

だが、これも二人の中では懐かしいものとして処理されるので怒られたりすることはない。

 

「ボスなら多分上にいるわよ」

 

「そう?ありがとー!愛してるわ二人とも!」

 

奏は笑顔で手を振りながら階段を駆け上っていった。

二人が残された空間には嵐が過ぎ去った後のような静けさだけが残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

林藤がいると思われる部屋の前で奏は立ち止まった。理由は感動の再会に思わず涙が零れたから━━━ではなく、何かお土産持って来れば良かったと後悔していたからである。

忍田と林藤は一歳しか年の差はない。しかし奏にとって忍田は何かと子供っぽいお兄さんで林藤は話しやすい気さくなオッサンであった。本人に言ったら多分泣くが。

そんな訳で何となく林藤にはお土産を持って来た方が良い気がしたのだ。とはいえ、ないものは仕方がないので奏はノックをせずに扉を開けた。

 

「久し振り、林藤さん」

 

「お、やっと来たか。待ちくたびれたぜ」

 

「待ちくたびれたって、来るの分かってたの?」

 

「聞いてたよ。忍田からな」

 

「なんだ。びっくりサプライズ作戦は失敗かぁ」

 

あはは、と笑顔を見せる奏。現在のボーダー上層部で奏と関わりが深いのは城戸、忍田、林藤の三人だが、それぞれ奏との接し方は若干ではあるが違いがある。

気さくなオッサンなだけあって三人の中で一番話しやすいと感じているのは林藤である。

 

「まぁ、座れよ。聞きたい事は沢山あるが、とりあえずあっちの世界での武勇伝でも聞かせてもらえるか?」

 

「武勇伝?ありすぎて話長くなるわよ?」

 

「短かったら逆に困るってもんだ。四年も会ってなかったんだからな。一晩中でも二晩中でも聞いてやるよ」

 

そう言いながら林藤はいつの間にか淹れたコーヒーを奏に手渡した。

こういう大人の気遣い的なものが出来るというのも好感が持てる理由の一つでもある。

 

「うーん、何から話そうかな。そうだ、旅の途中で立ち寄った国でね、王様を決めるっていうトリガー使いバトルトーナメントを開催しててね」

 

「それに参加したってか?」

 

「そうそう。面白そうだったから参加したんだけど、なんと決勝まで進んじゃって」

 

「王様になっちまったのか?」

 

「なってたらここにいないわ。決勝ではちょっと手加減して……」

 

奏は嬉々として自身の武勇伝を語り始めた。

様々な国の話、出会った人々の話、戦いの話。その日、話題が尽きることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

今日は休日だったため朝から玉狛支部を訪れた三雲修、空閑遊真、雨取千佳の三人は珍しく林藤に迎え入れられた。

大抵この三人を迎え入れるのは玉狛支部所属のお子様陽太郎か、メガネ大好き宇佐美栞だ。

 

「よ、三人とも」

 

「林藤支部長が出迎えてくれるなんて珍しいですね」

 

「おいおい、俺も出迎えぐらいするぞ?まぁ、今日は紹介したいやつがいるんでな。とりあえず上がってくれ」

 

流されるままに連れられた三人はそのまま階段を上った。

そして林藤はある部屋の前で立ち止まる。その部屋の扉には『かなでちゃん❤️』と書かれていた。

 

「こんな部屋が……」

 

修が思わず漏らす。玉狛支部は使われていない部屋も多いので一つ一つの部屋は把握していなかったのだろう。

 

「かなでちゃん?って誰?」

 

「旧ボーダーに所属してた仲間だ。昨日向こうの世界から帰ってきた」

 

「向こうの世界から……!」

 

遊真の質問に林藤が答え、千佳が驚く。

千佳は向こうの世界に行った兄を連れ戻すというのが目標なので反応してしまったのかもしれない。

 

突然林藤が何の遠慮もなく扉を開けた。

 

「え、ノックとかしなくて良いんですか」

 

「あー、そんなのいらんいらん。こいつもノックとかしたことないし」

 

名前から考えると恐らく女性。その部屋に無遠慮に立ち入っても良いのか、と修は思ったがもう後の祭り。林藤は既に足を踏み入れていた。

 

「あちゃー、まだ寝てたか」

 

林藤に続いて部屋の中を覗くと三人には見覚えのない女性が寝ていた。それも腹を丸出しで。

千佳と少々常識に欠ける遊真は除くとしても修は思春期の男の子である。思わず目を逸らしてしまった。

 

「奏ちゃーん、朝ですよー」

 

林藤の朝のコールでも目を覚ます様子はない。

何が仕方ないのかは分からないが、林藤は「仕方ないな」と言って頬を人差し指でプニプニし始めた。

およそ十秒ほどプニプニしたところで林藤の指は吸い込まれた。奏の口に。

 

「うわっ、汚っ」

 

「……汚いのは乙女の寝込みを襲う林藤さんの心でしょ」

 

「乙女……?」

 

「ちょっと!皆の中で私の扱い酷い!」

 

「乙女扱いしてほしいんならもっと乙女らしく振る舞うこったな。そんな腹丸出しじゃあ襲ってくれって言ってるようなもんだぞ?」

 

奏が言い返せないのをいいことに今度は奏の腹をプニプニと触りだす林藤。

言っている事は正しいかもしれないが、第三者が見ればセクハラと間違えられてもおかしくない。

 

「って、お前。俺たちが来る前から起きてたな」

 

「フッ……あっちではこれぐらい出来ないと生き残れないのよ」

 

「てことは起きてたのに腹を丸出しにしてたって訳か」

 

「え、いや、それは、暑かったし?」

 

「お前……そのシャツ一枚だけなんだから見えても知らねぇぞ」

 

「見え……?はっ!……林藤さんの変態」

 

奏は急いでシャツを下ろし、自分を抱くような格好で林藤から離れた。

 

「おいおい、なんでそうなるんだよ」

 

 

一見奏と林藤の二人だけの空間のように感じるが、この部屋にはしっかりと修、遊真、千佳がいる。

後から何となく気まずくなる事をまだ知らない奏と林藤であった。

 

 

 

 

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