道を求める私と   作:双卓

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第五話 戦争前の一時

 

 

遊真のお目付け役だという自立型トリオン兵レプリカの説明もあり、第二次大規模侵攻対策会議は滞りなく進んだ。

現在こちら側の世界に近付いている国は広大で豊かな海を持つ水の世界“海洋国家リーベリー”、特殊なトリオン兵に騎乗して戦う“騎兵国家レオフォリア”、厳しい気候と地形が敵を阻む“雪原の大国キオン”、そして近界最大級の軍事国家“神の国アフトクラトル”の四つ。

その中でも“キオン”と“アフトクラトル”が攻めてくる可能性が高いそうだ。

 

奏としてはその二国が攻めてくるのはまずい。

何故かといえば、四年の間にその二国相手に色々やってしまったことがあるからである。

 

 

「以上で会議を終了する」

 

城戸の宣言で会議が終わろうとしていた。が、奏が手を上げたことでそれは中断される。

 

「なんだね?奏くん」

 

「大規模侵攻が起きた時、私は私の()に従って動くけどいいね?」

 

「……許可しよう。それでは今度こそ会議を終了する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会議が終わった後、奏はさも当然のように玉狛支部に上がり込んだ。

既に奏はボーダーのS級隊員として登録されている。しかし、城戸指令派と忍田本部長派、そして玉狛支部派の三つに別れる派閥には何れも属していない。なので本部に行こうが玉狛支部に行こうが自由なのだ。

 

「ねぇ、林藤さん、本部じゃ黒トリガー禁止らしいからここで遊真くんの黒トリガーとやらせてくれない?」

 

「なんで遊真の黒トリガー限定なんだよ。うちの玉狛第一とやってみたらどうだ?トリガーの関係でランク戦には参加してないが最強の部隊なんて呼ばれてるからな」

 

「ふむふむ、それも良いかもね。ボーダー最強の部隊の実力を見せてもらうわ」

 

 

そして約一時間後。

漸く玉狛第一のメンバーが揃った。

 

「じゃ、確認ね。フィールドは市街地、私は全員緊急脱出させたら勝ちで玉狛第一は私を倒したら勝ち。時間は無制限で負けた方が勝った方にパフェを奢る」

 

奏の確認に小南、レイジ、烏丸は頷いた。

パフェ云々の話は奏が勝手に追加したものであるが、本人曰く緊張感を出すためとのことなので文句は出なかった。

 

 

仮想訓練室に入って一分、宇佐美の合図で開始することになったので、それぞれが思い思いの配置につく。

 

『模擬戦スタート!』

 

宇佐美の声に合わせて奏は背後に浮かぶ九つの黒い玉のうち一つを棒状に変化させてパシッと掴んだ。

 

「まずは挨拶」

 

残り八つのうち一つを小南たちの方向へ飛ばした。

 

 

拳大の求道玉が弾丸に劣らぬ速度で迫ってくる。それを認識したレイジは叫ぶ。

 

「離れろ!」

 

直後、轟音と共に市街地の一部が消し飛んだ。

しかし爆発は放射状に拡がったため、その場から横に跳んだ三人は無傷で済んだ。

 

「これが黒トリガーの威力ですか……天羽のようなパワータイプですかね」

 

「いや、真に注意すべきなのは爆発の威力ではなくあの黒い玉や黒い棒そのものだ。アレは触れたものを消滅させる。エスクードでも防ぐことは出来ない」

 

たった今街を更地にした黒い玉が奏の方へ戻っていく。

すかさずレイジが手に持ったガトリング砲の引き金を引いた。一瞬で何十発もの弾丸が放たれる。

しかし、その弾丸の嵐は平らな盾へと変化した求道玉にすべて受け止められた。

 

「おまけに防御に使えば何者も貫くことの出来ない無敵の盾になる」

 

「そんなのどうやって倒すんですか?」

 

烏丸は頭に浮かんだ当然の疑問を口に出した。すると、レイジの口からスラスラと言葉が出てくる。

 

「攻撃は避けるしかないがあの防御は弱点がない訳じゃない。盾を作って防御する場合、あの黒い玉を移動、変形させる必要があるから普通のシールドを出すよりもほんの少しだが時間がかかる。だから意識外から奇襲するか……」

 

「盾が間に合わないスピードで攻撃すればいいのよ」

 

説明を聞いた烏丸はその原理には納得したが、頭に一つのクエスチョンマークを浮かべた。

 

「なんで二人ともそんなに詳しいんですか?」

 

奏はつい最近まで近界にいたのだ。烏丸からすればそんな人のトリガーについてずっとこちら側の世界にいた小南やレイジが詳しいのは不自然なことだった。

それを聞いた二人は同時にため息を漏らしながら言った。

 

「「昔アレの訓練に無理矢理付き合わされたからよ(だ)」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイジと烏丸が正面から弾幕を張り、奏は正面に黒く平らな盾を作って防ぐ。

正面の視界が遮られている中、小南は一人飛び出して上から大斧で奏を狙う。

 

「なるほど、二人が撹乱で桐絵ちゃんが切り込み役って訳ね」

 

フラりと身体を捻って大斧を避けた奏はまだ余裕がありそうだ。

小南は大斧双月を二つの片手斧に分解し、手数を増やす。だが、それでも奏は攻撃をすべて避ける。

 

小南が一瞬バランスを崩した。奏はそれを見逃さず手に持った黒い棒を振り下ろす。

この黒い棒に触れればアウト。にも関わらず小南の表情は曇るどころか笑みをこぼしていた。

 

「ん?」

 

もう一つの影が飛び出し、奏に向かう。それもかなりのスピードで、だ。

奏が咄嗟に黒い棒を構えると丁度そこに何かが激突した。

 

「危ない危ない」

 

弧月の先が宙に舞う。

 

「くっ……読まれてたのか」

 

飛び出して来たのはアサルトライフルを弧月に持ち変えた烏丸だった。

 

「ショボくれてないでさっさと合わせなさい!」

 

「っ!はい!」

 

小南が再び奏に攻撃を仕掛け、それに合わせて烏丸も先が欠けた弧月を降るう。

 

普通に考えれば片手斧型の双月二刀流の小南と刀型の弧月一刀流の烏丸では手数に違いが生まれるのは必然であるが、何故か二人の間に手数の違いはなかった。

その理由は烏丸が現在進行形で使用しているトリガーにある。

烏丸が使用しているトリガーの名は“ガイスト”

あえてトリオン体のバランスを崩し、武器や脚部にトリオンを流し込むことによって威力や機動力を大幅に増強するトリガーである。

この“ガイスト”の効果で烏丸は小南の手数の多さについてきているのだ。

 

奏は一片の迷いもないステップで小南、烏丸の連携連続攻撃を避け続ける。だが、奏も避けるだけでは勝てないので反撃に出た。

奏は黒い棒で小南の片腕を切り落とした。

小南の片腕の肘から先と片方の双月が投げ出される。

 

烏丸が投げ出された片方の双月を掴んだ。そしてそれを奏に投げつけた。

奏は身体を反らして避ける。すると遠くから放たれた弾丸が奏の頬を掠めた。

 

「銃撃が止んでると思ったらそういう事か……あっぶないなァ」

 

次の瞬間、奏がニヤリと笑った気がした。

危険を感じ取ったのか小南と烏丸は跳び退いて距離を取った。

 

「メテオラ!」

 

奏の頭上から小南の放ったメテオラが襲いかかる。

奏は弾幕から身を守ったように頭上に盾を作り、被弾を防ぐ。

が、今度はただのアステロイドの弾丸ではなく、メテオラの弾丸だ。その弾丸は盾に当たって消滅する前に爆発した。

 

「爆発する弾丸……いいねェ」

 

メテオラの爆発の余波で出てきた煙は煙幕の役割も果たして周囲の視界が悪くなる。

 

「テンション上がるわ」

 

奏はバッと勢いよく腕を広げた。 

そしてその手で何かを掴んだ。

 

「「な!?」」

 

掴んだのは視界不良の中、奇襲を仕掛けるように挟み撃ちをしようとそれぞれの得物を振るった小南と烏丸の腕だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、ついつい熱くなっちゃったわ」

 

「ついつい熱くなっちゃった、じゃねぇだろ。お前危なくなったら変なスイッチ入るサイドエフェクトでも持ってるんじゃねぇか?」

 

「そんなサイドエフェクトないわよ」

 

先ほどの模擬戦のことは奏も少しやり過ぎたと思っている。わざわざ腕を掴んで逃げられないようにしてから首を落とす必要はなかったし、ついでにレイジに向かっても九つ全ての求道玉を差し向ける必要もなかったのだ。

 

「向こうでは危険な戦いと楽しい戦いは同時には成立しないからね。まぁ、それ以前に変なスイッチが入るぐらいあの子たちは強かった。それだけのことよ」

 

「それ本人たちの前で言ってやれよ」

 

「言ったわ。かなり強かったってね。桐絵ちゃんには嫌味でしょって言われたけど、強かったのは本当。向こうでも私に傷をつけられる人間なんて限られてるんだから」

 

「お前にそこまで言わせるなんてあいつらも相当だな」

 

そこまで言って林藤は煙草を吸い始めた。

ここは屋上なので煙草を吸っても一応問題ないのだが、奏はあまり煙草が好きではない。林藤はそれを知っているはずなのに止めようとしないので奏はジーっと睨みを効かせる。しかし林藤は「スマンスマン」と言っただけで止めなかった。

仕方がないので奏は林藤に背を向けて座り直した。そしてため息とともに口を開いた。

 

「……明後日」

 

「何がだ?」

 

「明後日、来る」

 

「大規模侵攻がか?」

 

「うん」

 

奏のサイドエフェクトは迅のサイドエフェクトのように明確なビジョンが見える訳ではない。いつ、どこでという情報は迅よりも正確に感じ取ることが出来る。

 

「それ城戸さんには言ったのか?」

 

「会議が終わってから言ったわ。隊員たちに言うかどうかは私の判断で決めることじゃないから」

 

「そうか」

 

決戦の時は近い。

 

 

 

 





カバー裏風キャラクター紹介


・自称デキるお姉さん かなで

犬猿の仲である実力派エリートと近界民絶対殺すマンから気を引いてしまう罪作りな女。年下に対してはすぐにお姉さん風を吹かせようとするが、城戸や林藤、忍田などの仲の良い年上に対しては子供っぽさが隠しきれていない。会議で初めて沢村さんに会った時、思い切り年下と間違えられた。これでも沢村さん、東さんと同い年。

 

 

・スイッチオン カナデ

安全、ピンチ、楽しいの三つの条件が揃った時に現れる隠された本性。口調が少し変わり、口元に弧を描くので軽くホラー。太刀川や米屋のようなヒャッハー系バトルジャンキーに変身するが、常時ではないので太刀川や米屋よりも幾分かマシ。本人曰く、野生の勘が働くので普段よりもサイドエフェクトが強化されている……ような気がするらしい。仮想訓練室万歳。
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