道を求める私と   作:双卓

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第五・五話 旅の途中

 

 

 

現在から数ヶ月前。

近界を漂う惑星国家“ディース”に奏が立ち寄った時のこと。

 

「なーんか暗い雰囲気ねぇ」

 

全身をローブで覆った奏が呟いた。

空は雲に覆われて薄暗く、時々爆発のような音も聞こえてくる。

 

見渡せばレンガ造りの建物が多く、中世ヨーロッパを連想させる。

 

「まずは食料を何とかしないと……」

 

奏は一先ず見える中で一番大きな建物を目指すことにした。

 

 

暫く歩いたが、不思議なことに人とすれ違うどころか人を見かけることすらなかった。

建物の窓と思われる部分は木の板のようなもので塞がれていた。空き家という可能性もあるが、中に人が隠れているのかもしれない。

 

周囲を見渡しながら奏は歩き続ける。すると、角から曲がってきた何者かにぶつかった。

 

「あいたた……」

 

「ご、ごめんなさい!だ、大丈夫……?」

 

不安そうに見上げているのは恐らく十歳前後の金髪の少女だった。

整った顔立ちであと数年すればかなりの美人になるだろうと予想出来る。だが、着ている服は所々黒ずんでいたり、煤のようなものが付いていたりととても上等なものとは言えなかった。

 

「大丈夫大丈夫。ちょっとびっくりしただけだから」

 

奏は安心させるように言ったのだが、少女は俯いてしまった。

 

「どうしたの?」

 

「実は……」

 

俯きながら少女は話し始めた。

 

「このままじゃおじいちゃんが死んじゃうの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまんのぅ、旅の人。うちは貧乏なんでな、それぐらいしか出せるものがないんじゃ」

 

そう言って奏にスープを差し出したのは初老の男性。先ほど奏にぶつかった少女の祖父である。

 

「とんでもない、充分ですよ。ありがとうございます」

 

奏は手を合わせて「いただきます」と言うと早速スープを飲み始めた。

近界では国によって食の文化は大分違うが、この国では肉がよく食べられているのか日本でいうコンソメのような味がしてなかなか美味だった。

 

「それであの、ノルンちゃんから聞いたんですが……」

 

ノルンとは奏にぶつかり、今はふて寝している少女の名前である。

ため息をつきながらノルンの祖父は口を開いた。

 

「実は二日前からこの国への大規模な侵攻が始まってのぅ。最初はなんとか持ちこたえていたんじゃが、ついに兵士が足りなくなって儂にも戦えという通告が来たんじゃよ」

 

「なるほど、それで……」

 

話を聞きながら奏は戦時中の日本みたいだな、と思っていた。日本の場合は兵士になることが名誉とされていたが、どうもこの国では違うようだ。といっても当時の日本国民は洗脳されていたようなものなのでこの国の反応が普通なのだが。

そして大規模な侵攻ともなれば命を落とす可能性も高い。「おじいちゃんが死んじゃう」と言っていたのはそういう事だろう。

 

「ノルンちゃんの両親も兵士に?」

 

「あの子の両親は先の戦争で命を落とした」

 

「す、すみません」

 

「いやいや、構わんよ。今あの子にとっては儂が親のようなものじゃからな。さっきもあの大きな建物、セントラルというんじゃが、あそこに乗り込もうとしたんじゃろう」

 

セントラルというのは話の流れから察するに兵士の管理などをしている砦といったところだろう。恐らくこの国の重要な施設であることは想像に難くない。そんな場所に乗り込むなど無謀の一言だ。奏にぶつかったのは不幸中の幸いだろう。

 

「確かに儂が戦争へ赴けばあの子は独りになってしまう。じゃが、召集に応じなければ食料の配給を受けられなくなってしまう。それでは儂らは二人とも飢え死にじゃ」

 

奏は何も言えなかった。それほどの覚悟があるのに止めることは出来ないし、自分がたった今飲んだスープは飢え死にするかもしれない中で作ったものだったのだ。

 

「旅の人、名前を聞かせてくれんかのぅ」

 

「奏、小桜奏です」

 

「そうかカナデさんか……この侵攻は恐らくあと一日もしないうちに終わる。もしこの国が負けたらあの子ノルンを旅に連れて行ってはくれんか。もし足手まといだと言うのならどこかの国の孤児院にでも置いていけば良い」

 

奏はすぐには答えられなかった。

旅に連れて行くこと自体は構わない。色んな国を回って定期的に日本の仲間へ連絡をすれば、あとは特に目的がある訳ではない。仲良くなれる国があれば仲良くなろう、という程度だ。

奏が答えられないのはそれが理由ではない。

今ノルンはふて寝から本格的な熟睡に変わっていてこの話を聞いていない。つまり起きた時に事後報告のように今の話の内容を聞かされるのだ。

どのような反応をするかは想像に難くない。

 

「もう行かなければならん時間じゃ。カナデさん。見ず知らずの儂がこのような事を言って本当にすまない。じゃが、頼れるのはカナデさん、アンタしかいないんじゃ」

 

ノルンの祖父は立ち上がり、ゆっくりと歩いて家の扉に手をかけた。

 

「あの子を、ノルンを頼みます」

 

そう言い残してノルンの祖父は家を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……、あれ……おじいちゃんは……!?」

 

ノルンの綺麗な金髪が揺れる。

ついにその時が来てしまった。

 

「キミのおじいちゃんはね……戦いに行ったよ」

 

「そ、そんな!…………どうして、どうして止めてくれなかったんですか!」

 

そう言ってノルンは涙を流す。奏は胸を締め付けられる思いだった。

ポロポロととめどなく流れる涙を見て奏はノルンを抱き締めるしかなかった。

 

「ごめんね……」

 

「うぅ………」

 

もう永遠に会えないような別れ方だったが、なにも絶対にこの国が負けると決まった訳ではない。この国が勝てばまた一緒に生活することも不可能ではない。奏がノルンにそう言おうとした時、

 

「黒トリガーだ!!敵の中に黒トリガーがいる!!」

 

誰かが叫ぶ声が聞こえた。

奏は最後の希望が潰えたような錯覚に陥った。

敵がなかなか攻めきれないことにしびれを切らしたのだろうか。敵が黒トリガーを持ち出してきた理由は分からないが、老人をも兵士として使おうとしているこの国に黒トリガーに対抗出来る戦力がある訳がない。

もうこの国の敗北は決まったようなものだ。

 

「黒トリガー……?そんな……いやぁ!私も行く!!」

 

幼いながらも黒トリガーの恐ろしさを知っているのか奏の制止を振り切って駆け出そうとするノルン。

ノルンの祖父の意志を尊重するならばここで無理にでもノルンを違う国に連れて行かなければならない。だが、奏には出来なかった。

 

「ノルンちゃん。今私たちには二つの選択肢があるの。二人でどこか違う国に逃げるか……」

 

ノルンは止まろうとしない。

奏は服の下にある黒いペンダントを取り出した。

 

「敵を…………叩き潰すか」

 

ノルンの足がピタッと止まった。

 

「ホントは私自身の危険もあるし見知らぬ人間が突然戦闘に参加しても混乱するだけだと思うから避けたかったけど、こうなったらそんな事言ってられないもんね」

 

「あ、相手は黒トリガーで、それで、お姉さんが行っても……」

 

「大丈夫。私も黒トリガーだから」

 

「えっ……」

 

「さあ、ノルンちゃん。私を戦場まで案内してちょうだい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ノルンに案内された奏は戦場に着くと暴れていた黒トリガー使いを瞬殺した。

しかし喜びも束の間、信じられないことに二人目、三人目の黒トリガー使いが現れた。誰もが絶望する中、奏は一人立ち向かい見事撃破することに成功した。

黒トリガー使いが三人も敗れたことで敵は撤退の構えになり、残りのトリオン兵を片付けることで敵の侵攻は終結した。

 

 

「コザクラ・カナデさん、我が国“ディース”が“アフトクラトル”の侵攻に打ち勝つことが出来たのは貴女のお陰です。国民を代表して礼をさせて下さい」

 

奏はセントラルの中でも偉い人間だけが入れるような豪華な装飾が施された部屋で料理を頂いていた。

その奏の前で頭を下げているのはこの国の代表のようだが、意外にも奏と同じくらいの年の青年だった。

 

「私は自分のために戦っただけなので礼なんていりませんよ」

 

「いえ、それでは我々の気が収まりません」

 

その代表は真面目な青年で、奏が何か礼を貰わなければ気がすまないようだ。だが、奏はこうして料理を振る舞ってもらえるだけで充分だし、礼なんてする暇があるなら街の復興でもして欲しいと思っていた。

 

「それじゃあ、私を仲間だと認めて下さい。それで敬語もなし。私たちは今から対等な立場なんだから」

 

奏は一旦食事を止め、手を差し出した。

 

「分かりまし……いや、分かった。コザクラ・カナデ、キミは我々の仲間だ」

 

代表の青年も同じように手を差し出し、奏の手を握った。

熱い握手が交わされ、損得の計算による同盟ではない本当の仲間の国が増えた。

 

 

 







・惑星国家ディース
本作のオリジナル国家。
本来は貧しい国ではなかったが、他の国からの攻撃に対抗するために武器を量産し、結果的に貧しい国となってしまった。
市民も全て本作オリジナルの人間である。今後再び登場するかはまだ未定。

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