道を求める私と   作:双卓

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第八話 戦士

 

 

 敵側の作戦室。

 モニターにはラービットを三体同時に撃破する奏の姿が映っていた。

 

「よし、“巣”からは充分遠ざかったな」

 

 先ほど隊長と呼ばれていた男が呟いた。

 

「似た性能のものはあっても全く同じ性能の黒トリガーが存在する確率は極めて低い。もはやこの女が例の“撃滅の魔女”で間違いないだろう。エネドラ、ヒュース、ランバネインは予定通り門で送り込む。玄界(ミデン)の兵を蹴散らしてラービットの仕事を援護しろ。ヴィザ、お前はあの女をやれ。この際雛鳥は後回しでもいい」

 

「撃滅の魔女?」

 

 淡々と指令を下す男に赤鬼を連想させる青年が聞き返した。

 

「先ほど言った当主が名付けたものだ。魔女の如く敵を撃ち殲滅する。馬鹿のくせになかなか的を得ていると思ったのでな。便宜上そう呼んでいる」

 

「なるほど、撃滅の魔女か。是非とも手合わせしてみたいものだ」

 

「止めておけ。恐らくお前では敵わない。それにランバネイン、お前の相手は玄界の兵だぞ」

 

「自分の任務は心得ているさ、隊長。ヴィザ翁を送るのはその魔女は危険だから先に潰すためって事だな?」

 

「ああ。あの女のトリガーは国宝級。放っておけば後々プランに支障が出るからな。だが…………可能なら奪い取ってもいい。あの女ごとな」

 

 通常、敵の黒トリガーを奪うことを遠征の目的にはしない。

 黒トリガーは確かに手に入れることが出来れば膨大な戦力を得ることになる。だが、“虎穴に入らずんば虎子を得ず”ということわざがあるように膨大な戦力を得ようとすれば膨大な戦力の相手をしなければならないということになる。

 それに加えて黒トリガーでは起動出来る人間と起動出来ない人間が分かれる。最悪の場合、苦労して奪い取っても使える人間がいないという状況にもなり得る。

 

 しかし、“撃滅の魔女”と呼ばれた女が持つ黒トリガーにはそのリスクを背負ってでも奪い取る価値があった。

 自分たちはこの遠征を最終目的としているのではない。先に見据えるのは当主同士の争いだ。

 ならばその当主のうちの一人の選りすぐりの黒トリガー数人を含んだ遠征部隊を一人で打ち破った戦力は大いに役に立つ。

 もしも適合者がいなければ洗脳でもすれば良いのだ。そのために適合者の女ごと奪うのだから。

 

 幸い、今ここには国宝の使い手がいる。それも不可能ではないだろう。

 

「まずは様子見だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇー、出穂ちゃんって千佳ちゃんと同い年で同じ中学校に通ってるんだ」

 

 

「へぇー、同じ日に同じ狙撃手志望で入隊したんだ」

 

 

「それでそれで……初日に千佳ちゃんが本部の壁をぶっ壊した!?」

 

 奏と夏目はすっかり意気投合したようで戦いの最中にも関わらず談笑していた。

 ここは警戒区域の外でトリオン兵は奏がほとんど片付けてしまったので気が緩むのも仕方ないのかもしれない。

 

「今度私も狙撃手の訓練行ってみようかな。遠くから狙うのも楽しそうだし」

 

「的の真ん中に当てられたら楽しいっすよ」

 

「そう言えば千佳ちゃんってレイジくんに教わってるのよね?」

 

「あ、はい」

 

「じゃあレイジくんに話聞くっていうのも良いかもね」

 

 いつの間にか奏と夏目の二人は狙撃手の話をしており、いよいよ修はついて行けなくなった。

 そんな修に千佳は顔を近付けた。

 

「この二人って初対面だよね?」

 

「……そのはずだ」

 

 二人のコミュニケーション能力の高さに驚いていると、突然千佳が首を180度回転させて振り返った。

 振り返った先には何もない。

 だが、

 

「来る……!」

 

 その千佳の声と共に門が出現した。

 

「いやはや……女子供を拐うのはいささか気が重い」

 

「あらら……こりゃ、ちょっとまずいかも」

 

 新しく開いた門から現れたのはラービットではなく杖を携えた一人の老人だった。一見すると人の良さそうなおじいさんだが、奏の()がただ者ではないと告げていた。

 

「後回しでも良いとはいえ、雛鳥を傷付けるのはよろしくない。雛鳥が少し離れるまではあまり全力は出せませんな」

 

 直後、老人ヴィザが奏に向かって飛び出した。

 それも老人からは考えられない速度、ボーダーのオプショントリガー“グラスホッパー”を踏んだ時の加速を上回るのではないかというスピードだった。

 

「ッ!」

 

 奏は自身の()に従って求道玉の棒を身体の側面に構えると、そこに一瞬何かが触れたような感覚が走った。

 いつの間にかヴィザは奏の眼前に迫っており、また次の瞬間には元の位置に戻っていた。

 

「なるほど、防御不可で変幻自在の黒い玉ですか。確かにこの“星の杖(オルガノン)”の刃が斬り裂くどころか逆に削られるだけはある」

 

 ヴィザは杖に仕込まれた剣を眺めながら奏に聞こえるように呟いた。

 奏と位置からはどの程度削られたかは分からないが、折れてはいない。

 つまり、求道玉に触れた瞬間に剣を引いたということになる。目視するのも難しいほどのスピードで振るった剣を対象物に当たってから引くことなど可能なのだろうか。理論上は可能だ。奏もやろうと準備してからなら可能だろう。

 だが、この老人は当たってから考えて引いたのだ。もはや不可能と言っていい。

 更には先ほどの高速移動。相手のトリガーの能力がその剣だけのはずがない。恐らくまだ能力を隠している。

 

『星の杖だと……!星の杖はユーゴの遺した記録によればアフトクラトルの国宝の一つだ』

 

「国宝、ねぇ……厄介なのが来たもんだわ」

 

 国宝というからには黒トリガー、それもただの黒トリガーではなく何かしら強力な能力があるであろうことは想像に難くない。

 

「修くん!早くC級を連れて逃げて!」

 

「は、はい!」

 

 修もただ事ではないことを感じ取ったのか、すぐさまC級に指示を出して走り出した。

 再び奏がヴィザの方に視線を戻すとヴィザは一歩たりとも動いていなかった。

 

「追いかけなくても良いのかしら?」

 

「ええ。雛鳥は後回しにして貴女を倒せと隊長殿から承っていますから」

 

「モテモテは困るわね」

 

「まったくですな」

 

 渾身のジョークも簡単に流され、奏はいよいよ冷や汗を流す。

 黒トリガーも言ってしまえばただの武器だ。ノーマルトリガーとも同じように使う人間によって強くも弱くもなる。

 黒トリガーそのものの能力を先に見せられたなら対策も考えられたかもしれない。だが、ヴィザが見せたのはトリガーの能力関係なしの純粋な技術だ。

 技術がない人間にはどんなに強力な能力を持つ黒トリガーを与えても弱いままだ。しかしそれは逆に言えば技術がある人間ならば例えガラクタ武器を使っても強いということでもある。

 

「もうこの辺りの人間は避難したようですな。これで私が少々派手にやってもうっかり雛鳥を傷付けるおそれはないでしょう。さて……そろそろ私も本気でお相手しよう」

 

 次の瞬間、周囲数十メートルの建物が瓦礫と化した。

 

 周囲の建物がバラバラになって崩れる。

 もはや人が住んだ形跡は見つけられない。

 

「あ~あ。ここまだ人が住んでたところなのにやってくれるわね」

 

「それは申し訳ない。だが、貴女ほどの相手には全力でかからなければこちらが危ない」

 

 奏が後ろに跳び、ヴィザと距離を取った。

 直後、奏がいた場所が不可視の何かに切り裂かれた。

 お返しと言わんばかりに奏は求道玉の一つを飛ばす。だが、相手へのダメージを期待してのことではない。この程度で倒せるならば苦労しないのだ。あくまで牽制の目的である。

 求道玉の能力はある程度割れているらしく、ヴィザは迎撃ではなく回避を選んだ。向かってくる求道玉をふらりと躱し、折り返して奏の方へと帰る軌道も避けた。

 

(透明なブレードなのか、それとも速すぎて見えないだけなのか……)

 

 どちらにせよ、相手の攻撃を目で捉えられないのには変わらない。今は“勘”だけを頼りに避けている状態だ。

 奏の勘は常人の曖昧なものではない。ほとんど外れることのないサイドエフェクトである。

 奏自身それを信用しているし、訓練の模擬戦で目を閉じて戦えと言われてもある程度は戦える自信もある。

 だが、正直言ってこの状況は好ましくなかった。

 

「おじいさんのトリガー、星の杖だっけ?アフトクラトルの国宝をこんなとこに持ってきて良いのかしら?」

 

「心配なさらずとも、上官殿の許しは得ていますよ」

 

 奏としては国宝を持ち出す許可を出せる上官というのが気になったが、今はそれどころではない。

 

 遠距離攻撃用の求道玉を一つから二つ、二つから三つへと増やしてみるが、ヴィザは軽々と躱す。敵の攻撃のように見えない訳でもなく、直線的な攻撃のため避けやすいため只でさえ回避しやすい攻撃だ。それに加えて相手はかなりの強者である。このままでは恐らく遠距離攻撃での撃破は期待出来ないだろう。

 目に見えないほどの速度や不規則な動きが出来れば話は別であるが、今は出来ない。 

 ならば、攻撃手段を変えるしかない。奏は二つの求道玉を棒状に変形させ、左右の手で一本ずつ掴んだ。

 

「ほう……次は近接戦闘が望みですかな?」

 

 正直な話、遠距離では無理だが近距離なら勝てるかと言われても軽々しく頷く事は出来ない。相手の剣の腕は先ほど見せられたばかりだ。

 

「こっちの方が得意だから」

 

 だからと言って退く事は出来ない。

 敵の狙いはほぼ間違いなくC級隊員だ。そしてそのC級隊員が集まる場所に現れた凄腕の老爺。どう考えても獲物確保の補助、もしくはそれを邪魔する奏の排除が目的だろう。

 退く事はもちろん、敗北する事も許されない。最低でもC級隊員が逃げるまでの時間を稼がなければならない。どこまで、と言えばボーダー本部基地までだが、数分前のように基地が攻撃されないとも限らないので時間さえ稼げれば安心かと聞かれるとそうでもない。

 

「私も剣には多少の心得があります。喜んでお相手しましょう」

 

 多少の心得どころではなく達人級だという事は言われなくても分かってる。これで多少なら今まで戦ってきた人間のほとんどが剣の心得など無かったも同然だ。実際に死にかけた事もあった。全く笑えない話だった。

 

 

 

 

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