弟と一緒に地球という人外魔境に送られた下級戦士だけど何か質問ある? 作:へたペン
弟と一緒に地球という辺境に送られた下級戦士だけど何か質問ある?
プロローグ
サイヤ人の下級戦士として生まれた私は弟と共に戦闘力の低い辺境惑星に送り込まれた訳だが、どうやら私は運悪く宇宙船が事故って頭部を強打しまい『命令』を忘れていたようだ。
記憶障害を起こした私が覚えていたのは『キャロット』という自分の名前と当時名前は思い出せなかったが、もう一つの宇宙船に乗っているのが弟ということだけだった。
それでも運がいいのか悪いのか私は不時着した土地にひっそりと暮らしていた孫悟飯という老人に拾われた。
右も左もわからず行き場のない私達を悟飯は本物の孫のように受け入れてくれて記憶を失っていた時の私はそれはもう感謝したものだ。
だが『命令』を思い出した今、『おじいちゃん』と慕っていたのは黒歴史でしかない。
暴れて谷から落ちた弟を助けようとしたが間に合わず私達姉弟は頭を強打してしまった。
その結果『命令』を覚えていた弟のカカロットまで記憶障害を起こしてしまったが、不幸中の幸いなことに私は逆に『命令』を思い出すことが出来たのだ。
下級戦士とはいえ私だって誇り高き戦闘民族だ。
駆逐対象に「おじいちゃん♪」とバカみたいに甘えていたのを思い出すだけで吐き気がする。
私は孫悟飯抹殺の為に今すぐにでも襲い掛かりたいのだが、母星から出発した時の私の戦闘力はたったの2だったことも思い出せている。
自分で言うのもなんだが私の戦闘力はゴミみたいな数字であり下等生物相手でも負ける恐れがあるのだ。
だから私は『命令』を忘れたカカロットなしで無事『地球人抹殺』を果たす為、表面上は良い子のフリをして孫悟飯の戦闘力を見極める為彼に武術を習い始めた。
予想通りとても今の未熟な私で勝てる相手ではなかったが幸いなことにこの星には月がある。
サイヤ人の真価を発揮できる満月の夜になら孫悟飯を亡き者にできるだろう。
―――――そう思っていた時期が私にもありましたとも、ええ。
孫悟飯抹殺を決行した日の次の朝、私はベッドの上で横になっていた。
「満月の夜は怪物が出るから外に出てはダメじゃぞ?」
大猿化で理性をなくして昨日の夜の記憶はないが、心配そうに全身打撲で動けない私を看病をしてくる孫悟飯の様子から戦闘結果は私の敗北なのは嫌でも理解できた。
この惑星『地球』は住民の戦闘力が低い辺境惑星ではなかったのだろうか。
そのことを惑星ベジータに報告しようと孫悟飯の目を盗んでこっそり宇宙船に行ったが母星である『惑星ベジータ』との通信が繋がらなかった。
カカロットの宇宙船でも試してみるがこちらも繋がらない。
まさか宇宙船が2つとも故障していようとは本当に運がなさすぎだろう私って奴は。
しかし予定よりも原住民の戦闘力が高かったとはいえ戦えば戦うほど強くなるのが私達戦闘民族サイヤ人だ。
いつかあの老いぼれ爺さんを私自らの手で殺してその後他の地球人達も滅ぼしてやる。
私はそう遠くないであろう未来に頬を緩ませながらスカウターを手に取り今現在の戦闘力差を計ってみた。
-----------------------------------------------------------------------------------------
キャロット:戦闘力6
孫悟飯:戦闘力100
-----------------------------------------------------------------------------------------
そしてそっとスカウターを閉じる。
あんな老いぼれで戦闘力が100もあるのだ。
若者や武道家相手なら200や300…もしかしたら1000を超える相手だっているかもしれない。
特別戦闘力が高い星とは言えないが戦闘力2の赤子を送り込む星ではないだろう。
「あれ、もしかして私詰んだ?」
§
第一話『悲報 私の尻尾が切れた』
孫悟飯との修行中の事故で尻尾を失い、また生えてくるとはいえ割とショックを受けた。
尻尾がないとバランスが取り辛く戦闘に支障が出る。
何よりも満月で変身できなくなるのは戦闘力の低い私にとっては死活問題だ。
尻尾を奪った孫悟飯本人に心配されても殺意しかわかないがカカロットが心配してくれたのには少し癒された。
なんだかんだで母星と連絡の取れない今同族はカカロットただ一人だ。
ダメな弟の為にも私が『命令』を実行しなければならないという使命感。
自分よりダメな奴がいる安心感。
命令も忘れ『カカロット』と呼んでも「オラ悟空って名前だぞ」と名前を受け入れてくれないが、無邪気で無知で自分よりも劣るカカロットの存在は私の心の支えとなっていた。
問題は孫悟飯から植えつけられた地球人の倫理観だ。
早めに孫悟飯を殺し再教育しなおさなければカカロットは間違いなく地球人抹殺の邪魔をしてくるだろう。
カカロットは孫悟飯のことも私のことも好いているので孫悟飯殺害自体も全力で止めに入ってくるのも目に見えている。
孫悟飯殺害自体も難易度が高いというのにその後カカロットの説得まで必要になると思うとため息しか出てこなかった。
一番楽な道はカカロットを切り捨てて一人で地道に地球人を抹殺することなのだが、母星と連絡が取れず帰れる見込みもない今同族が一人もいないというのは種族として詰んでいるし、最終的に私の戦闘力に追いついてこられるのは同じサイヤ人であるカカロットだけだ。
来るかもわからない母星からの迎えを孤独に待つよりも二人で戦闘を楽しんだ方がいいに決まっている。
そういった意味で考えればカカロットは生きててくれれば敵でも味方でも構わない。
だから断じて私が情などという甘い考えを持ちカカロットを殺せないなどという話ではないのだ。
――その結果満月を見て大猿化したカカロットに追い回されている私がいる訳ですが、ええ。
カカロットがトイレに行こうと夜な夜な起きて満月を見てしまい大猿化してしまった。
今私には尻尾がないのにやめてもらいたい。
「カカロット!! 姉はお前をそんな子に育てた覚えはないぞ!?」
「そんなことを言っておる場合じゃない! 早く逃げるんじゃ!!」
私の足では逃げられないと判断したのか孫悟飯が私の体を抱きかかえて走り出す。
確かに逃げきれないのは事実だが後々殺そうとしている人物に助けられるとはなんたる屈辱。
だがカカロットが大猿になり『命令』を覚えている私に理性が残っているのは孫悟飯を亡き者にする絶好のチャンスだ。
なんとかしてカカロットの破壊衝動を孫悟飯に向けなければ。
「カカロット!! じじいだ!! じじいを狙え!! いつもきつい修行で苦しめられた鬱憤を今晴らすんだ!!」
「ふぁ!? もしやキャロット最近どぎついのはわしの修行が辛かったからなのか!?」
結局この後カカロットは言うことを全く聞かずに私ばかりをしつこく追い回してきた。
いくら大好きな姉である私と遊びたいからと言ってこのスキンシップは過激すぎだ。
おかげで孫悟飯にエネルギー波で助けられることになった。
屈辱である。
§
第二話『最近祖父が変なんだがどうすればいい?』
最近孫悟飯が私を女の子らしくしようと変なことばかり強制してきて非常にうっとうしい。
どうやらカカロットが大猿化した時に私が修行が嫌になって暴言を吐いたと勘違いしたようだ。
近くの人里で育てた野菜や狩った動物の肉と物々交換して洋服や書物。
料理をする為の調味料などを仕入れるのに付き合わされた。
山暮らしのせいでこの星はもっと原始的な暮らしをしていると思っていたのだが、通貨の概念や乗り物などの機械類があることから文化レベルはそれなりにあることが伺える。
もっとも私の宇宙船を直せる技術レベルとは到底思えない辺境の地であることには変わりないのだが。
しかしそんな辺境の惑星でも長所はもちろんある。
自然豊かで異星人に高く売れる星だというのはもちろんのこと何よりも驚かされたのはその食文化だ。
読まされた書物で知ったのだが食に関しての意識は非常に高く、宇宙のお偉い方が食べているような食品が霞むくらいに地球の料理というものは手間暇を掛けている品物だった。
一見無駄な手間にも見えるがその無駄な手間を加えた分だけ味も素晴らしく向上する。
たかが食事けれど食事。
手の凝った料理というものを一口食べただけでわかった。
この食文化だけでも異星人の間に広めれば金になるに違いないと確信できるほどの衝撃を私は受けたのだ。
ただ肉を焼くだけ。
ただ飾り付けて調味料をまぶせるだけ。
ただ栄養を摂取するだけ。
その程度で満足する宇宙全土に革命を起こせるほどの文化を安易に滅ぼしていいものかと戦闘民族である私が迷うほどの魅力がこの地球にはあるのだ。
惑星ベジータと連絡を取れない事を考えると、先住民の抹殺ではなく支配に任務を切り替えるべきだろう。
抹殺より難易度が格段と跳ねあがってしまうが、もしも惑星ベジータと連絡が取れればこの食文化を手に入れた功績は必ず認められる筈だ。
しっかりこの星の食文化を伝えられるよう料理の勉強はしっかりしておこう。
料理の基礎だけとりあえず抑えたところで、そろそろ孫悟飯との戦闘力差は縮まったかなと久々にスカウターを使う。
下級戦士とはいえ私達は戦闘民族サイヤ人だ。
そろそろ30は超えていても良い頃合である。
-----------------------------------------------------------------------------------------
キャロット:戦闘力7
カカロット:戦闘力9
孫悟飯:戦闘力100
-----------------------------------------------------------------------------------------
―――30どころか弟に戦闘力を抜かされた私はそっとスカウターを閉じましたとも、ええ。
地球を支配するのはまだまだ当分先になりそうだ。
§
第三話『冷酷な私がツンデレ扱いされている件について』
私の兄ラディッツは今頃どこかの星を侵略しているというのに私は今日も料理をしている。
料理を覚えてからというものすっかり私が家事当番だ。
料理をし、畑を耕し、獲物を狩り、血抜きをしている間に掃除をして、薪を割り、たまに狩った獲物の肉を売りに遠い村まで足を運ぶ。
正直なところ戦闘民族サイヤ人の私にとってこの生活は辛い。
こんな生活ではこの星を支配するどころか体がなまってしまう。
そもそもこんなヒラヒラと動きにくい恰好をさせるなんて何様のつもりだと怒りに任せて孫悟飯に攻撃するも軽くあしらわれてしまった。
戦闘力の差はやはり覆せないようだ。
それでも今日は体力が尽きるまで孫悟飯に攻撃をし続けた。
そんな私をカカロットは「今日の姉ちゃんは真面目に修行してんだな」と笑って見ている。
届かない。
戦闘民族サイヤ人の私がいつまでたっても老いぼれ相手に手も足も出ない。
終いには弟に笑われる始末だ。
―――――私のプライドはボロボロですとも、ええ。
体力が尽きて動けなくなった私の代わりにカカロットが今日の食材を探しに狩りへ出る。
孫悟飯はいつも通り穏やかに私に接し、動けない私の側にいてくれる。
悔しかった。
それと同時に理解が出来なかった。
なぜこの老いぼれは私達にここまで尽くしてくれるのかが理解できない。
「今は私達は子供だからいい。床も早い。だが月を見れば変身し理性を失う化け物になる。私達にその間の記憶はない。そんな連中危険とは思わなかったのか?」
これは大嫌いな孫悟飯に対しての嫌味だった。
いい子を演じていたストレスを吐いているだけだ。
「見ての通り私達は見境なく人を襲う化け物だぞ?」
「化け物ではない。化け物なんて呼ばせない。おぬしらはわしの大切な孫じゃ」
「反吐が出る程甘い考えだ。いつか絶対寝首を掻いてやるぞクソジジイ」
いつもは多少なりとも演技を混ぜているが私はもう限界だ。
日に日にこの生活に慣れていき、こんな生活も悪くないと思い始めている自分自身が許せない。
私の使命は、この星を支配することなのに、戦闘民族サイヤ人なのに、辺境の星にいる老いぼれ一人始末できない。
「泣かんでもいい。わざと嫌われようとせんでもいい。わしが二人と暮らしたいんじゃ。誰が何と言おうと、おぬしらはわしの自慢の孫じゃよ」
「うるさい。『爺様』なんて大嫌いだ」
この日から私は毎日孫悟飯を襲うのを日課に入れた。
相変わらず手も足も出ないが前みたいに悔しくないのはなぜだろう。
§
エピローグ
『弟と一緒に地球という辺境の地に送り込まれた下級戦士だけど元気でやっています』
エイジ748年、孫悟飯が天寿を全うした。
よく懐いていたカカロットは泣いていたが、孫二人に見守られながらこの世を去った孫悟飯の表情はとても穏やかなものだった。
結局私は一度も孫悟飯に勝つことは出来なくて、その悔しさに涙を流しただけで、私は断じて身内が死んだから悲しんでいる訳ではない。
孫悟飯に負けたままこの星を支配するなんて私のプライドが許さない。
もう邪魔する者はいないが、地球の支配は孫悟飯の戦闘力を超えてからしようと心に決めた。
それからの生活も私が家事をしながら、カカロットと畑仕事をしたり狩りをしたり修行したり、今までと変わりない生活を送っている。
組手の戦歴は姉の尊厳に関わる為聞かないでもらいたい。
それから一年がたっても私の戦闘力は100に届かず、この地球という星にはまだ戦闘力100前後の連中がまだまだいる。
孫悟飯がこの星の中で強い人物だったのは嬉しい誤算だが、この星を支配するには相当時間が掛かりそうだ。
「姉ちゃん! 今日のメシなんだ? オラもう腹減って死にそうだぞ~」
「そうだな。久々に魚でもさばいてみるか。カカロット、沢山食いたければデカい奴を捕ってこい」
「久々の魚かぁ! 姉ちゃんが焼くとどんな奴でも美味いかんな。よぉし、オラいっちょ行ってくっぞ!」
――――――戦闘力は私より高いけど頭を打って使命を忘れた弟と共に、この辺境の地で今日も元気に生きていきますとも、ええ。
そして原作一話の流れへ。
変わったことはきっとほんの些細な事。
指輪が一つ増えてタイムパトロールがあたふたしたりしますが、多分続きません。