弟と一緒に地球という人外魔境に送られた下級戦士だけど何か質問ある?   作:へたペン

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とても悩む話。


其之十六『なりそこない』

 天下一武道会まで後3カ月。

 確か世界中の強豪達が集まる大会とか言っていたか。

 大会に出場する奴等が全員亀仙人のように戦闘力をコントロール出来る連中だったら、力による支配は無理だと諦めがつくだろうか。

 

 だが星を侵略できなければ私は惑星ベジータに帰る事は許されない。

 父バーダックに、母ギネに、兄ラディッツの元に帰る事が出来ないのだ。

 

 カカロットのように記憶を失くしたままならどんなに楽だっただろう。

 記憶を失わず孫悟飯に出会う事無く地球人を虐殺していたらどんなに楽だっただろう。

 今の私はサイヤ人にも地球人にもなり切れない中途半端ななりそこないだった。

 

 

 

 ドラゴンボールに願えば誰も傷つける事なくこの星の支配者になれるだろうか。

 支配者になった後も、カカロットやクリリン達は今と同じ態度で居続けてくれるだろうか。

 答えは出ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「カカロット。もしも私が悪い事をしようとしたらどうする?」

「ん? 姉ちゃん悪い事なんてしないだろ」

「例え話だ。意味もなく人を殺そうとしたらどうする? 闘ってでも止めるか?」

「じっちゃんが人殺しはよくねぇって教えてくれただろ。変な姉ちゃんだな」

「そうだな。カカロットはそれでいい」

 

 

 

 

 

 答えが出ないから私は考えるのを止めた。

 私が世界の支配を初めそれが悪い事だと知ればカカロットは必ず反対し、()()()()()()()()

 そんなカカロットに私の人生を預けてみるのも悪くはないか。

 

 3カ月後の天下一武道会。

 参加者の戦闘力が低く私が優勝するような事があればこの星の支配を目的に本気を出す。

 カカロットが優勝するようであればこの星の支配はカカロットに免じて諦める。

 他の奴が優勝するようなら、今まで通りなりそこないのまま迷い続けよう。

 

 自分で決められないから他者に身を委ねている情けない道だが後悔はしたくない。

 やるならば戦闘種族サイヤ人の誇りに懸けて全力で勝つ為に己を鍛える。

 

 

 朝から夕方は亀仙流の修行に打ち込み、夜は戦闘力のコントロールの練習を自己流で行なう。

 そんな生活を続けているある日の夜、外で自己鍛錬中に亀仙人がやって来た。

 

 

 

「キャロット。やりたくない事を無理にせんでいいんじゃぞ?」

 

 

 

 修行の事や天下一武道会に出る気になった事、だと思うが亀仙人の表情は珍しく真剣だった。

 せっかく覚悟を決めたのに、その覚悟すらも揺らぐタイミングで揺らぐ言葉を掛けるのは止めてもらいたい。

 

「自覚はないかもしれないが、お主は優しい子じゃ。このまま穏やかに暮らす事を孫悟飯は望んでるじゃろう」

 

 それで納得出来たらこんなに悩んでいない。

 孫悟飯を祖父と認めてしまい、だけどサイヤ人である父バーダックと母ギネを否定出来ないからこんなに苦しいんだ。

 

 

「複雑な家庭のようじゃな。いや種族か。そんな決まり事に囚われる必要がどこにある」

「エロ爺。なぜそんな言葉が出て来る。貴様、まさか心が読めるのか? 私の心を盗み見たのか?」

「もっと心を鍛えんと、わかってしまう者にはわかってしまうものじゃ」

「エロ爺に心を覗き見されるなんて反吐が出る。今すぐやめろ」

「じゃが、抱えているものを誰かと共有すると少しは身軽になるじゃろ?」

 

 

 私が地球侵略の為に送り込まれたと知られても態度を変えないのには確かに安心感を覚えるが、それとこれとは話は別である。

 心を見られるなど体を見られるよりよほど屈辱的だ。

 

 

「武道会で優勝したら真っ先に貴様を殺してやるぞ、エロ爺」

「ふぉっふぉっふぉ、そんな()()が言えるならもう大丈夫じゃろ」

「だから心を読むな!」

「今のは読んでないもんね~」

「本当に殺すぞ!」

 

 

 覚悟を決めた筈なのに結局私はなりそこないらしい。

 こんな甘い私を、父と母は許してくれるだろうか。

 もしも許してくれるなら、この星で家族と共に暮らしていきたかった。

 

 




悩んで、迷って、迷走して、また振り出しに戻るキャロットでした。

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