弟と一緒に地球という人外魔境に送られた下級戦士だけど何か質問ある? 作:へたペン
塔の中には大柄な男が一人、小柄な男が一人、そしてドラゴンボールが一つあった。
「畜生。あと一息だったのに……後少しで私の背が伸びたのに……」
小柄な男が私を見るとドラゴンボールを背に隠すよう持って後ずさっていく。
大柄の男は小柄の男を庇うよう立ちふさがるが、その言葉を聞き戸惑いの表情を見せていた。
「そんな理由でカカロットを殺させたのか。そんな理由で貴様は!!」
「そんな事だと!? 貴様にオレの何がわかる!? ブラック!! 早くこいつを始末しろ!!」
私はドラゴンボールを気遣いながらも怒り任せに小柄な男を殴り飛ばす。
ブラックと呼ばれた大柄の男はそれを止めようとはしなかった。
どうやら願いの内容があまりにも酷く仲間に見放されたらしい。
「ぶ、ブラック! な、なにをしている!! 早くせんか無能が!!」
「無能はどちらだ。そんな願いの為に何人の兵士が犠牲になったのかわかっているのか?」
「訓練が足らんからやられるんだ!! 貴様らは黙って総帥の命令を聞いておればいいんだ!!」
レッドリボン軍が哀れに思う程、トップの総帥は無能で、姿通りの小物だった。
流石のブラックもそんな言動に耐えきれなかったのか拳銃を取り出すと総帥の頭を撃ち抜く。
世界最悪の軍隊の総帥としてはあっけない幕引きである。
「見苦しいところを失礼した。孫悟空の事はすまないと思っている。全てレッド元総帥の暴走が招いた事故だ。このドラゴンボールを使って孫悟空を生き返らせるといい」
ブラックはレッドの遺体の手からドラゴンボールを取り出し私に見せる。
「譲る代わりに見逃せ、という事か?」
「出来る事ならレッドリボン軍再建を手伝ってもらいたい。君達と私が手を組めばドラゴンボールに頼らなくても世界征服は出来る! 世の中を思い通りに動かせるぞ!!」
「カカロットを殺した組織に手を貸すつもりはない。もっと昔にスカウトするんだったな」
「そうか。では戦うしかなさそうだな」
「逃げるなら追わんぞ」
「君が生きていると兵士達が君に恐怖しレッドリボン軍の再建が難しくなる。私にも意地がある。犠牲になった兵士たちの為にも、レッドリボン軍の未来の為にも、新総帥として私は、いや俺はお前を倒さなければならない」
ブラックはドラゴンボールを私に軽く投げ渡し、ホイポイカプセルから戦闘機械を出す。
レッドリボン軍がブラックの居場所であり全てなのだろう。
大切なモノを奪われた者同士の私闘だ。
乗り込む前に攻撃するなんて野暮な事はせず、受け取ったドラゴンボールを懐に入れる。
戦闘の邪魔になりそうだが大規模な戦闘になって瓦礫を掘り起こす事になるよりはマシだ。
「レッドリボン軍のバトルジャケットだ。レッドリボン軍再建の為死んでもらうぞ!!」
ブラックが乗り込んだ戦闘機械バトルジャケットが腕を向けビーム砲を発射してくる。
床を蹴り後ろに避けると床がビームの熱で焼かれ溶けて下の階まで吹き抜けになった。
桃白白のドドン波とどちらが威力が高いかと聞かれると困るが、直撃は避けるべきだろう。
私を捕まえようと振り回される腕の速さも図体が大きいのにもかかわらず早い。
このバトルジャケットが量産されていたら不味かった。
振り回される腕を掻い潜りバトルジャケットの股を潜り抜けて膝裏に回り込むと、膝の関節部に拳を振り抜いて至近距離でエネルギー波を放つ。
拳でもエネルギー波でも破壊できない耐久度。
それでもバランスを崩す事は出来たようでバトルジャケットが転倒する。
破壊するには戦闘力の一点集中か速度を加えて威力を増す必要がありそうだ。
「お前さえいなければレッドリボン軍は不滅だった! お前さえいなければ!!」
バトルジャケットは上半身だけを起こし両腕からビームを乱射し続ける。
それを距離を詰めようと相手に突進しながら避けようとしたが、回避が間に合わず一発右腕に貰い右手が焼かれ、痛みに歯を食いしばりながらもまだ真っ直ぐ突き進む。
体の回復が始まれば攻撃するだけの体力が残らないかもしれない。
自分の右腕が再生する前に左手と足に戦闘力を集中し、一気に床を蹴り、天井を蹴って拳を振り下ろしながらバトルジャケットへと突撃していく。
衝撃で床が割れ、勢いが殺されないよう飛行でさらに加速し、階層を突き抜ける。
それでもバトルジャケットの胴体には亀裂が入っただけだ。
バトルジャケットを押し込む形で階層を何層も突き破ったところで、ようやく拳がバトルジャケットの装甲を貫き内部にめり込む。
そこで右腕の再生が始まり一気に力が抜けるのを感じた。
「間に合ええええええええええええええええええええッッッ!!」
最後の力を振り絞りスピリッツキャノンをバトルジャケット内部に放つ。
力が入り切らず装甲は貫けなかったがバトルジャケットの内部を吹き飛ばす事は出来た。
その爆発のダメージからの回復でまた余計に体力が持っていかれる。
もう戦えるだけの体力は残っていない。
それでも相手の生死の確認は必要だ。
ふらついた飛行でバトルジャケットの近くに着地する。
キャノピーの中を覗いてみると赤い血がへばりつき中の様子が確認できない。
内部の爆発が原因か、床を何層も突き破った時の衝撃でこうなったのかはわからない。
少なくともこの出血量で生きているとは思えなかった。
ふと冷たい空気を感じた。
周りを見まわすとよくわからない機械の数々。
そして冷気はバトルジャケットの下から感じられた。
「後少しで妻と息子に再会できたというのに!! 貴様という奴は!! 貴様という奴はっ!!」
突然駆け寄って来た老人が涙を流しながらバトルジャケットに押しつぶされた何かを掘り出そうとしているが、老人は戦闘力が高くないようでバトルジャケットを持ち上げられず、膝をついて泣き崩れている。
「貴様だけは絶対に許さんぞ!! 地獄の果てまででも追いかけて殺してやる!!」
バトルジャケットの下から覗く女性のものと思われる細い腕。
こんなつもりはなかった。
だけど誰かを殺すという事は、どこかの誰かが悲しむという事はわかっていた。
わかっていてレッドリボン軍を攻め込んだのだ。
「死体さえ無事なら人造人間として蘇らせる事が出来た!! その機会すら奪いおって!!」
「恨むなら恨め。復讐するなら好きにしろ。いつでも受けて立つ。ただ他を巻き込むな」
この件に関しては私が全面的に悪いのだ。
殺されてやるつもりはないが恨まれるのは私一人でいい。
この老人に私が出来る事は恨まれ続けられる事だけだ。
私は老人に背を向け、ふらついた頼りない飛行で天井の穴を登っていく。
ピシリ、と何かが砕けて崩れる音がしたがきっと天井が崩れた音だろう。
レッドリボン軍基地の地下にドクター・ゲロの開発施設があり、そこに妻の遺体が冷凍保存されいたよう歴史改変が行われております。
この歴史の亀裂は後に大きくなる事でしょう。