弟と一緒に地球という人外魔境に送られた下級戦士だけど何か質問ある?   作:へたペン

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現実で満足するべきなのに理想は遠かった話。


其之二十九『理想と現実』

 レッドリボン軍はトップを失い兵士達は本格的な撤退を開始した。

 見つけたドラゴンボールを本部に届けに来たバイオレットという女性も、ドラゴンボールを持っていたらレーダーで追跡されて追いかけられると思ったようで、「これで他の皆も見逃して欲しい」と降伏し、交渉役となったブルマにドラゴンボールを渡す。

 

 元々撤退する兵士を追撃するつもりはなかった。

 それでもブルマは「また悪いことしたら容赦しないわよ」と釘を刺しているあたりしっかりしている。

 亀仙人、クリリン、ヤムチャ、ランチと戦闘に参加した仲間は全員無事。

 勝敗だけ見れば完全勝利の結末なのに、あの老人の泣き崩れた姿が頭から離れなかった。

 

 とにかくこれで残りドラゴンボールは2つ。

 後少しでカカロットを復活させてやる事が出来る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? 皆なんでこんなとこにいるんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう思っていたら空から筋斗雲に乗ったカカロットが下りて来た。

 この場にいる誰もがカカロットが生きているとは思わず驚きの表情を見せる。

 

 

「カカロット……生きて、た、のか?」

 

 

 私は足から力が抜けるのを感じた時には地面にへたり込んでいた。

 疲れ切っていたのもあるが、それ以上にカカロットが生きていた事が何よりも嬉しかった。

 

 

「桃白白が持って行ったドラゴンボールを姉ちゃんが持ってるって事は、もしかして姉ちゃん桃白白を倒したんか!?」

「そう言う貴様こそ、どうしていたんだ。戦闘力が消えて殺されたとばかり思っていたんだぞ!?」

「オラか? 桃白白にてんで敵わなくってよ。今までカリン様に修行つけてもらってたんだ」

 

 

 暢気に笑う姿は見間違う事のないカカロットそのものである。

 カカロットが負けて急激に戦闘力が減ったのを死んだものと勘違いしてしまったようだ。

 勘違いで私に付き合ってレッドリボン軍を攻めてくれた皆には悪いと思う。

 だけどレッドリボン軍については悪いと思うところはない。

 

 どのみち攻めなければドラゴンボールをめぐって争う事になっていた。

 既にレッドリボン軍とは敵対関係にあり目を付けられていたのだ。

 カカロットが生きている事を私が知っていても、レッドリボン軍を攻め込むタイミングが変わるだけで同じ結末になっていただろう。

 

 

 

 どう転んでも誰かが誰かに恨まれるなら、親しい誰かが恨まれるよりも自分が恨まれていた方が気持ちが楽だ。

 

 

 

 出来る事ならという事であれば、あの老人の悲しみを何とかしてあげたい気持ちはある。

 ただ、それを言ったら兵士達の家族の事も考えてやらなければ不公平だとも思う。

 だが今回死んだ者を全て生き返らせてもまた同じことの繰り返しになるだけだ。

 人の願いはそれぞれ違うのだから、ドラゴンボールでも全ての人を幸せにする事は出来ない。

 

 

 だから余計な事は考えるなと自分に言い聞かせる。

 私には理想を叶えるだけの力はない。

 だからカカロットが生きているという今をただ喜び満足するしかないのだ。

 

 

「姉ちゃん、いきなり引っ付いてどうしたんだ?」

「……色々あって疲れたんだ。筋斗雲の方が寝心地が良い」

 

 

 私は筋斗雲に乗り、カカロットを後ろから抱きしめ瞳を閉じる。

 大事なものは全部無事なのだから、こんな結末でも喜んでいいと信じたい。

 

 




奪われる怒りを知って、失う悲しみに押しつぶされそうになって、生きていてくれた喜びに打ち震えて、だけど残る罪悪感。

あっさり帰ってくる悟空に対し、様々な感情を溜め込むキャロットでした。

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