ヒトデナシ   作:影絵師

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今回は失敗かな?

ざっくり内容
・レーシェン(木の鹿)の生態
・魔女→きのこ


令嬢が木の鹿になってから……

 

 獣化病と異形病が大流行している今、奇跡的に出来た高く頑丈な防壁に守られた街以外の安全な場所は存在しない。

 多くの農民を従えていた領主が所有していたこの土地も今、人間だった異形が徘徊する危険な場所になっていた。富豪の象徴である館は人外に荒らされてしまい、誰も住んでいない。

 領主の娘が変わり果てた姿で帰ってくるまでは……

 

 

 

 薄暗い森の中で、人間のより一回り大きい足跡を残して歩き続ける人影がある。しかし、それは人間の部位は残されているが、人間とは呼べない姿だった。

 長い茶髪をした女の顔の上を覆う鹿の頭蓋骨、その両目は真っ暗な空洞をしている。それから一対生えている木の枝で出来た角に何輪の花が咲いている。胸と腰をドレスの布で巻かれている身体の至るところに樹皮が装甲のように生えており、四肢は鋭い木の爪に覆われている。木の根のような尾が腰から伸びていた。

 令嬢だったこの異形――レーシェンは自分の死に繋がっている怪物トリオを殺したあと、ゆっくりとどこかへ向かっている。森を彷徨い続けるのも心地よかったが、彼女は人間の時の家が頭に浮かび、そこへ帰ろうとしている。それほど家族と過ごすのが幸せだった。

 森を抜け、人外から逃げる時に乗っていた横転してる馬車を通り過ぎ、ようやく長く住んでいた館が見えてきた。

 酷かった。綺麗な外壁は血とヒビ割れでボロボロ、玄関前は死体と血溜まりで汚されていた。今の状態で通り抜けられない玄関ではなく、新しく出来た壁の穴から入ってみれば、館の中も悲惨としか言えなかった。血と死体はもちろん、ソファーやテーブル等の家具も散らかされていた。

 使用人の死体はあったが、家族のは無かった。そのことに安堵することなく、掃除すら出来ないこの身体でやれることはこれ以上荒らされないよう居座り続けるだけだ。

 

――――

 

 館に令嬢が帰ってから数ヶ月が経った。

 レーシェンの性質によるのか、廃墟同然だった館は森か大樹と見間違えるほど異様な数の木々に覆い尽くされていた。人々が使っていた農場も跡形もなく異様な植物が生えており、使用人の代わりに主のレーシェンを守っている。

 この異変の原因であるレーシェンはただただ動かない。尾を地面に刺しては養分を吸収し、日光浴をして過ごしている。動くとしたらテリトリーを侵す者に気づき、撃退に向かうくらいだ。

 

 今回の侵入者は手強かった。二十歳を過ぎない少女だったが、人と違って魔法を使いこなせる魔女は炎を放って令嬢を苦戦させた。一時は全身が火達磨にされるが、それで油断した魔女を地面からの根で拘束してやった。体を生やした木で密封して消火したあと、木に拘束されている魔女に近づく。

 「さっさと放しなさい!」「木が燃え尽きないなんてありえないわ!」とほざいていた彼女をじっと見つめていたが、何故か「必ず逃げて、ここらを火の海に変えてやる!」と言われた瞬間の記憶はなかった。覚えているのは何かを手で叩いた感触と、歪んだ体を震わせていた魔女の死体があったことだけ。自分の場所を脅されたとはいえ、外見だけでなく脳内も人間とは思えなかった。

 魔女の死体を花畑に置き、無数の木の根で覆って墓にした。せめて異形に変わらぬよう願ったが、それでも魔女は死にきれなかった。

 

 しばらくして令嬢が墓参りに来た時、覆っていた木の根から腕が飛び出していた。割れ目をこじ開け、中から人の形をした何かが現れた。

 袖と三角帽子を身に着けているように見えるが、それらは身体の部位である。皮膚の色が薄緑に変色しており、キノコの異形に魔女は変えられたようだ。

 令嬢に気づくと怯えた様子を見せる魔女だが、逃げようとはしなかった。人間としての生き方に戻れないのを察したのだろうか。

 

 令嬢だった木の鹿にキノコの魔女が家族になりました。

 

 

 

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