Side Yuichrou――
最近妹がなのはちゃんの家に入り浸るようになった。
もう原作が始まるのかと思って、はやてちゃんにジュエルシードの時期を聞いたら、小学校三年生の時だというので、どうやら違うらしい。
「最近なのはちゃんの家によく行くね」
「うん。お父さんが入院してるからなのはちゃん一人なの」
「そうなの? でも美由希さんと恭也さんがいたよね?」
恭也さんはともかく、美由希さんは剣術もやっていないようだし、自由な時間は多いはず。それに恭也さんはシスコンっぽいからなのはちゃんのために行動すると思ったけど……
「うん……、でも昼間は一人だから」
「あ、そうか。学校もお店もあるしね」
そういえば二人共中学生だったな。恭也さんは今年で中学卒業だからな。それに翠屋も手伝ってるみたいだし、忙しいんだろう。
「それじゃあ、行ってきます!」
「いってらっしゃい。気をつけてな」
「うん」
「……いってきます」
「フェリもいってらっしゃい。……それじゃあ僕も行ってくるかな」
結衣とフェリが出掛けていったのを確認して僕も外出の支度をする。
最近日課になっているはやてちゃんの家への出勤だ。
デバイスの通信機能を利用して、はやてちゃんに連絡を飛ばす。現在の地球の技術ではありえない、中空投写のディスプレイが表示される。
「おはよう、はやてちゃん」
『裕一朗さん、おはようさん。今日は早いんやね』
「まぁね。これから行くけど大丈夫かな?」
『大丈夫やー。待ってるでー』
「了解」
転移魔法で事前に設定したはやてちゃんの家の玄関に転移する。バスに乗って通うほうが秘匿という観点では良いのだが、時間ももったいないので転移反応を秘匿しながら、もしもの追跡のためにランダム転移を織り交ぜて転移するようにしている。
現在、海鳴には両親以外の管理局魔導師は住んでいないため、あまり意味はないが、転生者の存在もあるので念のためだ。
「はやてちゃーん、お邪魔するよー」
「はーい。いらっしゃい」
玄関を上がり、リビングへ向かうと車椅子に座ったはやてちゃんが迎えてくれた。
何やらデバイスでモニタを投影して作業している。聞くところによると、はやてちゃんは管理局に入って特別捜査官をしていたらしい。
上級キャリアの資格も持っていて、指揮官資格も保有していたようだ。
中学生の頃管理局の上層部が入れ替わるゴタゴタなどがいろいろあったらしいが、地上の現場は関係なく忙しく、仕事はバリバリこなしていたとか。
「なにやってるの?」
「これか? これはな、家の末っ子になる融合騎の基礎設計やね。最終的にはマリーさんと、あーっと管理局の技術者やね、と調整したんやけど、人格データなんかは私が作ってたから今から少しずつ作っとこおもてな。めっちゃ手伝うてもろて一年半かかったから、今のうちに少しでもなー」
「融合騎か……ユニゾンデバイスだったか」
「せや。リインフォースを助けてもこの子が産まれんのは悲しいからな。もしかしたら違う子になるかもしれんけど、この子は私の手で生み出さんとあかんねん。他に誰も知らんでも、私にとっては家族やからな」
「そうか、ユニゾンデバイスの基礎も出来てるんだな」
「せやで、わたしのはちょお特殊やから大変なんやけどな。ミッドとベルカのシステム両方使うから調整も大変なんや。わたしのリンカーコアのコピー使うから適合率はええんやけどな」
「リンカーコアのコピー?」
「自立型の融合機はな、リンカーコアが必要なんやけどどっかから持ってくるわけにもいかんやろ? せやからわたしのリンカーコアをコピーしてそれを核に使ったんや。コピー言うても出力はだいぶ落ちるんやけどな」
「技術的な問題?」
「どうやろか。コピーでおんなじリンカーコアできるんならもっと研究が進んでるやろな。大出力の魔導師は少ないから実験が恐ろしいけどな。それに、シャマルに手伝うてもろてリンカーコアを取り出したんやし、そう何度もできるようなもんやないで」
リンカーコアのコピーに取り出しか。何か考えておこうかな?
もしかしたらユニゾンデバイスを作ることがあるかもしれないしな。手袋型でリンカーコアに干渉出来るシステムでも作っておくか。
闇の書の改変には事前にテスト用の夜天の書で改竄試験をするつもりだから、接続用のリンカーコアが必要になる。
できれば食用の魔法生物――リンカーコアを持った動物など――がいれば丁度いいんだけどな。管理外世界も沢山あるし、どこかにいそうなんだが。
はやてちゃんは自分のために命を奪うのは嫌いそうだけど、食用になる生物だったら殺しても、後で食べれるなら牛肉や鶏肉とそう変わらないしね。
「なるほどね。今度理念とか教えてもらっていいかな? デバイスマイスターとしては興味あるからね」
「ええでー。今度ガハラさんにデータ送っとくわ。設計はまだまだやけど、ノウハウなんか覚えとるから、そっちは書き留めとるんよ」
「ありがとう。それじゃあ僕は闇の書の研究に戻るよ。データははやてちゃんのおかげで奥の奥までとれたから、あとは解析して修復の方針を決めるだけだな。そこからはまた別の機材を用意しないといけないだろうから、そこで一段落だな」
「そうかー。ゴメンなー、任せっきりで。私のことやのに……」
「いいって。夜天の書自体には興味あったし、古代ベルカの記憶も残っててベルカ魔法について色々と参考になるからね」
「そういえば、魔法解析と記録用のデバイス作っとったね。演算装置を作るのに苦労した言うとったわ」
「お、出来てたのか」
「詳しくはようわからんよ?」
「大丈夫、出来るってわかっただけでも何かからヒントが得られたんだろうって分かるしね」
デバイスの指針が実現可能な方向性を向いていると分かっただけでも十分だ。あとは自分次第だな。
今回は夜天の書も闇の書も解析できるから目標達成ははやてちゃんが知ってるより早くなるかもしれないな。
闇の書の修復に関して、今のところ目標ははやてちゃん達が小学校三年生になるまでだ。
はやてちゃんの言うジュエルシード事件が始まる前までに夜天の書修復を終わらせてリハビリを始めておきたい。下手をすると地球が消滅する程のエネルギーが暴走するようなので、何かあればはやてちゃんも介入できるようにしておきたいということだ。守護騎士もいるため、人手に困ることは無いだろう。
「さて」
目の前には闇の書の解析データが表示されている。はやてちゃんに解析の操作を任せたおかげで何の問題もなくデータを取ることができた。
このデータに加えて、電子的な物として解析できなかった魔導の構造も錬金術の副産物である解析能力によって抽出し、ガハラさんにデータとして書き出しをしてもらっている。
はやてちゃんも夜天の書のデータ書き出しが始まり、細かいところまで確認、修正すれば照合用の参考データとして使えるようになる。完全に初期状態の夜天の書ではないが、紫天プログラムと闇の書プログラムを除いた正常なデータを作れるだろう。
なので、このプロジェクトの要はデータ改ざんのプロセスにあるといって良い。紫天のシステムに含まれる永遠結晶と記されていた魔動力発生永遠機関とも呼ぶべき魔導機関の分離と紫天プログラムの削除、闇の書システムの中核となる防衛プログラムや無限転生システム。それぞれのシステムに魔力を供給する魔導リンクの遮断に分離等など、闇の書の防衛システムが働かないようにシステムに割り込み的確に改竄していく必要がある。
「最終手段は再現した夜天の書と同じ構造に錬金しなおすことだけど、それだとプログラムは人格データ含めて失われるからな……」
そうなると、ヴォルケンリッターを知るはやてちゃんは悲しむだろう。助けられなかったリインフォースも、生まれるはずのツヴァイも家族として求めているくらいだ。
『……』
解析データを見たところ、現状で最上位の候補は無限転生の基幹となっているU-Dシステムの核である永遠結晶のみを錬金術により分離し時間の停止した空間に隔離。闇の書は僕の倉庫内で時間停止している間は挙動した様子がなかったので永遠結晶についても大丈夫だ。さすが神か何かの力だ。倉庫ひとつとってもチートすぎる性能を持っている。
U-Dシステムは普通にやれば永遠結晶と切り離すことは出来ないが、僕のチート錬金では可能であると確信がある。
永遠結晶のみに分離すれば制御できなくなったエネルギーが溢れ出すが、錬金術でラインを一時的にカットし、時間停止空間で発生源そのものを停止させる。永遠結晶の制御についてはこれで時間を取れるので機会を見ながらすすめていけばいい。
無限再生はU-Dシステム側に備わっているが、そのシステムの動力源は永遠結晶であり、それがなければそもそも再生できるほどのエネルギーを集めることはできない。副システムとして接続先リンカーコアや大気中魔力から収集するようになっているようだが、そちらのラインに関しても遮断してしまえば機能停止に陥るだろう。
暴走した電化製品のコンセントを抜くような行為だが、ある意味的確な対応ではないだろうか。動力源がなければ魔導システムはそもそも機能しないのだから。
全てのデータを見たが、その他にサブシステムは無い様なので、無限再生と転生機能を封じた状態でプログラム改竄を行えるだろう。
防衛プログラムはU-Dに含まれていないのでそちらの対応が必要だが、システム上の優先順位が再生、防衛、最終手段としての転生となっているのでU-Dへアクセスするプロセスを利用して闇の書のデータに干渉し、再生先のプログラムとして正常データを認識させ改竄を始め、まずは防衛システムへのアクセスが無いプログラムにする。その後、防衛プログラムを隔離して改竄もしくは削除し夜天システムを正常化。最後に紫天のシステムを削除することで闇の書としての機能をなくした夜天の書に改変が完了する。
「人格データを完全にコピーできればいいんだがな」
流石に扱ったことのない守護騎士システムの人格データを完全にコピーするのは難しい。リンカーコアが要となっているので、はやてちゃんも出来ていないリンカーコアの完全複製を簡単に実現できるようにならなければだめだ。
リンカーコアが違えば、そこに宿る人格も異なってくるだろう。データだけ上書きしてもそれは違う人格になる。それに複製も、結局元のリンカーコアと人格を滅ぼす必要が出てきて、はやての意思とは異なる。
はやてちゃんも、リインフォースツヴァイの創造については先ほども、違う子になるかもしれないと漏らしていた。
恐らく、僕が考えている件と同じような事を懸念しているのだろう。
リンカーコアのコピーについては夜天の書を解析している間に何度も考えたことがあったが、今日具体的な方法などが話に出てきたので、これから少々研究してみるつもりではある。
「お兄ちゃん、魔力負荷バンドの予備ってあったけ?」
一日中高町家で過ごして帰ってきた結衣が夕食後にそんなことを聞いてきた。
「予備は一応用意してあるけど?」
「もらっていい?」
「好きにしていいが、どうするんだ?」
魔力負荷バンドは俺が使用をやめたモノと予備を含めて六つほど作ってある。まだまだ上限まで負荷が届いてないようだが、結衣の成長次第ではバンドの数を二つに増やせるように設定してある。俺用のモノは結衣の物とは違い色々と特別製なので結衣が使えるのは四つだ。
最初は自分も使っていたが、成長率を見たところ、無くても妹以上の成長が確認できたので今は着けていない。我ながらチートな改造能力を得たものだ。
リミッターも能力によって自前で用意できるので、成長限界値を戻すつもりはないが、この様子なら急いで成長させなくても良さそうだった。
「えっと、えっと……」
「……あんまり変なことに使わないようにな」
「……うん」
言いにくそうにしているところをみると、原作知識関係か。
最近の妹の様子からすると、なのはちゃんにでもあげるんだろう。魔法という点で、本人の意思を確認しているはずは無いので少し心配だが、魔力負荷バンド自体が悪影響を及ぼすことは無い。
成長に応じて少しずつ負荷が強くなるので、リンカーコアへの負荷も無理がない程度だ。ただ、結衣に作ったバンドは風呂等の時には着脱して、いずれ負荷が増えた時に気づかれる気がするが、その時はその時。結衣に任せておこうと思う。
なのはちゃんが魔法を持つだろうことは殆ど決まっているようなので、成長するうちに成長させることは悪いことではない、はず。管理世界外なので管理局と関わらなければ、リンカーコアも使う機会はないだろうし、リンカーコアの大小が体に影響を与えることはない。
行動に責任を持つということを学べられれば十分だ。
――Side out
原作(登場人物)改変開始。
※14/01/07 誤字修正