魔法の世界へ転生……なのはって?   作:南津

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#012 結衣となのは

 

Side Yui――

 

 

「いってきまーす!」

 

 子供らしく、元気に声を出して玄関を出る。僅かに積もっていた雪はとうになくなり、庭にある桜の花が幾つか開き始めていた。まだ小学校に入学するまで一年あるけど、私はお兄ちゃんと同じ聖祥に行くことになった。試験はまだだから絶対じゃないんだけど。

 

 今日は久しぶりになのはちゃんのお家にお泊りするため、いつもより多めの荷物を使い魔のフェリが持って同行している。

 

 最近、家のお兄ちゃんはデバイス作りに熱が入っているらしく、デバイスルームに入り浸っていることが多い。父親の職場の影響か、お兄ちゃんはモノづくりについての教育を幼い頃から受けてきていた。それに加えて、ミッドチルダでデバイスマイスターの資格も所得していた。

 

 魔力量は両親と同じくらいのA+位。転生者はみんな最初からAA以上って聞いているから転生者じゃないんだろうけどそれ以外はチート級だ。頭もいいし魔力運用も私なんかよりも上手い。おまけにお父さんにストライクアーツ(だっけ?)を習ってたから運動もできる。

 私が転生者じゃなかったら出来過ぎなお兄ちゃんにコンプレックスを抱えてたかもしれない。

 

 けど私は転生者で、お兄ちゃんより長く生きているけど年上っぽいお兄ちゃんがいてくれるから色々と助かっている。これで私のほうが年上っぽかったらおかしいもんね。

 

「フェリ、いつも付き合わせちゃってごめんね?」

 

「ううん、平気。結衣と一緒になのはちゃんと遊ぶのも好きだから」

 

「そっか。へへ、ありがと」

 

 フェリは口数は少ないけど大分成長したと思う。家にいるときは何時もイーブイの姿でいるからお兄ちゃんもよく構っている。フェリシアの姿の時は女性として扱ってるみたいだけど動物なら遠慮しないみたい。

 フェリもお兄ちゃんに撫でられるのはぽかぽかして気持いいって言ってた。

 

 そういえば、フェリが家に来てからもう二年経つんだ……

 

 先月五歳になったから今度はユニゾンデバイスが来るんだった。魔力負荷バンドのおかげで魔力も大分育ったし、魔力量的には及第点。あとはリンカーコアだけど、こっちは何も考えてない。

 ちょっと怖いけど自然にコピーが発生するらしいし大丈夫だと思う。流石にお兄ちゃんもリンカーコアをコピーして取り出す技術なんて持ってないよね。

 

 シャマル先生がいれば出来そうなんだけど、闇の書事件までには必要そうだったから五歳でお願いしたんだよね。

 

 そんで、ユニゾンデバイスはさくらちゃん。これもお父さんが大好きだったアニメの主人公。私も小さい時から見てたからさくらちゃんは大好き。コスプレもしたことがあったなぁ……

 

 ……お父さん元気かな?

 

 もう会えないんだけど、お父さんと遊ぶのは好きだった。いっぱい面白い事を教えてくれた。

 

 逆にお母さんは苦手だった。男の人のよくわからない本を描いてたから。一度読んだあとの記憶が曖昧なのは今でも謎なのだ。

 

 

――Side out

 

 

Side Yuichirou――

 

 

 ……何故か背中に寒気が。

 

 

――Side out

 

 

Side Yui――

 

 

「な、の、は、ちゃーん! あーそーぼー」

 

 子供の時だけ通用する誘い文句。なのはちゃんには家に一人の時は気をつけるようにいったから、賢いなのはちゃんは直ぐにわかってくれた。それからはこうやって声をかけることにした。

 

「はーい!」

 

 何時ものようにバタバタと駆け寄る音が聞こえてくる。お兄ちゃんの魔力負荷バンドをあげてからなんだか身体もよく動くようになったみたいで、最近は転ぶことも殆どない。

 私も魔力負荷バンドに慣れてからは身体も軽くなってきたし、なのはちゃんもそうなのだろうと思う。

 

 鍵を開ける音が聞こえてなのはちゃんが顔を出す。右手にはお兄ちゃん謹製の魔力負荷バンドを着けている。お兄ちゃんの研究室にあった私のものとはデザイン違いの私の魔力光と同じ藍色の予備バンド。

 

 桃子さんも美由希さんも今日は翠屋で働いていたから、今日もなのはちゃんだけ。士郎さんは無事に意識を取り戻して病院でリハビリ中。退院はもう少し先になるみたいだけど、怪我の回復も早くてもう元気いっぱいみたい。

 

 恭也さんは何をしているのかわからない。なのはちゃんは少し怯えてたけど。

 

「結衣ちゃん、フェリシアさんいらっしゃい」

 

「おじゃましまーす」

 

「おじゃまします」

 

 士郎さんが回復してからなのはちゃんも元気になってきた。私のおかげって自惚れるわけじゃないけどなのはちゃんも家族に甘えることが出来る子になっている。良い子なのは変わらないけど子供らしくて可愛い。

 

 ここから魔王様になるのが想像できないけど。将来的にはフェイトちゃんと同居するみたいだし結婚するようだ。

 なのははフェイトの嫁、だもんね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかえりなさい。あなた」

 

「……ただいま。なのは」

 

「おゆうはんできてますよ。こどもたちもおなかをすかせています」

 

「……すまないが、これから鍛錬があるんだ。先に食べていてくれないか」

 

「そうですか……えっと、すこしはやすんだほうがいいとおもうの……」

 

「……そうだな。だが、来週からまた仕事があるんだ。体を鈍らせるわけにはいかない」

 

「あなた……」

 

「パパ……」

 

 なのはちゃんが私の嫁になってた。

 

 なのはちゃんが悲しそうな目で私を見る。隣にはフェリがいるが、こちらは普段とあまり変わらない表情で細い声を出す。

 

 何時ものように遊んだあと、なのはちゃんの部屋に上がってぬいぐるみで遊んでいると、何故かおままごとをすることになった。

 しかも妙に設定がなのはちゃんの家庭に倣っている。

 

 ちなみに私の役は父親で、警備の仕事についている設定。なのはちゃんは翠屋の二代目店長さん。フェリは二人の子供だ。

 

「ふぅ……」

 

「おつかれさまです。おふろにします? ごはんにします? それとも……」

 

 だれですか。なのはちゃんにそれを教えたのは。桃子さんが実際にやってるんですか?

 

 色々と削られるおままごとをやっていると、玄関から美由希さんの帰宅を告げる声が聞こえてきた。

 

「ただいま~。なのは~?」

 

「あ、おねえちゃん」

 

 美由希さんは来年から中学生だったかな? 私も前は中学生だったから一方的だけど歳が近い友達みたいに思っている。

 やっぱり、友達は遊びに誘うものだよね?

 

「お、なにやってるの?」

 

 ノックをしてなのはちゃんの部屋に入ってきた美由希さんに向かって、私はこう言い放つ。

 

「お帰り、なのは母さんが食事を用意しているから席に着きなさい」

 

「おかえりなさい。おね、じゃなくってみゆき」

 

「え? え?」

 

「きょうのゆうしょくは、みれーげ、あら、ぱん? こ……ぶろっこりなの」

 

「ええ!? なにそれ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おままごとに美由希さんを巻き込んだあとは、フェリは家に帰して三人で時間を潰した。流石に外見大人でも中身が幼いフェリはまだ他所の家に泊まれる程じゃない。私が泊まりの時はお兄ちゃんがフェリのご飯も用意してくれている。

 

 桃子さんは士郎さんが入院している病院に寄ってから帰ってくるので、夕食は少し遅くなる。美由希さんに聞いたところ、恭也さんは遅くまで剣術の鍛錬をしていてしばらく帰ってこないらしい。

 

 というわけで、三人でお風呂に入ることになった。

 流石になのはちゃんを一人でお風呂に入れるわけにはいかないので、美由希さんに入れてもらおうと思ったら私も一緒に入ることになった。

 

 ……うん。これからに期待。

 

 

――Side out

 

 

Side Yuichirou――

 

 

 夕食までは時間があるので、イーブイに果物で作ったブロック状のお菓子をあげる。最初は地球産の果物を集めていたのだが、結衣の相談とちょっとした出来心で作ってみたらイーブイがはまってしまった。

 今では専用のデバイスも用意してあったりする。

 

 ふわふわの毛並みを撫でながら、ブラシを通していく。今ならコンテストで優勝できそうなほど可愛い。これは家族の贔屓目が入っているかもしれないが。

 

 イーブイといえば、僕は何匹卵から孵しただろうと考える。こうして触れ合っていると過去の行いを悔い改めたくなってくるほどこのフェリは可愛い。さすが妖精の名を冠すだけのことはある。

 

 ふと、気になってフェリのステータスを見てみることにした。個体値や種族値は決まっているが、努力値は僕の能力で限界値を変えることが出来ないだろうか。

 

「ぶッ――」

 

「ぶい?」

 

「あ、あぁいや。なんでもない」

 

 思わず吹き出してしまったが、フェリの個体値六つの欄には二種類の数字が六つずつしかなかった。“3”と“1”が綺麗に縦に六つそれぞれ並んでいる。

 ゲームですら出したことのない完全な“6V”をこんなところでお目にかかる羽目になってしまった。結衣はこのあたりもお願いしていたのだろうか。転生するくらいだしもしかしたらリアルラックかもしれないな。

 

 努力値については“すばやさ”と“とくこう”の値がカンストしていて、少し“こうげき”に努力値が入っている。

 いつも結衣と模擬戦とかしているからだとしたら、結衣がポケモンなら得られる努力値は“すばやさ+1”“とくこう+1”とかなのだろうか。となると“こうげき”は俺? それとも父さんだろうか。

 

 取り敢えず、各ステータスの限界値はそのままとして、努力値総計の上限を弄れるか確認してみる、が、やはり出来ないようだ。

 

 他人の値を弄ることが出来るかの検証をしておいたほうがいいな。候補としては親密度、相手の状態、接触方法、序列、能力を知っていること、自分の血統、などだろうか。

 この能力は知られると拙いので、五番目は却下、親はできなかったし、子供はまだまだ先だ。生んでくれる相手もいないし。

 

 まずは近所の猫から実験してみよう。親密度については少し自信がある。伊達に撫で回しているわけではない。というか、これならポケモンの世界でもやっていけそうだったな。

 あとは眠らせたりか。流石に気絶させるのは良心が咎める。

 

 まぁ、検証ついては気長にやっていくことにしよう。

 

『マスター、夜天の書の仮組みデータが出来たわ』

 

 ソファでフェリと戯れているとガハラさんから念話が届いた。

 彼女に任せていた夜天の書データの書き出しが終わったらしい。ガハラさんには、地球では鍛錬以外でデバイスを使うことがないから最近はもっぱら研究の手伝いをしてもらっている。

 

 デバイスコアは市販の物を買ったが、同じ部品どころか元のコアの原子一つガハラさんには使用されていない。

 購入したデバイスコアは研究のためだけに買われ、解析され、分解され、同型のパーツを作り出し、改良し、テストして改良し、ガハラさんへと生まれ変わった。ここまで来たら生まれ変わったとは言わないか。

 

 以前言っていた超合金が内部にふんだんに使われている。市販品を模したコア外郭の一枚下には錬金術でしか作れない継ぎ目も何もない綺麗なコアが隠されている。

 

『お、ガハラさん。早かったね』

 

『当然よ、ただしリンカーコアがないからデータだけね。マスターが作った試作デバイスにのせて夜天の書との違いを確認してね』

 

『了解。ところで』

 

『なにかしら』

 

『ありがとね』

 

『……別にたいしたことじゃないわ』

 

『……ヶ原蕩れ』

 

 ちょっとほんわかした。

 

 

――Side out

 




ガハラさんはあくまで斎藤さんの声を乗せた裕一郎が作ったインテリジェントデバイスなので、戦場ヶ原さんほど辛辣な口はしていません。そちらに期待された方はご容赦ください。

逆に結衣のユニゾンデバイスは出来るだけ元の人物に近く……書きたいなぁ

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