Side Yui――
「うん、よく似合ってるぞ。かわいいね」
「はうぅ。そ、そんなことないですよぉ」
ユニゾンデバイスのさくらちゃんがちょろいんだった。
確かにうちのお兄ちゃんはかっこいい。今は子供だけど将来的には両親に似た整った顔立ちに成長するのはわかる。あ、これじゃあ私のことも自画自賛してるみたいだ。
「……」
お兄ちゃんの前には、私のイメージからガハラさんが作り上げ、デバイスにデータが送られてきたバリアジャケットを着ているさくらちゃんがいる。私のイメージしたバリアジャケットは細かいところが曖昧でさくらちゃんでは完成させることができなかったから、結局ガハラさんにデータを作ってもらったのだ。
今さくらちゃんが着ているのは学芸会の時の王子様の衣装。細かいところはガハラさんがアレンジしてるから違うと思うけど、かぼちゃパンツは健在だ。
さくらちゃんのお披露目した衣装をお兄ちゃんが褒める。私がガハラさんに渡したイメージは二十個ほどで、既に十個はお披露目をしている。
桜ちゃんに向けられるお兄ちゃんの顔は、いつも私に向けられていた妹をみる優しい顔だ。私はこの顔が好きだった。
お兄ちゃんは見た目だけじゃなく、やさしいし気がきくし頭がいい。
だけど、今はすこし面白くない。
ソファに座っているお兄ちゃんの隣に腰掛ける。
「ぇ、わぁ……」
すると、お兄ちゃんは私を抱き上げて膝の上に載せた。
こ、この展開は予想していなかった。
膝の上に乗せられて抱きしめられたら、さっきまでの気分はどこかに行ってしまった。お兄ちゃんから伝わる体温が暖かい。
あぁ、さくらちゃんに嫉妬しちゃったのか……
さくらちゃんはデバイスだけど女の子だ。まだ好きな異性に向ける感情では無いみたいだけど、時間の問題かもしれない。
私のユニゾンデバイスだけど、ヴォルケンリッターのように主を守護する使命があるわけでもない。さくらちゃんは私の新しい家族。
みんなで幸せになりたいな。
お兄ちゃんの暖かい腕の中で、私は微睡んでいく。
――Side out
Side Yuichirou――
「ん……くぅ……」
「寝ちゃいましたね」
「ああ」
腕の中で結衣が眠っている。まだ五歳だから仕方ないが、さくらちゃんが来て以来子供らしさが増したような気がする。
さくらちゃんのバリアジャケットお披露目を見学していると、構ってもらえなかった結衣が少し不機嫌になったので膝に乗せてご機嫌を取った。こうして触れているとこどもの体温は高いというのがよくわかる。
結衣がガハラさんに作らせたさくらちゃんの衣装はどれもメルヘンで可愛らしいものだった。何故かかぼちゃパンツというのか、そういう服が多かったがさくらちゃんにはよく似合っていた。
ただ、これだけバリアジャケットを用意してどうするんだと思いはしたが。
結衣のお餅のようなほっぺたをつつく。来年から結衣も小学生だがこのくらい子供らしければ直ぐに友達もできるだろう。
「悪いけど、結衣をベッドに寝かせてやってくれ。部屋に入ると怒られるからね」
「はい。おやすみなさい、お兄さん」
「ああ、おやすみ。さくらちゃん。結衣もおやすみ」
結衣の部屋の近くでさくらちゃんに結衣を手渡す。さくらちゃんは結構力が強いようで、結衣を横抱きにして部屋へと入っていった。
それを見届けて、僕も就寝にむけて行動をはじめた。
新学期最初の休日。僕は再びはやてちゃんの家にやって来ていた。
八神家に設置することになったデバイスルームは遂に完成し、問題がなければこのまま夜天の修復作業完了まで新たに機材を用意する必要もないだろう。
夜天の書修復作業は現在保留中だ。
先の冬休みを利用していくつかの次元世界へ渡り、リンカーコアを持つ魔法生物を探してきた。さすがに子供の姿だと拙いので、強化魔法を応用した魔法で変身していたが。
魔法生物は基本的に野生の種がほとんどだが、好んでリンカーコアを持つ蛇を食べるという地方があり、そこで魔法生物が食用とされていた。冬休み最後にはそこに向かってみたのだが、なんとその蛇はバジリスクだった。
無駄に上げていた霊力がなければ即死だった。
その部族の人間を確認したのだが、異常に呪詛耐性が高かったのだ。さすがにいきなりバジリスクを見せられるとは思わなかったので、何の対策もせずに石化の呪詛を受けてしまったが、この時ほど俺の特典に感謝したことは無いだろう。
誰も食用の蛇と聞いてバジリスクを想像する人間はいないだろう。小さい時から無駄に色々と改造しておいて良かった。それに、地球での狐との出会いで俺の霊力強化の意欲が湧いていて本当に良かった。
これからは更に力を伸ばす必要があると感じ、これまで抑えていた限界値設定まで軒並み限界値を引き上げていった。リミッターさえしておけば抑えることもできるし問題ないだろう。そろそろ人間としての限界値を軽く超えている気がしてきたが、気にしても仕方がないのでそのうち僕は、考えるのをやめた。
真面目な話、この世界のバジリスクにはリンカーコアが存在し、試しに一体からリンカーコアを抜いてみたが、実験用としては十分な魔素変換能力を持っていた。ただし、巨体となるまで育ったバジリスクのリンカーコアでは扱いが難しく、試験用のリンカーコアとしては過分にすぎる。そのため、適当な時期にリンカーコアを採取する必要があった。
具体的に言うとまだまだバジリスクとしては幼生という程度の大きさで、だ。それでも日本のどこにでもいるような蛇などよりは大きい。
彼らの間ではバジリスクの飼育方法が確立されているようなので、リンカーコア採取の為に何体か育ててみることにした。さすがにこの危険な生き物を生きたまま地球に持ち込むわけにはいかないので、現地で森の地下に錬金術で穴を掘って地下室を造り、そこを飼育小屋とした。転移座標も記録したので何時でもやってくることができる。
無許可の次元転移は管理局法では違法だが、バレなければ大丈夫だ。それに、ここは管理外世界なのでそれほど気にする必要も無いだろう。まぁ、管理が異世界だから魔法の機密保護とかで取り締まりが必要という意見もあるが、それはいい。
バジリスクの世話をしているうちに、呪詛耐性はぐんぐん伸びていく。石化の魔眼と目が合うたびに石化の呪詛が降りかかるので当然だが、育成ゲームでもしている気分になる。ステータスが見えるのだからなおのことだ。
このバジリスクの魔眼からヒントを得て、錬金術の発動方法を変更し、それを使用した戦闘も考えた。何時でも札を切れるように特訓する内容が増えたが、強くなる実感もあるので充実している。
バジリスクの肉も普通に美味しかった。現地の人間はぶつ切りにして焼いたり刻んで炒めたりしていたが、個人的には蒲焼を押したい。魔力がふんだんに宿っているおかげか肉はあまり硬くならず、食用として飼育しているだけあって生臭さがない。どうにかして品種改良でもしているみたいだ。
それに、現地の人のステータスに現れていた通り呪詛に対する耐性が上昇していった。主に石化に対するものだが、中々面白い現象だ。食事で特殊効果がつくなどゲームの中だけだと思っていたが、考えてみれば毒などにも耐性は生まれるので間違ってはいないのだろう。
一度家の食事に出してみたのだが、結衣は美味しそうに食べていた。気づかれたら何を言われるか解らないので言わないが、お祖母さんは何かに気づいた様子だった。
すまんな、結衣。好奇心を抑えられないダメなお兄ちゃんを許してくれ。
はやてちゃんにも食べさせてあげた。こちらは食べる段階で種を明かしたが、以外と耐性があるようでどんな調理が合うかと頭を回転させていた。
とにかく、機材とデータに加えて試験用のリンカーコアも用意の目処が立った。これで夜天の書を修繕する為に必要なものは揃ったも同然だ。あとはバジリスクの数を揃えてリンカーコアを用意するだけで試験段階に入ることができる。一度の試験に七つ、試験は万全を期すために試験シートを作って全ての項目を確認していくのだが、大体十セット程あれば十分だろう。
まだ譲り受けたバジリスク数体分だが、適度に育っているバジリスクからリンカーコアを抜いて殺し、リンカーコアは培養デバイスに一つずつ繋いで蔵に保存していく。動物園のように改造した地下室の環境温度も、自由に弄れる様にしているので産み出す作業も捗った。順次リンカーコアも揃っていくだろう。
バジリスクの肉は下処理をして生のまま、こちらも時間停止の蔵に保存する。時間が止まるので保存については気にする必要がないため、どんどん食材が溜まっていく。この冬の次元世界旅行で色々と増えたりしたのだ。
本当に便利すぎる蔵だ。
ちなみに、マムシ酒ならぬバジリスク酒も僕の蔵には仕舞ってあったりする。下準備を終わらせてから酒を入れると、もがき苦しみ、死ぬ瞬間に毒と一緒に呪詛を撒き散らしていたが今の僕には通じない。
こちらは時間経過が普通の蔵に入れているので数年後には飲みごろを迎えるだろう。
さすがに年を経たバジリスクの毒は強すぎるし大きすぎるので幼いものに限られるのだが、飲み続けていればいつかは成熟したバジリスクのバジリスク酒もいけるのではないかと期待している。漬けるのが巨大な樽になってしまったり、リンカーコアを抜くわけにはいかないのが残念だが、多少の損失は仕方ない。
こちらも一応蔵に貯蔵してあるので頃合を見て確認してみいたいと思う。
酒の話になったのでついでの話。さすがに自分の誕生年の自家酒は作れなかったが、結衣の生まれた年の酒は作っている。試行錯誤が蔵のおかげで時間を考えずにすぐにできるので簡単な仕事だった。
こちらは彼女が結婚したときにでも贈ってあげようと思う。それとバジリスク酒。
「気持ちええわ……」
はやてちゃんの麻痺した脚の秘孔に気を送る事で血行を良くし、マッサージしながら筋肉をほぐす。前世では気を感じられなかったので眉唾だった気功治療の一種だが、動物等で技術を磨いたため人間相手でもそこそこ様になっているはずだ。はやてちゃんの体内の経絡を流れる気を循環させて体中のきの流れを整える。
これだけでもリンカーコア由来の痛みを和らげることが出来ているようだった。
「裕一郎さん、今日は泊まってくやろ?」
「う~ん……」
「家には言ってきたんやろ?」
「まあね。……だが」
「私ならええよ。何やったらそういう関係になるか?」
「アホ」
「そっか、残念やな」
はやてちゃんと出会ってから一年が経つ頃から、こういうセリフがはやてちゃんから出るようになってきた。彼女にとっての僕は結婚相手で将来の旦那さんなのだろう。
こういう押しの強い女性は嫌いではないが、今の年齢を考えろと言いたい。
今もこうして一緒に風呂に入っている僕が何を言っても無駄だが。
たまにこうして一緒に風呂に入りながらマッサージをする習慣がすっかりできてしまった。お互い体が子供なので気にしていない様子だが、互いに心が大人だと思うとどうにも違和感は拭えない。
だが、はやてちゃんは一人だと風呂に入るのも一苦労なのだ。最初は足が動かなくて湯船に入れないと言われて騙されて入ったが、今でははやてちゃんの補助をしながら一緒に入ることになっていた。
一年という時間は彼女にとってある種の基準のようなものだったのだろう。過去の僕との関係を今はどう捉えているのか僕にはわからないが、一年を過ぎてから積極的にアピールをしてくるようになった。
過去に折り合いをつけたのか、それとも最初にあった時に言っていたすずかとかいう相手を意識しているのかもしれない。
僕からすれば平行世界の自分が信頼しているという点で、ある程度の信用はおいているが、そこから先は特に意識していない。無駄に三十年近く生きているわけじゃない。これから先何があるかわからないので、彼女の意思も変化することもあるだろう。漫画やアニメのような一途なヒロインは普通そうそういない。
……いや、ここはアニメの世界だったか。
とにかく、彼女と結婚するという未来を否定はしないが、肯定するわけでもない。僕も男なので女の子にモテるのは嬉しいのだが。
「ふぅ~」
「ふふ、なんや、おっさんやな」
「……そろそろおっさんかね」
肩を並べて湯船に浸かるはやてちゃんが僕にダメ出しをする。確かに今の僕は精神的におっさんだったかもしれない。肩を竦めて体をさらに少し湯に沈める。
とはいえ、こうしたはやてちゃんといるのんびりとした時間は気が休まるのも事実だ。僕の秘密を知られているというのが大きい。
僕の秘密を知らなくてもこのような関係になったのかはわからないが、それはもうこのような形で出会った以上知ることができない。
並行世界の自分と、まだ見ぬ未来に想いを馳せて、また一つ息をついた。
――Side out