魔法の世界へ転生……なのはって?   作:南津

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#001 海鳴市……そんな街もあるのかな?

Side ???――

 

 

 あのあと俺――僕は前世と同じく地球に生まれた。覚醒したのは病院で、生まれたばかりで母親に抱かれている時だった。

 意識のある状態で赤子時代を過ごすことにはかなりの抵抗がある。そのため最初は普通の赤子みたいに泣いていたが、暫くして全てを受け入れた。この頃あったことは全て記憶の隅に封印することにする。

 

 地球に、それも自分が生きていた時代と同じ時代に生まれた僕は、ここが魔法のある世界であることを思い出していた。

 

 魔法。その存在を思い出した切欠は、両親がデバイスと言う魔法の杖と会話していたためだった。

 どうやら、この世界の地球には前世と同じく、基本的には魔法技術は存在しないらしい。次元世界とかいう別の世界の技術で、父親がその次元世界出身、母親が地球出身のようだった。聞いてもいないのに二人の馴れ初めなどをひたすら聞かされていた。

 二歳にもなると、母親は既に仕事に復帰し、時空管理局とかいう組織で日々働いていた。父親も同じ組織に所属しているらしく、よく一緒に仕事に出かけている。

 僕が手のかからない子供だったためか、母親の祖母が居た為か、母――宮崎(みやざき)(はるか)の仕事復帰は早かった。

 離乳してからは、専ら祖母に面倒を見てもらうことが多く、自分に前世の記憶が無ければ、お祖母ちゃん子になっていたことだろう。転生した僕からしても祖母には大きな恩を感じていた。

 

 どうやら、この世界では魔法を公にできないようで、両親が使っているところを見ても、度々「内緒よ~」なんて言ってくる。普通の子供はわからないと思うが……

 

 動き回れるようになって、まず確認したのは錬金術だった。昔読んだ鋼の錬金術師のように、手を合わせて錬成する。

 ここで、この錬金術。本当に様々な世界の錬金術が混じっているようで、色々と物理法則なんかを無視していた。等価交換での錬成や、それを無視した錬成など真理がいたら色々とヤバイ錬成を本当に動作のみの一工程(・・・)で行えた。

 一工程、つまり錬成陣等を必要とせず、魔法のように詠唱も必要としないし、錬金釜もいらない。……この世界の魔法は基本的に詠唱は必要ないみたいだが。

 始めの頃は自宅の庭の目につかない場所、祖母と二人になると臨海公園の人目のない場所や、廃ビルなんかで、いろいろと実験した結果、手を合わせて錬成したり、指を鳴らして錬成する、といった動作のみでの錬成が可能だった。

 何が言いたいのかというと、焔の大佐のように指を鳴らしたら、発火布もなく火花が発生し、目標が本当に爆発したのだ。

 人がいない臨海公園で実験していたのだが、あの時は本気で焦った。幸い公になることはなかったが、後に謎の爆発があったと噂になっていることを聞いた。

 錬金術の検証はもう少し慎重に行うことに決めた。

 

 次に検証したのは限界値設定。これはシンプルで、ゲームのようなステータス画面が頭に浮かび、限界値の設定を弄ることができた。

 飽く迄、限界値を設定する事が出来るだけであり、他に身体能力等の数値をいじれる訳ではない。ここで、魔力成長の限界値をS+からExまで引き上げた。

 魔力の初期値はAAAで、僕の場合AAA~S+の範囲で成長値が決まっていたらしい。S+がどのくらいの魔力か分からないが、多いに越したことは無いはずだ。

 それから、魔力を外に漏らさないために出力限界(リミッター)を設置した。通常時の出力は両親を参考にBランクに設定し、能力の秘匿をすることにした。

 ここがどんな“原作”世界か分からない上、ほかに転生者がいた場合、標準装備される初期値の魔力では何かしらの面倒事が発生する可能性がある。

 声の主は原作に描写された年代に生まれる可能性が高いようなことを言っていた。描写がなければその時代への転生は確率が低い等と。

 魔法をモチーフにした原作であるため、原作に近い年代に生まれたのなら、おそらく年齢的に高校あたりで原作が開始されるのだろうが、意表をついて子供向けの魔法少女物である可能性もある。

 それでも、魔法文化圏での出来事である可能性が大きい。こんな魔法文化のない世界で魔法少女ものなんて……よくあるのかも。

 とにかく、出生地もランダムである以上、住んでいる街が舞台になることなんて無いだろう。日本は広いのだ。

 

 他にも能力成長の限界値や、思考速度、習得速度などの限界値を弄っておいた。そのため、最初は特に変化は無かったが、暫くして目に見えて能力成長速度が上昇していった。あまりの上達速度の速さに、幾つかの設定は戻しておいたが、一度発揮された身体能力などは出力制限をかけられるだけで、もう元には戻らない。まぁ、人間の限界はまだ超えてはいないはずだ。

 それから気になったのは、限界値設定の項目に魔力の他に霊力や気といった項目もあった。それに、項目も意識すれば増えるみたいで、人間の可能性の中で色々と限界値を設定できるようだった。

 とりあえず霊力と気の項目だけは設定しておいた。霊力があればもしかしたら陰陽師なんかも居たりするかもしれないし、霊や悪霊なんかもいるかもしれない。扱いについてどうにかして身につける必要はあるが、ゲームや漫画の技を参考に、自分で退魔の術や破邪の法を編み出すのもアリかもしれない。式神なんかも有りだ。

 気についても、龍☆球の漫画みたいに「戦闘力たったの5か、ゴミめ」みたいに出来るかもしれない。おらワックワクしてきたぞ!

 

 ……それから、異空間倉庫も検証した。錬金術の検証が進み、大きめの錬金物や、持ち歩いたらダメなような刀剣など、錬金術の産物を収納するために使っている。様々な出し入れを確認したが、結構な自由度で可能だった。空中から取り出したり、何とかポケットのようにポケットから取り出すことも可能だった。

 それに、時間経過なんかも願い通り自由にできるらしく、祖母が作っていた若い味噌を入れて時間を経過させると味が馴染んだ味噌になっていた。当然ながら時間は不可逆だったが、温度や湿度なんかも調整できたので酒の密造なんかにも丁度いいかもしれない。直ぐに試行錯誤もできるし密造も絶対バレない。酒好きだった僕としては自家製の酒というのも興味がある。……前世では造ろうと思ったことはなかったのだが。

 

 実はこの異空間倉庫が特典の中で一番欲しかったものだった。

 正直、大荷物を運んだり、大切な何かを捨てるといった行為が面倒で、嫌いだった。勿体無い病や捨てられない病か?

 そのため、貧乏症のきらいもあり、前世では結構苦労した。それに、旅をする必要があるような世界や時代に転生した場合、荷物を抱えるか抱えないかではかなり違う。

 今生では出来るだけ改善しようと思うが、既に錬金物など片っ端から突っ込んでおり、捨てたり、分解したりしていなかったりする。

 そのことに途中で気づいたのだが、異空間倉庫の限界量を探るということにして、考えることをやめた。

 

 最後に黄金律だが、今のところ宝くじなんかは買えないので、お金を拾うといった事以外で検証は出来ていない。家は比較的裕福みたいで、お金に困っている様子もなく、大きめの一軒家に住んでいた。祖母と両親の四人暮し――最近は母親も仕事に復帰し実質二人暮らし――には少し広い。二歳になって両親が不在の時、勝手に一人で外出した際にお金を拾うことは何度かあった。大きな額になると交番に持っていくのだが、今のところほとんどが小銭で、子供の小遣い程の額だった。塵も積もればといった感じで、少しずつ溜まってしまっている。最初は小額でも交番に届けていたが、調書作成のため質問を受けたり、親を呼ばれたり面倒になってきたので、今では殆ど届けていなかったりする。

 

 転生特典の検証は一人の時に行えたが、魔法についてはまだ検証できていない。デバイスなしでも魔法は使えるらしいが、何も教わらないで魔法は扱えない。最近ようやく魔法について両親から学び始めたばかりで、デバイスも無い。

 工学は好きなので自分のデバイスを自分で組んでみたいのだが、それもまだしばらく先だろう。今はまだ文字も読めない(ということになっている)ので、一人で隠れて本を読むくらいしか出来ない。デバイス作成の基礎が乗っているような本が数冊あったので、一冊づつ(黙って)借りて読んでいる。AI等のプログラム部分以外なら錬金術でパーツを作ることも出来そうだが、パーツの理論を理解しないと錬金術でも作れない。

 デバイスの制作はとりあえず親が用意してくれているらしい、デバイスの現物を一つ手に入れてからになりそうだった。

 

「ん~……こどものからだ、っていうのも、ふべんだな~」

 

 十月。年末に三歳になる僕は、一人で出かけている。両親はミッドチルダで仕事があるため、地球にはあまり帰ってこない。祖母は体が少し不自由で、あまり外出できない。

 来年からは幼稚園に通うことになるらしい。送迎バスがあるらしいので一人でも問題ないが、幼稚園に行かず、家で本でも読んでいたほうが余程有意義なのだが。

 

「はぁ……がいこくでだいがく、でれば、たいくつなじかんも、たんしゅく、できるかな……」

 

 まだ二歳と十ヶ月程なので口がうまく回らないが、区切りながら喋ればなんとか大丈夫だ。

 三年ほど経てば幼稚園から小学校へ入学することになるのだが、正直もう一度小学校へ通う意味を見い出せない。が、将来管理局に関わるなら父の故郷のミッドチルダに行くことになる。そうなると、高学歴も意味がなくなる。

 

 父方に親戚はいないし、母も僕を除けば祖母が最後の肉親らしい。

 祖母は日本の祖父の家を離れたくないようで、母も結婚に対しては祖母が居るあいだは実家を離れるつもりはなかったようだ。父も肉親がいなく、婿に入り地球に移り住むことになったらしい。

 それでも、二人共ミッドチルダに居る事が殆どで、勤務のない時は戻ってくるが、実質祖母と僕の二人暮らしだった。

 

 将来ミッドチルダに移る場合、こちらでの学歴などほとんど意味はないだろう。知識などは役に立つと思うが、何かあって地球に帰ってくることになる場合を除いて、学歴は無用のものになる。

 

「いらっしゃいませ~」

 

 最近、近所に開店した喫茶店に入店した。なんでも、そこの菓子職人はホテルで若くしてチーフ・パティシエを勤めていたという。

 結婚を機に夫婦で喫茶店を始めたということだった。二十四歳の若さで自営店を開くのは大変だと思う。店舗代等の準備金だけでも相当なものだろう。

 

「こんにちは」

 

「あら、裕くん。いらっしゃい」

 

 喫茶店に入ると二十歳ほどに見える若い女性が迎えてくれる。

 ここ、喫茶「翠屋」の菓子職人、高町(たかまち)桃子(ももこ)さんだ。

 

「今日もシュークリームでいいのかしら?」

 

「はい。もちかえり、で、ふたつ、おねがいします」

 

 開店以来、すっかり通いつめることになったこの喫茶店は、海鳴南商店街で静かに経営されていた。市内に他に二つ有名菓子店があるため、新参のこの店に常連客が定着するのはまだしばらく先のことになるだろう。それでも、同じ町内や、商店街では少しずつ常連客の獲得が進んでいた。

 斯く言う僕も、その常連客の一人だった。……まだ数ヵ月だが。

 実家のある西町から、ここの商店街は比較的近く、子供の体でも問題なく通える距離である点が大きい。他の店はバスなどで通う必要が出てくるため、常連として通うには翠屋が最適だった。

 個人的には和菓子も好きなんだが、何分約三歳児が向かえるような場所にない。それに、この体になったからか、子供になったからか、クリーム系の洋菓子に大いに惹かれるのである。

 そして、最も重要な点は、桃子さんが作るシュークリームが絶品だというところだ。祖母も気に入ったため、来店ごとにお土産として買って帰ることになっている。

 

「はい、お待たせ。シュークリームね」

 

「ありがとうございます」

 

「それにしても、しっかりしてるわね~。裕くん。もうすぐ三歳だったわよね?」

 

「はい」

 

「うちの美由希よりしっかりしてるんじゃないかしら」

 

「そうですか? まぁ、お母さんにも、いわれたこと、あります」

 

「そうよね。私が裕くん位の頃はもっと落ち着きがなかったと思うわ。あんまり覚えてはいないんだけどね」

 

 そのままなんだか桃子さんの独白が始まった。海鳴出身だとか専門学校に行ったとか、海外にお菓子の修行に行ったとか……

 桃子さんの夫である士郎さんとの馴れ初め話に発展しそうな時、シュークリームを持って帰らないといけないと言って傍聴を辞退させてもらった。

 ……その話はもうお腹いっぱいだよ。

 

「それじゃあ、ありがとうございました」

 

「は~い。またいらっしゃいね」

 

「はい」

 

 軽く会釈をして翠屋を出る。シュークリームがあるので少し急いで帰らないといけない。食べる前に一度冷蔵庫かな。

 

 

 そうそう、転生した僕の名前は宮崎(みやざき)裕一郎(ゆういちろう)だってさ。

 

 

――Side out




※14/01/07 誤字修正

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