魔法の世界へ転生……なのはって?   作:南津

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#002 新しい家族

Side Yuichirou――

 

 

「裕はお兄ちゃんになるんだから、この子を守れるようにしっかり魔法を覚えないとね」

「……は?」

 

 十二月六日。衝撃の事実が判明した。

 

「え、にんしん?」

 

「そうよ。もう八ヶ月目くらいなの」

 

「……そのおなかで?」

 

「裕の時もだったけど、このくらいの時期まで私のお腹はあまり大きくならないみたいなのよ。だから、裕のお誕生日に教えてあげようと思って」

 

「だからさいきん、かえってこなかった?」

 

「ええ」

 

 なんと、母親が妊娠八ヶ月目に突入していたらしい。

 気付いたのは妊娠三週間目位だったらしいが、それから僕には一切情報を与えなかったようだ。ここ数カ月は仕事が忙しいと、ミッドチルダの別邸で過ごすことも多かったみたいだが、情報統制が徹底しており、知らなかったのは僕だけだった。

 先ほど母が言ったように今日で三歳になったわけだ。言葉も大分饒舌になり、文字もおぼえた(ということにした)ので今日からいよいよ本格的に魔法の練習が始まる、と思った矢先に母親の妊娠発言だった。

 

「予定では二月末位になるわね。というわけで、ハイ」

 

「これは……とけい……デバイス?」

 

「正解。それから……これもあげちゃいます」

 

 そう言って取り出したのは、ごちゃごちゃした金属片やら機械、デバイス関連の書籍だった。

 

「これは?」

 

「デバイスのパーツよ。デバイスが作りたかったんでしょ? さっき渡したデバイスは唯のストレージデバイスだけど、基本的な機能は全て入っているわ。一応あなたの魔力に合わせた特注品ね。……それで、こっちのパーツはそのデバイスに互換性があるパーツよ。組もうと思えばもう一つデバイスを組むこともできるわ。まだインテリジェントデバイスを作るには早いけど、ストレージデバイスでやりたいことは大体できるはず。私たちが色々弄ってから渡すことも考えたけど、こっちのほうが裕は喜びそうだったから」

 

 目の前には大きなダンボール箱が有り、その中に色々なパーツが収められていた、というか突っ込まれていた。

 手の中には待機状態のストレージデバイス。待機状態は何故か懐中時計だった。

 

「なんでかいちゅ、どけい?」

 

「時計型かカード型か迷ったんだけどね、魔法文化のない地球では実用性がないと持ってておかしいでしょ? アクセサリや宝石(クリスタル)でも良かったんだけど子供がネックレスや腕輪してたら可笑しいし、それなら時計がいいかなって。懐中時計にしたのは腕時計型より目立たないと思って。それに私の趣味ね」

 

「……さいごの、りゆうだね。これはぎゃくに、めだたない?」

 

「その時はお祖父さんの形見の品ってことにすれば良いわ。デザイン的にも地球のものと大差はないでしょ?」

 

「まぁ、うん」

 

「気に入らなかったら待機形態も自分で変えれば良いわ。待機型体用にパーツが必要になるけど、お小遣いでも貯めてミッドチルダに行った時にでも買えばいいわ」

 

「いや、ありがとぅ」

 

「そう。よかった。で、こっちの本にはストレージデバイスだけじゃなくてインテリジェントデバイスの組み方やらいろいろ載ってるから、将来そっちが組みたくなった時の参考にしてね。ただ、ストレージデバイスと違ってかなり値が張るし、既製品みたいな物も少ないから一から組むことになるだろうし、まだまだ先かもね」

 

「うちのちかしつ、つかってい?」

 

「そうね。一応インテリジェントデバイスを組めるだけの機器はあるから組むときは家でも組めるわ。ただ、デバイスコアが高価だからコアが手に入るまではインテリジェントデバイス用機器の一角には触らないようにしてね。奥のほうがそれだから」

 

「ん、わかった」

 

「それじゃあ、とりあえず、デバイスを起動して登録してある魔法を一通り試してみましょう。いろんな系統の魔法を一通り登録しておいたから得意な魔法、不得意な魔法を調べてみましょう」

 

「はい。……このなまえはなに?」

 

「そうだったわね。このデバイスはO4M(オー・フォー・エム)――登録名、フリーズノヴァ。裕専用の特注品よ」

 

 O4M……オシム……いや、専用ってことだからOnly for meといったところか。

 

「ふりーずのヴぁ、せっとあっぷ」

 

 キンッ、と電子音を鳴らし、デバイスが展開する。同時に、僕の真紅の魔力光で描かれたミッドチルダ式魔法陣が足元に展開し、服がバリアジャケットに換装される。

 黒を基調とし、魔力光と同色の紅い装飾が目立つ。黒のスラックスに清潔感のある白のシャツに黒のコート。それぞれに紅くポイントで色が入っている。

 また、僕の周囲にはキラキラと光を反射する粒子が舞っている。僕の魔力変換資質である凍結変換資質の影響で魔力が氷の粒子に変換されていた。

 

「……すこしきざ、すぎない?」

 

「そうかしら。スカートの方が良かった?」

 

「そういうことじゃ、ないから! ……はぁ、いいよ、これで」

 

「気に入ってくれたようで良かったわ。このデバイスは裕専用といったように、氷結変換資質の魔力に耐えられるようになっているわ。それから大出力の魔力にも耐えられる」

 

「……大出力?」

 

「ええ。といっても試験はSSクラスの魔力までしか行えてないけど、理論上はSSSオーバーでも大丈夫なはずよ」

 

「……いま、Aだけど」

 

「ふふん。嘘はいけないわね。裕が生まれた時点でAAAクラス並みの魔力はあったのよ? デバイスなしで一人でどうやったか知らないけど、出力リミッターを掛けているんでしょ?」

 

「やっぱり、しってたんだ」

 

「まぁね。出かけて帰ってきたと思ったらAAAからBランクまで落ちてたんだもの。調べない方がおかしいわよ。最初は負荷を掛けているだけかと思ったけど違うみたいだし、こっそり魔力スキャンをしてみたの。……なにか隠したい理由でもあるの?」

 

「べつに……AAAってだいまりょく、でしょ? 母さんはBだし、父さんもAA。ぼくがAAAだとめだつし……それに、この海鳴に、ほかにもまどうしが、いる、みたい。それも、AA以上が、ふたりほど」

 

「そうなの? ……海鳴に他の魔導師は居なかった筈だけど……」

 

「母さんみたいにリンカーコア、もってうまれたんじゃないかな?」

 

「そう……でも、魔導師の子供じゃないなら魔法に出会う機会も無いでしょうね」

 

「そうだね」

 

 ……魔力がAA~AAAを保有しているとなると、所謂主人公か僕と同じ転生者とかになるのかな?

 ……となると、この街が原作に関わる場所なのか?

 ……もし魔法少女物なら七年~十二年後、少年、成年向けなら十四、五~二十年後位が原作舞台か。

 ……原作舞台に転生した転生者なら何らかの異能やデバイスの確保は有ると思っていい。出生指定を行ったということは願いの数は残り二~三。僕はあまり戦闘向けの特典を貰ってないからな……身体能力だけはかなりのものになったけど。

 ……原作組と同い年だと仮定すると皆原作に関わるきが満々なのか? 最強系や保守系ならいいけど、最低系や最悪系だと色々と最悪だな……

 ……魔力リミッターを更に掛けて気づかれないようにするか? この様子だと転生者の魔力量は広く見積もってAA~SS位の間で才能が与えられるようだし、CとかBまで落としておけば良いか。

 ……魔導師がいないということは一般人の親から生まれたということだ。原作を知っているものならデバイスも特典に含んでいる可能性も高いか。

 

「……う……、裕」

 

「んぁ? なに?」

 

「どうしたの? 急に考え込んで」

 

「なんでもない。あまり関わりたくない、とおもって」

 

「そう?」

 

 原作が何かしらんが、面倒事が起きなければいいが。身を守るためにも魔法はかなり鍛える必要があるか。

 

「それじゃあ、今までやってきた魔力コントロールのメニューを、今度はデバイスを使ってお浚いしましょう。そのあとで習得してきた魔法をデバイスのプログラムを使って発動して、それと一緒に一通りの適性も見るわね。そして扱いやすいようにプログラムの改変と、足りない魔法のプログラムに調整ね。プログラムはインテリジェントデバイスがあればある程度勝手にやってくれるんだけど、組むことも覚えておかないとね。……とりあえず暫くはこのメニューで自力を上げていきましょう」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

「そう。ということはたぶん家の子と同い年になるわね」

 

「さんがつごろ?」

 

「ええ。……あら、それだとうちのお店がお休みの時に裕くんの妹ちゃんが生まれることになるわね。お祝いしてあげようと思ったんだけど……士郎さんが初めての出産だから慎重にってことで、予定日の前はお店をお休みすることになったのよ」

 

「うまれたその日に、ケーキでおいわい、しませんよ……」

 

「そうかしら」

 

「……わかんない、けど、にゅういんしてる」

 

 病室にケーキを持って行って母親に食べさせるのかな……いらんだろ。

 

「母さんはにゅういん、するらしい、です。いえだとおばあちゃんしか、いないから」

 

「そうなの。家は士郎さんが居てくれるから直前までは家で過ごすことになりそうよ」

 

「もうなまえ、きめました? うちは、もめてて……父さん、センスないから……」

 

「少し前に女の子だって分かってね。士郎さんが『菜乃葉』って決めてくれたんだけど漢字だとなんだか堅い感じがするでしょう? だからひらがなで『なのは』にしようって言ってるんだけど……」

 

「なのはちゃんですか。いいなまえ、ですね」

 

「ふふ、ありがとう♪」

 

 ん~、なのはちゃんか。……どっかで聞いたことあるけど菜乃葉っていう名前も別にないわけじゃないしな。

 なのはなのは、なのは……

 

「桃子~、今日の分のチョコレートケーキも完売したんだが。おや、裕一郎くん。いらっしゃい」

 

 カウンターから男性が近づいてくる。どうやら今日の分のチョコレートケーキが完売したらしい。

 もう夕方を過ぎ、あと一時間ほどで閉店の時間になる。冬の閉店時間は日が短いため少しだけ早い。

 

「あ、しろうさん。こんばんは」

 

 カウンターから出てきた男性は桃子さんの結婚相手で高町士郎さん。婿入りしたらしく桃子さんの苗字である高町を名乗っている。

 もう三十に近いはずだが、二十歳ぐらいに見える。うちの母親も三十を超えているが妙に若々しいなど、この世界は一部の人間の外見や外見年齢が少しおかしい。前世ではありえない髪色をした人間もちらほら居たりするし。

 

「今日はどうしたんだい?」

 

「それがね……」

 

 桃子さんが先程までの話を士郎さんにはじめる。時間も時間のため店内に人は少なく、店員は他にいないがここで話をしていても問題はないのだろう。

 カウンターのショーケースに並ぶケーキは大分少なくなっており、幾つかのケーキはすでに完売している。

 士郎さんたちの話は遂に子供の名前まで行き、ぼくが「なのは」をいい名前ですねと言ったことなど桃子さんが若干押している感じで、ひらがなでなのはに傾きそうな雰囲気だ。

 なのは、か……家の妹はなんて名前になるんだろうか。

 ケーキも色々と完売してるみたいだし、シュークリームもさっき購入した分で完売したらしい。寒くなってきたとは言え、暖房の効いた店内や、外に長時間置いておくのも拙いし、そろそろ帰ろうか。

 

 シュークリーム完売、ケーキ完売……なのは……完売……ん?

 

 どこかで誰かが叫んでいる声を聞いたことが昔あった気がしたが、もう何年も前の前世だった気がするのでどこで聞いたのか思い出せない。

 でもまぁ、とりあえず、なのはってどこかで聞いたことがあったのはその声だったのだろう。

 

 うん。関係ないか。

 

 

――Side out


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