#008 高町家
Side Yuichirou――
僕も既に小学二年生。
翠屋も開店から五年も経てば、それが商店街の一商店でも市内ではそこそこの有名店になっていた。
以前に増して忙しくなった喫茶店は、外から見る分には活気づいているようだった。
なのはちゃんのお父さん――士郎さんが意識不明の重体となった。
そのことを知ったのはつい最近のことだ。
僕が七歳、十月も終わりに近づいた頃、急に翠屋が臨時休業となり桃子さん達の姿を見かけなくなった。
暫くしてまた営業は再開されたのだが、以前のような桃子さんの笑顔はなりを潜めていた。
――Side out
Side Yui――
私は順調に四歳になった。
使い魔のフェリとも良好な関係を築けている。
フェリは地球にいる間、外出する際には人間の姿になっている。兎のような耳と狐のような尻尾は隠して、親戚のお姉さんという立ち位置をとってもらった。
おかげで、フェリが普通に歩けるようになってからはお父さんも外出を認めてくれた。女の子だからって一人で出かけるのはいけないっていって、それまでは必ずお兄ちゃんについてきてもらう必要があった。
普通の子じゃないって思われてるかもしれないけど、瞬間移動とかは知られるわけにはいかないし、原作のことを考えたら自由に動けないのは問題だった。
といっても、なのはちゃんのお父さんが怪我する時期なんて私は知らないし、翠屋の様子を頻繁に確認するくらいしかできないんだけどね。
小さい頃って話だったから三歳から四歳くらいだと思ってたんだけど、特に変わった様子はない。
外出できるようになってからは、私はフェリに付いて来てもらい、臨海公園で結界を張って二人で魔法の練習をしている。
そのあと公園でぶらぶらしていたら、どう見ても子供に見えない顔立ちをした子供がうろうろしていた。
一人は銀髪で、近くを通った時に見ただけだから目の色はわからないけど、フェリが言うには目の色が違っているらしい。
ヴィヴィオやアインハルトみたいにオッドアイっていう(前世のお父さん曰く)萌えポイント。
女の子なら(前世の)お父さんの大好物だけど、男の子だから多分、SSで読んだことがあるオリ主(笑)ってやつだね、(前世の)お父さん。
もう一人は褐色の肌をした白髪の子供。
(前世の)お父さんの大好物だったアルビノなら肌も白くて、目は紅いはずだけど……
それに男の子だし。
二人共どう見ても日本人じゃないんだよね。
私も純粋な日本人じゃないしこの世界は髪の色とかおかしいけど、日本人の大多数は基本的に黒(○○色っぽい黒髪)か、茶色(○○色っぽい茶髪)になっている。光の具合で○○色に見えるんだよね。紫とか青とか。
まぁ、中にはピンクとか緑とかの人もいたけど……
お母さんは(青色っぽい)黒で私もおんなじ色。お兄ちゃんは髪の色はおんなじで、目の色はお父さん似。顔も少しだけお父さんみたいに外人さんな日本人顔。
でもあのふたりは白と銀色。
それに魔力も私と同じくらい持っているみたい。
私はお兄ちゃんの魔力負荷バンドのおかげで身体能力も魔力も上がっている。
魔力は今ではAAA+。お兄ちゃんが改良した魔力負荷バンドに変わってから上昇率が一気に伸びた。
技術チートをもらった転生者なんじゃないかって思ってしまうけど、多分私がデバイス技術者を家族に希望したから。
原作の知っている中で海鳴の男の子が大魔力を持っていることはなかった。
私の家族がいるせいで他の魔導師がいることになってるけど、なのはちゃんとはやてちゃんしか海鳴の魔導師はいないはず。
ということはあのふたりは転生者だということ。
多分、なのはちゃんが来ないか見て回ってるんだよね。
士郎さんは滅多に翠屋にいないし、聞くわけにもいかない。定期的に翠屋に行って様子を伺ってるんだろうけど……
彼らは何時士郎さんが怪我するのか知っているのだろうか?
と、そんなある日のこと。
翠屋に臨時休業の通知の貼り紙があり、一週間ほどお休みになった。
士郎さんが怪我をしたんだと思う。直ぐにお店は再開したんだけどどことなく桃子さんの雰囲気が暗い感じがする。なのはちゃんは幼稚園に通っていないみたいなので幼稚園で会うことはないが、事故以来お店で見ることも無くなった。
「なのはちゃん大丈夫かな……?」
「……遊びに行けばイイ」
「なのはちゃんのお家に?」
「うん」
家の縁側で魔法訓練の休憩をしながらなのはちゃんの様子を心配していると、私の膝の上に頭を乗せて休んでいるイーブイのフェリが返事をした。
フェリはもうずいぶん成長して大型犬に近いサイズになっている。もうこれ以上は大きくならないようだけど、大きくてふわふわした毛並みが気持ちいい。原作アルフのように省エネモードと称して小さくなることもできる。
なのはちゃんと初めて会ったのは、やっぱり翠屋だった。フェリと一緒にケーキを食べに行ったとき、偶然なのはちゃんも翠屋に来ていたので友達になった。
桃子さんはお兄ちゃんから私のことを聞いていたみたいで、なのはちゃんを紹介してくれた。それから何度もなのはちゃんのお家に遊びに行ったりもしている。
「……そうだね。行こっか!」
「……行く」
フェリには大人モードに変身してもらう。なのはちゃんはどうぶつが好きだけど、喫茶店を営むお家に――お店とお家は別だけど――動物を連れて行くのは拙い気がするからね。
なのはちゃんと遊んでいる時にフェリだけ暇になっちゃうけど仕方ない。
お祖母ちゃんに行ってきますって言ってまず翠屋へ向かう。なのはちゃんがいるかもしれないからだけど、なのはちゃんの事だから遠慮して多分いない。そこから公園を回ってなのはちゃんのお家に向かうコースだ。
大分体力はついてきたけど小さいうちに体を動かしておかないと体の使い方が身に付かず、運動音痴になるとかお父さんが言っていたから、毎日出来るだけ歩いたり運動したりするようにしてる。三半規管を鍛えるのも良いみたい。
原作でなのはちゃんは運動音痴だったみたいだから大人しくし過ぎて外で遊び回ってなかったんだと思う。士郎さんは人外みたいなので、少なからずDNAは優秀なものが備わっているはずだ。
だから一緒に遊ぶときは出来るだけ走り回るような遊びを一緒にしてる。道場もある庭は結構広いので外に出かけなくても良いから子供だけでも大丈夫なのだ。
案の定、翠屋になのはちゃんの姿は無かった。シュークリームを買ってなのはちゃんのお家に遊びに行く事を桃子さんに伝え、お家に向かう。
士郎さんの事故後になのはちゃんと会うのは今日が初めて。何度か二次創作のテンプレ通り公園に足を運んだけどなのはちゃんじゃなくて銀髪君白髪君が居るだけだった。何時行っても居るのですごく暇なんだろう。見なかった時がない。
立派な門構えの敷地が見えてきた。なのはちゃんのお家だ。
玄関先の呼び鈴を鳴らすと、ドタドタと足音が聞こえ、玄関の鍵が開けられる。
「はーい。……あ、ゆいちゃん! どうしたの?」
そのまま玄関の扉が開かれる。引き戸だからチェーンは無いけど、子供が独りでいるときは少し無用心に感じる。開ける前に相手を確認したほうが良いと思う。
「こんにちは、なのはちゃん。遊ぼ?」
「あ、うん!」
「おじゃましま~す」
「いらっしゃい。ふぇりしあさんもこんにちは」
「こんにちは……おじゃまします」
フェリシアというのはフェリの人間モードの時の名前。イーブイ形態と同じでフェリって呼んだら被るので、少しだけ付け足した。
「なのはちゃんは何してた?」
「え、ぁ……え~っと、ご本読んでたの。えとえと、今日は何するの?」
多分独りでボーとしていたんだと思う。やっぱり来てよかった。
「お庭で遊ぼ。今日はこれ持ってきたの」
いつも持ち歩くカバンから取り出したのはフリスビー。いつもはフェリと遊ぶ為のものだけど、適度に走り回るには丁度いい遊び道具。走ったり飛んだりするから体を動かすには丁度いい。他には計算能力も疎かに出来ないので、室内では脳を鍛えるためにもいろいろ玩具を持ってきている。脳の成長も小さい時が一番いいはずだ。
なのはちゃんには悪いけど、今日のフリスビーは庭中を走り回るように投擲の分布を散らすことにする。
所謂、なのはちゃん魔改造計画。
なのはちゃんの運動神経のためだ。知らない内に原作より運動神経が上がってると思うな。他の転生者がなのはちゃんが運動音痴じゃないところを見たらどう思うかな?
隔日で鍛えに来るから少しだけ(何年間か)我慢してね? なのはちゃん。
――Side out
Side Yuichiro――
……結衣が何か企んでいる気がする。
この世界が魔法少女リリカルなのはの世界だと決まったわけだけど――原作の原作があった気もするけど――主人公のなのはちゃんには頑張ってもらいたいものだ。
正直何が起こるかわからないけど、転生者が少なくても三人いるから何とかしてくれるだろう。妹もいるから何かあったら介入することになりそうだけど大丈夫だろう。
そんな僕が何をしているかというと、少し離れた図書館に来ている。殆ど隣街に近いのでバスで来るハメになったけど、海鳴市近辺で最大の図書館だから蔵書もたくさんある。まだ一人でミッドチルダには行けないので、本を読むなら買うか図書館ということになる。家の本はほとんど読み尽くしたので最近になってここに通い始めたということだ。
最近は工学系の本を読むようにしている。まだギリギリ二十世紀だけど工学に関しては前世の世界より少しだけ進んでいるようなので、知らない知識を補充する意味でも有意義だ。専門的なことはやはり大学などで研究する必要があるだろうけど。
他には少しだけ建築、構造系や魔法に必須な数学系の本も読む。建築系は、錬金術で地下室を増設する時のために少しだけ学んでいる。いくらでも頑丈に錬成できるけど、構造的に脆くして家を壊すわけにはいかないからな。
数学系はやはりこの世界の魔法には必須の知識だ。情報瞬間認識現界量と思考速度の限界値という項目を創って弄れば、少しずつだが思考速度や一度に処理できる情報量が増えていく。速読の訓練みたいに、やればやるほど脳の処理能力が上がるのは正直嬉しい。
改造という意味で正しくチートで反則っぽいが、今更なので僕は全く気にしない。ほかの才能も少しずつだが成長速度は上がっている。
「……。……デバイス作……ろか……。ミッド……跳べへ……か……」
「ん?」
ミッドとかデバイスとか、聞き覚えがある単語が聞こえる。
魔導師? ……魔力反応有り。
魔導師がなんでこんなとこに?
……って僕もだけど。
「あー、もう! どないせーっちゅうねん! ってあかん……すんません」
工学系の本棚に向かって車椅子に乗った女の子が叫んでいた。
「ほんま、どないしょ……こんな時裕一郎さんがおったらなぁ……」
「呼んだ?」
取り敢えず知らない人だが、呼ばれたので返事をする。
魔導師だし情報を集めるにはいい切っ掛けかもしれない。それに転生者だった場合、僕の名前を知っているということは何らかの方法で情報を知ったということだ。
体勢的には反対を向いている少女に後ろから声を掛ける。
「え?」
車椅子に乗った少女は返事があるとは思っていなかったようで、ビクッと一瞬震えたあとにこちらに振り向いた。
「……ぁ、え……裕一朗さ、ん。なんで……裕一郎さんや!」
「うおっ」
少し顔を見つめていたかと思うと、急に声が大きくなって、車椅子を回して突っ込んできた。
「裕一朗さん! あぁ、よかったぁ、私だけ昔に戻ったんかと、ぅう、思、たわぁ。……ほんまに……ぅ、よかっ……たぁ」
……なんだかおかしなことになった。
車椅子の少女は僕の手を握り、言葉を詰まらせながら、涙を浮かべて僕に笑いかけてきた。
――Side out
※14/01/07 誤字修正