暖かい陽の光が辺りを包み始め空が明るくなり始めた。
ゆったりとした風が草木の柔らかな匂いを乗せてひゅるりと風が吹きチュンチュン、と鳥の鳴き声がする。ああ、とても素晴らしい天気だ。美しい陽気にプレイヤーは心も体も穏やかだろう。
ただし身の安全が確保されている、という条件がつくがーーー
ここはアインクラッド22階層のとある森
森の中で縦横無尽に動き回る影が一つ
その中心には二足歩行の人の形で鎧を纏った三体のリザードマンがいた
動き回る影と戦っているのだろうがリザードマンが武器を一回振るうまでに三度の切り傷をくらい相手にはカスリもしない
このリザードマンもLvも20とランダムポップするモンスターの中ではこの階層の中で最高クラス、弱いわけではないがーーー
「ーーーフッ!」
彼らは自分たちを襲った影の姿を見ることさえ叶わず、消滅した
「ッハァ〜〜〜」
リザードマンを一方的に倒した影ーーーpohは深く息を吐きながらぐったりとした様子で地面に腰を下ろして木にもたれた。
しばらく藍と赤橙のグラデーションに彩られた空に視線を遊ばせ、うっすら見えていた月がもう影も形もない。ゆっくりと腰を上げゆっくりと歩き始め一つのひときわ大きな木があり、その根元の苔の生えた根を押すとと根と根が作った人一人が入れる隙間があらわれた。少し周りを見渡すと彼はそこになんのためらいもなく飛び込みしばらく落ちるとひらけた場所にでた。
陽の光はないがヒカリゴケと光石のお陰でほんのり明るい。そこには焚き火と大きなアイテムボックスがありここが彼の拠点だった。そして壁の窪みに置いてある寝袋に入るとすぐに眠り始めた。
何故彼がこんな生活をしているかを簡単に説明すると彼は他人に危害を加えたオレンジプレイヤーなのだ。といっても意図したものではないがーーー
オレンジプレイヤーは街に入ると鬼のように強い衛兵に襲われるため基本的に圏外で活動する。しかし圏外ではモンスターが常にポップするためパーティならまだしもソロではおちおち寝ていられない。迷宮区のサーフスポットではモンスターは現れないがプレイヤーに襲われる可能性も十分にある。
しかしこの場所は穴場中の穴場、この森自体難易度は高いしその上視界も悪く奇襲をされやすいので人気はない。彼もこの森をマッピングしている時に偶々見つけそれ以来ずっとここを使い続けている。
自然と目が覚めゆっくりと上体を起こす。若干疲れも残っているが再び寝る気にもなれず寝袋から体を出すとそこにはーーー
「「.………きゅう………」」
入り口で目を回して積み上がっているお転婆姉妹がいた。
ここは前線から10層以上も下の迷宮フロア。俺たちはユウキの片手剣の素材となるアイテムの収集を目的にそこに潜っていた。
ユウキは紫のノースリーブとズボンというボーイッシュな格好で、ランは淡い空色のゆったりとした長袖とロングスカートとお互い自分の性格が出ている。
「それにしてもよく俺の場所がわかったな、マップを見ても地下にいるかなんてわからんだろ?」
「たまたまだったんだ、初めはメールで伝えようかなって思ったけどたまには僕らから会いに行こうと思ってあのおっきな木についたんだけど」
「ユウキが座った瞬間に根っこが動いてそしたら隙間に落ちていったから私も慌てて飛び込んじゃって…」
「そのまま姿勢もただせず転がったと…」
苦笑いしながらも、でも今お兄ちゃんの暮らしてるところ秘密基地みたいでカッコいいね!と目を輝かせるユウキと恥ずかしかったのか両手に手を当てて顔を隠すラン。
まるで正反対の反応に見た目は似てるが性格は全く似てない二人を連れてモンスターたちを蹴散らしていく。
「そろそろ切り上げるとするか」
「うん、十分集まったし…あれ?」
「あら?」
しばらく迷宮区を回りながら素材を集めついでに使っていない武器の熟練度上げもしているとモンスターに追われながら撤退してくるパーティと出会った。
ろくにパーティを組まず、ユウキとかランのスリーマンセルしかしない俺から見てもバランスの悪いメンバーのそれは余裕こそまだギリギリ残ってはいたがここはまだ迷宮区の中盤あたりでここを凌いだとしてもまたすぐにモンスターに襲われるに違いない。
そこでお人好しなうちのわんぱく娘は助けにいった、その時だった。
颯爽と黒づくめの片手剣使いーーーキリトが現れた。
彼のレベルは攻略組トップクラスでプレイヤースキルも言わずもがな。中階層のモンスターに手こずるわけもなく一撃で吹っ飛ばした。
ーーーがそれがまずかった。
まずは「すげぇ!」といった類の歓声。その次に次々とハイタッチ&握手。予想よりも遥かに相手のコミュ力が高かったため–––どちらかといえばウェーイ系のテンション–––にユウキは救援をとりあえずやめた。
ーーー賢明な判断だ。今からめっちゃ面白くなりそうだからな
キリトは戸惑いつつも笑みを浮かべ、差し出された手を握り返していた。
かなり神経を使って噛んだり挙動不審にならないように気をつけているのがわかる。
キリトには悪いのだが、非常に腹が痛い。横目で見るとユウキとランは腹を抱えて笑っている。
ヒーローみたいに颯爽と現れた奴が対人関係で苦戦しているのだ。
笑わない方がおかしい。
極め付けはそのパーティ紅一点の黒髪の結構可愛い槍使いが涙を浮かべながらキリトの手を握っていた。顔も若干赤くなっていた。
彼にとって女の子にお礼を言われるなんてフロアボスの発狂を正面から受けるのに等しい。
これ以上は俺たちの腹がもたないので助け舟を出すことにした。
「よぉキリトまた口説いてんのか?」
「キリトさん浮気は良くないですよ」
「やっほーキリト、久しぶりだね!」
「あ、PoHたちか…てか浮気なんかしてないよ…相手がいないんだから」
まじか、マジかこいつ。アスナのあんなアプローチをみてまだそんなこと言えんのか。
ユウキとランも信じられないような目をキリトに向けている。
アスナがキリトを攻略できるのか……
「さっきはありがとう。よかったら、街に戻った時に何か奢らせていただけませんか?そちらのお連れさんも一緒に…ってオレンジプレイヤー!?」
その瞬間彼らの顔には驚愕、敵意、恐怖が宿った。
武器を構え、いつ襲われても対応できる姿勢をとる。
「わ〜〜!!待て待て!この人オレンジだけど悪いことしてないから!悪い奴なら女の子二人連れて行動なんてしないだろ!」
「……俺が二人を脅して無理矢理協力させている「黙れ!これ以上話をややこしくするな!」
なんやかんやあって誤解を解いて自己紹介を済まし主街区に戻って打ち上げをしようーーとなったがPoHは圏内に入れないので支払いだけするといった。もちろん周りは断固拒否したが
「最近ユウキとランのお目付け役としてのそれらしい事も出来てないからこれくらいさしてほしい」
と譲らなかったので周りも渋ったものの、承諾した。
その後、主街区に戻ったキリトたちは酒場で打ち上げをしていた
「へぇ、みんな攻略組なのか!」
「ええ、まぁ」
ケイタが興味津々に聞き、ランはにこにこ笑いながらながらそれに答える。
どうやらトッププレイヤーに嫉妬するタイプではなかったようだ。
「でも今日はたまたま通りかかってよかったよ。面白いものも見れたし…そうだキリト」
後半何やらによによしながらキリトの方をチラっと見たが何か思いついたようにキリトに声をかける。
「キリト、ここ入りなよ。君最近攻略からちょっと身を引きたいって言ってたろ。たまには中層プレイヤーの育成を手伝って見たらいいんじゃないの。いいかな、みんなは」
月夜の黒猫団のみんなは驚きつつも快諾してくれた。ソロでありながら攻略の最前線で戦うキリトから直接の指導なんて彼らのような攻略組を目指す中堅プレイヤーにとっては願っても無いものだろう。
特に紅一点の槍使いのサチはとても喜んでいた。流石最強のフラグメーカーといったところか…
「でも俺は感覚派だし…人に教えるのは苦手なんだけど」
「それなら大丈夫!僕とお姉ちゃんも協力するからさ」
「わたしはまだ了解してないのだけれど…まぁいいわ」
「ユウキはともかくランは助かるな」
「ねぇ……それどういう意味〜〜」
そんなゆるーい感じで彼らの夜がつづいていった
一方その頃PoHは
「グァァァァ!!」
「「うわああああああ!!!!」
「shut up!!!」
血盟騎士団っぽい少年と吟遊詩人っぽい少女を担いでモンスターと鬼ごっこしていた