スナイプvsアマゾンアルファ ―狩人ノ哀歌―   作:さかきばら けいゆう

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第十話 病魔

「悠―――! どこだ―――!」

「ぼっちゃま~! ホラホラ、美月(みづき)お嬢さんも心配しておりますよ~!」

 

 工場群のはずれに位置する、無人の工場跡地。街灯の明かりが届かない夜の暗闇の中で、望と三崎は懸命に仲間の名を呼ぶ。

 そんな彼らの思いに応えるように、空の雲が晴れ、破れた屋根の隙間から廃工場に青白い月光が射しこんだ。

 

「水澤クン!」

 

 闇の中、上半身裸ながらも、見知った人影が露になる。数日前からずっと離れ離れになっていた、水澤悠だ。

 

「一緒に帰ろう! 僕たちはチームなんだから!」

 

 悠の姿を確認して、駆除班メンバーにほっとした雰囲気が流れる。それを代表するように、マモルはにこやかに微笑みながら悠に駆け寄った。

 

「……近寄るなよ、ニンゲンに飼いならされたペットの分際で」

 

 ――――――だが、それを迎える悠の態度は、あまりにも他人行儀で、冷徹なものであった。

 

「……水澤、クン?」

「お前はマモル。そっちのヒゲが三崎。女は高井。後ろのオヤジが志藤で、メガネが福田。大事な大事な、お友達ってな」

「おい悠何言ってる? 病気で頭がおかしくなったらしいってのはマジみてぇだな」

「吠えるな志藤。今は俺が話してるんだ。ちゃんと聞け」

 

 普段の大人しい性格はどこへ消えたのか、悠はまるで人が変わったような態度をとる。駆除班の面々が訝しげに見つめる中、悠は芝居がかった身振り手振りをしながら、朗々と語りだした。

 

「俺の名は<シルバースター>。ワケあって水澤悠に感染した、いわゆるウイルスってやつだ」

「ウイルスだと……!?」

「そう。<バグスターウイルス>って聞いたことはないか? ニンゲンに感染するように進化した、コンピュータウイルスさ」

 

 当然、駆除班の面々が〈バグスターウイルス〉の存在など知っているはずがない。だが、シルバースターと名乗るそれの言葉は、あまりにも堂々としすぎている。嘘やハッタリにしても荒唐無稽すぎだ。

 

「俺たち〈バグスター〉は人間に感染し、完全体になることを目的としている。……感染した宿主の消滅と引き換えにな」

「なッ……じゃあ、ぼっちゃまはもう」

「いや、弱っているだけでまだ消滅はしていない。この身体の主導権を俺に奪われて尚、コイツは抵抗し続けてるよ」

「……それが事実だとして。なぜ、そんなことをわざわざ俺たちに説明する?」

「水澤悠を完全に消滅させるため、こいつの免疫力を低下させる必要があってな。だから水澤悠には、強いストレスを感じてもらわなければならない」

 

 質問に答えているのかいないのか、曖昧な返事を返すシルバースター。その言葉の裏に志藤は得体の知れない危険を感じとり、部下たちへ武器を構えるようハンドサインを出した。

 

「コイツにとって大切なものを、目の前でぶち壊す。それが最も効率よくストレスを与える方法だ。さて、水澤悠の大切なものとは何だろうな?」

「美月お嬢様と……えっ、ひょっとして俺ら!?」

「なるほどね……それを聞いたら、ウチらはてめぇから逃げづらくなる」

「わざわざ回りくどい説明をしたのは、俺たちをここから逃がさない為か」

「察しがよくて助かるよ。……じゃあ、そろそろ狩りを始めようか?」

 

 そう言うと、シルバースターは全身から〈バグスターウイルス〉を噴出。やがてそれらのウイルスは彼を包み込み、次の瞬間、シルバースターは星のような模様を持った豹の<バグスター>へと変身を遂げた。

 

「そいつがてめぇの正体ってわけか……全員フル装備、狩り開始!」

 

 志藤の号令のもと、陣形を組んで駆除班がシルバースターに挑む。彼らとて<アマゾン>を倒してきた経験を持つプロの戦士たちだ。相手が何者だろうと、決して怯むことは無い。そんな彼らをニヤリと嘲笑いつつ、シルバースターもまた彼らに襲い掛かった。

 

「いくぞマモル! あたしが右、お前が左だ!」

「うん! うぁあああああッ!」

 

 先陣をきったのは〈モグラアマゾン〉に変身したマモル、そして望だ。訓練と経験によって完成された彼らのコンビネーション攻撃は、これまでにも数多くの<アマゾン>を屠って来た。しかしシルバースターは<バグスター>。通常の物理攻撃は、絶対に通用しない。望の蹴りも、マモルの爪も……シルバースターのデータの身体には傷一つ付けることはできない。

 

「健気だねぇ」

 

 懸命に戦う望とマモルを一蹴し、シルバースターがせせら笑う。本来、シルバースターのスピードなら望やマモルの攻撃など最初から掠りもしなかった。それでも敢えて攻撃を受けたのは、自分に攻撃が通用しないと分からせて、彼らを絶望に叩き落すためだ。

 

「なんだコイツ……ウチらの攻撃が、全然効かねぇ」

「さぁ次はこっちの番だ」

 

 言うや否や、シルバースターは本物の豹をも遥かに超えるスピードで、望目掛けて飛び掛かった。

 

「高井くんッ……!」

 

 あの速度で繰り出される攻撃をもし一発でも喰らえば、確実に望は死ぬ。マモルは咄嗟に望の前に飛び出して、彼女の盾となってシルバースターの攻撃を受け止めた。

 

「ぎゃぁああぁ――――――!」

「マモルッ!」

 

 突進で突き倒されたマモルの腕に、深々とシルバースターの牙が突き刺さる。その余りの激痛に、マモルは思わず絶叫した。

 そしてシルバースターはその悲鳴を楽しむように身を震わせると、マモルの腕をそのまま噛み千切るべく、首を激しく振りまわした。

 

「やめろテメェ!」

 

 横から望が蹴りつけ、後方から志藤たちが銃弾を撃ち込む。だがシルバースターのデータの身体には一切のダメージが通らず、当然マモルへの噛みつきを中断させることもできない。

 やがてシルバースターは無慈悲にもマモルの腕の骨を噛み砕き、今度は隣にいた望に襲い掛かった。

 

「女の肉はァ……どんな感触かな!?」

「ぐぁ、あうッ……あッ!」

 

 まるで弄ぶように、敢えて急所を外しつつ望の身体を爪で何度も切り裂く。おびただしい鮮血がそこかしこに飛び散り、鉄臭い血の匂いがたちこめていく。そしてその匂いによって、シルバースターは更に昂っていくのだ。

 

「ノンちゃん……!」

「何にもできねぇのかよ……!」

 

 妨害することも、割って入ることもできず、ただ望が傷ついていく様を見ていることしかできない……志藤らの心に、行き場の無い怒りと絶望がのしかかる。

 そして、遊びに飽きたシルバースターが望の喉笛を食いちぎろうとしたその瞬間―――

 

『BLOOD&WILD! w-w-w-WILD!』

 

 ―――志藤の背後から飛び出した赤い影が、シルバースターを弾き飛ばした。

 

「よう駆除班の皆さん。相も変わらずボロボロだな」

「鷹山……!」

 

 真っ赤な体に、刻み込まれた緑色の傷痕……見間違うはずもない。圧倒的な戦闘力で次々と<アマゾン>を狩る、謎の<赤いアマゾン>……鷹山仁である。

 

「どうやら<バグスター>が覚醒したらしいな……こうなる前に始末しちまいたかったんだが」

 

 やれやれと呟きながら敵に向かって歩を進める仁。しかし、シルバースターには仁の攻撃も効いてはいないのだ。そしてそのことを見せつけるように、シルバースターはわざと無防備な喉を晒しながら、高圧的に語り掛けた。

 

「お前は……鷹山仁か。お前を殺しても水澤悠のストレスにはならなさそうだが……遊んでやろう」

「傷つくこと言うなよー。……まぁ、遊んでもらえるぶんには願ったりかなったりだけどな」

 

 鮮やかな緑の双眸の奥に獰猛な笑みを浮かべると、仁はシルバースターへと飛び掛かっていった。




シルバースターの脳内CVは藤原啓治さんでお送りしております。
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