スナイプvsアマゾンアルファ ―狩人ノ哀歌― 作:さかきばら けいゆう
「悠―――! どこだ―――!」
「ぼっちゃま~! ホラホラ、
工場群のはずれに位置する、無人の工場跡地。街灯の明かりが届かない夜の暗闇の中で、望と三崎は懸命に仲間の名を呼ぶ。
そんな彼らの思いに応えるように、空の雲が晴れ、破れた屋根の隙間から廃工場に青白い月光が射しこんだ。
「水澤クン!」
闇の中、上半身裸ながらも、見知った人影が露になる。数日前からずっと離れ離れになっていた、水澤悠だ。
「一緒に帰ろう! 僕たちはチームなんだから!」
悠の姿を確認して、駆除班メンバーにほっとした雰囲気が流れる。それを代表するように、マモルはにこやかに微笑みながら悠に駆け寄った。
「……近寄るなよ、ニンゲンに飼いならされたペットの分際で」
――――――だが、それを迎える悠の態度は、あまりにも他人行儀で、冷徹なものであった。
「……水澤、クン?」
「お前はマモル。そっちのヒゲが三崎。女は高井。後ろのオヤジが志藤で、メガネが福田。大事な大事な、お友達ってな」
「おい悠何言ってる? 病気で頭がおかしくなったらしいってのはマジみてぇだな」
「吠えるな志藤。今は俺が話してるんだ。ちゃんと聞け」
普段の大人しい性格はどこへ消えたのか、悠はまるで人が変わったような態度をとる。駆除班の面々が訝しげに見つめる中、悠は芝居がかった身振り手振りをしながら、朗々と語りだした。
「俺の名は<シルバースター>。ワケあって水澤悠に感染した、いわゆるウイルスってやつだ」
「ウイルスだと……!?」
「そう。<バグスターウイルス>って聞いたことはないか? ニンゲンに感染するように進化した、コンピュータウイルスさ」
当然、駆除班の面々が〈バグスターウイルス〉の存在など知っているはずがない。だが、シルバースターと名乗るそれの言葉は、あまりにも堂々としすぎている。嘘やハッタリにしても荒唐無稽すぎだ。
「俺たち〈バグスター〉は人間に感染し、完全体になることを目的としている。……感染した宿主の消滅と引き換えにな」
「なッ……じゃあ、ぼっちゃまはもう」
「いや、弱っているだけでまだ消滅はしていない。この身体の主導権を俺に奪われて尚、コイツは抵抗し続けてるよ」
「……それが事実だとして。なぜ、そんなことをわざわざ俺たちに説明する?」
「水澤悠を完全に消滅させるため、こいつの免疫力を低下させる必要があってな。だから水澤悠には、強いストレスを感じてもらわなければならない」
質問に答えているのかいないのか、曖昧な返事を返すシルバースター。その言葉の裏に志藤は得体の知れない危険を感じとり、部下たちへ武器を構えるようハンドサインを出した。
「コイツにとって大切なものを、目の前でぶち壊す。それが最も効率よくストレスを与える方法だ。さて、水澤悠の大切なものとは何だろうな?」
「美月お嬢様と……えっ、ひょっとして俺ら!?」
「なるほどね……それを聞いたら、ウチらはてめぇから逃げづらくなる」
「わざわざ回りくどい説明をしたのは、俺たちをここから逃がさない為か」
「察しがよくて助かるよ。……じゃあ、そろそろ狩りを始めようか?」
そう言うと、シルバースターは全身から〈バグスターウイルス〉を噴出。やがてそれらのウイルスは彼を包み込み、次の瞬間、シルバースターは星のような模様を持った豹の<バグスター>へと変身を遂げた。
「そいつがてめぇの正体ってわけか……全員フル装備、狩り開始!」
志藤の号令のもと、陣形を組んで駆除班がシルバースターに挑む。彼らとて<アマゾン>を倒してきた経験を持つプロの戦士たちだ。相手が何者だろうと、決して怯むことは無い。そんな彼らをニヤリと嘲笑いつつ、シルバースターもまた彼らに襲い掛かった。
「いくぞマモル! あたしが右、お前が左だ!」
「うん! うぁあああああッ!」
先陣をきったのは〈モグラアマゾン〉に変身したマモル、そして望だ。訓練と経験によって完成された彼らのコンビネーション攻撃は、これまでにも数多くの<アマゾン>を屠って来た。しかしシルバースターは<バグスター>。通常の物理攻撃は、絶対に通用しない。望の蹴りも、マモルの爪も……シルバースターのデータの身体には傷一つ付けることはできない。
「健気だねぇ」
懸命に戦う望とマモルを一蹴し、シルバースターがせせら笑う。本来、シルバースターのスピードなら望やマモルの攻撃など最初から掠りもしなかった。それでも敢えて攻撃を受けたのは、自分に攻撃が通用しないと分からせて、彼らを絶望に叩き落すためだ。
「なんだコイツ……ウチらの攻撃が、全然効かねぇ」
「さぁ次はこっちの番だ」
言うや否や、シルバースターは本物の豹をも遥かに超えるスピードで、望目掛けて飛び掛かった。
「高井くんッ……!」
あの速度で繰り出される攻撃をもし一発でも喰らえば、確実に望は死ぬ。マモルは咄嗟に望の前に飛び出して、彼女の盾となってシルバースターの攻撃を受け止めた。
「ぎゃぁああぁ――――――!」
「マモルッ!」
突進で突き倒されたマモルの腕に、深々とシルバースターの牙が突き刺さる。その余りの激痛に、マモルは思わず絶叫した。
そしてシルバースターはその悲鳴を楽しむように身を震わせると、マモルの腕をそのまま噛み千切るべく、首を激しく振りまわした。
「やめろテメェ!」
横から望が蹴りつけ、後方から志藤たちが銃弾を撃ち込む。だがシルバースターのデータの身体には一切のダメージが通らず、当然マモルへの噛みつきを中断させることもできない。
やがてシルバースターは無慈悲にもマモルの腕の骨を噛み砕き、今度は隣にいた望に襲い掛かった。
「女の肉はァ……どんな感触かな!?」
「ぐぁ、あうッ……あッ!」
まるで弄ぶように、敢えて急所を外しつつ望の身体を爪で何度も切り裂く。おびただしい鮮血がそこかしこに飛び散り、鉄臭い血の匂いがたちこめていく。そしてその匂いによって、シルバースターは更に昂っていくのだ。
「ノンちゃん……!」
「何にもできねぇのかよ……!」
妨害することも、割って入ることもできず、ただ望が傷ついていく様を見ていることしかできない……志藤らの心に、行き場の無い怒りと絶望がのしかかる。
そして、遊びに飽きたシルバースターが望の喉笛を食いちぎろうとしたその瞬間―――
『BLOOD&WILD! w-w-w-WILD!』
―――志藤の背後から飛び出した赤い影が、シルバースターを弾き飛ばした。
「よう駆除班の皆さん。相も変わらずボロボロだな」
「鷹山……!」
真っ赤な体に、刻み込まれた緑色の傷痕……見間違うはずもない。圧倒的な戦闘力で次々と<アマゾン>を狩る、謎の<赤いアマゾン>……鷹山仁である。
「どうやら<バグスター>が覚醒したらしいな……こうなる前に始末しちまいたかったんだが」
やれやれと呟きながら敵に向かって歩を進める仁。しかし、シルバースターには仁の攻撃も効いてはいないのだ。そしてそのことを見せつけるように、シルバースターはわざと無防備な喉を晒しながら、高圧的に語り掛けた。
「お前は……鷹山仁か。お前を殺しても水澤悠のストレスにはならなさそうだが……遊んでやろう」
「傷つくこと言うなよー。……まぁ、遊んでもらえるぶんには願ったりかなったりだけどな」
鮮やかな緑の双眸の奥に獰猛な笑みを浮かべると、仁はシルバースターへと飛び掛かっていった。
シルバースターの脳内CVは藤原啓治さんでお送りしております。