スナイプvsアマゾンアルファ ―狩人ノ哀歌―   作:さかきばら けいゆう

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第十一話 発進

 ―――あの夜のことを、今でも覚えている。

 

 患者の命を救うため、何もかも投げうち、俺は戦いに挑んだ。

 

 全身を蝕むプロトガシャットの副作用、衛生省の通告、進化した敵……リスクを数えればキリが無かったが、それでも患者の命がかかっていた。

 

 百瀬小姫。彼女は大切な恋人(ブレイブ)のことを懸命に想い、支えようとしていた。

 

 ……だが、俺は勝負に負けた。

 

 ズタボロになってCRに帰って来た俺を待っていたのは、誰もいなくなったベッドと、医師免許剥奪の通告だった。

 

 ―――そうして俺は、何もかもを失った。

 

 

 ※※※

 

 

「くっ……」

 

 その場に倒れ込み、荒く呼吸する大我。

 消耗しきった体力では、水路から這い上がるのが精いっぱいだった。

 

「はぁ……はぁ……ここまでかよ、畜生……」

 

 流水に晒され続けて冷え切った身体が、弱々しく震えている。そんな自分の無様が情けなくて、大我は拳を地面に叩きつけた。

 

「結局、俺はまた……!」

 

 自分では悠を……患者を救うことなどできないのか。ドクターではない自分には、これが限界なのか。

 

 消滅する前、最後に会った時の小姫の笑顔が脳裏をよぎる。守れなかった命への罪の意識が、鋭い茨となって大我の心を苦しめる。

 

 再びライダーになって、エグゼイドたちと出会って……何かが変わったような気がしていた。だがそれは祈りに過ぎなかった。

 今も自分は、あの頃のまま……。振り払うことのできない無力感が、大我の心と身体から、熱を奪っていく。

 

「……大我? 大我! おい、しっかりしろ!」

 

 ―――静かに瞼を閉じようとしていた大我の耳に、聞きなれた少女の声が聞こえる。

 朦朧とする意識の中、大我は声のした方を見上げた。

 

「……ニコ?」

 

 夜闇の中、少女……西馬ニコがこちらに駆け寄って来る。

 一直線に、脇目もふらず、ただ自分を助けるために。

 

「何があった? ひょっとして〈バグスター〉に?」

 

 迷わず大我の肩を担ぎながら、ニコが懸命に声をかけてくる。冷え切った大我の身体にまわされた彼女の細い腕から、その温もりが伝わって来る。

 ―――萎えかけていた心に、再び活力がみなぎっていくのを大我は感じた。

 

「……いいや、そうじゃない。……心配かけたな」

「無理しないでよ。あんたもうボロボロじゃん……!」

 

 弱々しく微笑む大我の顔を覗き込むようにして、ニコが悲痛な表情を浮かべる。しかし大我は、その頭にぽんと大きな手のひらを乗せた。

 

「こんなもん、どうってことねぇよ。身体の震えも収まった。……もう、大丈夫だ」

 

 ―――ついさっきまでの、自分の弱気に腹が立つ。

 そして何よりも、患者の命を諦めそうになった自分の弱さが……ニコをこんな顔にさせてしまった自分の弱さが許せなかった。

 どんなに無力でも、どんなに屈辱を味わっても……決して命を背負う責任を放り出すことは許されない。例え医師免許は無くとも、花家大我は患者の命を預かる〈仮面ライダー〉なのだ。

 自分が背負っているものの重さを深く深く認識し直し、大我は軋む身体に力を込めてゆっくりと立ち上がった。

 

「大我……」

「患者を探すぞ。時間が経ちすぎているからな……そろそろ〈バグスター〉が動き出してるかもしれねぇ」

「でも、そんな身体で無茶だよ。Mや〈ブレイブ〉にも声をかけたら……」

「いや。今回の患者は訳あり中の訳ありだ。下手すりゃあいつらの経歴にキズがつくことになる……」

 

 今の大我には、ニコの支えを借りてやっと歩ける程度の体力しかない。それが分かっていても、もうこれ以上ニコには大我を止められなかった。こうなった彼を止めることができないことは、近くで彼を見て来た彼女自身、嫌と言うほど理解していたからだ。

 

「……分かった。でも、死んじゃダメだからね」

「当たり前だ。……今度こそ、ぶっ潰してやる」

 

 よろよろとした足取りで歩む大我を横から支えながら、ニコは大我の手を、強く強く握りしめた。

 

 

 ※※※

 

 

「ヴアアァアアアァッ!!」

 

 野獣の咆哮と共に、傷だらけの身体を引きずって赤い〈アマゾン〉……鷹山仁がシルバースターに猛然と襲い掛かる。しかし仁の放つ蹴りも、拳も、シルバースターの身体には一切ダメージを与えられない。どんなに仁が鋭く重い攻撃を重ねても、物理的な原理原則が通じない〈バグスター〉には通用しない。何度試しても、それは揺るがない事実だ。

 

「何度繰り返せば気が済む……いい加減に諦めたらどうだ、鷹山ァ?」

 

 うんざりといった調子でシルバースターがぼやきつつ、体当たりで仁を突き飛ばす。バランスを崩して地べたに転がされると、仁が苦し気な呻き声をあげた。

 

「うグッ……やっぱ効かねぇかぁ。参ったな」

「大人しく俺に八つ裂きにされる決心はついたか?」

「あぁ……どうやら本格的にピンチみたいだしな……けどなア!」

 

 仁が吠えると同時に、シルバースターの真横の壁をぶち破り、駆除班の黒いバンが現れた。

 

「ぶつける気か!?」

 

 駆除班の思い切った行動に驚くシルバースター。だがそんな驚愕もお構いなしに、バンは更に加速する。反応が遅れたシルバースターは回避が間に合わず、そのままバンの突撃を全身にくらい、十数メートルの距離を吹き飛ばされた。

 

「うおぉおおぉ!」

 

 しかし駆除班の攻撃は止まらない。シルバースターの動きが止まった瞬間、待機していた三崎と志藤が周辺の壁や作業機械類に帯電ワイヤーを設置。高圧電流の流れる即席のリングを作り上げる。その中へ仁がすかさず飛び込み、起き上がろうとするシルバースターの顔面を鷲掴みにして容赦なくワイヤーへ押し付ける!

 

「クッ……こいつは痺れるね」

 

 たっぷり十秒、押し付けても依然効果なし。火花は派手に飛び散っているが、電撃もシルバースターには効かないようだ。やがて電撃を喰らうのにも飽きたのか、シルバースターは縄のような筋肉を浮かべて仁の腕を振り払うと、そのまま爪撃を仁の胸に刻み込んだ。

 

「くそったれ……正真正銘の化け物が!」

 

 あまりの不条理、あまりの絶望的状況に、思わず志藤が呻く。

 今まさに反撃を喰らった仁もまた、口にこそ出さないが、眼前の敵の常識はずれぶりに戦慄せざるを得なかった。

 

 爪の斬撃をくらって無意識に後退した仁を待っていたのは、自分たちが仕掛けたはずの帯電ワイヤートラップだった。迸る高圧電流が、今度は仁を焼き焦がす。

 しかし仁は強靭な精神力で以てこれを耐え、それどころかワイヤーをアームカッターで切断。喉元まで迫ったシルバースターの牙を、後ろに倒れ込みつつ紙一重で回避する。そしてその勢いのままシルバースターの顎を蹴り上げ、これを吹き飛ばした。

 

「大丈夫か鷹山!」

「まぁな。けど、電撃でもダメージが無いとなるともう打つ手無しか?」

「こんなんチートっしょ……」

 

 空中で一回転し、音もなく着地するシルバースターを睨みながら、三崎がぼやく。志藤も三崎の言葉に同感だと言いたげな面持ちで頷いた。そして仁もまた、口で言うほどに万全ではない。特に、先ほどの電撃で体中の感覚が軽いマヒ状態になっている。バンの福田も、その後ろで戦いを見守る望もマモルも、皆敗北ムードに呑まれつつあった。

 

 ―――だが、そんな空気を切り裂いて飛ぶ、一艘の小さな軍艦が現れた。

 

『I ready for Battleship!』

「なッ……なんじゃこりゃあ!?」

 

 勇壮なサウンドと共に現れたその空飛ぶ軍艦は、三崎の驚愕もよそにシルバースターめがけて砲撃を開始する。するとシルバースターは、忌々しげに舌打ちするとともに、戦闘開始以来初めて積極的に攻撃を回避した。

 

「避けた……!? あの軍艦なら、攻撃が効くってことかよ」

 

 望の呟きは、まさに核心を突いている。あの軍艦は、無敵と思われたシルバースターに通用する何かを秘めているのだ。駆除班員らの表情に、自然と希望が射しこんでくる

 そして彼らの注目は、砲撃を終えた軍艦……〈シュミレーションゲーマ〉から、それを操る白髪交じりの青年へと向けられていった。

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