スナイプvsアマゾンアルファ ―狩人ノ哀歌― 作:さかきばら けいゆう
廃工場に現れた、一人の青年。白髪交じりの前髪から覗く彼の双眸には、強い意志が揺らめいている。
突然現れた軍艦を操り、自分たちがまるで歯が立たなかったシルバースターを怯ませたその青年に対し、駆除班の面々はそれぞれ、期待や警戒の眼差しを向ける。そして仁もまた、彼の存在に勝機を見出し、心の中でにやりと笑った。
「貴様……仮面ライダーか」
喉の奥をグルル、と唸らせ威嚇しながら、シルバースターが青年を睨みつける。すると青年の背後から、ひょっこり少女が顔を出し、シルバースターに向かってあっかんべえをした。
「ニコ、こいつがどういう奴か知ってるか?」
「もちろん。こいつは<ナイトオブサファリ>に出て来る、シルバースターっていう人食いジャガーだよ。……まぁ、元々こんな流暢に喋ったりするキャラじゃなかったはずけど」
「感染した宿主の影響だろう。……まぁ、どうでもいい。言葉が通じようが通じまいが、結果は決まってる」
「結果だと……?」
「ケッ。所詮はケダモノか……言葉は分かっても、その意図は汲めねぇらしい」
「なんだと!?」
「てめぇはこれから俺がぶっ潰すって言ってるんだよ。―――第伍拾戦術、変身」
宣言と共に、青年―――花家大我は<ガシャットギアデュアルβ>を起動。<ゲーマドライバー>のスロットに挿入しドライバーのレバーを開放すると、瞬く間に廃工場が
『スクランブルだ! 出撃発進! バンバンシミュレーションズ! 発進!!』
レベルアップした<スナイプ>はまさに、全身火薬庫と形容できるほどの重武装に身を包んでいる。両肩に装備された計四基の<スクランブルガンユニット>はもちろん、両腕の手法ユニット<オーラブラストキャノン>の比類なき火力は、間違いなくシルバースターに致命的なダメージを与えられるだろう。だが、その火力をこのまま解き放てば、この廃工場や周囲の人間をもろとも吹き飛ばしてしまう。この状況を打開すべく、大我は背後のニコを振り返って指示を出した。
「ニコ、
「不便だよねそれ……はいはいっと」
両手を<オーラブーストキャノン>で覆われている今の大我では、細かい操作ができない。ニコにスイッチの入力をしてもらいつつ、大我は改めて
「うっ……!?」
突然広がっていく光に、思わずシルバースターが目を覆う。そして光が晴れると、そこは見渡す限り無人の荒野だった。ここにいるのは大我、シルバースター、そして仁だけだ。
「えっ、何で俺まで?」
「逃げ回られたんじゃ照準が定まらねぇからな。てめぇは囮役だ」
「……ハッハッハッハ! いいぜ、今回はお前のゲームに付き合ってやるよ」
ぶっきらぼうに答える大我の言葉に思わず吹き出しつつ、構えをとる仁。それを視界の端に捉えつつ、大我も全身に備えた火器群の照準をシルバースターへ定める。
「ふざけるなよ貴様ら……俺は偉大なるジャングルの王者だ! 舐めるなよ……!」
「能書きはいいからかかってこいよ。消し炭も残さずぶっ飛ばしてやるぜ」
「グワァアアアア!!!」
挑発に激昂し、シルバースターが襲い掛かる。大我はこれを砲撃で迎え撃つが、シルバースターは恐るべき敏捷性でこれを縫うように回避しつつ迫る。
だが、そんなシルバースターの動きを先読みした仁がこれを阻み、弾き返す!
「邪魔をしやがってェ……!」
「さんざんじゃれ合ったからなァ……もうお前の動きは先の先まで読めるんだよ」
どんなにシルバースターが圧倒的な敏捷性を誇れども、動きが予測されている以上、攻撃にしろ回避しろ仁が一歩先を行く。そして仁の動きにけん制されて身動きがとれなくなったところを狙って、大我がすかさず砲撃を加えていく。当然、仁はそれに巻き込まれるようなヘマは犯さない。一度は激突した二人ではあったが、事ここに至ってそのコンビネーションは完璧であった。
「グルルル……こんな、こんなバカなことが……!」
ここに来てその動きの全てを完封されたシルバースターの精神的動揺は大きい。なまじ知能を獲得してしまったことが、彼に尊大なプライドと、それを突き崩された時の脆さを与えてしまったのだ。そしてそんな弱点につけこむように、仁の格闘が、大我の砲撃が、シルバースターを追い立てていく。――――――もはや趨勢は完全に決した。
「くたばりやがれ……ケダモノ野郎」
ドライバーのレバーを操作し、エネルギーを全身の火器に充填していく。必殺技の発動準備だ。度重なる砲撃を喰らい続けたシルバースターに、もはやこれを回避するだけの体力など残されてはいない。
「ニンゲン如きにこの俺が……くそったれがあぁあァアアアアアアアア!!」
『BANG BANG CRITICAL FIRE!』
屈辱のあまり絶叫するシルバースターめがけて、大我の身にまとう全砲が一斉に火を噴く。荒れ果てた荒野に巨大な爆炎が巻き起こり、シルバースターは大我の宣言通り消し炭も残さず吹き飛ばされた。
『GAME CLEAR!』
電子音のファンファーレと共に、
「悠!」
待っていた駆除班の面々が、倒れ伏す悠のもとへ駆け寄り声をかける。意識を失った彼から返事は無かったが、規則正しい寝息が、彼の回復を無言のうちに告げていた。
「よかった……治ったんだね、水澤クン!」
「ったく、手間かけさせやがって……」
マモルが泣いて喜びながら、意識の無い悠に飛びつく。その隣で悪態をつく望も、その口元には優しい笑みが浮かんでいた。
「……あんたらに、礼を言わなくっちゃならねぇな」
「俺は野座間製薬に依頼されただけだ。……気にしなくていい」
「そうか……ま、ありがとな」
頭を下げる志藤に、ぶっきらぼうに応対する大我。すると志藤もまた何かを察し、やれやれとため息をついた。
そうして状況が落ち着くと、ここから撤収すべく三崎が悠を背負ってバンへと向かって行った。他の班員も、それを支えるようにして付き添う。これから彼は野座間製薬での検査を経た後、また彼らと共に戦う日々へ戻っていくのだろう。
「良かったのかよ、あいつを見送って」
変身を解除した大我が、仁を睨みながら問いかける。悠を殺すと宣言したあの言葉が、大我には嘘とは思えなかった。
「ああ……ま、元々アイツは積極的に殺さなきゃいけないほど危険度は高くない。泳がせておいた方が好都合だしな」
〈アマゾンズドライバー〉を外して変身を解除した仁が、口元に笑みを浮かべながら大我の問いかけに応じる。だがその笑みとは裏腹に、瞳はあまりにも獰猛な光を湛えていた。
「……って、あんたさっきのホームレス!?」
「おう、また会ったな。……てか、お前のツレかよそのガキンチョ」
だが、ニコの登場で獰猛な光は引っ込み、後にはただの男だけが残る。
「……まぁな」
「年下の恋人ってのは、年上だと思って接すると上手くいくぜ。……ま、俺も七羽さんとは今ケンカ中だけどさ」
「……お前の恋愛事情は知ったこっちゃねぇが、コイツと俺はそういう関係じゃない」
「そうそう。患者と主治医の関係だから」
「ま、忠告はしたぜ。……じゃあな」
それだけ言い残すと、仁は気だるげに手をひらひら振って大我とニコに背を向けた。シルバースターから受けた傷が痛むのかその足取りはおぼつかないが、去っていく彼の背中が、大我には「心配無用」と語っているような気がした。
「……じゃあ、あたしたちも帰ろ」
「……そうだな」
傷が痛むのは、大我とて同じこと。大我はニコの肩を借りつつ、その場から歩みだす。
廃工場の破れた屋根の隙間から射す月光が、寄り添う二人の影を作り出していた。