スナイプvsアマゾンアルファ ―狩人ノ哀歌―   作:さかきばら けいゆう

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第二話 発症

 寒さがピークを過ぎ、春に向けて徐々に暖かくなってきたこの時期に珍しく、今日はとても冷たい風が吹いていた。

 そんな気候の中でも、仕事であれば外出しなければならない。黒のVネックの上から黄色のストールを巻き、手提げカバンに商売道具を詰め込んで、花家大我は根城の廃病院を後にした。

 

 今回、非合法の闇医者として、大我はとある企業から直々に依頼を受けていた。

 ……野座間製薬。大手製薬会社であるこの企業は、かつて医師免許を持ち、大学病院で勤務していた頃から大我にもなじみ深い。

 そんな野座間が、まっとうな病院ではなく、わざわざ闇医者である自分を指名して来た。不穏な気配を感じるなと言う方が、無理な話だ。

 

「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」

 

 異様な雰囲気に包まれた野座間製薬の敷地内へ、花家大我は単身足を踏み入れた。

 

 

 ※※※

 

 

 警備員らの案内に従って社内の廊下で待つこと数十分。いい加減待ちくたびれて欠伸の漏れ始めた頃、今回の依頼人を名乗る女が現れた。

 

「お待たせしました、花家先生。私、水澤令華といいます」

 

 簡単に名乗りながら、その女は『特殊研究開発部長』という肩書の書かれた名刺を差し出してきた。大我はそれをぶっきらぼうに受け取り、名刺から女……水澤令華に視線を移す。

 短く切った髪や、冷静そのものといった表情、すらりと伸びた背筋……どれをとっても、まさに大企業の役員といった雰囲気だ。

 しかしただ一点、大我は妙に気になる部分があった。令華の、爬虫類じみて冷たいその眼差しである。

 

 闇医者として裏社会を生きて来た大我は、これまでカタギでない患者に数多く出会ってきた。暴力団の構成員や、不法滞在の外国人など、その多くはこの世の闇に生きる者たちだった。

 しかしそんな彼らでさえ、この水澤令華ほど冷たい眼差しを持ってはいなかったはずだ。

 ……凍り付くように冷たく、奈落の如く深い闇。

 そうした闇を孕む眼前の女に対する生理的な嫌悪感と不信感から、無意識的に大我はズボンのポケットに名刺を掴んだまま手を突っ込んだ。

 

「では早速、患者のところへ案内させて頂きます。どうぞこちらへ」

 

 電話で聞いた限りでは、原因不明の高熱に苦しむ患者を診てほしいという依頼だった。聞いた限りの症状だけで病状を判断できないが、場合によっては緊急オペも行わなければならない。手持ちの道具と野座間の設備でどこまでやれるかは分からないが、ともかく今は患者に集中する。水澤令華への本能的な苦手意識を、仕事への集中力で振り払い、大我は令華の後ろについて廊下を歩きだした。

 

 

 ※※※

 

 

 案内されたのは、薄暗い地下室だった。集中治療室めいた設備がそろえられたその部屋の中央に、機械群に繋がれた青年が苦しそうな呼気を漏らしながら横たえられている。

 令華は、彼を息子の水澤悠であると紹介し、大我に診察を乞う。大我は訝しげな態度を隠すことこそ無かったものの、ドクターとして患者の悠を診ることにした。

 

「……あ、あなたは……」

「あんたの母親に雇われた憐れな無免許医だ」

 

 近づいてみてみると、悠は病的なまでに整った顔立ちをした青年だった。また、彼には母親のような闇を感じない。むしろ、子どものように無垢な印象すら受ける。

 

「悠の容態は、どうでしょうか」

 

 背後から心配そうに水澤令華が尋ねて来る。あの女も、母親らしい情というものは持ち合わせているのだろうか。

 そんなことを考えながら悠の診察を黙々と続けていく中で、大我は悠の身体を蝕む病の正体に迫っていた。

 

「……なるほど。典型的なゲーム病の症状だ」

「ゲーム、病……?」

 

 大我の告知に、悠が首をかしげる。当然だ。衛生省の方針で、今のところ<バグスターウイルス>は世間に隠ぺいされている。大我は背後の令華をちらりと睨んでから、悠に病気の説明を始めた。

 やっと自分がここに呼ばれた理由が分かった。この水澤という女は、息子に感染したウイルスの調査をする中でゲーム病の存在に辿り着き、そのオペを行えるドクター……すなわち<仮面ライダー>を探していたのだ。

 野座間ほどの大企業なら、衛生省の隠ぺいをすり抜けて、財界筋から情報を得られても不思議じゃない。無論、それだけでは聖都大の<エグゼイド>達ではなく、闇医者の大我を指名した理由までは説明がつかないのだが。

 

「……まぁそういうわけで、ゲーム病は普通の薬じゃ治せない。オペでの切除を行うしかない」

「オペって……手術って、ことですか?」

「そうだ。だが安心しろ。あんたのバグスターは俺がぶっ潰してやる。すぐに回復できるさ……」

 

 そう言うと、大我は顎で令華に下がるように示した。

 今からゲームを開始するのに、ギャラリーは邪魔でしかない。

 

「悠は、助かりますか」

「当然だ」

 

 後ずさる令華を確認すると、大我は無造作にカバンから<ゲーマドライバー>を取り出して腰にあてがった。

 蛍光色で彩られた派手なそれは、瞬く間にベルトとなって大我の腹に巻き付く。ドライバーの装着が完了したところで、大我は次に<バンバンシューティング>の<ライダーガシャット>を取り出した。

 そして大我は、ガシャットを銃に見立てて水平に構えると、引き金を引くように起動スイッチを押した。

 

『バン! バン! シューティング!』

 

 軽快なゲームミュージックと共に、電子音声が流れる。すると陰気な地下室が、空間生成装置(エリアスプレッダー)から放出されたデータによって、瞬く間に特殊空間(ゲームエリア)に飲み込まれていった。

 大我の背後に、スタイリッシュなロゴで『BANG BANG SHOOTING』と書かれたゲームスタート画面がホログラムで生成される。

 目の前で起こる未知の出来事に、病も忘れて戸惑う悠。

 だが驚いたのもつかの間、悠の身体から大量の<バグスターウイルス>が溢れ出て、悠の身体を飲み込んでしまった。

 

「悠ッ!」

 

 突然の出来事に、声を荒げる令華。

 やがて<バグスターウイルス>は悠を飲み込んだまま、星のような模様を持つ、大きな豹の姿へと変化した。特殊空間(ゲームエリア)の発生に誘われて出て来たらしい。

 しかし大我は特に驚いた様子もなく、平然とガシャットをガンアクションのようにクルクルと弄びながら、<ゲーマドライバー>のスロット1に装填した。

 

「変身」

 

 ガシャットの装填と共に、大我の周囲を複数のホログラムが回転する。変身する<仮面ライダー>のセレクト画面だ。

 

『レッツゲーム! メッチャゲーム! ムッチャゲーム! ワッチャネーム!?』

 

 無論、大我が選ぶライダーは決まっている。それが正面に来たタイミングで、大我は指鉄砲の仕草を以てセレクト。すると選択された画面が大我の身体を透過し、瞬く間に彼の肢体を四頭身のヒーロー<仮面ライダースナイプ レベル1>へ変身させた。

 

『アイムア 仮面ライダー!』

 

「ミッション……開始」

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