スナイプvsアマゾンアルファ ―狩人ノ哀歌― 作:さかきばら けいゆう
「シャァアアァア……ッ!」
豹のバグスターは、大我の変身が完了するや否や、恐ろしい唸り声をあげて飛び掛かって来た。どうやら知性を持ったタイプのゲームキャラではなかったようだ。
だが、そんなバグスターの攻撃にも慌てることなく、大我は軽やかな身のこなしで襲撃を回避。データから召喚した<ガシャコンマグナム>で、着地の隙を狙う。
「ガウッ!」
マグナムから放たれた弾丸は、寸分の狂い無くバグスターへと直進。しかし、バグスターは空中で身体を捻り、振り向きざまの爪の一撃でこれを弾き飛ばした!
「やるな」
呟きながら、大我は左腰に装備したキメワザスロットホルダーを操作。
大我が選んだのは、波止場の
「ふんッ!」
大我は<ガシャコンマグナム>で弾幕をはり、バグスターを追い立てる。バグスターは豹のそれらしい機敏な動きでこれを回避するが、まったく<スナイプ>に近寄ることもできない。
そんな中、大我のはる弾幕の中に、僅かな綻びが生じた。マグナムを構える右手の死角……斜め左後方。バグスターは本能的にそれを察知すると、跳躍して<スナイプ>の背後へまわった。
「バーカ」
だが、それは大我の罠だ。弾幕の死角は、意図的に作り出されたキルゾーンだったのだ。
待ち構えていた大我は、バグスターの動きを先読みし、振り向きざまの早撃ちでこれを迎え撃つ。
「ギャウッ!?」
『HIT』のエフェクトが表示され、バグスターが怯む。大我は容赦することなく、そのままマグナムを撃ち続けた。
このままワンサイドゲームで終わらせてやる。
仮面の奥で勝利を確信した大我は、右手でマグナムを連射しつつ、両足を開いて力を込めた。跳躍の予備動作だ。
「ハァッ!」
気合いとともに飛び出した大我は、そのまま空中で高速回転。弾丸の如きエフェクトを纏って、一気にバグスターへ突っ込んだ!
「くたばりやが——————何!?」
しかし、その時異変が起きた。
それまでじっと弾丸の雨を耐えていたバグスターが、突如としてウイルス態に分解して悠の身体に引っ込んでしまったのだ。
このままでは、患者に大怪我を負わせてしまう。しかしもう技は発動してしまった。もう止めることなどできない。
大我の渾身の一撃が、無防備な悠に炸裂——————したかに見えた。
だがしかし、そうはならなかった。
「なッ……!」
<スナイプ>の体当たりを、水澤悠はなんと片手で受け止めたのである。
悠の片手は、奇妙にも緑色の硬質皮膚に覆われており、またその腕は、<スナイプ>の頭部を人間離れした握力でがっちりと掴んでいた。
「どういうことだ……!」
大我は悠の腕を振り払い、素早く後退した。今の悠は普通じゃない。いったい何が起きているのか、彼はまるで理解できなかった。
「グゥゥアアアアア!!」
だが、大我の理解など関係なく、事態はさらに加速する。
悠は地獄の底から響くような、恐ろしい唸り声をあげながら、全身から熱波と蒸気を噴出。その蒸気の中で、彼の身体は融解と硬化を繰り返し、変態していく。
やがて変態を終えると、そこには見るもおぞましい緑色の怪物になり果てた悠が四つん這いになって大我を睨みつけていた。
「何が、起きていやがるんだ……!」
水澤悠は、バグスターに肉体を乗っ取られたわけではない。さっきまで戦っていたあの豹が、バグスターのはずだ。
ならばコレはなんだ? バグスターではなく、水澤悠自身が変身しているとでも言うのか?
「ァァアアアアアア!!」
溢れる疑問に混乱をきたす大我へ、怪物化した悠が襲い掛かる。跳躍からの、強烈なストンピング……大我はなすすべもなく悠の一撃をくらい、地面に叩き伏せられた。
「ぐはッ……」
怪物化した悠は深紅の双眸を爛々と輝かせ、倒れた<スナイプ>へ追い打ちをかける。白黒の四頭身へ、爪と牙が次々食い込み、そのたびに<スナイプ>の<ライダーゲージ>が低下していった。
「クソが!」
悪態をつき、大我はマグナムのゼロ距離射撃で悠を強引に引き剥がす。すると大我は、今度は<ゲーマドライバー>のレバーを素早く開いた。
『ババンバン! バンババン! バン! バン! シューティング!』
電子音声とともにエフェクトが展開され、大我の姿が、黄色いマントを纏った等身大の戦士へと変化する。
〈仮面ライダースナイプ レベル2〉だ。
「やってやるよ……かかって来い!」
〈ガシャコンマグナム〉を再度構えなおし、レベルアップした大我は悠に狙いを定めて引き金を引いた。
「ガウゥウウ!!」
獣の雄たけびとともに、悠が〈スナイプ〉へ挑みかかる。全身にマグナムの弾丸をくらいながらも、その勢いはまるで衰える気配が無い。
大我は舌打ちしながら横っ飛びに悠の突進を回避すると、〈ガシャコンマグナム〉のAボタンを入力。するとマグナムの銃身が展開され、照準器を備えた長身のライフルモードへと変形した。
「狙い撃ちにしてやる!」
両足を狙撃して、動きを止める。
大我は比較的皮膚が柔らかそうな膝関節部へスコープで狙いを定め、容赦なく弾丸を撃ち込んだ。
「ヴァッ!?」
『HIT』のエフェクトと共に悠が前のめりに倒れる。受け身も取れず地べたに顔面を強打したところを見るに、大我の戦術は悠にとっても予想外だったようだ。
「いい加減、大人しくしてもらおうか……!」
このチャンスを逃すわけにはいかない。大我はライダーガシャットを〈ガシャコンマグナム〉に差し換え、必殺技の発動準備に移行した。
『BANG BANG CRITICAL FINISH!』
稲妻のようなエフェクトが収束し、〈ガシャコンマグナム〉にエネルギーが充填されていく。
そしてエネルギーが最高潮に達したその瞬間、大我は狙いすました必殺の一撃を撃ち放った。
「ガゥゥウッ!」
だが、必殺の弾丸が放たれるその刹那、なんと悠は全身のバネを使って倒立。さらにそこから腕を使って跳躍し、殺到する〈CRITICAL FINISH〉を紙一重で回避した!
「馬鹿な!」
驚愕に凍り付く大我。そしてその硬直を狙い、空中に飛び上がった悠が勢いに任せて爪を振り下ろす!
「ぐあぁああ——————!?」
頭部ユニットの〈SNヘッド-STG2〉が砕け散り、胸部装甲〈メックライフガード〉がズタズタに引き裂かれる。重篤なダメージは、〈スナイプ〉の装備を貫通して大我自身にも届いていた。
『ガッシューン!』
〈ライダーゲージ〉の急激な低下が安全装置を作動させ、大我の腹から〈ゲーマドライバー〉が強制排除される。展開されていた
「悠!」
地下室で待っていた令華の眼前に、怪物——————アマゾン態へと変貌した悠が現れる。
すると悠は、母の声を受けてハッとしたような素振りを見せ、その直後急激に頭を押さえて蹲ってしまった。
「ウゥ、グウゥゥウ……!」
「どうしたの悠、苦しいの?」
額から流血して倒れている大我そっちのけで、令華が苦しむ悠へと駆け寄る。
ところが、令華が悠へ触れようとしたその瞬間、悠は突然跳びあがり、地下室の天井を突き破って逃走した。
「待ちなさい! 悠! ハルカァアア!!」
狂気の滲んだ絶叫をあげ、令華は息子が跳び出した天上の穴を血走った目で見上げる。そしてすぐに追いかけようと地下室から出ていこうとしたその時、倒れていた大我がムクリと起き上がった。
「おい、待ちやがれ……! アレはいったい何だ! お前の息子は……人間なのか!?」
「……あなたに説明する必要はありません。それよりも、あなたにはこうなった責任を取ってもらいます」
一切の質問、反論を許さない、威圧的な態度を以て冷徹に大我の言葉をはねつけると、令華はそのまま地下室を足早に退室する。そして大我もまた、血を袖で拭いながらヨロヨロと立ち上がった。
「ったく……どうなってやがんだ」