スナイプvsアマゾンアルファ ―狩人ノ哀歌― 作:さかきばら けいゆう
「……で、まぁなんやかんやあって逃げ出した患者が、恐らくこの辺りにいるって話だ。コレが写真な」
「ふーん。結構カワイイ顔してんじゃん。モデル?」
「いや、いいとこのお坊ちゃんだ。訳アリだけどな」
「まぁそうだろうね。大我を頼って来る患者が、普通なワケないか」
車の行き交う大通り沿いの歩道を、白髪交じりの青年とやや派手めなコーデの少女が会話しながら連れ歩く。果たして、花家大我と西馬ニコである。
傍から見れば年の離れた兄と妹にも見えるが、当然二人に血縁関係など無い。恋人同士というわけでもないし、仕事仲間と言うのも違う。じゃあ何なのかと問われても、それは当事者である大我にもニコにも一口には説明し辛いものだった。
だが、人と人の関係性というのは、本質的には言葉で説明のつかないものかもしれない、とニコは思う。友達だと家族だの恋人だのと類型に当てはめることはできても、その言葉の中身は千差万別だ。「言葉」という普遍的な表現と、その中に込められたそれぞれの意味や、そこから参酌できる認識というものは多かれ少なかれギャップがある。なら、このぶっきらぼうで不器用な闇医者と自分の関係は、別に今すぐ言葉にしなくてもいい。敢えて表現するならば、「主治医と患者」。今はそれで充分だろう……。
自分を庇って車道側を歩く主治医の顔を、キャップのつばの影からしげしげと見上げながら、西葉ニコはぼんやりとそんなことを考えていた。
「おい、何見てんだ。俺の顔に何かついてるか?」
「べっつに~。いつもながらくたびれた顔してるなって。ちゃんと寝てる?」
「……余計なお世話だ」
西馬ニコは知っている。夜中、大我が時々悪夢にうなされて跳び起きていることを。
だが、言わない。患者の前で必死にやせ我慢しているこの主治医に、そんな無粋なことなど言えるはずもない。
「ま、いいけどね。じゃああたしはあっち探してくるから」
「ああ……って、ゲーセンじゃねぇか。単におめぇが行きてえだけだろ」
「いいじゃん。ミズサワハルカくんだっけ? 案外こういうところにいるかもしんないでしょ?」
「チッ……勝手にしろ」
許可するや否や、ニコはじゃねーっと手をぶんぶん振りながらゲーセンへ突っ込んでいった。
まったくゲームバカにもほどがある……。やれやれとため息をつきつつも、しかし大我はどこか安心していた。
「もしニコがアイツに遭遇でもしたら、あぶねえってレベルじゃねえからな」
水澤悠。彼の正体についてとうとう令華が口を割ることは無かったが、あれは間違いなくヒトではない。
正規のドクターであるエグゼイドたちではなく、闇医者である大我に白羽の矢が立ったのがいい証拠だ。
「……だとしたら、何だって言うんだ」
人間じゃないから治せませんとは言えない。だが、あんな怪物を果たして本当に救っていいのか。
命を無差別に救うのは、決していい結果ばかりもたらすわけじゃない。世の中には、死んだ方がいいような連中もゴロゴロいる。
当然、そんなことを悩むのはドクターとして間違っている。だが生憎と、今の大我は医師免許を持たない闇医者なのだ。
「……アイツなら、それでも治しちまうんだろうけどな」
仮面ライダーエグゼイド……
だがドクター失格の自分は、もうそんな倫理観に縛られる必要はない。いっそ水澤令華との契約を破棄してしまえば、こんなことに悩まずに済む。
……考えるまでもないことだ。なのになぜ、自分はニコまで巻き込んで患者を探しているのか。
冬の終わりを惜しむように、冷たい風が街を吹き抜ける。
いつまでも赤のままの歩行者用信号機をぼんやりと見つめながら、大我は冷たい街並みの中でぐるぐるとした思考迷路に迷い込んでいった。
※※※
一方、ゲームセンターにやって来たニコは、そこでちょっとした面倒ごとに巻き込まれていた。
「なんだよ姉ちゃん。今オレらとこいつらで話してんだよ」
「子どもに手ぇあげといて『話』も何もねぇだろ。弱いものいじめとかチョーダサいんですけど」
「ンだとこのガキィ!」
西馬ニコは基本的にワガママな自由人だが、仁義にもとる行いに対して怒りを覚えるだけの倫理観は持っている。
ゲームセンターで理不尽な理由からケンカをふっかけられている子どもがいれば助けてやるし、逆に子どもをよってたかっていじめるような輩には逆にケンカをふっかけてやるだけの鼻っ柱の強さもある。
しかし生憎と今回は多勢に無勢だった。本来仲裁に入るはずの店員たちもすっかり萎縮してしまっている。
「えぐっ……ごめん、なさい……」
「謝んなよイユ! 俺ら何も悪くねーじゃんか」
小学6年生くらいの男の子と女の子が、寄り添うようにしてニコの後ろで萎縮している。きっと少ない小遣いで遊びに来たのだろう。そういう経験はニコにもある。それだけに、ただゲームを楽しみに来た彼らの純真な気持ちを、こんな卑劣な連中に穢されてるのは我慢ならない。そんな怒りが、ニコの心にカッと熱い火を灯した。
「ここじゃ店の迷惑になる。表に出な」
くいっと顎で不良どもを促し、店外へと歩を進める。これで少なくとも、あの子どもたちを窮地から救うことはできただろう。
誘われるがままノコノコと付いてきた間抜けどもに一瞥をくれてやると、ニコは軽蔑の感情を隠そうともしない高圧的な笑みを浮かべた。
「よーく付いてきたなボンクラども。天才ゲーマーNこと、このニコちゃんが相手してやっからありがたく思えよな!」
「何言ってんだこのガキ」
「ニコちゃん(*´Д`)ハァハァ」
「ちょっとばかしカワイイからって調子こいてんじゃねぇぞ!」
約一名、だいぶヤバそうな奴もいるけど問題ない。さぁ、ゲームスタートだ!
ニコは決断とともに、勢いよく回れ右をして、そのまま全力で走り出した。
「ベロベロブワァアア~~! 悔しかったらここまでおいでー!」
「あっ逃げだぞ!」
「ニコちゃん待って(*´Д`)」
「追いかけろー!」
つかず離れず、程よい距離を維持したまま鬼ごっこを続ける。目指すは交番。捕まらずにゴールできればゲームクリアだ。
そんな思惑を知らず追いかけて来る不良どもを振り返りながら、ニコはしめしめといたずらっぽく笑った。ゲームの敵キャラの方が、まだ賢いだろうに。バカな連中もいるものだ。
だがしかし、そんなニコの余裕も、走っているうちに徐々に萎え始めていた。
——————そういえば、交番がどこにあるか知らない!
完全に誤算だった。適当に走っていれば交番くらいどこかにあると思ったのだ。だが走れば走るほどよく分からない道に迷い込み、いつの間にやらニコは人通りのまるでない、薄暗い路地裏へと追い込まれてしまっていた。
「ケケケ……誘導されていたとも知らず、バカなガキだぜ」
「もう逃げられないね……///」
「ぶっ殺してやるぁ!」
完全に袋小路。もう逃げ場なんて無い。
ニコは周囲をぐるりと見渡し、何かこの状況を打開できそうなモノを探した。
エアコンの室外機、湿ったダンボール、ボロボロの箱型テレビ、寝ころんだおっさん、ビニルテープで縛られた雑誌類……ん、おっさん?
「……」
ニコも、不良たちも、みんなそのおっさんに注目していた。ホームレスだろうか。しかし身なりはそれほど薄汚れているわけでもない。清潔な印象こそ無いが、整えられたヒゲや、前髪に入れられた金のメッシュなどは、この男なりに身だしなみに気を遣っている証拠だ。
「……え、何? 俺?」
流石に視線に耐えかねたのか、ホームレス(仮)がむくりと起き上がってニコたちに声をかける。
……なんだかダメな人っぽいな、とニコは思った。