スナイプvsアマゾンアルファ ―狩人ノ哀歌―   作:さかきばら けいゆう

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第七話 白衣

 落下した二匹の<アマゾン>は、偶然にも搬入口から顔を出していたトラックの荷台に落下した。

 凄まじい音が鳴り響き、荷台の天井がへしゃげる。だが、爆音で音楽をかけている運転手がその異変に気付くことは無かった。

 

「イテテ……」

 

 ショッピングセンターからトラックが遠ざかっていく中、先に戦闘態勢に復帰したのは仁だった。全身が痛みでマヒし、ビリビリとした感覚が触覚を支配するが、それは狩りを中断する理由にはならない。

 そして悠もやはり、荷台の上で四足獣の如き構えをとりつつ起き上がった。ここからは第二ラウンドということらしい。

 

「いいぜ……来な!」

 

 先ほどまでとは違い、今は走行中のトラックの荷台。先ほど仁を翻弄したヒットアンドアウェイはもう使えない。限られたスペースでバランスをとりつつの戦闘……状況は、仁にとって優位であると言えるだろう。

 だが、そのようなアドバンテージ計算ができるほど、今の悠に理性は残されていない。あるのはただ、目の前の敵に対する獰猛な闘争本能だけだ。

 

「ヴァウゥ―――!」

 

 仁の挑発に応え、悠が両手を振り上げ組み付く。だが、単純な腕力比べなら<アマゾンズドライバー>による強化が付与された仁に分がある。最初こそ勢いに勝る悠が仁を組み伏せかけたが、次第に仁の馬力によってねじ伏せられていった。

 

「グルァア!」

 

 だが次の瞬間、悠は口を大きく開いて仁の肩にかぶりついた! 力比べに応じるあまり、身動きがとれなくなっていた仁は、その噛みつき攻撃を甘んじて受け入れる他ない!

 

「ぐあぁあ……!?」

 

 あまりの激痛に、たまらず仁も呻き声をあげた。メキメキと音を立てて悠の牙が仁の硬化皮膚を突き破り、骨身に達していく。

 状況を覆すべく、仁は組み付いた腕を強引に振りほどき、悠のみぞおちを強打! しかし、尚も悠はも噛みついて離れようとしない。

 

「クッ……!」

 

 生まれつきの<アマゾン>ではない仁に、悠ほどの獰猛性も本能も無い。悠の示す恐るべき闘争本能に、理解しがたい不気味さを覚えたのは無理からぬことだ。

 困惑、そして恐怖。眼前の猛獣に対し、仁の精神が揺らぎかける。

 だがしかし。鷹山仁の<アマゾン>に対する殺意と執念が、その程度の揺らぎで消え去るような代物であるはずがない。

 

「らぁあああ!」

 

 狂気じみた殺意に濁った雄たけびとともに、仁は二発目、三発目の拳を悠のみぞおちに叩き込んだ。屋上で撃ち込んだアッパーカットの比ではない、痛烈な打撃が悠の内蔵に深刻なダメージを刻みつける!

 

「グゥウアアァ……!?」

 

 猛烈なボディーブローの連打に、たまらず悠が仁から離れる。そしてその瞬間、彼らを乗せたトラックが急な曲がり角に差し掛かった!

 

「うっ!」

 

 カーブを描くトラックの上で、傷を負った二匹の<アマゾン>がバランスを乱され、たたらを踏む。特に内臓ダメージの深刻な悠は立っていられず、そのままふらふらと倒れ込んだ。

 ショッピングモールから出発して数分、街を離れたトラックは、水路上に架けられた小さな橋へさしかかる最中だ。このまま街の外へ悠を運ばれるわけにはいかない。仁は一瞬で状況を認識すると、痛みに怯んで硬直した悠を、サッカーボールのように蹴り飛ばした!

 

「ギャッ!」

 

 トラックの荷台から落下し、水路へ真っ逆さまに落ちていく悠。仁もまた、これを追って荷台から跳躍した。

 

 

 ※※※

 

 

 時はやや遡り、ここは街の中。水澤悠を探し歩いていたはずの花家大我は、しかし捜索もせずに独り歩道橋の上で黄昏ていた。

 水澤悠とは何者なのか。野座間製薬は何を隠しているのか。

 こういった社会の闇に不用意に触れることは得策ではないということは、大我自身よく分かっている。だが、そうしたものに目をつぶり、ただ漫然と仕事をこなせるほど花家大我は器用になれない。本来の彼は、生真面目で融通の利かないほど良識的な人物なのだ。無自覚のまま悪行の片棒を担がされるなど、彼のプライドが許さない。

 

「……俺は……」

 

 歩道橋の手すりにもたれかかり、苦悩を孕んだ眼差しを眼下の道路に向ける。行き交う人々の多くが、世間の闇に蠢く正体不明の怪物や病魔の真実を知らぬまま、ただ当たり前の毎日を謳歌している。彼らの人生を守るため、全てを投げうち孤独に戦う道を選んだ大我にとって、この光景は理想であり、また重圧でもあった。

 

 だがその時、その光景にあってはならないモノが現れた。

 

「な!?」

 

 足元を通過していくトラックの荷台で、血のように赤い怪物と、くすんだ緑色の怪物とが組み合っているではないか!

 そして大我は、後者に強い既視感を覚える。ゲーム病を発症し、正気を失って変貌した水澤悠である!

 

「くそったれ! 街中で無茶苦茶しやがって……しかももう一匹だと!?」

 

 悪態をつきながら、大我は大急ぎで歩道橋から駆け下り、走り去るトラックを追う。だが人間の走力でトラックに追いつけるはずもない。さらに運の悪いことに、トラックは信号にかかることなくスイスイと進んでいってしまう。このままでは見失うのも時間の問題だ。

 

「だったら……!」

 

 走って追いつけぬなら空を行くまでだ。

 大我は人目に付かぬよう一旦路地裏に駆け込むと、ポケットの中から<ジェットコンバット>のガシャットを取り出して起動した。

 

『ジェットコンバット!』

 

 軽快なサウンドとともに、背後に『JET COMBAT』と表示されたホログラムが現れる。そしてそのホログラムから、ジェット機を彷彿とさせるオレンジ色のゲームキャラ<コンバットゲーマ>が飛び出した!

 

「連れていけ!」

 

 召喚された<コンバットゲーマ>の足に捕まり、大我が命令を下す。すると<コンバットゲーマ>は小さなボディからは信じられないような圧倒的パワーで大我ごと空中高く舞い上がり、悠を乗せて地上を走るトラックを探し始めた。

 

「あれだ……!」

 

 やがてトラックを発見した大我は、そのまま<コンバットゲーマ>に指示してトラックを空から追跡した。車上で行われる二匹の怪物の戦闘を観察する限り、どうやら悠の方が劣勢らしい。このままいけばあの赤い方の怪物に悠は殺されるだろう。介入するタイミングを上空から狙いつつ、大我は慎重に高度を下げていく。

 だが、急ぐ大我を置き去りに、戦況が大きく変化した。悠がとうとう車上から蹴り落とされたのだ。

 

「くっ……ド派手に暴れやがって!」

 

 悠が落下したのは人工的に作られた街の水路だ。悠と、そしてそれを追って飛び降りた赤い怪物が、水路で再びにらみ合っている。だが、上空の大我から見ても悠の劣勢は明らかだ。もはや悠に抵抗する余力は残されていない。

 ……ならば、どうする? 大我の脳裏に、再び疑問がよぎる。がむしゃらに追いかけて来たはいいが、まだ悠を助けると決めたわけではない。大我の理性が「行くな」と叫ぶ。

 

 ―――だが、それでも。例え救うべきではない命なのだとしても。

 水澤悠はゲーム病に苦しむ患者なのだ。

 目の前で消えていこうとしている命を見捨てることなど、どうしてできようか?

 免許をはく奪された自分が今さらドクターぶっても、滑稽だということは充分承知している。

 しかし、一度は白衣に袖を通した者として、救える命を見捨てる判断だけは、大我の正義(プライド)が許すはずも無かった。

 

「患者が何者だろうと関係ねぇ……お医者さんごっこで結構だ。だがな……」

 

 意を決し、<コンバットゲーマ>から手を放す。そして大我は、地表へ向かって自由落下していくその真っ只中で、腰に巻いた<ゲーマドライバー>に二本の<ライダーガシャット>を挿入し、決意を込めてレバーを開放した。

 

『ガッチャーン! レベルアーップ!』

 

 ……この決断を、後悔する予感はある。だとしても、花家大我に選べる道など一つしかなかった。

 

「そいつを死なせるわけには、いかねぇんだよ! 変身ッ!」

 

 ホログラムが大我の身体に装備を与え、旋回していた<コンバットゲーマ>がその上から覆いかぶさるようにして展開していく。そして地表に激突するギリギリのタイミングで、ディープブルーのボディにオレンジ色の飛行ユニットを装備した<仮面ライダースナイプ レベル3>への変身が完了した。

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