スナイプvsアマゾンアルファ ―狩人ノ哀歌―   作:さかきばら けいゆう

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第八話 激突

「なんだこいつ……!?」

 

 仁の驚愕も無理はない。悠をあと一歩で追い詰めたまさにその時、突如空から不可思議な武装に身を包んだ何者かが現れたのである。

 そしてその何者かは、驚く仁めがけて背中から展開した二門のガトリング砲<ガトリングコンバット〉を撃ち放った。毎分5,400発もの発射速度で、無数の炸裂光弾が空から仁を襲う。あれを食らえば、いかに<アマゾンズドライバー>によって強化された仁の身体とて無事では済まない! 仁は悠への攻撃を中断し、全速力で水路を走る。今はとにかく、この弾丸の雨から逃れねばならない。

 

「うぉぉおお!」

 

 仁から僅かに離れた地点で、着弾したおびただしい量の炸裂光弾が、次々と飛沫をあげていく。当然、仁がこれまで戦ってきた<アマゾン>の中にこのような凶暴極まりない武器を持ち出してくる個体はいなかった。仁は驚愕と恐怖を押し殺すように叫び声をあげながら、水路の曲がり角へ跳びこみ、間一髪で危機を逃れることに成功した。

 

「はぁ、はぁ……いきなりなんつーもんぶっぱなしやがる」

「てめーが俺の患者に手ぇ出すからだろうが。バケモンが」

 

 背中のジェットでホバリングしながら、ガトリングを構えたその男がぶっきらぼうに吐き捨てる。ディープブルーにイエローの迷彩模様が入った装備に身を包むその男の口ぶりは、まるでドクターだ。

 だが、仁はそんな男の正体に心当たりがあった。

 

「患者……? ああ、知ってるぜ。お前、噂の<仮面ライダー>ってやつだろ」

「ほーう……話が早いじゃねーか」

「こういうヤバい世界に足突っ込んでると、そういう噂話はよく聞くんでな。ってことは、悠は<ゲーム病>か」

 

 深紅の怪物の、思いがけない饒舌な語り口に、大我は一瞬だけ戸惑った。悠と違い、この怪物はかなり冷静だ。

 

「そういうてめーは何モンだよ。野座間製薬の関係者か?」

 

 ガトリングを油断なく構えたまま、探りを入れていく。向こうと違って大我は事情を何も知らないのだ。

 

「それをお前に説明するメリットは無いな。第一、人にものを聞く態度じゃねーだろ。それ下ろせそれ」

 

 角から僅かに顔をのぞかせて、仁は大我のガトリングを顎で指した。

 もちろん大我とて無駄な殺生を望んでいるわけでもない。「いいだろう」と小さく呟いて、大我は<ガトリングコンバット>から手を離した。

 

「質問に答えろバケモン。てめーは何者だ?」

「言ったろ。それをお前に説明するメリットは無い」

「テメェ……おちょくってんのか!」

「カリカリすんなって。まぁ今日はもう帰れ。悠のことは、あとは俺がやっとくからよ」

 

 ……ここで帰れば間違いなく悠はこの怪物に殺される。言葉以上に、怪物の放つ殺気が物語っている。

 

「……殺しにかかってるようにしか、見えなかったけどな?」

「当然だろ。<アマゾン>は全部殺す。病気持ちの<アマゾン>なんざ、猶更だ」

「お前もその<アマゾン>ってやつなんじゃねぇのかよ」

「そうだよ」

「イカれてやがる」

「そりゃどーも!」

 

 ――――――その瞬間。

 仁が間の抜けた声で答えると同時に、大我の視界が飛沫で埋め尽くされた。

 

「目つぶしか!?」

 

 この水路には、大人の膝まで水かさがある。それを思い切り蹴りとばせば、このくらいの芸当はできるだろう。不用意にガトリングの照準を解いたのは、迂闊だったとしか言いようがない。

 だが、そんな自身の過ちを後悔する暇もなく、大我は次の瞬間、凄まじい衝撃に晒された。

 

「ぐあッ!?」

 

 突然にバランスが崩れ、天地がひっくり返る。

 手足をばたつかせるがどうにもならず、大我は前後不覚のまま水路に頭から叩き落された。

 

「ま、そういうわけだから邪魔すんなよドクター」

 

 いつの間にやら背後に回り込んでいた赤い<アマゾン>が、挑発的に吐き捨てる。慌てて大我が体制を整えると、<アマゾン>は既に倒れ伏す悠の方へと歩を進めていた。

 

「てめぇ待ちやが……何ッ!?」

 

 無防備な背中を狙ってガトリングの引き金を引くが、まったく反応がない。よく見ると、ガトリングの砲身は途中で完全に切断されていた。

 それだけではない。上半身に装備した飛行ユニット類が、ことごとく破壊されている。あの一瞬でこの<アマゾン>は、こちらの装備のほとんどを破壊し尽くしていたのだ。

 

「野郎……!」

 

 こうなっては装備が却って邪魔になる。<ジェットコンバット>を<ゲーマドライバー>から引き抜いて<レベル2>にレベルダウンさせ、大我は破損した装備を消滅させる。そして新たに召喚した<ガシャコンマグナム>を構え直し、もう一度赤い<アマゾン>めがけて発砲!

 

「……てめぇ」

 

 背中の頑強な硬質皮膚で弾丸を受け止めた仁が、低く唸りながら振り返る。鮮やかな緑色に染まった瞳に、仄暗い敵意が揺らめいた。

 しかし、大我は怯むことなく引き金を引く。この敵を倒さなければ、患者のオペを行うこともできないのだ。だが、そんな大我の覚悟を込めた一射を、眼前の赤い<アマゾン>は腕から生えた鋭いヒレ状のカッターで弾き飛ばした。

 

「ったく」

 

 呟くとともに、仁が大我に襲い掛かる。そのスピードは、これまで大我が対決して来たどの<バグスター>をも凌駕している。

 捉えきれぬほどのスピードで繰り出されたその蹴りを胸部装甲<メックライフガード>にくらい、大我は再び転倒させられた。

 

「ぐっ……うおぉ―――!」

 

 だが、大我の心は折れない。激情を力に変えて立ち上がり、彼は仁に再度挑みかかった。動くたびに飛び散る飛沫が、さながら彼の闘志を反映しているかのように激しく舞い散る。

 繰り出す拳を、蹴りを、何度となく弾かれ、捌かれてもなお、大我の心は揺るがない。それどころか、よりその動きは鋭く、強く、しなやかになっていく。

 

 ……実際、仁が大我を仕留められる機会は何度もあった。それを敢えて逃したのは、仁が己に課した「人間は殺さない」という誓約があるからだ。

 だが、どんなに痛めつけても装備を破壊しても、この男は諦めない。それどころか、その動きは洗練されていくばかりで、一向に弱る兆しが見えない。このまま時間をかけていれば、むしろ追いつめられるのはこちらかもしれない―――仁の脳裏に、危険信号が灯ったのは、無理からぬことであった。

 

 ……ならば、締め落して意識を奪う。

 そう決断を下した仁は、素早く足払いをかけて大我を転倒させると、そこへ倒れ込みながらのエルボーを叩き込んだ。

 

「がっは……!」

 

 腹部を襲う猛烈なダメージに、大我はたまらず悶絶。仁はその一瞬を逃さず、大我が纏うマントの襟を、腕をクロスさせた状態で掴みかかった。そして仁は、そのまま前腕部を大我の首へ押し込むようにして締め上げる。柔道における締技の一つ……〈十字締〉である!

 

「グッ……ゴ……!」

 

 もがき苦しみながらも、幾度となく大我は拘束を解こうと暴れる。しかし、仁の仕掛けた十字締は完璧に決まっており、どんなに力を込めても外すことは不可能だ。さらに現在、仁によって完全に組み伏せられた彼の身体は、水路を流れる水の底に沈められた状態にある。水の重さと仁の締技、その両方からかかる負荷が、ライダーの力と意思をみるみる削いでいく。

 

 ――――――俺は、負けるわけには――――――

 

 声にならない叫び。だが、大我の意識はもはや限界に近付いている。

 その状態で数秒硬直した後、水上から自身を見下ろす緑の双眸を睨みながら、大我はついにその意識を手放した。

 

「……ふう」

 

 変身者の意識喪失に呼応して、変身が解除されるのを確認した後、仁は締技を解いて大きくため息をつきながら、大我の身体を水路の壁にもたれさせた。これで、気絶したまま溺死することもないだろう。

 かくて鷹山仁は、辛くも<仮面ライダー>……花家大我の襲撃を退けたのだった。

 

「さて、あとはお前だ……け?」

 

 しかしながら、仁は時間をかけすぎた。

 大我と戦い、これを倒すまでの間は―――

 

「あいつ……どこ行きやがった?」

 

 ―――悠が逃走するのに十分すぎるほどの猶予だったと、言わざるを得ない。

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