魔法少女と亡国の虎   作:顔芸の帝王

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第三幕 出会い

常磐色の目を持つフェレット、ユーノ・スクライアは、助けを求めながら怪物の攻撃を避け続けていた。

 

「ギャァァァッ!」

「くっ…このままじゃ…」

 

しかし、相手は元より自分よりも格上。そんな敵を相手に負傷したユーノがいつまでも攻撃を避け続けられる訳がなく、動きはどんどん鈍くなってゆく。

 

「はぁ…はぁ…もう少し…もう少しすれば誰かが…」

 

そう思いユーノが僅かに動きを止めた瞬間、敵の触手が上空から降り注いで来る。

 

「ガァァァァァァァッ!」

「しまっ…!」

 

もう避けられない。死を覚悟し地に伏せるユーノだったが、予想していた体の痛みはいつまでも来ない。恐る恐る上を見上げると、そこには───

 

「ぐっ…ぬうう……」

 

なんと、鉄パイプを持った男が攻撃を払い除けていた。それだけではない。奥からは先程自分を拾い上げた少女がこちらに走って来ていた。

 

「あっ…!あなたは夕方に会った…」

「おお…お主は…」

 

意外な形での再開に思わず顔を見合わせる二人だったが、悠長に会話などしている場合ではない。今はこの状況をなんとか打破しなければならなかった。

 

「お二人は…もしかして助けに……」

「わあっ!しゃ、喋れたの…?」

「…儂はもうその程度では驚かんぞ。それよりもお主、良い所に来た!急いでこの鼬を連れて逃げるのだ!」

「えっ…でもあなたは…」

「…この物怪は儂が引き受ける!」

「そ、そんな!いくらなんでも───」

「グォォォォッ!」

 

怪物が勝頼を狙い再び触手を突き立てる。その勢いは凄まじく、狙われていないはずのなのは達も吹き飛ばされてしまう。

 

「いたたた…」

「あの!大丈夫!?」

「う、うん…そうだ!あの人は…」

 

二人は慌てて男を探すと、土煙の中で怪物の攻撃を捌き続けていた。

 

「でぇりゃぁぁぁぁっ!」

(す、凄い…魔法無しであんな事を…でも、封印ができないんじゃどうしようも──

「あの…!私はどうすれば…?」

(…!そうだ…この人の魔力なら…)

 

「あの!少しだけ僕に力を貸してくれませんか?」

 

 

 

 

---

 

 

 

 

「でりゃあっ!はぁぁぁっ!」

 

怪物は四本の腕を自在に操り攻撃を繰り出すが、勝頼はそれらをことごとく弾き飛ばす。

 

「どうしたぁ!妖怪が人間一人に何を手こずっておる!貴様が優れておるのは図体だけか!」

「オォォォォォッ!」

 

挑発された事を理解したのか定かではないが、怪物は触手での攻撃を止め勝頼を押し潰そうと突っ込んで来る。

 

(よし…今が好機!)

 

そう確信した勝頼は怪物の突進に合わせ頭へ飛び付くと、思い切り上体を反らす。

 

「どぉぉぉっ!」

 

怪物が自らにしがみついた男の意図を理解した時にはもう遅い。勝頼は持っていた鉄パイプを逆手に持ち替えると、全身全霊の力で眼球に突き刺した。流石の怪物もこれには怯んだようで、悲痛な叫び声を上げながら悶え苦しむ。

 

「グォォォォ…!」

「よし、これなら奴とて無事ではいられまいて…!」

 

しかし、怪物は残ったもう一方の目で勝頼を睨みつける。その眼光はまだ怪物に戦意が残っている事を雄弁に語っていた。

 

(くっ…万事休すか…?)

「あのっ!そこを退いてください!」

 

 

勝ち筋を見失いかけたその時、なんと逃げたはずの少女が空から現れたのだ。その手に握られた杖からは神々しい桃色の光が放たれ、それがこの怪物を退治できる物だと、魔法を知らない勝頼も悟った。

 

「リリカルマジカル……ジュエルシード……封印っ!」

 

「グォォォォォォォォッ……」

 

 

 

少女の声と共に杖から放たれた光はあっという間に怪物を包み込むと、あのおぞましかった姿を小さな宝石に変えてしまう。

 

(儂は…夢を見ているのか…?)

 

この街に来てから散々驚かされてきた勝頼。次々に発生する自らの理解を超えた現象に思わず現実逃避に走りたくなる勝頼だったが、隣にいる少女の声がそれを許さない。

 

「あのっ!多分ここに居たらまずいですから…とりあえず近くの公園にでも行きましょう!」

「う、うむ。そうだな」

 

 

 

 

 

---

 

 

 

 

息を切らせながら近くの公園に逃げ込んだ一行。先程はなんとか勝利を収める事ができたが、魔法生物と初めての戦闘を繰り広げた二人の顔には疲労の色が見える。そんな様子を見たユーノの心には、改めて申し訳ない思いが湧き上がる。

 

 

「…すみません…お二人を巻き込んでしまって…」

「自ら好き好んで来たのだ。お主が気に病む事は無い」

「うん。私も大丈夫だよ。それより怪我は大丈夫?」

「それは平気です。お二人が助けに来てくれたおかげで、残った魔力を治療に回すことができました」

「あの…おじさんも大丈夫でしたか?凄く狙われてたみたいですけど…」

「ん…?あ、ああ。あの程度でどうにかなったりはせん。…それよりもお主らに聞きたいことがあるのだが…」

「は、はい。私に答えられる事なら…」

「一体此処はなんという地か?」

「え…?ここは海鳴市ですけど…?」

 

突拍子も無い質問にきょとんとするなのはだったが、男の方は大真面目な表情で考え込んでいる。

 

「海鳴…?聞いた事は無いが…日の本の地名と似ておるな…」

「日の本…?あの…ここは日本ですけど…」

「なんと!それは真か!ううむ…同じ日ノ本でありながらまさかここまで差があるとは…」

(ど、どういう事…?言ってる事とか服装はふざけてるようにしか思えないけど…嘘をついてる感じじゃないし……まさか)

 

しばらく考えた末、なのはは一つの仮説にたどり着く。それはまるで童話か何かのように浮世離れしていて、考えついたなのは自身も信じられなかったが、もし本当ならば今までの不可解な点にも合点がゆく。

 

「あの…私からも一つ聞いていいですか…?」

「…ああ」

「今って…何年か分かります…?」

「ん…今は確か天正十年だが…」

「………」

「…何を黙っておる」

「や、やっぱり…!あ、あの、本気で言ってますか?嘘じゃないですよね!?」

「このようなところで嘘をついてどうする」

「……あの、落ち着いてよく聞いてくださいね。今は───

 

 

 

 

 

---

 

 

 

 

 

 

「馬鹿な…いくらなんでもそのような事が…」

 

予想の斜め上を突いてきた現実に思わず打ちひしがれる勝頼。そんな様子を見て、初めは半信半疑だったなのはも確信した。この人は明らかにこの時代の人間ではないと。

 

「ねぇ、これもやっぱり魔法が関係してるのかな?」

「うーん…それは分からないけど、今までタイムスリップをしたなんて話は聞いた事がない…」

「そっか…」

「すみません、大して力になれなくて…」

「気にするでない。儂なら大丈夫だ」

 

口ではそう話す勝頼だったが、明らかに途方に暮れているといった様子だ。身を呈して自分達に協力してくれた人を助けたいという気持ちはあるものの、自分達の力ではどうすればよいのか分からなかった。

 

「さて…どこか寝床を探すとするか」

「えっ…でも…」

「案ずるな。野宿には慣れておる」

「…あの、もしよかったら私の家に来ませんか?ちょっと驚いちゃうかもしれないけど…お父さんもお母さん…きっと話せば分かってくれると思うし───

 

そこまで言ったところで、勝頼は微笑みながらなのはの頭にポンと手を置く。その手は大きく暖かく、どことなく父親の物と似ていた。

 

「ふっ…お主は優しいな。儂はその気持ちだけで十分だ。…では御免」

「あ……」

 

その背中はどこか悲しげで、なのはは自分が力になれなかったと思うとやるせない気持ちが湧き上がって来る。

 

(敗れたとはいえ儂も武士。子供に慈悲を請うような真似は──

「待ってください!」

「…!」

 

一度はこの場を去ろうと歩き始めたものの、なのはの大声に思わず振り向かされてしまう。それが単に驚いたのか、それとも何か別の理由があったのか分からないが、とにかく彼女の声に引き寄せられたことは事実だった。

 

「…私じゃ、大した事はできないかもしれないですけど、力になれるかもしれません。だから…もし遠慮しているなら──

「お主は…」

「えっ…」

「お主は何故そこまで儂を助けようとする?仮に助けたとてお主にとっては百害あって一利無し。お主の何が一体そうさせるのだ?」

「何故ってそれは…困ってそうだったから…」

「それだけか?」

「ええっ、他にですか?う、うーん…」

(……それだけ、か)

 

裏切りが絶えない世で生きてきた勝頼にとって、自分以外の者を、ましてや赤の他人をいきなり信用するなど愚の骨頂。だが、勝頼には彼女が愚か者だとは到底思えなかった。そんな中、勝頼の中にふと父の言葉が蘇った。

 

 

”人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり”

 

 

(そうか…儂が引き寄せられた理由、ようやく分かったわ)

 

 

「…しかし本当に良いのか?今の儂には返せる物などないぞ」

「そんなの…別にお礼が欲しい訳じゃないですから」

「…あいわかった。ではお主の言葉に甘えるとしようか」

 

 

勝頼がそう答えると、なのはは嬉しそうに笑みを浮かべたのだった。

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