ガンダム 鉄血のレコンギスタ   作:K-15

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第十話 クーデリアの決断

 コロニー内で発生した暴動は酷い物だった。デモ隊は各々が銃やライフルを手にしているが、鎮圧に動くギャラルホルンは充分な武器とモビルワーカーまで使用してくる。楯突く者には警告もなしに容赦なく撃ち殺す。

 賑やかだった街は一変して地獄絵図に早変わりし、アスファルトは血で染まり男達の死体が転がっている。

 イザリビのブリッジでこの様子を見ていたオルガは気が気ではない。

 

「チャド! ミカ達と連絡は取れねぇのか?」

 

「ダメだ、ギャラルホルンが通信制限してる。こっちからは動けねぇし、どうするオルガ?」

 

「クッ! このまま指を咥えて待つしかねぇのか? こっちから何人かコロニーの中に行くか。少しでも早く見付けられれば――」

 

『中は暴動になってるんでしょ? そんな中に飛び込むなんて自殺行為ですよ!?』

 

 ブリッジに通信が繋がる。モニターには赤いパイロットスーツを着用するベルリの姿が。

 

「だったらどうする? 悪いが部外者のお前にとやかく言われる筋合いはねぇ。仲間が危険に晒されてるんだ。俺一人でも――」

 

『その為に準備をしてるんですよ。コアファイターで出ます!』

 

「コアファイター?」

 

『雪之丞さん! バックパックの保持、頼みます』

 

 格納庫では巨大アンカーでバックパックを取り外したGセルフの姿が。そのGセルフの背中からは脱出装置としての機能もある小型戦闘機、コアファイターが逆噴射して出て来た。

 

「ベルリ・ゼナムはコアファイターで出ます! ハッチを開放して下さい!」

 

 コロニー内の暴動は激しさを増していた。駐車された車やトラックからは炎が上がり、ライフルを装備したギャラルホルンの兵士達がそこかしこを走り回っている。複数のモビルワーカーが砲身を向けながら街を進み、抵抗する者は容赦なく鎮圧。そんな中を三日月達は見つからないようにビルの影に隠れながら港へ進んでいた。

 

「このままだとちょっと面倒だな」

 

「これは……酷い……まるで戦争のような……」

 

 見たくもない、記憶に刻みたくもない光景なのにクーデリアは見開いた目を反らす事ができない。震える体で現状を眺めている事しかできないが、彼女の傍でフミタンは冷ややかな瞳をメガネの奥から向けていた。

 

(やはり貴方は何もわかっていない。いえ、わかっていないのは私も同じ。ここまで来ておきながら迷いが生じている。実行部隊はもうすぐそこにまで来ていると言うのに……)

 

「裏から進むしかないか……ビスケット、道わかる?」

 

「流石に最短ルートは無理だけど、港には何とか。流れ弾でも飛んで来たら危ないよ。早くイサリビに」

 

「わかった」

 

(ここで発振器を潰さなければこの子達も巻き込まれるかもしれない。理由をでっち上げ離れた場所に隠れなければ私諸共殺されるでしょう。あの男はそういう人間です。お金の為にこの二人も見捨てるか……それもと……)

 

 フミタンが向ける視線に気が付く三日月は振り返り二人の視線が交差する。

 

「どうしたの?」

 

「いえ……何も……」

 

「そう、なら急ごう。少し走る」

 

 三日月を先頭に各々が険しい表情をしながら路地裏を進んで行く。このまま進んで行けばクーデリアは予定されたポイントを過ぎてしまう。無論、そのくらいの事で諦める相手ではないが、穏便に事を済ませる相手でもない。

 自分の身の安全よりも、わずかばかりに芽生えた良心がフミタンの決断を邪魔して来る。

 

(私は……私は……迷いを捨てられないのならば、いっそのこと……)

 

 生唾を飲み込んだフミタンはクーデリアの手首を取ると先導する三日月から離れ路地裏を出た。突然のことにビスケットは止める暇もなく、クーデリアも釣られて進むしかできない。

 

「フミタン!? ちょっと……そっちは……フミタン?」

 

「ちょっと!? 二人共どこに!」

 

 連れて行くフミタンは何も答えない。メガネの奥にある瞳は何を見ているのか。

 進んだ先の開けた道路に出れば、視界に映るのは地獄絵図。息を呑み立ち止まるクーデリアとフミタン。

 

「そんなッ!? このようなことが……」

 

「お嬢様、ここでお別れです」

 

「え……何を――」

 

(私も一緒に行きますので――)

 

 ゆっくりとまぶたを閉じる。額にはどこからか向けられた赤外線レーザーが当てられていた。トリガーが引かれれば、頭部を撃ち抜かれるのは一瞬。鳴り止まぬ周囲の轟音の中、ノブリスの派遣した実働部隊が引き金を引いた。

 

「こんな所で何をやってるんです!」

 

「ッ――」

 

 思わず息を呑み目を見開いた。

 二人の眼の前には青い小型の戦闘機らしき物体が。そしてコクピットに座るのはノーマルスーツを着用したベルリ。

 

「流れ弾でも飛んで来たら死んじゃうかもしれないんですよ! 早くコアファイターに!」

 

「ベルリさん! フミタン、あれに乗りましょう!」

 

 今度は逆にクーデリアがフミタンの手首を握ると急いでコアファイターの元にまで走った。二人を狙うノブリスの実行部隊は再度照準を向けるが、赤外線レーザーはコアファイターのボディーに阻まれる。

 

「クッ!? あの小型機は何だ? 協力者に連絡は?」

 

「ダメだ、繋がらん。予定変更、ターゲットへのアプローチを変える。動くぞ」

 

「了解」

 

 ビルの一室から移動する黒い影。その間にクーデリアとフミタンはコアファイターに乗り込み、ベルリはハッチを閉鎖し機体を浮き上がらせる。

 

「動きますから掴まってて下さいよ」

 

「でも、三日月とビスケットさんは?」

 

「二人なら大丈夫です。コアファイターの進路を見れば、港口まで来てくれる筈です」

 

「ですが――」

 

「暴動の規模が思ったよりも大きい。それでもギャラルホルンに抑え込まれるのは時間の問題か……」

 

 空を飛ぶコアファイターに気が付く兵士はライフルの銃口を向けトリガーを引くが、小型とは言えコアファイターの装甲には傷すら付かない。メインスラスターから青白い炎を噴射すると加速して行き、銃弾は一瞬の内に届かなくなり遥か先へと飛んで行く。

 その様子を眺めていた三日月とビスケットも急いでこの場を後にした。

 

「ベルリか……」

 

「あんな小型機をどこから?」

 

「どうでも良いよ。それよりさっさとイサリビに戻ろう。バルバトスが必要になるかも」

 

「確かにね」

 

///

 

 ドルトコロニー内での情報はノブリスにも届いている。フミタンに連絡が付かず裏切られた事も。それによりクーデリアの暗殺に失敗した事も。

 重たい肉をシートに預けながら受話器を置くノブリスは溶けかけのアイスクリームを頬張ると顎肉が揺れる。

 

「たかが小娘一人始末できんとわ。ふん、情けない」

 

「クーデリア・藍那・バーンスタインは鉄華団と共に地球へと向っているようです」

 

「そんなことはわかっている。予定通りにな。折角の利益がパァだ」

 

「どうなさいますか? 地球圏ともなれば我々でも――」

 

「だからそんなことはわかっている」

 

 言葉を遮るノブリスの口調はいつもと変わらずかったるいくらいに遅い。それでも計画の失敗は彼の心にストレスを募らせる。

 

「どうしたものかなぁ……これでは資金援助に回した金も戻ってこんし、邪魔なハエははたき落としたい。ふむ……待つか」

 

「待つ……ですか?」

 

 傍に立つ秘書はオウム返しするとノブリスは最後の一口を飲み込んだ。

 

「待てば海路の日和あり。あんな小娘一人が……いや、例えできたとしても一年二年で全ての世界が変わる訳があるまい。時間はまだある。その時が来るのをもう少し待つとするか」

 

「わかりました。部隊は引き上げさせます」

 

 頭を垂れると秘書は背筋を伸ばしキビキビと歩き部屋から出て行く。残るノブリスは天井を見上げながらボソリと呟いた。

 

「まぁ、この先を生き残れるかどうかは知らんがな。鉄華団……華々しく散ってくれれば少しは腹の虫も収まるか」

 

///

 

 ドルトコロニーから出港するイサリビ。カメラが映し出す外の映像にオルガ達は息を呑む。

 

「こりゃ……ヒデェな」

 

「一方的だぜ、勝ち目なんてまるでねぇ。さっさとこんなヤバイ所からは逃げるぞ!」

 

 ユージンは操縦桿を左へ一杯倒すとイザリビが反転し加速する。その後ろでは無数のモビルスーツの残骸が漂っていた。血が上り爆発したデモ隊が奪ったモビルスーツで襲撃を掛け、それを鎮圧するギャラルホルンの大部隊。

 訓練された兵士と一般人では比べ物にならない。更に言えば奪えた機体などたかが知れている。物量の前にも劣るデモ隊では戦う前から勝負は見えていた。

 一切の容赦なく相手を潰すギャラルホルン。

 イサリビは巻き込まれないようにと一目散に逃げるしかなく、クーデリアはその様子をモニター越しに眺めるだけ。

 

「これが私が変えるべき現実……こんな虐殺紛いをギャラルホルンは平気で!」

 

「だからって無茶は言うなよ、お嬢さん。兎に角、今は名瀬さんと合流するのが先だ」

 

「見ているしかできないなんて……」

 

「悪いが今は諦めて貰うしかねぇ。あの残骸の一つになりたくなかったらな。ハンマーヘッドと連絡は取れたか?」

 

 下唇を噛むクーデリアは自身の力の無さを痛感するしかない。そんな彼女を見るフミタンは意識を反らしながらもオルガの指示には従う。

 

「繋がりました。映像を回します」

 

 言うとモニターに名瀬の顔が映し出される。オルガは気を引き締めてから口を開く。

 

「名瀬さん、今そっちに向ってます」

 

『あぁ、レーダーで確認した。ギリギリだったな。こっちのコロニーまで来れるな? 飛び火は勘弁だぞ』

 

「わかってます。頼んだぞ、ユージン」

 

「そんなこと言ってもよ……敵に言ってくれよ、敵に!」

 

 全速力で進むイサリビの背後ではギャラルホルンによる統制と言う名の虐殺が今もまだ続いている。

 見ている事しかできないクーデリア。そんな彼女の元へフミタンは立ち寄ると何も言わないまま手を取りブリッジから出て行く。

 

「フミタン?」

 

 クーデリアに返事を返す事もなく、一切振り返らず通路を歩き続けて行く。自然と手を掴む力が強くなりクーデリアの表情が歪む。

 

「フ、フミタン? ねぇ、どうしたの? 今日はどこか変よ?」

 

「お嬢様、こちらへ」

 

 手を引くフミタンは割り当てられた自室に入り込むと素早く扉をロックした。密室に閉じ込められるクーデリアは一抹の不安を感じながらも、眼の前に立つフミタンに視線を向ける。

 

「フミタン……」

 

「お嬢様、貴方に話さなければならないことがあります。私の秘密を……胸の内を……」

 

「秘密ですか? わかりました、聞かせて下さい」

 

 クーデリアの返事は早かった。彼女の瞳は力強く、そして真っ直ぐだ。だからフミタンも決断を渋る事はない。

 今まで侍女として付き添ったクーデリアに全てを打ち明ける。

 

「私はノブリス・ゴルドンにより送られたスパイです。貴方の父上であるノーマン・バーンスタインを監視することでノブリスは仕事をしやすくしていました。私の役目はそれだけでした。その報酬としてわずかばかりの資金を貰えればそれで良かった。けれども状況が変わります。それは――」

 

「私ですね。火星独立運動に参加した私が目立ち過ぎた。彼のことです。お父様ではなく私を利用した方が自社の儲けになると判断したのでしょう」

 

「そうです。私は隠れて近況を報告し、そしてドルトコロニーではノブリスの手の者がお嬢様を狙っていました」

 

「それであのような不可解なことを」

 

「私は迷ってしまいました。指定されたポイントまで誘導するだけの簡単な仕事。それを……私は貴方と一緒に居る時間が長過ぎました。そうでもなければ、昔の自分なら迷うことはなかったでしょう」

 

「フミタン……」

 

 一歩前に踏み出すクーデリアは視線は真っ直ぐ向けたまま彼女の両手を包む。そんな彼女の口から出る言葉は力強く、だからこそフミタンは目を逸らしてしまう。

 

「貴方の決断が正しかったのかどうか、今はまだわかりません。ですが貴方の決断が正しくあるように、私達はこれからを頑張らなくてはなりません。私を選んでくれたことが正しくあるように私も努力します。だからフミタン、今日のことを決して忘れないで」

 

「お嬢様……ありがとうございます……」

 

 固くまぶたを閉じるフミタンは涙を溢れさせる。クーデリアは柔らかい笑みを浮かべて彼女の手をしっかりと握り続けた。

 

(ですがノブリス・ゴルドン。これ以上貴方の思い通りに動く程、私は愚かではありませんよ)

 

///

 

 ガエリオは自身が搭乗する艦のモニターでイサリビがコロニーから離れて行くのを眺めていた。その隣でアインは様子を伺いながら声を掛ける。

 

「宜しいのですか特務三佐? 今出撃すれば追い付けます」

 

「良いんだ、出撃はするな。この一帯はアリアンロッド艦隊が指揮している。裏で根回しして横断させて貰ってるんだ。ここで出撃すれば俺達もコロニーの鎮圧に駆り出されるぞ。いや、虐殺だな。今見ているこの光景こそがギャラルホルンの腐った部分だ。組織が巨大になればこう言うのも出てくるか」

 

「ギャラルホルンの腐敗……」

 

「たかがデモ隊にここまでする必要はないだろ。不穏分子を叩くのはドルトコロニー帯を抜けた先だ。それまでは休んでおけ。俺は先行して地球に降りる、作戦通りにな」

 

「了解です!」

 

 完成したガンダム・キマリストルーパーで雪辱を果たさんとするガエリオ。そしてアインも上官だったクランクの仇を討たんと爪が食い込むまで拳を握り締める。今か今かと勝負の日が来るのを待つ。

 一方でオルガ達の鉄華団も戦力を整えつつあった。鹵獲したガンダムフレーム、ガンダム・グシオンを改修した機体。昭宏に合わせてセッティングされた機体の名は――ガンダム・グシオンリベイク――

 全身の装甲を全て取り替え軽量コンパクトな物に。稼働時間が増えると共に宇宙でも重力下でも運用できる機体に仕上げてある。

 コクピットで阿頼耶識システムの調整を終わらせる昭宏は機体を見上げた。

 

「元の機体とはまるで別物だな。こんなことができるのか、ガンダムフレームって奴は」

 

「前のが元の姿って訳ではないけどね。マニュアルは読んだ?」

 

 傍にやって来たのはタービンズのラフタ・フランクランド。茶髪のツインテールを浮かせながら、ピンク色のチューブトップとホットパンツで柔肌を露出し、昭宏と共にグシオンリベイクを見上げた。

 

「いや、阿頼耶識があればそう言う面倒なのは必要ねぇんだと。自分の体を動かすみたいに感覚で操作できる」

 

「何それ、ズルくない? じゃあコレは要らないか。良し、勝負よ昭宏!」

 

「え……勝負?」

 

「シミュレーターで相手してあげんよ。アタシの機体も丁度換装が終わったしね」

 

「面白れぇ、やってやるよ!」

 

 グシオンに乗り込む昭宏と自身の機体の元へ走るラフタ。ハンマーヘッドのデッキでは急ピッチで地球降下の為の作業が進められている。

 それはイサリビも同様で、バルバトスも損傷した装甲を新しい物へ取り替えていた。

 三日月は雪之丞から新武装の説明を受けている。

 

「中々に癖の強い奴だがお前ならいけるだろ? バルバトスのコンピューターと阿頼耶識があれば」

 

「ふ~ん、これは一発しか使えないんだ」

 

「外すなよ。数だって少ねぇんだ」

 

「わかったよ。このデカイのは?」

 

「あぁ、そいつは大型のレールガンだな。威力は充分だが見ての通りだ。取り回しは注意しろよ」

 

 ブリッジでは操舵を担当するユージンが口を尖らせながらハンマーヘッドと並列するようにイザリビを動かしている。

 

「またオルガの野郎、勝手に決めやがって! 俺達はこのまま火星に帰れだと!?」

 

「こんな所で残っててもしょうがないだろ?」

 

「でもよ! 地球へ降りるメンツだって一人で決めてよ!」

 

「モビルスーツで戦える奴が行くしかねぇだろ? 降りれば完全に敵の腹の中だ。俺達は大人しくタービンズに火星まで連れてって貰うだけだ」

 

「ケッ!」

 

 通信を担当するチャド・チャダーンは計器類を見ながらユージンをなだめる。

 そうしている間にもオルガ達の地球降下メンバーは、名瀬によりドルトコロニーで手配された大型のシャトルに乗り込み準備を進めていた。

 ブリッジにはオルガだけでなく、テイワズから派遣されたメリビット・ステープルトンも搭乗している。

 パリっとした黒のスーツ、ショートヘアのブロンド。小さな耳からはエメラルドのピアスが。彼女はタブレット端末を叩き終えるとオルガに向き直る。

 

「では、これからの会計管理は私が。タービンズへの送金もありますので、見た目以上に資金は少ないことをお忘れなく」

 

「わかってます。この仕事が終わればまとまった金が手に入る。そうすれば名瀬さんに金を払っても充分に余る」

 

「まぁ、仕事が成功すればの話ですけれど」

 

「絶対に成功させる……家族を……鉄華団を食わせていかなきゃならないんだ。この仕事だけは絶対に!」

 

「意気込みは評価しますが――」

 

 メリビットの言葉を遮るようにイサリビから通信が繋がる。コンソールパネルを叩くオルガはモニターに映るフミタンの顔を見た。

 

「どうした?」

 

『後方よりギャラルホルンの艦隊とモビルスーツが接近中です』

 

「チッ! ドルトコロニーに居た艦隊の一部か……数はそこまで多くない。ミカと昭宏、ベルリも出せ! シャトルには指一本触れさせるな!」

 

『わかりました。準備ができ次第、順次発進させます』

 

///

 

 ギャラルホルン、ハーフビーク級宇宙戦艦のモビルスーツデッキで待機するアインはコクピットの中でその時が来るのをじっと待つ。

 

「クランク二尉……あの白い奴は自分が必ず!」

 

『全艦、艦砲射撃を開始。モビルスーツは十秒後に順次発進せよ』

 

「了解……」

 

 返事をすると同時に艦隊による砲撃が始まった。主砲から発射される大口径の砲弾にイサリビとハンマーヘッドは右へ左へ回避行動を取る。

 しかし、背後から迫る攻撃をそういつまでも避け切れるものではない。直撃を受けるハンマーヘッドの船体が激しく揺れる。ナノラミネートアーマーはそれでも砲撃を耐え切った。

 ブリッジの艦長はシャトルを背負うイサリビに機首を向けさせる。

 

「あの赤い方も狙え。的は大きい、落とせる筈だ」

 

 艦長の指示に従い部下が動き、主砲の砲身がイサリビを狙う。巨大な砲弾が立て続けに撃ち込まれる。

 しかし、充分な砲撃を行ったにも関わらず一切のダメージがイサリビに通っていない。ナノラミネートアーマーの強度だけとは到底考えられない。

 イサリビの甲板にはシールドを構えるGセルフが居た。

 

「あれだけの艦隊なのにビームを撃って来ないだなんて」

 

「ベルリ、本当に一人でイサリビとシャトルを守り切れんのか?」

 

「コピペ・シールドの性能は折り紙付きです。三日月さんと二人で接近する機体を!」

 

「おう! 任せとけ!」

 

 改修したグシオンで出撃する昭宏。右のマニピュレーターにはロングレンジライフル、左手には分厚いシールドを構えながらメインスラスターで加速して行く。

 それに続き三日月のバルバトスも滑腔砲を抱え前に出る。

 

「その機体、使えるの昭宏?」

 

「お前だってやれるんだ。俺ができねぇ理由はねぇだろ?」

 

「そう? なら手伝わなくても良いね。俺はこっちに行くから」

 

「お、おい!?」

 

 言うとバルバトスは右舷に進んで行き、残された昭宏は左舷に向かう。

 

「そこまでは言ってねぇよ、ッたく!」

 

 ロングレンジライフルのトリガーを引き向って来るグレイズに銃弾を放つ。が、回避行動を取るグレイズはダメージを受けないままグシオンに照準を向けて来る。

 昭宏は急いで操縦桿とペダルを踏み込みメインスラスターの加速で回避した。

 

「くっ!? 機体の性能は良いかもしれねぇけどよ、相手の方が上手か! 二機目も来る!?」

 

「挟み込んで仕留める。相手の動きは悪い」

 

 二機のグレイズが左右からグシオンに攻め入る。

 額に汗を滲ませる昭宏は操縦桿を懸命に動かしロングレンジライフルのトリガーを引き続けるが、ギャラルホルンの兵士は容易に回避するとグシオンを射程距離に収めた。一機はライフルで、もう一機はバトルアックスに持ち替え詰め寄って来る。

 

「このパイロット、怯えてやがる」

 

「不穏分子はなぁ! 我々に抹殺される定めにある!」

 

「ぐぅッ!?」

 

 詰め寄るグレイズに左手のシールドを構える。振り下ろされるバトルアックスに、昭宏は歯を噛み締めた。

 

「沈めぇぇぇ!」

 

 しかし、分厚い鉄の刃はシールドを傷つける事すらできない。そしてその瞬間、昭宏はようやく気が付いた。

 

「そうか……普通に操縦桿で操作してたから動きにくいんだ。今は阿頼耶識で繋がってる。だったらなぁ!」

 

 まだ慣れないモビルスーツの実践ではあるが、阿頼耶識による操作は昭宏の反応に答えてくれる。

 左腕をそのまま振り払い、分厚く硬いシールドがバトルアックスを弾き飛ばしグレイズの頭部をひしゃげさせた。ツインリアクターの圧倒的パワーにグレイズは姿勢制御が追い付かず後方に流されてしまう。

 

「ウォン、動け! コイツ、抵抗するか!」

 

「わかっちまえばこっちのもんだ。行くぜグシオン、気合い入れろやッ!」

 

 ロングレンジライフルを背部サブアームに保持させ、シールド裏からショートアックスを取り出す。更に柄を伸ばす事で巨大なハルバードに変形。

 相手は近づけまいとライフルのトリガーを引くが、敵を睨み付ける昭宏はグシオンを加速させ一気に詰め寄った。左手のシールドは弾を受け付けない。

 

「どんな装甲をしている!?」

 

「ぶっ潰れろぉぉぉッ!」

 

 大きく振り下ろされるハルバード。

 グレイズのパイロットは咄嗟に左腕を構えるが、昭宏はそのまま振り下ろした。瞬間、装甲は破砕され腕のフレームごとグチャグチャにしてしまう。肩の関節部もダメージを負い正常に動かない。

 だが残る腕で至近距離から尚も銃撃を浴びせるグレイズ。そのまま脚部スラスターから青白い炎を噴射し距離を取ろうとするが、昭宏はそれを許さない。

 

「逃がすかぁぁぁ!」

 

「うあああァァァ――」

 

 鉄が激突する鈍重な音。

 振り払われるハルバードの刃は正確にコクピット部分に突き刺さった。ナノラミネートが塗布された装甲も一撃で破壊され、中のパイロットは絶命している。

 

「やれる……阿頼耶識とコイツがあればギャラルホルンを倒せる!」

 

 三日月にもベルリにも手伝って貰う事なく敵機を倒した昭宏は自信を漲らせる。それだけグシオンの性能は高かった。

 そのグシオンを遠目から眺める真紅の機体が一機。

 

「フッ……知らぬ間に新たなガンダムフレームを手に入れたか。鉄華団、君達は本当に――」




 アイン・ダルトン三尉であります。ボードウィン特務三佐が立案したこの作戦、必ず成功させます。そして不穏分子の白い機体……アイツだけは必ず自分の手で!
 次回、鉄血のレコンギスタ――赤いモビルスーツ再び――
 クランク二尉、見ていて下さい。
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