ガンダム 鉄血のレコンギスタ   作:K-15

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第十五話 バルバトスとの契約

 黒いグレイズに一人で対峙する明宏のグシオン。しかし、戦闘能力の差は歴然としていた。相手の大型アックスに左腕のシールドは破壊され、ハルバードの刃をぶつけるも圧倒的なパワーに押し返されてしまう。

 

「ぐぅッ!? デカイ図体は伊達じゃねぇってか? でもなぁッ!」

 

 それでも負けじと足を踏ん張りハルバードを振り降ろす。ツインリアクターのハイパワーで反撃を試みるが、グレイズ・アインは寸前の所で半身を反らし刃を避ける。ハルバードを空振りするグシオンの隙を狙い、両手の大型アックスを叩き付けた。

 二本のアックスはグシオンの装甲を一撃で破壊し、右腕のフレームが歪む程のダメージが通る。

 

「同じ阿頼耶識だろ!? この速さは何だ?」

 

『ギ……ベ……』

 

「死ねるかよおぉおお!」

 

 グレイズ・アインの脚部がドリル状に変形しグシオンの胸部目掛けて蹴る。咄嗟にまだ動く左腕で防御するもドリルは容赦なく装甲を破壊。蹴り飛ばされるグシオンは背中から倒れ込んでしまう。

 揺れるコクピットの中で歯を食いしばり操縦桿を握り締める明宏。目を見開きペダルを踏み込もうとするが、眼前には大型アックスを大きく振り上げる敵の影。逃げるだけの時間はもうない。

 

「ッ!?」

 

「間に合えぇぇぇッ!」

 

 フォトン装甲が刃を防ぎ激しい閃光が走る。空を飛んで来たGセルフのコピペシールドがグシオンを守った。

 

「ベルリか!?」

 

「いっちゃえぇぇぇッ!」

 

 右脚部を深緑色に変化させて敵を蹴りつけるGセルフ。が、地面を蹴るグレイズは後退しGセルフの攻撃は届かない。

 

「え!? 避けたの?」

 

『グオオォオオオッ!』

 

「明宏さんは離脱して下さい! ビームライフルで!」

 

 関節部に狙いを定めてトリガーを引くベルリ。高出力のビームがグレイズに直撃するがナノラミネートに弾かれる。ダメージを受けていないグレイズは握る二本の大型アックスをGセルフ目掛けて投げ飛ばしメインスラスターから青白い炎を噴射した。

 

「このくらい!」

 

 コピペシールドを展開し向かって来る大型アックスを振り払う。その瞬間、巨大な機影がベルリを襲い掛かった。

 

「なにぃぃぃ!?」

 

『お前は……お前は……』

 

 Gセルフに組み付くグレイズはそのまま地面に引きずり降ろす。二機の衝撃に雪煙が上がり見えなくなるも、高トルクモードを発動させるGセルフはグレイズを投げ飛ばした。

 しかし、スラスター制御すらせずに地面に着地する。

 

「あの動き……まるで人間みたいだ」

 

「気を付けろ、アイツも俺達と同じ阿頼耶識だ」

 

「阿頼耶識と言ってもただのシステムなんだ。戦いようはある筈だ!」

 

「来るぞ!」

 

 大型アックスを回収するグレイズ・アインはスラスターでホバリングしながら再びGセルフに迫る。操縦桿を握り締めるベルリは敵に鋭い視線を向けた。

 そこに、急速に接近するエイハブ反応が一つ。加速と合わせてメイスの先端で突く。が、マニピュレーターが簡単に受け止めてしまう。

 

「三日月さん!」

 

「悪い、他の奴のせいで遅れた。明宏はオルガの所に戻って。攻撃を受けたんだろ? 離れすぎると追い付けなくなる」

 

「くッ! 二人してよ……まぁ、ムカつくけど今は従ってやるよ。死ぬんじゃねぇぞ、三日月! ベルリも!」

 

 メインスラスターを噴射し地面を蹴るグシオン。三日月はこの領域から離れて行くのを目で追いながらも、操縦桿を押し込む右腕の力を上げる。

 バルバトスのツインリアクターであってもグレイズにパワーに歯が立たない。トリガーを引く三日月はメイスに内蔵されたパイルバンカーを発射した。

 が、頭部目掛けて一直線に飛ぶバンカーを首を傾けるだけで避けられてしまう。そのままグレイズも右腕に装備したパイルバンカーを打ち込み、向けられたメイスを破壊した。

 

「凄いな、アイツ。反応速度って奴か……俺もピアスを三つ付けたのに追い付けない」

 

「僕も仕掛けます! 時間差で攻撃すればパイロットも疲れます。そこを狙えば」

 

「そう言うもんか……俺、他人に合わせるとか苦手だからベルリに任せる」

 

「わかりました。行きますよ!」

 

 ビームライフルを向けるベルリはトリガーを引く。高出力のビームをグレイズ・アインは身を捩りならが避ける中、背部の太刀を手に攻める三日月。

 振り降ろす刃は大型アックスに止められてしまう。けれども別方向からGセルフのビームも飛来する。

 

「足を崩せば!」

 

『お前らは……クランク二尉の……仇!』

 

 ナノラミネートでビームを受け止めるグレイズはモノアイを不気味に輝かせ、もう片方の腕の大型アックスでバルバトスを斬り上げる。咄嗟に太刀で防御する三日月だが、衝撃に機体は後方に流されてしまう。足でブレーキを掛けるが、その一瞬の隙を逃す筈もなくグレイズが攻めて来る。

 

『思い出したぞ! 貴様はクランク二尉を殺したモビルスーツ!』

 

「やっぱりこの武器は使いにくいな。他があれば……」

 

『貴様のような不穏分子のせいで彼が死ぬ必要などなかった! 彼は純真で--』

 

「うるさいなぁ……そんな奴のこと知らないし、お前を殺せば関係ないだろ」

 

『死んでしまぇええぇええぇぇぇッ!』

 

 両腕を振り被るグレイズ。けれどもそこにGセルフの右ストレートが飛んで来た。深緑色に変化する腕が敵の頭部を確実にとらえる。

 

「高トルクパンチでも倒れない!?」

 

『貴様も邪魔だ、二本角!』

 

「当たれない!」

 

 フルパワーで腕を振り下ろし刃を向ける。

 ベルリはGセルフの全身を発行させフォトンエネルギーを放出するとスラスターを使わずに加速して背後に回り込む。両手で首元のビームサーベルを取り出し、重ね合わせてサーベルを伸ばす。

 二倍になるビームサーベルの出力。黒い装甲に直撃し真っ赤に焼け爛れさせるが、フレームもナノラミネートが塗布されているせいで致命傷には至らない。

 

『小賢しいッ!』

 

 振り返り二本の刃で袈裟斬り。

 両マニピュレーターを高速回転させビームサーベルのバリアを作りこれを防ぐGセルフ。バリアがガリガリとナノラミネートが塗布された大型アックスを激しい火花を上げて削っていく。

 

「三日月さん、今です!」

 

「これなら!」

 

 太刀を構えメインスラスターで加速。鋭い切っ先でGセルフが斬り付けた箇所目掛けて突き立てる。

 刀身は装甲を貫く。

 

「やったか? 動きは止まった」

 

「ふぅ……他にモビルスーツの反応もない。列車に戻りましょう。三日月さんの機体は補給もしてないんですから」

 

「あぁ、そうだな」

 

 ペダルを踏み込み青白い炎を噴射させる二機は飛び上がりこの場から去って行く。最後に横目でちらりとグレイズ・アインの姿を見る三日月。黒い機体は仁王立ちしたままモノアイから光りを失う。

 

///

 

 列車に帰還するバルバトスとGセルフ。コンテナの中に収容されるとハッチを開放しコクピットから出る。

 ベルリはヘルメットを脱ぐとバックパックにマウントさせ鉄の床に足を付けた。そこに整備を担当する雪之丞がやって来る。

 

「おう、ベルリ。お前も無事だな?」

 

「はい、他の人は?」

 

「タービンズから来た二人が軽いケガしてるよ。女の子なのに良くやるよ」

 

「そうですか、みんな無事なんですね。良かった」

 

「まぁ、道のりはまだ長いんだ。何があるかわかんねぇからな。お前の機体、本当に整備は後回しで良いのか?」

 

「はい、バッテリーはまだ持ちます」

 

「俺はモビルスーツのことは専門じゃねぇが、お前の機体……Gセルフっつったか? エイハブリアクターで動くグレイズとかと全く違うみたいだな」

 

「ッ!? そうですね……すみません。詳しいことは話せないんです」

 

「そうだろうな、お前にも事情がある。こうしてギャラルホルンの相手をしてくれるだけでも有り難いよ」

 

 視線を反らすベルリに雪之丞は気にせず答える。すると列車が激しく揺れた。

 自分の体重を支えられず倒れそうになる雪之丞を支えるベルリ。

 

「うお゛おぉおおッ!? わ、悪るい」

 

「大丈夫ですよ。じゃあ僕は部屋に戻ります」

 

「あぁ、暇な奴に後で飯持って行かせるからよ。ゆっくり体を休めてくれや」

 

 言われて通路を歩いて行くベルリ。その表情は誰にも見せる事はない。進んで行く先で鉄華団の団員と何度かすれ違う事もあったが愛想笑いするだけで、割り当てられた部屋まで来ると扉を開けた。

 扉を施錠し、カーテンが閉じられ薄暗い部屋の中でパイロットスーツのファスナーを下ろす。普段着に着替える事もなく、備え付けられたベッドに体を預けた。

 

「はぁ……キャピタルタワーもザンクトポルトもないだなんて。姉さんとメガファウナはどうなってるんだ? 僕がこうしてる間にもガランデンとジット団も動いてる。いいや、違う。そうじゃなくて……」

 

 頭をかきむしり自分に起こった事態を真正面からとらえようとするも恐怖心が過ぎる。現実では有り得ない事が起きており、ベルリでもどうして良いのかわからず頭が混乱してしまう。

 誰に相談する事もできず、不安だけが心を支配していった。そこに部屋の呼び鈴が鳴り響く。

 扉に背を向け無視しようとするが、二回目の呼び鈴の音を聞いてベッドから立ち上がる。

 

「はい! 今から開けますから!」

 

 施錠を解除し扉を開けるベルリ。光りが差し込む先に居るのはカートの上に食事を乗せて運んで来たアトラと彼女に付き添う三日月。

 

「アトラさん?」

 

「あぁ、良かった。居ないと思いましたよ。雪之丞さんに言われてお食事を持って来ました」

 

「ありがとうございます。もう持って来てくれるなんて」

 

「パイロットの人はちゃんと栄養を取らないといけませんから。今日のおかずはサカナって言うんですよ。ベルリさんは知ってますか?」

 

「サカナ……」

 

 カートの上に乗せられたトレーの器には香辛料がまぶされた切り身が香ばしく焼かれている。

 三日月はサカナの切り身を見るとコートのポケットに手を突っ込み火星ヤシの実を一粒取り出す。

 

「無理して食わなくても良いよ。これ食えば?」

 

「あぁ……いや、大丈夫ですよ。魚は好きなので」

 

「お前、コレ食えるの?」

 

 眉を傾ける三日月の言い草を聞いてアトラは声を荒げて怒り出す。

 

「失礼ね! ちゃんとアジーさんに切り方を教えてもらって一生懸命作ったんだから! 食べもしないで文句言って!」

 

「あんな気持ち悪いの食わなくて良い」

 

「ん゛~~~ッ! もう良い、三日月にはもうご飯作ってあげない! さぁ、ベルリさん。トレーはまた片付けに来ますから」

 

 怒ったアトラは魚の乗ったトレーをベルリに手渡してカートを押して奥へと進んで行ってしまう。三日月は彼女の様子を横目で眺めるだけ。むしろ不安に感じていたのはベルリの方だ。

 

「後でちゃんと謝らないとダメですよ?」

 

「わかってる。前も風呂入れって怒られたから」

 

「あはは……」

 

「それよりさ、さっき戦った黒い機体……どう思う?」

 

「どうって……」

 

 手に持った火星ヤシの実を口に運ぶ三日月。

 

「なんかさ、今までに戦った相手とは違う感覚だった」

 

「確かにあの紅い機体と同じでフレームにもビームが通らなかった。それに明宏さんも言ってましたけれど、あの機体のパイロットも三日月さんと同じ阿頼耶識を使ってるって。あの動きはそれから来てる……」

 

「何だろうな、気持ち悪いんだ。上手く言えないけど」

 

「気持ち悪い……」

 

「まぁ良いや。わかんないこと考えててもしょうがないし。俺はクーデリアの所に用があるから」

 

 言うと三日月もベルリの前から離れて行く。残されたベルリ手に持つトレーの焼き魚へ視線を落とした。香辛料の香りが鼻をつく。

 

「確かに、わからないことに悩んでてもしょうがない……か。良し、まずはご飯を食べる!」

 

 部屋に戻りテーブルにトレーを置く。カーテンを開け外の光りで室内を明るくし、空腹を食事で満たす。

 

「絶望的な状況でもお腹は減るんだ。いざと言う時に動けないようじゃ……それに海には魚が泳いでる。全く僕の知らない地球って訳でもない」

 

 フォークを片手に湯気の上がる白身魚の身を口へ運ぶ。口いっぱいに広がる油と鼻を通る香辛料の香りにベルリは感動した。

 

「んッ! これ美味しい!」

 

 進んで行く三日月は言ったようにクーデリアに用があった。自身の機体、バルバトスのコクピットに搭載されている阿頼耶識システム。その『阿頼耶識』と言う言葉の由来。

 通路を歩く先、運転室に向かっている途中で彼女と鉢合う。

 

「三日月!? 良かった……ケガなどはないようですね。タービンズの二人は軽傷とは言えケガをしていたので、戻って来るまで私心配で……」

 

「さっきは何とか勝てたけど、次にまた戦うなら厳しいかもしれない」

 

「すみません、謝ってどうにかなるような物ではないのは重々承知しています。わたくしが強引に推し進めたせいで鉄華団の人達を危険な目に合わせてしまって」

 

「別に……オルガの命令なら俺は何だってやるよ。それよりさ、聞きたいことがあるんだ」

 

「はい、わたくしにわかることでしたら何なりと」

 

「阿頼耶識の意味を知りたいんだ。ベルリに聞いてもわかんなくてさ」

 

「阿頼耶識? 確か……地球圏にある宗教の用語だったと記憶しますが」

 

「ベルリも似たようなこと言ってた。でもそれ以上は知らないって。何でか自分でもわからないけど気になるんだ」

 

「そうですね……」

 

 顎に手を添えるクーデリアは少しの時間だけ考える。が、彼女も宗教に精通してはいないので三日月が求める答えはわからない。

 それでも答えを導き出す方法はある。持っていた端末を指先で操作すると答えはすぐに出た。

 

「でましたよ。阿頼耶識……仏教の教えでは、人間の心は八つあると言われてます。その八つある心の一つが阿頼耶識。過去と今、未来に向かって流れるわたくし達の生命」

 

「どう言うこと?」

 

「阿頼耶識は簡単に言うと記憶装置のようなものです。良いこと、悪いこと、あらゆる体験や学んだことなどを記憶し、それは過去と今と未来を繋げ体に宿る」

 

「それが俺にもあるのか……」

 

「三日月だけでなく、心を持つ人間全てが阿頼耶識を持っています。阿頼耶識システムはこの言葉から持ってきていますが、本来の意味から考えると違う物になっていますね」

 

「ふ~ん、そう……わかったよ。ありがとう、クーデリア」

 

「いえ、これぐらいならいつでも仰って下さい。あと一日でアーブラウのエドモントンに到着します。三日月、険しい道のりでしたが本当にありがとうございました」

 

 頭を垂れるクーデリア。しかし三日月の視線は少し険しい。

 

「まだだよ。まだ終わった訳じゃない。アンタを目的地まで運ぶ、それをやり遂げるまで俺達の仕事は終わらない。それでようやく俺達は火星に帰れる。オルガが目指す先に近づける」

 

 線路上を進む列車の音はまだ続く。

 

///

 

 月が沈みまた太陽が登る。それでも凍て付く空気は素肌にチクチクと刺さるようだ。

 止まる列車から降り、双眼鏡で前方を確認するオルガはもう少しの所にまで迫ったエドモントンを見る。街並みは砂粒のように微かに見えるだけ。

 

「この距離ならまだ俺達のことに気が付いてない。ベルリ、そっちの準備はどうだ?」

 

『Gセルフはいつでも行けますよ。でも本当に僕だけで行けるのか?』

 

「エイハブ反応を察知されないお前の機体しかできねぇ仕事だ。向こうだって対応が遅れれば脆くなる。そうすりゃお前の機体だけで行ける筈だ」

 

『僕を煽ててるのか相手を見下してるのかわかりません』

 

「良いから出るぞ。二人を乗せたモビルワーカーは俺が操縦する。蒔苗のジジィが出る会議まで余裕はねぇんだ。ビスケット、留守の間は頼んだぜ」

 

 隣を見れば口から白い息を吐きながらビスケットも立っていた。彼の向ける瞳はどこか虚ろだ。

 

「この仕事が終われば本当に火星に帰れるんだよね?」

 

「またその話か? 当たり前だろ、これで俺達鉄華団の初仕事は終わる。でも終わりじゃねぇ、始まりなんだ。これを起点に俺達は前に進むんだ。マルバの野郎に飼い殺されてた時とは違う。金も自由も、何だって手に入れる」

 

「オルガ……僕はこの仕事が終わって火星に帰れば鉄華団を抜ける」

 

「え……」

 

 突然の事に目を見開き固まってしまうオルガ。けれどもビスケットは意を決して言葉を発した。オルガと同様にもう後戻りはできない。

 

「こんないつ死ぬかもしれない仕事を続けるなんて僕にはできない。火星に居る妹達を学校に行かせたいんだ。もし死んでしまったらそれもできなくなってしまう。だから僕はもっと堅実な仕事を選ぶ。鉄華団にはもう居られない」

 

「ビスケット……お前……」

 

「CGSの時からずっとオルガとは一緒だった。ここまで僕やみんなを引っ張って来てくれたことには感謝してる。でもオルガが目指す先と僕が目指す先は違う」

 

 ビスケットの言葉は重かった。それを無下にする事などオルガにはできない。言ってたように長い付き合いの中でオルガが提案した事に反発されるのはこれが初めて。故にビスケットの心情も痛い程に伝わる。

 鉄華団を抜ける意思はもう固まっており今更覆す事はできない。

 

「わかった。この仕事が最後だ」

 

「オルガ……」

 

「火星に戻ったらお前は鉄華団を抜けろ。みんなには俺からも説明する。それに今の農園を続けても妹を学校に行かせるだけの金は足りねぇだろ? 新しい仕事を見つけるまでの退職金くらいは用意するさ」

 

「ありがとう……ごめん……」

 

 頭の帽子を深々とかぶるビスケット。オルガも空を見上げるだけ。どちらが正しく、どちらが間違っている訳ではない。決断した以上は二人とも引く事はできず、行く先の結果はそれぞれの力でどうにかするしかない。

 静寂とした空気が場を支配する中で、操縦室のフミタンの声が通信機から流れる。

 

『団長、モビルスーツのエイハブ反応を探知。七時の方角』

 

「モビルスーツだって!? そんなのどこにも居ねぇぞ?」

 

 報告された方角を見てもモビルスーツなど影も形もない。双眼鏡を覗き更に先を見るもやはり姿は見当たらなかった。

 

『距離が近づいて来てます。残り六〇〇……五〇〇……』

 

「どこだ……どこに居る?」

 

 右を見れど左を見れど雪景色が広がるだけ。そうしてる間にもフミタンのカウントする距離がどんどん迫って来る。それを聞いたベルリのGセルフからも外部音声で声が響く。

 

『団長さんもビスケットさんも列車に戻って下さい。モビルスーツが相手なら僕がやります』

 

「いや、お前にはお嬢さんを送り届ける仕事がある。ミカ! バルバトスで出られるか?」

 

 オルガにそう言われて背中をシートに預けながらも周囲を見渡すベルリ。Gセルフの視界からもやはりモビルスーツの姿は見えない。フミタンのカウントが進む。

 

『三〇〇……二〇〇……』

 

 背中に冷たい汗が流れる。姿の見えない敵が確実にそこまで来ているのに何も対処できない。

 瞬間、地面が揺れる。白い雪面にヒビが入り、巨大なモビルスーツが姿を表した。それは三日月達が倒したと思っていた黒いグレイズ。

 グレイズ・アインは全身から水を滴らせながら、肩部コンテナユニットに搭載された機銃を列車に向ける。

 

『感じる、感じるぞ! 白い奴はここに居る。死んでしまえぇえええッ!』

 

 叫び声を上げると同時に機銃が火を噴く。それを見たベルリは瞬時に操縦桿を押し倒し左腕のシールドからコピペシールドを展開し列車全体を守る。

 

「河か湖が凍ってただなんて!? コピペシールド、間に合うか?」

 

 が、突然の事にフォトンシールドは全ては防ぎきれず、ビスケットは咄嗟に隣に立つオルガを突き飛ばし身を挺して庇う。

 

「オルガ、逃げてッ!」

 

「なっ!?」

 

 銃弾が列車のボディーを貫通する。雪の上に倒れるオルガは頭を抑えながら立ち上がると息を呑んだ。雪の上には赤い血が広がる。

 

「おい……ウソだろ……」

 

 力無く歩を進める先ではさっきまで話をしていたビスケットの体が横たわっていた。彼の瞳からはもう精気が感じられない。

 

「ビスケット……おい、ビスケット! お前はこんな所で死んで良い男じゃねぇだろッ! こんな、こんな呆気ない死に方なんてよッ! 何とか言えよ、オイ! ビスケットッ!」

 

『オルガは先に行って』

 

 コンテナから飛び出す三日月のバルバトスは太刀を片手にグレイズ・アインに詰め寄る。加速に合わせて切っ先を胸部にぶつけ相手を押し倒した。

 

「ミカ……でもよ、ビスケットが死んだんだぞ? 俺は……」

 

『ここまで来て止まっちゃダメだ。ビスケットだってそう言うと思う。コイツは俺が絶対に殺す……だからオルガはクーデリアと一緒に先に行くんだ』

 

「ミカ……くッ! ベルリ、黒い奴はミカに任せて俺達はエドモントンに行くぞ! モビルワーカーを頼む!」

 

 通信機越しにそう言うとオルガは用意されたモビルワーカーに走った。広いとは言えないコクピットの中で正装したクーデリアと蒔苗が待っており、Gセルフのベルリにもう一度指示を飛ばす。

 

「ベルリ、機体を出せ! アイツに追い付かれると面倒だ。とにかく急ぐぞ」

 

『わかりました。舌を噛まないで下さいよ』

 

 バックパックを翼のように広げ、フォトンリングを発生させて空を飛ぶGセルフ。瞬時に加速する機体は見る見る内に列車から離れて行く。

 

「三日月さんなら大丈夫と思いたいけれど、まずは三人を安全に目的地まで届けるのが先」

 

 心配するのはベルリだけではない。モビルワーカーの中でもクーデリアは一人で戦う三日月の事を思っていた。

 

「さっきのはあの時の黒いモビルスーツですよね? 三日月一人で大丈夫なのですか?」

 

「ミカならやれる。そうやって今までだってやって来たんだ。アイツなら絶対に負けねぇ。ビスケットの仇を取ってくれる」

 

「ビスケットさんが!? そんな……」

 

「悲しんでる暇なんてねぇんだろ? 後悔するのは全部終わった後だ」

 

「団長さん……」

 

 空を進んで行くGセルフ。一方で三日月のバルバトスもグレイズ・アインと対峙していた。太刀による一突きで背部から倒れ込むグレイズ・アイン。立ち上がろうとする巨体の頭部をマニピュレーターで押さえ付け、メインスラスターの出力を全開にする。

 頭部を地面に擦り付けるようにして氷を砕きながら列車から離れて行った。

 

「オルガの邪魔はさせない。みんなを殺させやしない」

 

『白い機体! お前がクランク二尉を殺したんだッ!』

 

「そんな奴のことなんてどうだって良い。今はお前を殺すだけだ!」

 

『死ねえぇえええッ!』

 

 腕を伸ばすグレイズ・アインもバルバトスの頭部をマニピュレーターで鷲掴みにして力任せにぶん投げた。

 空中でスラスターを駆使して姿勢制御。ゆっくりと地面に降りながらバルバトスは背部から大型レールガンを取り出し、銃口を敵に向けると躊躇なくトリガーを引く。

 電磁誘導により発射される強力な弾丸。起き上がるグレイズ・アインは肩部コンテナユニットの機銃が無数の弾丸を浴びせるも、大型レールガンから発射された弾丸は止まる事なく黒い装甲に直撃した。

 再び雪上に倒れるグレイズ・アイン。三日月は続けてトリガーを引き弾丸を撃ち込む。

 連続して向かって来る攻撃に脚部をドリルに変形させ蹴り上げる。

 

『こんな物で私を倒せるなどと思うな!』

 

「チッ、しぶとい」

 

 カポエラのように脚で蹴り払い、迫る弾丸を全て弾き飛ばす。そして地面を蹴りバルバトスに一気に詰め寄る。

 脚を蹴り上げドリルでコクピットをえぐろうとする相手にバルバトスは太刀で攻撃を受け止めた。しかし太刀にそこまでの防御力はない。簡単に腕が弾かれ、それでも身を捩り攻撃を何とか避ける三日月。

 ドリルの先端が右肩の装甲に食い込み、激しい火花を散らして白い装甲を削っていくとそのまま肩の装甲を持っていってしまう。

 

「負けた訳じゃない。この距離なら届く!」

 

 脚を一歩踏み込み太刀を振り降ろす。鉄の剣は確実に相手の装甲をとらえるが、普通のモビルスーツよりも強化された装甲にはキズすら付かない。それでも三日月は攻撃のチャンスを逃すまいと更に太刀を振るう。

 振り上げて、振り下ろして、太刀を上下に往復させ連続して攻撃をぶつける。コクピットを横薙ぎし、フルパワーで太刀を振り下ろした。

 

『弱い!』

 

 だが、寸前の所でマニピュレーターに掴まれると太刀の動きは止まってしまう。懸命に操縦桿を前に押し倒すが、太刀はピクリとも動かない。

 

『弱い弱い弱い弱い弱い! これが貴様の実力か? ならば次の一撃で殺してやる!』

 

「やっぱりこの武器じゃダメか……」

 

『あははははッ! 清廉潔白なクランク二尉を殺した悪魔め! 地獄に落ちろ!』

 

 マニピュレーターを高速回転させ、これもドリルのように使うグレイズ・アインは強力な一撃をバルバトスの胸部装甲に撃ち込む。

 激しい火花、削られた破片が飛び散り装甲が歪み、一方的に殴られたバルバトスは後方に吹き飛ばされ背中から倒れてしまう。

 

「ぐぅぅッ!?」

 

『チィ、コクピットのパイロットまでは届かなかったか。まぁ良い、簡単には死なせん。血反吐を吐き、苦しみながら死ね!』

 

「まだ死ねない……俺はオルガが目指す先を見るんだ。だから死ぬのはお前だ」

 

『この子供がぁぁぁッ!』

 

「ぐぅッ!?」

 

 またバルバトスの頭部を鷲掴みにして地面に押し付けメインスラスターを全開にする。加速しながら機体を地面に押し付け、激しい衝撃がパイロットに伝わる。

 両手で操縦桿を握り締め歯を食いしばり耐える三日月。進んでいる方角は会議の開かれるエドモントン。

 押し返す事もできないまま、二機は着実に近づいて行く。

 

「ベルリはもう着いたのか? まぁ、アイツの手伝いは要らないけどな」

 

『二本角のパイロットか? アイツも殺さなくてはならない! そうでなくてはクランク二尉の無念を晴らすことなど--』

 

「うるせぇな……お前は殺すから関係ないよ」

 

『小僧があぁあああッ!』

 

 怒り狂うグレイズ・アインはバルバトスをフルパワーでぶん投げる。体に伝わる衝撃とGに姿勢制御もできず、何百メートルも進んだ先に地面に激突しながら減速しようやく止まった。

 

「ペッ! 口の中切った、鉄の味がする。オイ、まだ動くよな?」

 

 口に溜まった血を無造作に吐き出し、操縦桿を握り直すとバルバトスを立ち上がらせる。その背後にはエドモントンの市街地がもう目と鼻の先だ。

 そして前方からはグレイズ・アイン。ターゲットであるバルバトスを倒すまではどこまでも追い掛けて来る。

 どれだけ太刀を振るっても通用しない。機体もボロボロ。

 危機的状況に追い込まれるが三日月の闘志は消えていない。それどころかより殺意をみなぎらせ鋭い視線でグレイズ・アインを睨む。

 それに答えてか、脊髄からケーブルで繋がる三日月とバルバトス。阿頼耶識システムを通して大量の情報が流れて来る。

 

「これは……」

 

『バルバトスに蓄積された戦闘データだ。リミッターを解除すれば、こんな相手は一瞬で倒せるようになる』

 

「リミッター? そう、だったら外して」

 

『迷いがないな? 悪魔との契約は望む物を与える代わりに代償を必要とする。代償を払ってでもお前は力が必要なんだな?』

 

「あぁ、お前の出せる力を寄越せ!」

 

『わかった。三日月・オーガス、お前に俺の力をやる……』

 

 瞬間、全身の血が沸騰するかのような感覚が三日月を襲う。鼓動が早くなり、手足が痙攣し、どうにか息を吸い込むのでやっと。

 

「がはぁッ!? ぐぅ……ハァ……ハァ……もっとだ……もっと寄越せ! アラン、お前の力を全部出せ!」

 

 鼻血が止めどなく溢れ、右目からも血が流れてくる。リミッターを解除したバルバトスの情報量に脳や体が耐え切れず悲鳴を上げる。それでも三日月は力を求める。

 阿頼耶識システムを通してバルバトスを立ち上がらせ、目の前の敵に殺意を向けた。

 ツインリアクターの出力が通常時よりも高くなり甲高い音を唸らせ、ツインアイは三日月と同じように真っ赤に変わる。

 機体全体から伝わる禍々しい雰囲気はまさに現代に蘇った悪魔。




 クーデリア・藍那・バーンスタインと申します。
 わたくしは火星に住む人々の生活が良くなるようにと地球までの旅を続けてきました。
 しかし、道中での海賊やギャラルホルンとの戦いにより、鉄華団の人達の血が流れていきました。矛盾したおこないであることは充分にわかっています。
 ですがこの先にわたくしが願った未来が、三日月達の未来が待っています。だから一緒に行きましょう。今度こそ、アナタの手を取ります。
 次回、鉄血のレコンギスタ--未来への道--
 みんなで一緒に見て下さい。
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