ガンダム 鉄血のレコンギスタ   作:K-15

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第十六話 未来への道

 リミッターの解除されたバルバトス。ツインリアクターの出力も向上し、真っ赤に光るツインアイでグレイズ・アインを睨み付ける。

 

『うあ゛あ゛あぁあああッ! 死ねよッ! やあああァァァ!』

 

「うるせぇ……なぁッ!」

 

 マニピュレーターをドリルのように回転させてバルバトスに詰め寄るグレイズ・アイン。だが、三日月の反応の方が早い。構える太刀で横一線。鋭い刃が黒い装甲に触れ、回転するマニピュレーターが明後日の方向に飛んで行く。

 手首からフレームが綺麗に切断されており、今までとは考えられない攻撃力を見せる。

 

「そうか……叩き付けるんじゃなくて、引いて斬るんだな」

 

『コイツ!? さっきまでと動きが--』

 

 間髪入れず両腕を振り上げ袈裟斬り。黒い装甲と装甲ごと、刃は右腕を切断した。

 

「面倒だからさぁ……もう喋るな。次で殺す……」

 

『お前は……本当に悪魔なのか? 悪魔だと? うあ゛あ゛ぁあああ!』

 

 叫びながら地面を蹴りジャンプ。メインスラスターから青白い炎を噴射して加速しながら、落下と同時に脚部のドリルで蹴りつける。

 精神を集中させる三日月。高速回転するドリルの切っ先が装甲に触れようとした瞬間、太刀で相手の攻撃をいなす。

 

『避けたのか!? この攻撃を?』

 

 着地すると同時にドリルに変形していた右足が壊れる。すぐに振り返り再び太刀を構えるバルバトスだが、戦意を喪失したグレイズ・アインは戦おうともせず一目散に逃げて行く。

 エドモントンの高度に発達した街の中を巨大なモビルスーツが駆け抜ける。

 

『だ、ダメだ! どうにかして逃げなくては!』

 

「逃がす訳ねえだろ……」

 

 背を向けるグレイズ・アインを追い掛けてバルバトスも走る。

 

///

 

 悠々と空を飛ぶGセルフ、ベルリはコクピットの中で危なげなく議事堂を視界に収める。 

 

「アレが議事堂、でもこれだけ接近しても警報も何もないだなんて……」

 

『その為のお前の機体だろう? エイハブウェーブが探知されないんだからな。レーダーに映らない、それに空から飛んで来るんだ。何も知らない奴からしたら頭がこんがらがるだろうよ』

 

「そう言う物かもしれませんけど……着陸します。少し揺れますよ?」

 

 街の中央に立てられた広い議事堂。黒いスーツに身を包み周辺を警護しているSP達が上空からやって来たGセルフの存在に慌てふためく。懐から銃を取り出す者、通信で指示を仰ぐ者、しかし全てが手遅れだ。

 

「どうしてモビルスーツがこんな所に!? 防衛部隊はどうなっている?」

 

「それよりもエイハブウェーブの干渉だ! 電力やライフラインの確保を!」

 

 地上に着地し片膝を付くGセルフは腕をゆっくりと動かし持っていたモビルワーカーを降ろす。スプリングが衝撃を吸収しながら車体を揺らしタイヤが地面に接地した。そしてハッチが開放され中から鋭い視線を向けるオルガが出て来る。

 当然、警護のSP達は抜いた銃口を一斉に向けるがオルガは眉一つ動かさない。

 

「随分な歓迎の仕方だな?」

 

「動くな! 声も出すな! 中を確認する。反抗すれば命はない!」

 

 SPの一人が歩を進めモビルワーカーの中に入ろうとするが、それよいも早くにもう二人の人物が現れる。黒いスーツに身を包むクーデリアと杖を付く蒔苗東護ノ介。

 彼を見た瞬間、銃を構えていたSPは素早く銃口を下げた。

 

「蒔苗代表!? どうしてこのような所から?」

 

「儂がどこから来るのかは問題ではない。それよりも今この場に居ると言うことが今後の結果を左右する。では、行くとするかの。お嬢さんや」

 

「はい……今を変え未来に繋げる為にわたくしは地球に来ました」

 

 頷く蒔苗は杖を着きながら歩き出し、クーデリアもその隣を歩き議事堂の中へ入って行く。二人の進行を妨げる者など誰も居らず、地面に根が生えたようにSP達はピクリとも動けない。

 施設の中に足を踏み入れ、その背中が遠ざかって行く事でようやく緊張感から開放される。とは言え、やれる事など限られているが。

 

「まずは状況の確認を、先生に連絡は付くか?」

 

「お前は動くな、おかしな動きをすれば警告ナシで射殺する」

 

 以前として銃を突き付けられるオルガはGセルフを見上げて不敵な笑みを浮かべる。

 

「別に何もしねぇよ。でもお前らの眼の前に居るモビルスーツのことを忘れて貰っちゃ困るな。議会が終わるまではテメェらもおかしな真似はすんじゃねぇぞ?」

 

「不法に占拠した貴様に言われることではない」

 

「こうでもしないと入れねぇからよ。おい、ベルリ! ライフルは使うなよ!」

 

『わかってますよ。そんな一方的な……』

 

 ベルリは言いながらコンソールパネルを叩き周囲の状況を把握する。Gセルフではエイハブウェーブを感知する事はできないが、簡単な熱源や光をサーチする事でモビルスーツと戦闘の探知くらいなら可能だ。

 

「おいどうした?」

 

『黒いモビルスーツが近づいてる?』

 

「黒いモビルスーツ? ミカはどうなってるんだ!」

 

 声を荒げるオルガだが銃を突き付けるSPがトリガーに指を掛ける。けれどもGセルフのビームライフルの銃身が男の頭を軽く叩いた。

 

「い゛ッ!?」

 

『こんな場所で銃撃戦をするつもりですか! そんなことより避難誘導はどうなってるんです? 街中で戦闘だなんて』

 

「わ、わかっている。本部、こちら……本部、聞こえないのか? エイハブウェーブの干渉か!」

 

 SPは繋がらなくなった通信に悪態を付く。その間にも二機のモビルスーツが戦う鈍重な音がここまで響いてくる。

 操縦桿を握り直すベルリは外部音声でオルガに呼び掛けた。

 

『どうします? 三日月さんの援護に--』

 

「いや、必要ねぇ。ミカなら絶対に負けない。今までだってそうだったんだ。アイツならあんなモビルスーツくらいぶっ倒す」

 

『だからって!?』

 

「俺達がここを動くのはお嬢さんの仕事が全部終わった時だ。それまでは誰にも邪魔させる訳にはいかねぇんだ」

 

 

 口にしたら最後、オルガは前言を撤回するつもりはない。グレイズ・アインが着実に近づいて来る中、ギャラルホルンの防衛部隊が動き出す。それでもモビルスーツはエイハブウェーブによる干渉を広げない為にも出撃できない。ライフルなどを装備した歩兵部隊とモビルワーカー隊が迎撃に向かうしかなかった。

 

///

 

 蒔苗と共に議事堂へ足を踏み入れたクーデリア。扉を開けて進んだ先では開けた空間に無数の椅子と議員達が占めており、突然現れた二人に驚きを隠せない。

 ざわめきと雑音が入り交じる中で年配の女性議員がヒールの音を鳴らしながらクーデリアの前に立ち塞がった。

 アンリ・フリュウ、アーブラウ次期代表が一番濃厚な人物。シックな紫色のスーツを着込む彼女は激しい剣幕でクーデリアに詰め寄る。

 

「何なのですかアナタは! もう少しで採決が始まるのですよ! それを--」

 

「わたくしはクーデリア・藍那・バーンスタインと申します」

 

「クーデリア? 小娘が来て良い場所ではない!」

 

「いいえ! わたくしはこの為に地球まで来ました! 蒔苗氏のご行為を受け、鉄華団の皆さんの協力のお陰で今のわたくしはここに立っています」

 

 目の前の相手に一歩の引かないクーデリア。けれども相手のアンリも議員としての年期がある。まだ少女と呼べる年齢のクーデリアから来る圧くらいでは引かない。

 

「蒔苗代表……いえ、元代表。これはどう言うことです? それにアナタは贈収賄疑惑が掛けられていることをお忘れ?」

 

「まだそこまではボケておらんよ。疑惑を払拭する証拠ならある。まぁ、それは今やるべきことではない。採決を始める前に少しだけ彼女に時間をくれんか?」

 

「そんな小娘の為に議会を遅らせるのですか?」

 

「責任は儂が取る」

 

「今のアナタは責任を取れる立場にありません」

 

 どちらも一歩も引かず互いに言葉のぶつけ合いをするアンリと蒔苗。鋭い視線を向けながらも蒔苗はクーデリアを促すように背中を押した。

 

「ほれ、壇上はあそこじゃ。そこで思いの丈を口にするが良い」

 

「ですが……」

 

「言ったじゃろう。責任は儂が取る。それにアンリ、お主も言い逃れせんと説明して貰う義務がある。ギャラルホルンとの癒着の件に付いて」

 

「はん! 何をバカなことを。ギャラルホルンとの癒着ですって? ありえません」

 

「今の言葉、夢々悪れるでないぞ」

 

 表情一つ変えずに言ってのけたアンリは口を閉ざして議会から去って行く。蒔苗が議場に現れた瞬間、完全に場の空気を支配してしまった。残された議員の中で彼女を呼び止められる者などいない。

 早歩きで一人通路に出る彼女、数秒遅れて秘書とSPが後から付いて来る。薄暗い通路の中で横並びになる秘書に向かって押し殺した声で言う。

 

「後で防衛部隊の責任者を呼び出しなさい」

 

「はぁ……」

 

「評議会に掛けてクビにしてやるわ」

 

 溢れ出る怒気に何も言わず頷く秘書。

 アンリが退席した後でも議会は進行しており、そしてクーデリアは緊張しながらも壇上に上がりマイクのスイッチを入れて、力強く正面を向きながら言葉を発した。

 その様子は世界に向けて発信される。

 

「みなさん、初めまして。わたくしはクーデリア・藍那・バーンスタインと申します。前代表の蒔苗氏との交渉の為に火星よりやって来ました。その蒔苗氏に時間を頂き、今、この場に立たせて貰っています。火星からこのエドモントンに来るまでの道すがら、幾度となくギャラルホルンの妨害を受けました。そして、今まさにわたくしの仲間達がギャラルホルンの妨害と戦っています」

 

 クーデリアの演説を聞いて一部の議員が息を呑む。聞き取られないように隣り合う議員の耳元で小さく声を出す。

 

「良いのですか? このまま演説を続けさせて?」

 

「表立って止めに行ける者など居るものか。それにしてもギャラルホルンの評価のにキズが付く。が、後のことはセブンスターズに任せるしかない」

 

「不用意には動けないですね。わかりました……」

 

 クーデリアが表立って行動しなかったように、裏で暗躍する者が当然居る。

 それでも今はこれまでの旅路で経験した思いの丈をぶつけるので精一杯。

 

「わたくしは歪んだ火星圏の体勢をどうにかしようと考え地球まで来ました。その中で火星だけでない、世界に広がる大きな歪みの存在を知りました。そして歪みを正そうと訪れたこのエドモントンでもまた、その歪みに飲み込まれようとしている。この場に居る皆様は力を持っています。歪みを正す力を。ですからどうか、その力を蒔苗氏に少しでも良いので分けて下さい。その選択こそが、希望となる未来を作り出す筈です!」

 

///

 

 街中にまで後退するグレイズ・アイン。アレだけの戦闘力を誇っていた機体が、今や一目散に逃げるだけ。

 振り返ればすぐ後ろには覚醒した三日月のバルバトスが。

 

『機動力で振り切れない! ならば!』

 

 左のマニピュレーターを高速回転、ドリルのようなパンチでバルバトスを殴りつける。が、三日月は太刀を構えて払うと簡単に往なす。

 そして刃を振り下ろし、装甲の隙間にあるフレームを通すと左腕も関節部から切断された。

 

『この動き!? この反応速度!? お前は人間か?』

 

「うるさいって言っただろ?」

 

『バケモノめ、死んでしまえぇえええッ!』

 

「だから……」

 

 グレイズ・アインに残るのは両脚部だけ。足をドリルに変形させようとするがバルバトスの方が動きが早い。踵で脚部を蹴り一瞬姿勢を崩す。

 瞬間、胸部装甲へ縦横無尽に刃を振るう。太刀の動きが見えない、残像が残る程に早い。振り下ろし、斬り払い、斬り上げて横一閃。

 ナノラミネートが施された装甲が完全に破壊されハッチが閉じられたコクピットがむき出しになる。

 

『お前は……お前はな--』

 

「死ぬのはそっちだって言っただろ?」

 

 鋭い切っ先でコクピットが突かれる。その一撃で生体コンピューターが破壊され、グレイズ・アインは力を失う。バルバトスが太刀を引き、自重を支える事もできずに地面に倒れ込む。

 完全に動きが停止したのを確認してから、太刀を背部にマウントさせる。

 

「終わったな? あちこちにガタが来てる、オヤッサン怒鳴るかな? まぁいいや、オルガの所に戻ろ……」

 

 長かった旅路が終わろうとしていた。数時間後、クーデリアの演説の効果もあり蒔苗は今期の代表に選ばれ、彼女が目指す火星の自治権独立に向かって確実に前進した。ハーフメタルの貿易自由化が成立すれば火星自体に多くの資源が流れる。後は末端にまで資金が行き渡るように制度を改正していくのが今後の彼女の仕事。

 クーデリアはフミタンと共に地球へ残り、オルガ達鉄華団は準備が整い次第早々に火星へと戻る。

 列車に戻るオルガと三日月。

 三日月はオルガの背中に抱えられて甲板にまで来るに鉄の板の上に腰を下ろし夜空を見上げた。

 

「地球の空って綺麗なんだ……」

 

「そうか? そうだな……」

 

「ビスケットも死んだ、他にも一杯死んだ……ねぇオルガ、ここが俺達が目指した場所?」

 

「あぁ……でもまだだ、ここも俺達が進む道の一つってだけだ。まだ止まれねぇ……もっともっとデカくなる」

 

「そう……オルガが行くなら俺も行く」

 

「でもお前、体が……」

 

 バルバトスのリミッターを解除した事で脳に掛かる負担が増加し、パイロットである三日月の体にも影響が出てしまった。右目が効かなくなり右腕も一切動かない。右の聴覚も悪くなり右足も引きずっている状態。そんな状況でも三日月は気にする素振りを見せない。

 

「阿頼耶識を繋げれば元に戻るから。ちょっと面倒だけど」

 

「お前なぁ」

 

「アレが三日月?」

 

 動く左腕を伸ばし空を指す。その先にあるのは鮮やかに光る衛星。澄んだ空気のお陰で影ができる程に明るい。

 

「そうだ。良く知ってるな」

 

「クーデリアと最後に分かれる前に教えて貰った。俺と同じ名前……ねぇ、三日月には何があるの?」

 

「月に? 別に何もねぇだろ? 人だって住んでなかった筈だ。珍しいこと聞くな?」

 

「何だろ? ちょっと気になるんだ」

 

 瞳に映る三日月、彼らが見上げる先に何があるのかをまだ知らない。

 鉄華団が火星に戻るのと時を同じくして、ベルリもまた行動に移っていた。Gセルフと共に地球に残るベルリは旅立つ前にクーデリアと会う。

 用意された部屋のソファーに向かい合わせに座る二人。

 

「それで、ご用件と言うのは?」

 

「はい、ちょっと突拍子もない話ですけれどクーデリアさんになら話せると思って」

 

「突拍子もない?」

 

「そうです。すぐには信じられないかもしれませんけれどそれは僕も同じなんです。わからないことも一杯ありますけど、順番に説明する必要があります。まずは--」

 

///

 

 マクギリス・ファリドは紺を基調とした制服に身を包み長い通路を進んでいる。目的はギャラルホルンの中核、最高決定機関であるセブンスターズから召集の通達が来た為。

 その会議場に訪れたマクギリスは用意されたテーブルの中央に腰を下ろす。見れば他の当主達は既に揃っている。

 

「ようやく来たか。新司令のマクギリス・ファリド」

 

「すみません、家の事情で少し遅れてしまいました」

 

「無理もない。エドモントンの一件でどこも大騒ぎだ。君の父上も失脚してしまった」

 

 名前の通り、七人の当主により意思決定されるセブンスターズの議会。けれども一つだけ席が空いている。

 ファリド家、ボードウィン家、イシュー家、エリオン家、クジャン家、バクラザン家、ファルク家。

 その中でイシュー家の人間だけが来ていない。

 

「それで新司令、事の顛末をどう付ける? 蒔苗氏が代表戦に通ったことでギャラルホルンの癒着があらわとなった。各地で統制が取れていない」

 

「気にすべきことは山程あるがまずはエドモントンの一件をどうするかが先決ではないか? 登録にないモビルスーツが市街地に侵入したことでインフラの整備に時間が掛かった。それに何人か死人も出ている」

 

「遺族には賠償金を払えば黙るでしょう。インフラ整備はこちらからも人員を回す。今は少しでもギャラルホルンの信用を回復させなくては」

 

 口々に意見が出る中で、テーブルに肘を付き両手を組むマクギリスは口を開く。

 

「エドモントンの件は一部の過激派が引き起こした事件、と言うのはどうでしょう? 組織からも疎まれ、チームワークが取れない人物。ちょうど今ならこの場に居ない。皆様からの票が集まればすぐにでも」

 

「だが良いのか? 代わりの人間はどうする?」

 

「それも私にお任せを。その間の地球外縁軌道統制統合艦隊の指揮は私が引き継ぎますので。元はと言えば火星での不正な資金流出を摘発した私の責任でもある。そのせいで火星支部は弱体化し、海賊などがひしめき合う無法地帯と化してしまった。正義と信じて行った行動がこのような結果になるとは……」

 

 その中でエリオン家の当主であるラスタル・エリオンが席を立ち、鋭い視線をマクギリスに向けた。

 

「ではその方針で進めていこう。私はマクギリス司令の提案に賛成する」

 

「ありがとうございます……」

 

 交わり合う二人の視線。今はまだ灯火にもなっていない二人の闘志。けれども互いに相手の腹を探り、いつか牙を剥こうとしている。




 これにて前半は終了です。すぐに後半も書き始めますのでご意見、ご感想をいただけると嬉しいです。
 後半からはアニメのストーリーとは大幅に変えていくつもりですので、また楽しく読んでいただければ幸いです。
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