ガンダム 鉄血のレコンギスタ   作:K-15

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第二話 蘇る悪魔

通路の蛍光灯は所々消えてしまっている。長年使っている壁や床は取れない汚れが染み付いており、とても衛生的とは呼べない。そんな中でベルリはビスケットに先導されながら歩いている。

 

「へぇ、ほぉ~」

 

「あの……ベルリさん……でしたっけ? ここがそんなに珍しいですか?」

 

「そりゃあもう! トワサンガとビーナスグロゥブは行きましたけれど、火星には初めて降りましたから」

 

「トワサンガとびー……何と言いました?」

 

「状況に流されたってのもありますけど、自分の目で見なくちゃ何もわからないですから。あぁッ! あの窓から外の景色が見れますよね!」

 

 遊園地に遊びに来た子どものように好奇心旺盛なベルリを見てビスケットはわからないようにため息を吐く。

 

(あのお嬢さんと良い、この人も随分と金持ちのお坊ちゃんだなぁ。ここへも旅行気分で来たのか? 親は大企業の社長か何かか……でないとギャラルホルンの防衛線を普通通してなんてくれないぞ)

 

「地面は赤いのに、空は淡い色をしている。体感重力が地球とあまり変わらないのはテラフォーミングの時に特別な事をしたのか、施設自体に何かあるのかな? あの、ビスケットさん!」

 

「はい、今度は何ですか?」

 

「火星は月の次に地球から近い惑星ですけど、物資はザンクトポルトから受け取っているのですか? 地球から伸びるキャピタル・タワーは火星に物資を送っていませんから。あ、もしかしてトワサンガ……はないか。ビーナス・グロゥブのように資源採掘用の小惑星があるのかな?」

 

「あ……あの……すみません。話に付いていけなくて。僕、学がないもので……」

 

 ビスケットの少し俯いた表情を見てベルリも申し訳なさを感じてしまう。どんな物事も素早く吸収しようとする彼の好奇心が仇となってしまった。

 

「すみません。僕も少しはしゃぎ過ぎました」

 

「いえ、そんな……通信室はこっちです」

 

 再び歩き出す二人はようやく目的の通信室にまで来た。壁のパネルを操作するビスケットはロックを解除させるとベルリを中に招き入れる。

 

「ここが通信室になります。でも設備は古いですし、騙し騙し使ってる物もありますから」

 

「ありがとうございます」

 

 部屋に入るベルリはコンソールパネルを指で触る。そして同時に違和感が更に増した。

 

(あれ? この通信機もユニバーサルじゃない。幾ら古いと言っても……もしかしてクラシックな機械なのか?)

 

「どうかしましたか?」

 

「えぇっ……と、コレがこうだから……こうして……」

 

 ベルリの様子を覗き込むビスケット。コンソールパネルを探り探り操作するベルリを見ながら、どこに通信を繋げるのかが気になった。

 けれども打ち込まれる相手の識別コードは知らないものばかり。

 

「あれぇ、おかしいな? 少なくともザンクトポルトには繋がると思ったのに。どこかで操作を間違えたか?」

 

「まぁ古い機械ですから」

 

「繋がらないとなるとまた別の場所を探すか……自力で帰艦する方法も考えないと」

 

「僕には良くわかりませんが、まだ使いますか?」

 

 数秒だけ考えるベルリは頷くとコンソールパネルの傍から離れた。長時間ここに居た所で状況は変化しない。いくつもある選択肢を試してみるしかないと考えるベルリは次の行動に移る。

 

「いえ、ここはもう大丈夫です。他の場所も教えて頂けます?」

 

「良いですよ。ちょうど良いから三日月達とも合流しましょう」

 

 通信室を出る二人は三日月とクーデリアと落ち合うべく通路を進みながら、同時にビスケットは施設内の説明もしていく。

 さっきの件もあったのでベルリは必要以上の事を聞きはしない。

 暫らく歩きながら施設の全体像を把握していると先に行っていた三日月とクーデリアの姿が見え、ベルリは大声を出しながら駆け付ける。

 

「で、一番奥まで行った所が動力室。ここは自前のエイハブ――」

 

「おーい! クーデリアさぁん! 三日月さんも!」

 

「あんたは……」

 

「良かったぁ、合流できて。時間が掛かったからもう別の場所に行ってるかと思った」

 

「こっちももうすぐ終わる所だよ。向こうの奥が動力室」

 

「動力室? それってエンジンですか? フォトンバッテリーじゃないんだ……」

 

「ウチにはエイハブリアクターがあるから、電気はそれでどうにかしてる。そのフォトンバッテリーってのは知らないな」

 

「フォトンバッテリーを知らない?」

 

「俺、頭良くないから」

 

「ごめんなさい。見下した訳ではありません。へぇ、エイハブリアクター……火星にはそんな設備があるのですね」

 

「火星って言うか、俺達がここに来た時から置いてあった。社長がどっかから掘り出したみたいだってオヤッサンが言ってたな」

 

「見る事ってできますか?」

 

「本当はダメなんだけどな。見付かったらオヤッサンに怒鳴られるし」

 

「あ……無理にとは……」

 

「そう? だったらもう終わりだし飯食いに行こ。この人達も一緒のでも良いよね、ビスケット?」

 

 聞かれてビスケットは両腕を組んで少し悩む。三日月は理解していないが、クーデリアは本来ならもっと丁寧に接しなければならない相手。

 CGSに依頼した客であるのもそうだが、火星の自治都市クリュセの代表首相であるノーマン・バーンスタインの娘でもある。

 故に彼女の待遇は慎重を重ねる必要があった。

 

「えぇっと……クーデリアさん。食事はまた別の物をこちらで用意させて頂きます。後で部屋に運ばせて貰いますので」

 

「お気遣いは感謝致します。ですが三日月と同行させて貰っても良いでしょうか? 私は自分の目で見て感じ取りたいのです。この火星の、子ども達の姿を」

 

 彼女にそう言われては反対する事も難しい。ビスケットはどうしたものかと頭を悩ませるが、三日月は素知らぬ顔でこの場から立ち去ろうとする。

 でもクーデリアは歩を進める三日月を呼び止めた。

 

「待って下さい、三日月」

 

「うん? なに?」

 

「握手をしましょう! 握手はコミュニケーションを取る事に置いて大切な物です。私とした事が疎かにしていました」

 

 白いシルクの手袋を右手から取ると、少女のきめ細やかな素肌が露出する。細い指に綺麗に整えられた爪。肌からはほんのりとボディーソープの香りが漂う。

 でも三日月はまた、自らの手を差し出そうとはしなかった。

 

「あ~……」

 

「先程もそうでしたが何故ですか? 私は、貴方達と対等な立場になりたいと思い――」

 

「手が汚れてるんだけど」

 

 クーデリアの言葉を遮り、三日月が見せた手はオイルで黒く汚れていた。それはクーデリアから漂う甘い匂いをかき消すように、鉄とオイルの鼻を突く臭いが上書きする。

 それを見て彼女は右手を差し出すのを躊躇してしまった。

 

「それと対等な立場になりたいって……つまり俺とアンタは違うって事ですよね?」

 

「ッ!?」

 

「じゃあ俺は行きますから。部屋はビスケットが案内してくれるの? 俺知らないからさ」

 

「そうだね。三日月は先に晩御飯食べて来て。後の事は僕がやっておくから」

 

「ん、お願い……」

 

 言うと三日月は今度こそこの場から立ち去ってしまう。小さな背中が見えなくなるのはあっという間で、クーデリアは彼の言葉を言い返す事ができない。

 俯く視線は床のシミを見つめる。

 そんな彼女に声を掛けるのはベルリだ。

 

「大丈夫ですよ、クーデリアさん。わからない事が多いのは普通の事です」

 

「ベルリさん……」

 

「僕は今まで地球に宇宙、月と金星まで行って来ました。でも行く先々で状況も考え方も違うし、その旅に困惑してばかりでした。この火星だってそうです。まだまだわからない事ばっかり。だから自分の目で確かめましょう」

 

「自分の目で確かめる……はい。その為に私はここまで来たのです」

 

「そうです。見なければ何もわかりませんから」

 

 この時のベルリとクーデリアは火星の惨状を全く理解できていない。そしてベルリは自らの身に起きた現象を理解できるのはいつになるのか。

 

///

 

 火星標準時間二十四時二十分、もう少しで日付が変わる。CGSの広い敷地を夜間に警備するのもここで使われている少年達だ。小さな体には不釣り合いのライフルを構えて、眠気を我慢しながら立っている。

 

「ん……う~ん……イテッ!」

 

 被るヘルメットを後ろから誰かに叩かれた。一時的に眠気が失くなり、振り向いた先に居たのは別の班の少年。

 

「おい、ちゃんとやれ。もうすぐ交代だ」

 

「うん、わか――」

 

 言葉の途中で少年は線が切れた人形のように地面へ倒れた。その頭部からはドス黒い液体が流れ出るが、明かりのない夜では良く見れない。

 倒れ込む少年にもう一人の少年が意識を向けるよりも早く、銃弾が頭部を貫く。長距離狙撃が警備に当たる少年達の頭部を正確に撃ち抜いた。

 遠くの崖からスナイパーライフルを構えるのは黒い戦闘服を身に纏ったギャラルホルンの兵士。

 

「ターゲット沈黙。次の目標に移る」

 

 通信機で報告する兵士は身をかがめて場所を移動するが、CGSの敷地から警告を知らせる閃光弾が数発打ち上がる。

 それを見るのはCGSの団員だけでなく、襲撃作戦の指揮を任されたギャラルホルン火星支部所属の二尉であるオーリス・ステンジャもだ。

 彼はモビルスーツのコクピットの中で作戦が失敗した事に悪態を付く。

 

「ガキを仕留めるだけでヘマしやがって! これが終わったらスナイパーは営巣にぶち込んでやる! 全隊、作戦変更。モビルワーカー隊、攻撃開始!」

 

「待て、オーリス。ここは慎重になるべきだ」

 

「いいえ、クランク二尉。この場は私が指揮を任されています。それに相手の戦力も把握しています。先制攻撃でこのまま押し切る!」

 

 オーリスの指揮に対して異を唱えたのはクランク・ゼント二尉。元はオーリスの教官でもあった男だが、オーリスはその彼の言葉を無視して襲撃作戦を強行した。

 大量のミサイルと砲弾がCGSの施設内に降り注ぎ、爆撃と炎が上がり建造物を破壊していく。

 だがCGSの少年達の動きも早かった。動ける人間はすぐさま武器を手に取り、待機させてあるモビルワーカーに弾薬を装填させる。

 絶え間なく続く爆撃のような攻撃は激しい衝撃と爆音を地下まで響き渡らせた。

 用意された部屋のベッドで眠っていたクーデリアも何事かと瞬時に目を覚ます。

 

「な、なに!? この音は?」

 

「お嬢様はここから動かないで下さい」

 

「フミタン? ねぇ、何があったの?」

 

「私がすぐに確認して来ます。危険ですのでこの部屋からは出ないように」

 

「そ、それはわかりましたけれど……」

 

 気が付くとフミタンはいつもの青いスーツを身に纏い部屋から出ようとすると、一際大きな衝撃と爆音が響き部屋を揺らした。

 体を支えるべく壁に手を付くフミタン。すると彼女が扉を開けるよりも早くに何者かが外から開放した。そこに居たのは赤いパイロットスーツを装着するベルリ・ゼナム。

 

「二人共、ケガはありませんね?」

 

「ベルリさん!? はい、私達は大丈夫です」

 

「良かった。なら早く移動しましょう。ここに居ては危険です」

 

「一体何が起きているのですか? 私には何がなんだか……」

 

「僕にだってわかりません。でもここが攻撃されていて、比較的安全な地下に逃げるのが先決だと判断しただけです。この部屋は構造的にも上の階だから危険です」

 

 ベルリに言われてベッドから出るクーデリアはフミタンと一緒に急いで部屋から出た。先導するベルリは二人と共に地下へと向かう。

 揺れ続ける通路で壁に手を添えながら歩く二人はベルリの背中を見失わないように前へ進むので精一杯。

 

「ぐぅっ!? 揺れが酷くなってる。ベルリさん、アナタはこのような事に慣れているのですか?」

 

「これでも養成学校できちんと訓練は受けました。それにビスケットさんに案内して貰ったお陰でここの構造は把握できてます。そこの突き当りを左に曲がりますよ」

 

「は、はい……」

 

 舌を噛まないように返事をするのが限界だった。ベルリに言われた通り突き当りを左に曲がるクーデリアとフミタン。曲がった先ではビスケットが肩で息をしながら立っていた。

 

「ベルリさん!? クーデリアさんとフミタンさんも」

 

 三人がここに居る事に驚くビスケット、でもベルリはそんな事よりも現状把握を優先させる。

 

「外で何が起こっているんです?」

 

「ギャラルホルンが襲撃を仕掛けてる。たぶん狙いはクーデリアさんだ。でないとこんなタイミングでこんな所を襲う説明が付かない」

 

「わかりました。まずはもっと地下まで移動しましょう」

 

「そうですね。それに動力室では反撃の準備を進めています。それさえ何とかなればこの状況を切り抜けられる」

 

 四人は目的を共有すると急いで地下に向かって進み始める。依然として外の状況はわからないままだが揺れは激しくなる一方なので想像に容易い。

 数時間前にも歩いた通路を辿りながら到着した先では巨大なシェルターが開放されたいた。その奥ではわずかばかりの少年と整備班長であるナディ・雪之丞・カッサパが怒号を上げている。

 

「急げ、急げよ! 時間がねぇぞ!」

 

 屈強で図太い胴体と両腕、その肌は黒く焼けている。しかし彼の両足は無骨な鉄で作られた義足だ。一歩歩くだけで床のコンクリートと反響する。

 雪之丞はビスケット達が動力室にまでやって来た事に気が付くと、一旦作業を他の者に任せて現場を離れた。鈍重な足音を響かせながら、彼はビスケットの元にまでやって来る。

 

「嬢ちゃん達を無事に連れて来れたんだな。外はどうだ?」

 

「オルガからまだ連絡がありません。どちらにしても急ぐしかないです」

 

「それはわかってるけどよ……」

 

 ビスケットが話を進める中でクーデリアとベルリは別の物に目を奪われていた。見上げる先にあるのは見た事のないモビルスーツ。

 ハンガーとすら呼べない場所で両膝を床に付けて保持されている。

 フレームは殆どむき出し、わずかばかりの白い装甲。そして特徴的なのは威圧感さえ感じる顔。鋭いツインアイは相手を睨んでいるようだ。

 息を呑むクーデリア、そしてベルリ。

 

「これは……モビルスーツですか?」

 

「もしかしてですけど……G系のようにも見えますね」

 

「G系……ですか?」

 

(ヘルメスの薔薇の設計図で開発されたモビルスーツなのか? だとしたらタブー破りだぞ? ビーナス・グロゥブもそうだったけど、こうもタブー破りが横行してるなんて)

 

「あれ? 揺れが収まりましたか?」

 

 地下にまで響いていた爆音と振動が途端に失くなった。それを合図にしたようにビスケットの通信機が鳴り響く。急いで通信機を取るビスケットはそこから聞こえて来るオルガの声に歓喜した。

 

『こっちの作戦通りに事が運んだ。社長と一軍の奴ら、裏から一目散に逃げやがった。でもそのお陰でお前の考えた陽動がバッチリ決まったぜ。打ち上がった閃光弾に引き寄せられて二手に別れた』

 

「やっぱり狙いはクーデリアさんか。だとしたらここから逃げる人間を見逃せないからね。それで相手は?」

 

『ギャラルホルンだ。今この場を凌げたとしても厄介な事には変わりねぇ』

 

「そうだね。オルガ、こっちはもう少し時間が掛かりそうなんだ。でも敵が減ったのなら――」

 

『ヤバイぜ、ビスケット。そうもいかなくなった』

 

 安堵したビスケットの言葉を遮るオルガ。敷地への爆撃は減ったが、出撃したモビルワーカー隊の数が見る見る内に減っていく。現れたのは人形の巨大兵器――モビルスーツ――

 

『ギャラルホルンの奴ら、モビルスーツを駆り出しやがった』

 

「モビルスーツ!?」

 

『あぁ、こっちは何とか踏ん張らせる。チッ、ミカのモビルワーカーの弾が切れたか。ビスケット、そのままそっちに合流させる。オヤッサンに急がせてくれ。頼んだぞ!』

 

 言うとオルガの通信は途切れ、ベルリはビスケットの最後の言葉が気になった。

 

「敵のモビルスーツも出撃したのですか?」

 

「え……えぇ、そうみたいですね。だからコイツの起動を急がないと」

 

「それでは間に合わないかもしれません。Gセルフを使います」

 

「Gセルフ?」

 

「クーデリアさんと一緒に来たシャトルに収納されているんです。上に行きます」

 

「上って……待って下さい! 地上は――」

 

 ビスケットが止める暇もなく、ベルリは地下動力室から立ち去ってしまう。シャトルは着陸してからCGSの格納庫に移動させられた事までは覚えている。もっとも砲撃と銃弾が飛び交う中で格納庫にまで辿り着けるのかが問題になるが。

 Gセルフに搭乗すべく通路を進むベルリだが、階が上がり地上に近づくにつれて床や壁の損傷も激しくなっている。度々揺れる爆撃で、コンクリートの欠片が頭に当たった。

 

「イテッ! メットは……外では戦いが続いてる。僕の知らない所で、火星でも戦闘が起こってるなんて」

 

 バックパックのヘルメットを被ると再び歩を進める。地球も、月も、金星も、行く先々で人々は様々な形で争っていた。どこまで遠くへ行こうともおとぎ話のような理想郷などない。

 そしてここ、新天地である火星でも争いが巻き起こっている事にベルリは現実を突き付けられる。

 通路を歩き続けるベルリは地上に這い出ると、戦場の光景を目の当たりにした。

 

「こんな……」

 

 戦っているのも倒れているのも自分と同じか、年下の少年ばかり。キズを負い、血を流し、命を投げ打ってでも戦う少年達。

 その先でモビルワーカーに乗って戦う相手は、全高が18メートルあるモビルスーツ。装甲の色が深緑のモビルスーツは、以前ベルリがクーデリアの乗るシャトルを守る為に戦った相手と同型だ。

 

「またあの機体!? と言う事はクーデリアさんが狙われている。急ぐぞ!」

 

 走るベルリはGセルフの待つ格納庫を目指す。その通り道、嫌な臭いが鼻孔を付く。鉄が焼ける。肉が、油が、血が、負傷した少年達から流れ落ちる命。

 右手をヘルメットに伸ばすベルリはバイザーを降ろすとその臭いを遮断させた。

 

「こんな一方的なの……ただの虐殺だ!」

 

「ベルリさん、危険です!」

 

 大声で呼ばれる名前。一度立ち止まり振り向くと、モビルワーカーに乗るビスケットが居た。

 

「ビスケットさん!? どうして?」

 

「まだ生きてるエレベーターから追って来ました。それよりもここは危険なんです。地下のモビルスーツももう少しで動きます。それまで――」

 

「僕はGセルフに与えられた役目を果たします! そのモビルワーカーで連れて行って下さい!」

 

 言うとベルリはビスケットの言葉も聞かずモビルワーカーによじ登る。ビスケットもそれを止める事はできず、諦めてアクセルを吹かす。

 

「あぁもう! どうなっても知りませんからね! しっかり掴まって下さいよ!」

 

「お願いします!」

 

 スキール音を鳴らしながら加速するモビルワーカーはヒビだらけのコンクリートを突き進む。フェンスで区切られていた区間も既に破壊されており、道と呼べる物は失くなっている。戦い、負傷する仲間を尻目に一目散に向かう格納庫も爆撃で壁や天井が破壊されていた。

 

「確かあそこだった筈だ」

 

「シェルターを開ける暇はありません。ミサイルで壊します!」

 

 返事も聞かずトリガーを引くとモビルワーカーの右脇に設置されたミサイルポッドからミサイルが一発撃ち出される。

 燃料を燃やして一気に加速するミサイルは一直線にシェルターへと突き進み、そして巨大な爆発を生む。

 入り口を作ったビスケットはモビルワーカーを減速させる事なく格納庫に飛び込んだ。本来なら明かりを付けなければ真っ暗だが、天井と壁が崩れているのとミサイルの炎でよく見える。

 シャトルは横転してボディーも傷だらけ。それでも中身は無事だ。

 

「ありがとうございます、後は僕一人でやりますから。ビスケットさんは退避して下さい!」

 

「あのシャトルの中……Gセルフってモビルスーツなんですか?」

 

「そうです! Gセルフは僕でしか動かせません!」

 

「確かに阿頼耶識もなしでモビルスーツを動かすなんて僕にはできませんね……頼みましたよ!」

 

 状況を理解したビスケットはモビルワーカーで急いで格納庫から離れて行った。残されたベルリも横転したシャトルを見上げて気合いを入れる。

 

「これは少し手こずりそうだ」

 

///

 

「よぉし、コクピットの調整は終わったぞ。三日月」

 

 整備班長の雪之丞はモビルスーツのコクピット部分にモビルワーカーのコクピットをごっそりそのまま移植させた。工具を片手に這い出る雪之丞を前に、上半身に何も着ていない三日月は疑問を口にする。

 

「こんなのでモビルスーツ動かせるの?」

 

「厄祭戦時代のモビルスーツは基本は阿頼耶識のシステムを組み込んでる。コイツもそうだろ」

 

「そうなんだ。なら俺でも動かせる。早くやろう」

 

 開放されたコクピットハッチから乗り込もうとする三日月。けれどもそれをクーデリアは呼び止めた。

 

「待って下さい! 阿頼耶識システム……どこかで聞いた事があります。成長期の子どもにしか定着しない、特殊なナノマシンを使用する危険で人道に反したシステムでは?」

 

「だから?」

 

「え……ですから……」

 

「今アンタとそんな事を話してる暇はないんだ。良いよ、オヤッサン。繋げて」

 

 彼女をの言葉を無視する三日月。目の前から死が迫る戦いに置いて彼女は言葉は無意味なのだろう。雪之丞は三日月の脊椎部分から飛び出しているインプラント機器、ピアスにガジェットを装着させるとコクピットから伸びるケーブルを接続させようとした。

 

「三日月、モビルスーツの情報量はモビルワーカーなんかと比較にならねぇ。情報量に脳が耐えられなかったら、脳だけじゃなく体がどうなるかわからねぇ。それでも良いな?」

 

「良いよ。どうせ頭なんてたいして使ってないし」

 

「お前なぁ、そう言う事を言ってるんじゃ……まぁ、お前が良いって言うなら何も言わねえよ。繋げるぞ」

 

 ガジェットに近づくケーブル。接続を間近にしてクーデリアはもう一度叫んだ。

 

「待ってッ!」

 

「ぐッ!?」

 

 モビルスーツの情報が阿頼耶識システムを通して三日月に送り込まれる。事前に言われたようにモビルワーカーとは桁違いの情報量に体が痙攣を起こし鼻血も流れ出る。

 呼吸もままならず、意識さえも飛びそうになるが、三日月はモビルスーツのシステムと適合した。

 

「三日月、大丈夫なのか? おい、三日月!」

 

「かはぁッ!? ……うん、大丈夫。行くよ」

 

「行けるんだな? よぉし、ハンガー動かせ! テメェラは離れろ!」

 

 怒号を上げる雪之丞はモビルスーツのコクピットから離れ、他の整備士もそれを聞き身の安全を確保すべく遠くへと離れた。けれどもクーデリアだけは違う。歩を進めるとコクピットに乗り込もうとした三日月の左手を掴む。

 

「戦いに行くのですか? 死ぬのが怖いとは思わないのですか?」

 

「死ぬ覚悟ならできてる」

 

「覚悟って!? アナタは――」

 

「俺が行かなきゃみんなが死ぬ。そんな事は絶対にさせない。あのさ、邪魔なんだけど」

 

 クーデリアはこれ以上何も言えない。言わせて貰えない。彼女が見下ろす男は少年ではない、戦士だ。死の恐怖さえも克服した戦士。

 三日月は仲間を助ける為に戦地へと赴く。邪魔をする敵は誰であろうと倒す。彼女がここで三日月を足止めすると言う事は、それだけ被害が増えると言う事。

 そんな事を彼は許しはしないし、そんな彼を止める覚悟を彼女は持ち合わせていない。

 力なく手放す左手。クーデリアは何も言わずに三日月から、モビルスーツから離れていく。それを見た三日月も、何も言わずにコクピットへ乗り込んだ。

 シートも操縦桿も使い慣れたモビルワーカーと同じ物ですぐ手足に馴染む。そしてコンソールパネルを触る事なくハッチを閉鎖させると、パイロットの意思が阿頼耶識システムを通して機体に伝達される。自動的に網膜センサーが起動し、頭部ツインアイが見ている風景と同じ物が三日月にも見える。

 

「凄いな……ん、何だコレ?」

 

 コンソールパネルに文字が表示される。三日月には読む事ができないが、阿頼耶識を通して一文だけ理解できた。

 

「ガン……だむフレーム……バルバ……トス……そうか、バルバトスか」

 

『ケーブルカット! エレベーターも動かせる。行くぞ、三日月!』

 

「わかったよ、オヤッサン。行くぞ、バルバトス!」




 始めまして、ビスケット・グリフォンと申します。こういうのは慣れてないので上手くできるかわかりませんが……
 本格的になるギャラルホルンとの戦闘。オルガ、このままで本当に大丈夫なの? モビルスーツを相手に戦うことができない僕は……
 次回、鉄血のレコンギスタ――ベルリと三日月――
 良かったらまた見て下さい
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