ガンダム 鉄血のレコンギスタ   作:K-15

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第二十三話 王の誕生

 ギャラルホルンのモビルスーツ部隊を捉えるベルリ。モニターに表示されるのは十二機のモビルスーツは装備する銃口をGセルフに向けると一斉にトリガーを引いた。激しいマズルフラッシュと共に無数の弾丸が迫る。

 

「これだけのモビルスーツを出してくる!? シールド!」

 

 コピペシールドを展開し弾丸を防ぎながら進むGセルフ。コピペシールドの性能は頻繁に使用した事もあり黒いレギンレイズに搭乗し指揮を取るイオクの耳にも届いている。

 

「あのような小細工など恐るるに足らん! 各機は編隊を組んだまま撃ち続けろ」

 

「ですがイオク様、決定打を与えられなければ--」

 

「それは私の役目だ。ラスタル様も見ている……この戦いで火星の不穏分子の象徴である鉄華団は消えて貰う!」

 

 気合いだけは人一倍あるイオクだがまともな作戦一つとしてない。それでも部下は彼の指示に従いGセルフに照準を合わせトリガーを引き続ける。

 けれども弾丸は全てコピペシールドに打ち消されてしまうし、そうでなくとも高い機動力と運動性能を前に弾は避けられていく。

 操縦桿を匠に動かすベルリは回避行動を取りながらビームライフルを向ける。

 

「一機だけ色の違う機体? 指揮官機なのか?」

 

「二本角のモビルスーツも消えて貰う!」

 

「指揮官機がいなくなれば!」

 

 ベルリとイオクは互いにトリガーを引き、ビームライフルと長距離レールガンの銃口から弾が発射される。

 長距離レールガンの弾丸は通常兵器と比べ強力だが、Gセルフが発射したビームに直撃すると跡形もなく消えた。

 ビームはそのまま一直線に突き進み、イオクのレギンレイズの黒い装甲に直撃するがこれもナノラミネートアーマーに弾かれる。

 

「これがビーム兵器の威力!? ダメージがないぞ?」

 

「イオク様、後退して下さい!」

 

 周囲のグレイズが前に出て盾となりながら装備するライフルでGセルフに攻撃を仕掛ける。回避行動に移るベルリは再びビームライフルを向けてトリガーを連続して引くが、装甲のない関節部だけを狙うのは至難の業。

 当たりはすれどビームはナノラミネートアーマーに防がれてしまう。それどころか敵機は前へ前へ距離を詰めてくる。

 

「ナノラミネートアーマーならビーム兵器に耐性があるのはわかっている! 怖じけるな、前に出てイオク様を守るんだ!」

 

「動き方が普通じゃないぞ!? 死ぬつもりなのか!」

 

 必死にイオクを守ろうと動く部下達は決死の思いでGセルフに攻撃を仕掛けようとする。その事に恐怖を覚えるベルリだったが、一方のイオクは全く気がついておらずペダルを踏み込みレギンレイズのメインスラスターの出力を上げた。

 

「二本角を仕留めるのは私の役目だ! たかが一機……時間差で砲撃、援護もだ!」

 

「イオク様、しかし……」

 

「あのパイロットは逃げ回っているだけだ! 押し切るぞ!」

 

 誰よりも前に出て長距離レールガンを向けるとトリガーを引き続ける。回避し一旦後退するベルリだが、イオクの部隊はそれでも追いかけて来た。

 背を向けて砲撃を避けながらも、コクピットの中でコンソールパネルを叩く。

 

「敵を足止めできればいいんだから……フォトントルピード、出力は少し押さえて使ってみる!」

 

 パーフェクトパックに備わる新しい武器を使用するベルリ。バックパックからは無数の光の球体が放出され、背後から迫るイオクの部隊に迫る。

 

「何だ、光の玉? ビームではない?」

 

「データにはありません。我々が知らない新兵器?」

 

「このような子供騙しで!」

 

 握る長距離レールガンで目前の光の玉を振り払うイオク。そして逃げるGセルフに銃口を向けようとするが、その時にはもう砲身がどこかへ消えていた。

 

「ぶ、武器が!? どうなっている……何なのだ?」

 

「あ、あ゛ぁあああッ!? 消えた、消えたぞ! 動くな、触れるんじゃない!」

 

「損害拡大、両脚部と左肩が消えて戦闘継続できません!」

 

「ネイト機から応答がありません。コクピット部分が空洞に!」

 

 初めて見る兵器とその威力を前に恐怖するイオク。共に出撃した部下のグレイズの半数以上が行動不能となり、光の玉は後ろへ通り過ぎていく。

 けれどもフォトントルピードの威力に震えるのは彼だけでない。使用したベルリも、強力過ぎる威力に背中に冷たい汗が流れる。

 

「こんなのって……こんなのおかしいですよ……」

 

「一瞬で八機も倒したというのか……よくも……よくもやってくれたな二本角めッ!」

 

「近づいて来るのかァァァ!?」

 

 加速するレギンレイズは壊れた長距離レールガンを投げ捨て、腕を伸ばしGセルフに組み付こうとする。ビームライフルを手放し首元からグリップを取り振り上げた。

 針のように細いビームサーベルがレギンレイズのフレームを切断し左肩が宙に浮く。が、それでもイオクは止まらずGセルフに組み付いた。

 

「部下の仇は取らねばならない! そうでなくては……」

 

「取りつかれた、後ろからも!?」

 

 後方から、右から、下から、Gセルフは瞬く間にボディーに腕、脚と拘束され身動きが取れなくなる。

 

「イオク様は離脱して下さい! この機体は危険です!」

 

「部下を殺され、お前達まで見捨てて逃げられる訳がなかろう!」

 

「しかし!?」

 

「光の玉は通り過ぎた。これだけ密着していればさっきのは使っても意味がない。コクピットを狙えッ!」

 

 イオクは叫ぶがレギンレイズは正面から組み付いているせいで外からは狙えない。それに残ったモビルスーツもGセルフを押さえ込んでいるせいでマニピュレーターが使えない状況。

 コクピットの中でベルリは脱出しようと操縦桿を動かす。

 

「こんな原始的なやり方で! バックパックのノズルの向きが変わらない。高トルクモードは?」

 

 腕と脚の装甲が深緑色に変化し、パワーで強引に振り払う。脚を蹴り、腕を振りグレイズは引き剥がされてしまうがすぐにまた組み付き動きを封じる。

 

「だったら……トラックフィンで!」

 

 バックパックから小型の遠隔操作端末が発射しイオクのレギンレイズにトラクタービームを当てる。重力制御で機体を引っ張るが、金縛りのように硬直したマニピュレーターが装甲を掴んで離さない。

 

「貴様は逃してなるものか! クジャン家の名に掛けて、貴様は必ず私の手で!」

 

「死に物狂いの相手は怖い!? くっ……」

 

 ベルリが足掻いている間にも機体は流されていき、ギャラルホルンの艦艇に接近してしまう。

 

「イサリビとも離れてる……これ以上はバッテリーを消耗するだけだ」

 

 ヘルメットを脱ぐベルリ。大きく息を吐き肺に新しい空気を入れてシートに体重を預ける。

 Gセルフが拘束される様子はイサリビのブリッジでも確認しており、ブリッジではクーデリアがモニターを見つめて呆然としていた。

 

「ベルリさん……ベルリさん、返事をして下さい! ベルリさん!」

 

「エイハブウェーブの干渉を受けています。お嬢様、残念ですが彼の救出は諦めるしかありません」

 

「こんなことって……こんなことになって……私は……」

 

「進路変更できるだけの燃料の余裕、物資の余裕も今はありません。地球への進路を取りながらオルガ団長と合流、そして月へと向かう。それができなければモビルアーマーと呼ばれるマシーンが世界を破壊してしまいます」

 

「わかっています。大義の為に誰かが犠牲になる……わたくしがやってきたこと……」

 

 うつ向きながらスカートの裾を力一杯掴むクーデリア。その様子をチラリと見るフミタンは手を動かしながらも彼女をなだめた。

 

「今は彼を信じましょう。それにあの機体、Gセルフは普通とは違うのでしょう?」

 

「え、えぇ……ユニバーサルな機械ではないと」

 

「ギャラルホルンにもあの機体のことが気になっている人間がいるかもしれません。そうなればあの機体は破壊されない。少しの間は生きながらえる」

 

「ベルリさん……三日月も……」

 

///

 

 体が重い、指一本すら動かせず沼の中へ沈むように眠り続けた。でも時々、声が聞こえる。自分を呼ぶ声が。

 

(誰の声? まぁいいや、眠いんだ……)

 

「--ミ--ーン--」

 

 沼の中で光はない。沈み続ける冷たい闇の中、ゆっくりとまぶたを閉じる。が、時折聞こえる声は止まらない。

 

「--オ--コ--イ--」

 

(ずっと続く声……うるさいな……もう寝たいんだ。充分だろ、あれだけ戦ったんだ。……うん?)

 

「--ミ--ズ--」

 

(あれ? 何と戦ったんだっけ? 何で戦ったんだっけ? 覚えてたはずなのに……忘れたのか?)

 

 閉じていたまぶたを開け周囲を見渡す。真っ暗な沼はいつのまにかどこまでも広がる蒼に変わっていた。

 

(水……違う、地球で見た海ってヤツだ。あ……)

 

 潮の流れに飲み込まれ、何もできないまま体がどこかへと進んで行く。でも苦しくはない、体の血の流れが足のつま先まで敏感に感じ取れる。内側から体温が高まっていくのがわかった。

 

(でもこれが海なのか?)

 

「--コ--イ--」

 

(呼んでるのか、俺を? でも俺は行かなくちゃ……オルガの所に……オルガ?)

 

 瞳に光が差し込む。彼を呼ぶ声がもっとはっきり聞こえる。それだけで力が元に戻る、みなぎってくるのがわかった。

 心に思い浮かべるのは幼い頃からずっと隣にいるあの男の事。自分に生きる意味を教えてくれたあの男。

 

「--コイ--モドッ--」

 

(うん……聞こえる、オルガの声が)

 

「--ミカ--モド--コ--」

 

「わかった、すぐ行く……」

 

 両腕を動かそうとするもピクリとも動かない。でも両足はまだ動く。海の中を泳ぐ彼は少しずつ、だが確実に海面に向かって浮上する。

 

///

 

「っはぁあぁッ!? はぁ……はぁ……」

 

「ミカ!? ミカ! 生きてるな、おい!」

 

「オルガ……」

 

 意識が覚醒した三日月は白いシーツが敷かれた医務室のベッドの上だった。視線の先にはオルガが見下ろしており、更に周囲を見渡せば口元には呼吸器が繋がれ、腕にはチューブが三本も繋げられている。

 三日月の意識が戻るのを確認するのはもう一人の女性。タービンズのアミダ・アルカ。

 

「おや、気がついたみたいだね」

 

「アンタは?」

 

「って、覚えてないか……タービンズの名瀬の女さ。施設に送る時間もなかったから今はアタシらの艦だよ」

 

「俺は……ごめん、オルガ。アイツに勝てなかった」

 

 起き上がる事もできない状態で視線だけを向ける三日月。ベッドのすぐ隣の椅子に腰を下ろすオルガは三日月の右手を掴み優しく答える。

 

「気にすんな。お前が生きてただけで充分だ。体は大丈夫か?」

 

「右腕と右目が見えないのは前と同じだけど……左腕の感覚もない」

 

「っ!?……そうか……」

 

「でもバルバトスに乗れば動くようになるし……そうだ、バルバトスはどうなってるの?」

 

 苦虫を噛み潰すオルガに対して全く気にしていない三日月。

 

「バルバトスは修理してる真っ最中だ。名瀬さんに頼んで急いでもらってるがもう暫く掛かる」

 

「そうなんだ……」

 

「何かあったか?」

 

「バルバトスのリミッターを外しても全く歯が立たなかった、あの白い奴に……」

 

「でも次に戦う時は一人じゃねぇ。火星のユージンや明宏達とも合流して今度こそあの野郎をぶっ潰す! そうすりゃ--」

 

「無理だよ」

 

「ナニ?」

 

「ちょっと数が増えるくらいじゃダメだ。もっと……もっと強くならないと……打つよ、ピアスをもう一本」

 

「ミカ、自分で何言ってるかわかってんのか!? バルバトスのリミッターのせいでお前の体はもうボロボロなんだぞ? そのうえピアスをもう一本打ち込むなんてよ……失敗したら死んじまうんだぞッ!」

 

「死なないよ。うまくいかなくても体が動かなくなるだけだ。バルバトスは動かせる」

 

「そんなの死んでるのと同じだって言ってんだよ! ピアスを打ち込むのだけは絶対にやらせねぇ。団長命令だ!」

 

「でも強くならないとアイツに勝てない。そうじゃないとオルガの--」

 

「無理だよ」

 

 三日月の言葉を遮るのはアミダ。量が減った点滴袋の入れ替えると両腕を組んでベッドの三日月を見下ろしながら言う。

 

「阿頼耶識を施工する為の機材なんてここにはないし、テイワズ全体で見てもそんなことはさせてない。マフィアとは言え仁義は守る。マクマードのオヤジさんは阿頼耶識なんて許さない。だから麻薬とかそう言った類いの物には目を光らせてたよ。アタシらでは手術できない。どこぞの海賊ならまだ阿頼耶識を使ってるだろうけど、そいつらもアンタ達鉄華団が潰していったからね。それと……アンタが寝込んでる間に地球も火星もてんやわんやでね。阿頼耶識の手術ができる場所やできる人間を探す暇なんてないよ」

 

「そう……わかった」

 

 三日月はまぶたを閉じると再び眠りに入る。オルガは三日月がピアスを打ち込む事を諦めた事に安堵した。

 けれども他の打開策がある訳ではない。三日月の言うようにバエルに乗るアグニカの戦闘力は非常に高く、策もなしに戦いを挑めばまた負けるのは目に見えている。

 頭を抱えるオルガだが、部屋の扉が開く音が聞こえ顔を向けた。そこには白いスーツを着る名瀬が立っている。

 

「どうした? 酷い顔してんぞ」

 

「名瀬さん……」

 

「バルバトスのことでちょっと話がある。直接見てもらった方がいい。一緒にモビルスーツデッキまで来てくれ」

 

「はい、わかりました」

 

「アミダ、悪い……そのボウスのことは暫く頼む」

 

「あいよ、病人の看病くらい訳無いさ」

 

 言うと名瀬は医務室から立ち去り、彼に続いてオルガが出て行く。出た通路で先行して歩く名瀬。

 ここは三日月とアグニカた戦った地点から数十キロ離れた無人島。偶然にも地球まで荷物を運送していた名瀬に見つけられ今に至る。

 三日月は治療を受け、破壊されたバルバトスは急ピッチで修理作業に入っていた。

 

「あの、名瀬さん?」

 

「歩きながら説明するが、あの機体の修理、どんなに早くても五日は掛かる」

 

「そうですか……すいません、無理言って」

 

「気にするな。こんなの気にしてられないくらいの状況になってるんだ。それで破壊された腕、新しく作ってる真っ最中なんだが、ガンダムフレームとの適合性がイマイチみたいだ。直るには直るが剛性が前よりも悪い」

 

「前よりも弱くなるってことですか?」

 

「攻撃面では前よりも尖った性能に仕上げる。でも前と比べてコンマ何秒か反応が遅くなったり、阿頼耶識を繋げてまたドンパチやるんだろ? きちんと整備しててもガタは出てくる」

 

「三百年前のモビルスーツを完全に修理するのは無理ですか」

 

「だな、外側の装甲や武装ならなんとでもなるが骨組みとなると。それに今やモビルスーツの開発をしてるのはギャラルホルンだけだ。俺達はアイツらの機体を奪って改造するだけだ。新しい機体を開発してるが、全部元々はギャラルホルンの機体か大昔に作られた機体のフレームを使ってる。まぁ、俺も技術者じゃねぇからな、それ以上のことは知らねぇ」

 

 そうして通路を歩いていると二人はモビルスーツデッキに到着した。目の前に広がるのはハンガーに固定されるバルバトス。バエルにより切断された両腕はなく、全身の装甲も外されていた。

 フレームだけになったバルバトスを見上げるオルガ。

 

「今は何をしてるんです?」

 

「さぁな」

 

「さぁって……」

 

「言ったろ、専門じゃないってな。俺の専門は金勘定だ。どんな時であろうと貰うもんはきっちり貰う。機体の修理、改修に掛かる金は払え」

 

「そりゃそうかもしれませんけど……今、火星は滅茶苦茶になってるんでしょ? 鉄華団の仲間とも連絡が取れねぇんだ。せめてアイツらがどうなってるか--」

 

「関係ない。金が払えねぇなら今すぐに作業は中断だ。後は生きてるかどうかもわからない仲間を待つなりなんなり勝手にしろ」

 

「っ!?……くぅッ……」

 

 奥歯を噛みしめるオルガ、時間の猶予はない。ここで答えを渋って時間を伸ばせばその瞬間に相手は契約を打ち切るだろう。決断しなければならない。

 

「わかりました、金はきっちり払います」

 

「よぉし、これは契約だ。口約束だろうとなんだろうとな。担保でお前が乗ってたシャトルはこっちで預からせてもらう。それでも足りない金は今は待ってやる」

 

「ありがとうございます」

 

「忘れんじゃねぇぞ。俺は宇宙一のマフィアに属してる組員だ。絶対に金は払ってもらう。何があってもだ」

 

「は、はい……」

 

 名瀬の凄みに圧倒されるオルガ。了承の言葉を聞いた名瀬は威圧感を消し、口元を釣り上げる。

 

「あぁ、でも一つだけ機体のことでわかってることがある。新しい名前はバルバトスルプスレクスだ」

 

「バルバトスルプスレクス? 長くないですか?」

 

「あっはは! そうだな、俺もそう思う。でもちゃんと意味はある。ルプスは狼、レクスは王様って意味だ」

 

「狼の王……」

 

 新しく改修されているバルバトスの作業は昼夜を通して行われた。

 

///

 

 アリアンロッド艦隊の司令官でもありセブンスターズの一角であるラスタル・エリオンはスキップジャック級戦艦のブリッジで両腕を組みながらモニターに表示されるモビルアーマーの様子を見ていた。

 

「火星に現れたモビルアーマーは四機だけか?」

 

「はい、自警団などが動いていますが全く対処できていません」

 

「そうだろうな。三百年前の厄祭戦の遺物が今になって蘇ったのは、マクギリスがバエルを奪ったことと関係があるのだろう」

 

「地球へも接近して来るのでしょうか?」

 

「だとしたら我々の出番だ。敵対勢力の地球圏侵攻を阻止、それが月外縁軌道統合艦隊の仕事だからな」

 

「ですがモビルスーツで対処できるかどうか……」

 

「こちらも過去の遺物を使う必要が出てくる……」

 

「は……?」

 

 モビルアーマーのビームは火星の施設を破壊し人々を一瞬で焼き尽くす。雄叫びを上げ巨大な脚で赤い大地を踏み荒らし、接近するモビルスーツは鋭いワイヤーブレードの尻尾で薙ぎ払われる。

 眉間に深いシワを寄せながら眺めるラスタル。そこに地球から帰還したヴィダールがブリッジに現れた。

 

「来たか、機体の調子はどうだ?」

 

「システムとの調整はうまくいった。だが奴に勝てるかどうかはわからなくなった。自らをアグニカ・カイエルと名乗ったマクギリス……俺はアイツに手も足も出なかった……」

 

「ほぅ、諦めるか?」

 

「まさか、キマリスの偽装を外している。新しく生まれ変わったキマリスヴィダールならば奴に遅れは取らん」

 

「期待しているぞ、ガエリオ。 いや、今はヴィダールか」

 

「ガエリオ・ボードウィンは死んだ。俺はただ復讐の炎に身を任せる亡霊」

 

「亡霊と戦うのは亡霊が相応しいか。それよりももう一つの方はどう見る?」

 

「捕獲した二本角のことか?」

 

 イオク・クジャンにより捕獲されたGセルフ。今も彼の艦艇で拘束している状況だが、パイロットであるベルリは未だにコクピットの中に隠れたまま。

 機体のデータ採取の為にも整備士が何とかコクピットを開けようとしているが全く進展がない。

 

「これまでの戦闘データは私も目にした。あの機体も三百年前の遺物だと思うか?」

 

「ビーム兵器は確かに廃れた技術だ。だが、あの機体からはエイハブウェーブを探知できなかった」

 

「探知できない? 隠密行動を取らせるにしても、ビーム兵器を搭載している理由がますます理解できん」

 

「考えても始まらない。捕獲しているのならもはや驚異でも何でもない。目の前の状況に対処するのが先だ。マクギリスはどこに?」

 

「ギャラルホルンの駐屯基地を襲撃、その後はシャトルを奪い宇宙に出た。このままの進路なら我々の艦隊と正面からぶつかる」

 

「そうか……機体の調整を急がせる」

 

 言うとヴィダールはすぐにブリッジを後にした。ちらりと視線を動かすラスタルは腕を組んだまま、モニターに次々表示される情報を見ていた。

 

「マクギリス……アグニカ・カイエルになって世界の王にでもなるつもりか? 」




 ジュリエッタ・ジュリスです。
 自らをアグニカと名乗るマクギリス・ファリドに封印の解かれたバエル。火星に現れたモビルアーマーと呼ばれる存在。色々な状況が重なりすぎて忙しいと言うのにラスタル様はどうしてヴィダールを信用しているのですか?
 顔も見せないような正体不明の奴ですよ?
 次回、鉄血のレコンギスタ--ヴィダールの戦い--
 バッテリーフルチャージ! ……ところで何のバッテリーですか?

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