ガンダム 鉄血のレコンギスタ   作:K-15

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第三話 ベルリと三日月

 現場の指揮を任されたオーリス・ステンジャは焦っていた。予定していた襲撃作戦は大幅な狂いが生じ、投入したモビルワーカー部隊にも予想以上の損害が出てしまっている。

 そして最終目標であるクーデリア・藍那・バーンスタインの身柄に時間が掛かりすぎていた。

 

「こんな民間企業を制圧するなど容易な物を! こんな事で躓く訳にはいかんのだ!」

 

「オーリス、落ち着け。ここは一度体勢を――」

 

「この作戦の指揮権は私にあるッ! モビルワーカー第二部隊、東側から移動する奴らを絶対に逃がすなよ! 私は正面から乗り込む。モビルスーツの戦闘力があれば、もう手も足も出まい!」

 

「待つんだ。こちらの目的は目標の確保だ。無意味に――」

 

「だったらあの女の確保はアナタに任せますよ。アイン、聞こえているな! お前も女の確保に動け!」

 

 頭に血が上るオーリスはクランクの言葉に耳を貸さない。今回が初陣のアイン・ダールトンもそんな彼に何も言う事ができず、命令に頷く事しかできない。

 オーリスが搭乗するモビルスーツ、グレイズはライフルを片手にCGSのモビルワーカー隊に突っ込む。

 

「こんな奴ら、虫けら同然だ!」

 

 向けられる銃口にモビルワーカーは逃げ回る事しかできない。モビルスーツとの戦力差は歴然としており、パイロットである少年達は生き延びるので必死だ。

 

「どうすんだよ!? モビルスーツまで出して来るなんてよ!」

 

「とにかく逃げないと」

 

「逃げるってどこにだ――」

 

 モビルワーカーの一機が銃弾に撃ち抜かれて爆発した。数秒前まで言葉を発していた少年は重たい鉄板に潰され灼熱の炎に身を焼かれる。

 一機、また一機。ものの数秒で次々に破壊されていく。オーリスの言う通り虫けら同然。これは虐殺だ。

 その様子をクランクは内側からこみ上げる怒りを押さえ付け、固唾を呑んで見ていた。

 

「クランク二尉、オーリス隊長を止めなくても良いのですか?」

 

「構わん! クッ、我々の行動が遅すぎた。そうでなければこうも味方に犠牲が出る事もなかったと言うのに」

 

「クランク二尉……うん、何だ?」

 

 アインはグレイズのセンサーユニットを展開すると望遠カメラでCGSの施設を見た。爆撃でボロボロになったコンクリートの建物から見た事のない何かが出てくる。

 

「エイハブウェーブには反応ナシ。何なんだ、アレは?」

 

『レイハントン・コード、承認しました』

 

「エレクトリックシステム、フィックス! Gセルフで出ます!」

 

 フォトンリングを発生させて、光る巨人は飛び上がった。ベルリの乗るGセルフはビームライフルを片手に東に逃げる部隊の救助に向かう。

 

「モビルスーツも居るけれど、まずはあっち!」

 

 メインスラスターから青白い炎を噴射させて加速するGセルフは敵のモビルワーカー部隊に向かってビームライフルの銃口を向ける。

 

「ライフルを向けているんです。逃げて下さいよ!」

 

 トリガーを引くベルリ。発射されるビームが轟き一直線に突き進むが、相手は攻撃を避けようともしない。ビームはモビルワーカーに直撃し、更に地上へと突き抜け同時に複数体のモビルワーカーを巻き込んだ。

 地表が吹き飛び赤い土が舞い上がる。たったの一撃で、部隊の三割もが戦闘不能に陥った。

 

「あの白い奴はなんだ!? 今の攻撃は?」

 

「二番から十五番まで応答がありません。どうしますか? 迎撃を」

 

「モビルスーツだ……モビルスーツが居るなんて報告にないぞ。どうなっている?」

 

 混乱するモビルワーカー部隊。けれどもベルリはその様子を見て息を呑んだ。

 

「回避行動を取らないなんて……それにビームライフルは強力過ぎる……モビルスーツは?」

 

 次の行動に移るベルリは施設に接近するモビルスーツに向かってGセルフを飛ばす。上空を自在に飛ぶGセルフにオーリスは機体の操縦を止め目を離せなくなる。

 

「何なんだアレは? エイハブウェーブに反応はない。モビルスーツだと言うのか?」

 

「これ以上はさせません!」

 

「自立飛行などと……それに見た事のない武器。何なのだ……何だと言うのだッ!」

 

 叫ぶオーリスはライフルをGセルフに向けるが、トリガーを引くよりも早く再びビーム音が轟く。ライフルは破壊され、マニピュレーターごと吹き飛ぶ。

 

「ぐぅッ!? 片腕がやられたくらいでなッ!」

 

「まだ来ようって言うの!? だったら!」

 

 グレイズは残った左手でバトルアックスを掴み取り、大地を蹴って走り出す。射程距離にまで近づくと左腕を振り上げ攻撃を仕掛けようとした。

 だがGセルフの動きは早い。

 

「高トルクパンチで!」

 

 Gセルフの右腕が緑色に変化する。強力な右ストレートがグレイズの胸部装甲を捉え、更に左腕も緑色に変化しグレイズを連続して殴る。

 右で、左で、四発五発と殴り続け、最後に両手を握り締めて頭上に振り上げ頭部目掛けて振り下ろす。

 強力なパンチの衝撃でパイロットは何もできず、機体は後方に吹き飛ばされた。

 

「ぐぅぅッ!? コイツは……」

 

「これで帰れる筈でしょ! 熱源、地下から!?」

 

 背中から仰向けに倒れるグレイズにベルリはこれ以上追撃はしない。けれどもGセルフとは違う新たな熱源がこの場所に向かっている。

 それは地下から、三百年以上の眠りから蘇った悪魔の名を持つモビルスーツ。

 

「行くぞ、バルバトス!」

 

 エレベーターの最上階を突き抜け地表を破壊して現れた白いモビルスーツ。そのマニピュレーターには巨大な鉄の塊、メイスが握られており、倒れるグレイズのコクピット部分に目掛けて振り下ろす。

 脱出する事もままならないオーリスはコクピットの中で目を見開き悲鳴を上げた。

 

「モビルスーツが……もう一機だと!? ひ、ひぃぃっぃ――」

 

 鈍重な鉄の音が響く。深緑色の装甲は無残にも潰されて、中のパイロットも重たい鉄にプレスされ体を粉々にされてしまった。

 グレイズが完全に動かなくなったのを確認した白いモビルスーツのパイロット、三日月は右手で操縦桿を引くとメイスを持ち上げる。

 

「ふぅ、まずは一機。後ろの奴は敵なのか?」

 

「あの機体は地下に置いてあったG系!? パイロットは?」

 

「ギャラルホルンに攻撃してたみたいだし、後回しにしても良いか。それよりも……」

 

 三日月はマニピュレーターでメイスを握り直し、メインスラスターを全開にすると、前方に見えるもう二機のグレイズ目掛けて飛び出した。

 この状況を見ていたクランクは、現場指揮官であるオーリスが戦死した事で指揮系統が移ったと判断し、残る兵士に指示を飛ばす。

 

「指揮官であるオーリスニ尉が戦死した。ここから先は俺

が指揮を執る。モビルワーカー隊は脱出ポイントへ急げ。アイン、我々も離脱するぞ」

 

「そんな!? オーリス隊長が……」

 

「情報にはない未確認のモビルスーツが二機、味方にも想定以上の損害が出ている。ここは撤退だ」

 

「くっ! 了解……」

 

 背を向けて撤退しようとするグレイズだが、三日月はそんな事を許しはしない。メイスを片手で握るとパワー任せに投げ付けた。

 

「逃がすかッ!」

 

「アイン、急げッ!」

 

 クランクは操縦桿を動かしバトルアックスを握らせて、迫るメイスを切り上げた。上空に高く打ち上がるメイス。それを見てアインも右足でペダルを踏みこんでメインスラスターを吹かせる。

 

「クランク二尉!」

 

「行くんだ、この白い奴の相手は俺が何とかする! もう一機の動きにも注意しろ!」

 

 クランクを置いて逃げるアインはレーダーでGセルフの動きも見るが、オーリスの機体を倒してからは積極的に動こうとはしない。

 撤退するギャラルホルンの部隊を追撃するような事はせず、クランクと三日月との戦いを見守っているようだ。

 

「情報にはなかったのもそうだが、あの二機は何なんだ? 特にあの自立飛行する機体、やはりエイハブウェーブが確認できない。どうなっている?」

 

 撤退するアインを背にして、クランクは三日月と対峙する。打ち上がるメイスに向かって地面を蹴ると同時にスラスターでジャンプするバルバトスは、柄を掴み取り降下と共に再びメイスを叩き付ける。

 グレイズは寸前の所で一旦後方に下がり攻撃を避けると、メイスが地面とぶつかった衝撃で砕け散った岩石と土砂が噴水のように浮き上がった。

 着地するバルバトス。そのまま両腕で振り払うがバトルアックスとぶつかり合い鍔迫り合いになってしまう。

 

「グレイズに匹敵するこのパワー! フレームもむき出しのそんな機体のどこにそんな性能が!」

 

「さぁね……でもアンタらを殺すには充分だ」

 

「その声は!? この白い奴のパイロットは子どもだと言うのか?」

 

「そうだよ。アンタらが殺しまくったのも……これからアンタを殺すのも……」

 

 両手で握る操縦桿を力強く握る三日月。それに答えるようにバルバトスも更にパワーを上げる。鍔迫り合いの状況から、徐々にグレイズを押し込んでいく。

 

「ぐぅッ!? まさか……パワー負けをしている?」

 

「はぁぁぁッ!」

 

 そのままメイスで弾き返すバルバトス。一瞬ではあるが地面から足が離れるグレイズの姿勢制御をおこなうクランク。匠に操縦桿とペダルを操作してすぐに体勢を整えるが、再び前を見た時には、既にバルバトスはメイスを振り上げていた。

 

「このスピード……この反応速度は……」

 

「これで二機!」

 

「やられるかッ!」

 

 三日月は確実にグレイズの頭部を捉えていたが、モビルスーツでの戦闘ではクランクに一日の長がある。

 スラスターでわずかながらに機体の位置をずらす。そして振り下ろされたメイスはグレイズの右肩にぶち当たった。衝撃と鉄と鉄がぶつかり合う鈍重な音が響き、グレイズの右肩はごっそり持って行かれてしまう。

 

「ぐぅッ!? コイツと相手をするのは危険だ」

 

 残された腕のマニピュレーターで腰部のライフルを掴むと、バルバトスを狙うのではなく地面に向かってトリガーを引いた。

 ダメージを与えるのではなく、煙幕を発生させて少しでも逃げやすい状況を作り出す。けれども三日月は敵を逃がすなんて事はさせない。自分達の障害、邪魔になる相手は誰であろうとも叩き潰す。

 

「逃がすか……」

 

 煙幕の中へ逃げるグレイズに向かって地面を蹴るバルバトス。だが突如として機体の動きは止まってしまう。

 

「何だ? ぐぅッ!?」

 

「トラクタービームです。外部音声で聞こえてますね? 敵は撤退を始めてるんです。これ以上戦う必要はないんですよ」

 

 Gセルフのバックパックに装備されている遠隔操作武器であるトラックフィンから重力を操作するビームが放たれバルバトスを金縛りにあったかのように動かなくさせる。

 

「その声……ベルリか?」

 

「三日月さん!?」

 

 驚くベルリはトラクタービームの発射を止めるとバルバトスを自由にさせる。けれどもその頃になるとギャラルホルンの部隊は遥か後方へと撤退しており、グレイズも今から追い付ける距離ではなくなっていた。

 拘束を解かれたバルバトスと三日月はギャラルホルンが逃げる先を見つめながらも、目の前のGセルフを睨み付ける。

 

「こいつのせいで……」

 

「もう動ける筈です。手伝いましょうか?」

 

「邪魔なんだよ、お前ッ!」

 

 操縦桿を力強く握り締める三日月の意思に反応してバルバトスが動き出す。両腕を使い振り下ろすメイスはGセルフを襲う。

 

「な!? シールド!」

 

 ベルリの声に反応してGセルフが自動防衛機能が働き、左腕のシールドを構えフォトンシールドを展開するGセルフに、三日月も本能的に何かを感じ取る。

 

(何の光? 見た事がない武器だけどなんかヤバそうだな。だったら……)

 

 寸前の所でメイスの標的をシールドから切り替える三日月は、軌道を反らし鉄塊を地面に叩きつけた。衝撃に土砂が舞い上がりGセルフの視界を一時的に奪う。

 

「あそこから軌道を変えるだなんて!?」

 

「要するに触らなければ良いんだろ?」

 

「正面じゃない、右か!」

 

 重力に引かれて落ちる土砂を目眩ましにしてGセルフの右側から攻めるバルバトス。その右手にはメイスが握られており、地面を蹴ると同時にメインスラスターで加速し攻撃が届く距離まで一気に詰め寄る。

 

「これなら届く」

 

「ライフルは使えない。だったら!」

 

 ビームライフルを投げ捨てるGセルフはそのまま右腕でメイスを殴り付ける。Iフィールド駆動も合わさる事で強力なパンチに変わるGセルフの高トルクモード。

 右腕の装甲の色が緑色に変わりマニピュレーターとメイスとがぶつかり合う。パワーとパワーが激突し両機がはじけ飛ぶ。

 

「ぐッ!? 相打ち!」

 

「あのモビルスーツ、色が変わった。緑色だと硬いな」

 

 はじけ飛ぶGセルフはバックパックのメインスラスターで姿勢制御し地面に着地。バルバトスもメインスラスターを吹かし姿勢制御を試みるが、突如として出力が出なくなった。一時は浮力で浮き上がろうとした機体はそのまま背中から地面に落ちる。

 三日月が阿頼耶識で意識を伝えても操縦桿を動かしてもメインスラスターは稼動しない。

 

「推進剤が切れたのか? でも機体はまだ動くな」

 

「僕達が戦う必要なんてないんですよ!」

 

「お前のせいで敵に逃げられたんだ。殺せる時に殺さないとまたあいつらが来るかもしれないだろ。俺達の邪魔をするなら誰だろうと叩き潰す!」

 

「だからって!」

 

 起き上がるバルバトスはGセルフ目掛けて走り出す。振り下ろされるメイス。操縦桿を匠に動かすベルリは半身を反らしてこれを避け、マニピュレーターを首元に伸ばす。ビームサーベルのグリップが排出され手元から針のように細いビームが伸びる。

 

「また見た事のない武器か?」

 

「ビームサーベルを使います! 武器さえ使えなくすれば動けない!」

 

「くッ! 避けられない!」

 

 Gセルフはビームサーベルでバルバトスを斬り上げる。が、白い装甲はビームを完全に弾き飛ばす。

 

「なんだ? ぐぅッ!」

 

 機体その物にダメージはない。だが唯一の武器であるメイスの持ち手が分断され鉄塊が地面に落ちる。そしてGセルフのバックパックから発射されるトラクタービームが再びバルバトスの動きを押さえ込んだ。

 

「僕はもう戦うつもりはありません。それよりも今はやる事がある筈です」

 

「まだだ……」

 

 どれだけ操縦桿を動かしても反応しないバルバトス。それでも三日月は渾身の力を込めて操縦桿を握り締める。

 闘争本能が、生存本能が、自分や仲間を守る為の使命が、そしてオルガの言葉が彼を突き動かす。

 

「俺はオルガに言われたんだ……邪魔する奴は何があっても叩き潰せって。だから……だから……ぐぅッ!?」

 

 鼻から大量の血が流れ出て意識が遠退く。背中のシートに体重を預けると三日月は限界を迎え、バルバトスは搭乗者が動けなくなった事で完全に機能を停止させる。

 外から機体の様子を見たベルリもトラクタービームを停止させ、落としたビームライフルを回収して一息つく。

 

「取り敢えず戦闘は終わったと思いたいけれど……アレは?」

 

 振り向いた先に居たのは逃げたと思っていたグレイズ。けれども残る左腕のマニピュレーターには白旗が握られていた。

 

「私はギャラルホルン火星支部実働部隊所属のクランク・ゼントだ。そちらの代表と話がしたい」

 

///

 

 束の間ではあるがギャラルホルンとの戦闘は終わった。ダメージを負ったCGSの施設内では負傷者の救護とガレキ掃除が進められている。

 バルバトスも回収され急ピッチで整備作業が進められていた。

 そんな中で戻って来たのはいの一番で逃げ出した一番組のメンバー。死に物狂いで戦ったオルガ率いる参番組からすれば許せる物ではなく、一番組の隊長であるハエダ・グンネルら構成員全員が拘束された。

 オルガはベルリに協力を仰ぎビームライフルの銃口を向けさせれば、一番組の構成員を震え上がらせるのは容易い。そしてベルリは今、部屋に閉じ込められていた。

 

「何でこうなってるんだぁ?」

 

「すみません、こちらも手一杯の状況で」

 

 申し訳なさそうに謝るのは扉の向こう側に立つビスケットだ。

 ベルリは自由に移動できないでいるが、体は動かせる事で危機感をあまり持っていない。

 

「それでもどうしてこうなるんです?」

 

「今はギャラルホルンの隊長と一番組との対応、救護にガレキ掃除と忙しいんです。その上アナタの調査までできませんよ」

 

「調査? 僕の? 運行長官のウィルミット・ゼナムに繋げて下さい!」

 

「だからそんな余裕はないんですよ。僕は今から資材管理をしないといけないし、この部屋で大人しくしていて下さい」

 

 言うとビスケットは扉の前から居なくなってしまい、ロックの掛けられた部屋に一人残されるベルリは何もできないでいた。

 一方で一番組の構成員はもっと酷い状況下に置かれており、両腕を後ろに回し親指を結束バンドで拘束されていた。両足首には手錠が掛けられ、かび臭く埃の舞う物置部屋に隊長であるハエダ・グンネルを始めとした構成員がイモムシのように寝転んでいる。

 そんな彼らの前に立つのは銃を右手に、左手にはバインダーを持つ三日月。

 

「えぇっと、デクスター・キュラスター? 出て良いよ」

 

「出て良いって……」

 

「俺文字読めないからさ、これに書いてある事良くわかんないんだけど。オルガからの伝言でアンタはこれからも働いて欲しいんだって」

 

 バインダーに貼り付けられている指示書を読めない三日月は事前に言われていた事を暗記しているだけ。眼鏡を掛ける細身の中年男であるデクスターはモゾモゾと体を動かしながら三日月と話をする。

 

「その紙、何と書いてあるのですか?」

 

「あぁ、今手錠とバンド外すよ。後で自分で読んで」

 

 言うと三日月はバインダーを無造作に床へ置き、銃も厚手のコートのポケットに入れるとデクスターの拘束を解く。けれどもそれを一番組隊長であるハエダは黙って見過ごさない。

 

「どういうつもりだ! おい、三日月ッ! こんな事をして只で済むと思ってるのか!」

 

「うるさいなぁ、と。これで動けるでしょ?」

 

「無視してんじゃねぇ! てめぇ、このクソガキがァァァ!」

 

 自由の身になるデクスターは立ち上がると眼鏡の位置を直し手首をマッサージする。そして床に置いてあるバインダーを手に取ると書いてある内容を読む。

 

「えぇと……これは……」

 

「何が書いてある?」

 

「これよりCGSはオルガ・イツカが運営する。今この瞬間より彼の指示の元で働くか、ここから出て行くか」

 

 デクスターが読み上げる文章にハエダは額に青筋を立てて激怒した。

 

「ふざけんのもここまでだ、三日月! さっさとバンドを外せェェェ! さもねぇとてめえらクソガキは皆殺し――」

 

 甲高い音が響き渡りマズルフラッシュが薄暗い部屋を照らす。怒号を撒き散らしていたハエダの額には穴が開き、中からドス黒い液体が流れていた。

 銃を右手に持つ三日月は既にトリガーを引いている。

 

「はぁ? 何それ? あ、殺しちゃダメなんだっけ? ねぇ、その紙にはなんて書いてある?」

 

「え……えぇっと……最後にこう書いてあります。抵抗する者は容赦しない、と」

 

「そう、なら良いか」

 

 事もなくハエダを殺す三日月に身動きの取れない構成員達は震え上がる。だがそうでない人間も居る。その一人であるササイ・ヤンカスと数名は他の人間の影に隠れながら拘束を何とか解いていた。

 

「取れたぜ。行けるぞ、ササイ」

 

「あぁんのクソガキ共が、普通に殺すだけじゃ気が収まらねぇ」

 

「タイミングを合わせて……行くぜ!」

 

 ササイ達は四人掛かりで飛び出すと銃を握る三日月に襲い掛かる。が、仕事ばかりでなく訓練すらも怠けて来た彼らに三日月を押さえ込める道理はない。

 小さな体に触れる事さえできず、物置部屋から何発もの銃声が響く。倒れ込む四人の体から流れる血は一面を赤に染める。

 

「で、後何人死にたい? 弾ならまだまだあるよ」

 

 三日月の脅しに残る人間は黙って頷くしかできない。

 CGSを乗っ取ったオルガはクーデリアらと共にギャラルホルンから来た兵士と面会していた。クランク・ゼントと名乗った男は抵抗もせず社長室まで足を運ぶ。

 この部屋の主だった男は既に見つからない場所にまで逃げていた。そのソファーのど真ん中に座るオルガは目の前の男を睨む。

 

「で、アンタの目的は?」

 

「私が言える立場にない事は理解している。だが言わせて貰えるのなら、ギャラルホルンの腐敗は末端にまで蔓延している。我が上官、コーラル・コンラッドもそうだ。その命令に従い、まだ少年である君達の仲間を殺してしまった。だが我々の部隊にも被害は出ている。このまま戻れば、コーラルは更に戦力を投入して君達を確実に抹殺、そして目的であるクーデリア・藍那・バーンスタインも」

 

「確かに、さっき以上の戦力で攻め込まれればミカのモビルスーツでも限界がある。でもその為にアンタは戻って来たんだろ?」

 

「そうだ。君達のような少年が戦いで命を落とす事はない。上官は私が何とか食い止めよう。だが手ぶらではそれも厳しい。故にクーデリア・藍那・バーンスタインの身柄を渡して欲しい」

 

 クランクの提案にオルガは鋭い視線を突き付ける。そしてそれは彼女も同じ、オルガの座るソファーの後ろに立つクーデリアはその言葉を聞いて覚悟を決めた。

 

「わたくしがギャラルホルンに降れば、この人達の命は保証されるのですね?」

 

「おい、アンタ……」

 

「わたくし一人で多くの人が助かるのなら……ですが只で軍門に下るつもりはありません。この人の上官にも何とか交渉はしてみます」

 

 事もなく言うクーデリアだがオルガはそれに頷かない。

 

「悪いがそれはナシだ。アンタの所にクーデリアは行かせない。アンタの提案にも乗らない。俺達には俺達の目指す物がある」

 

「本気で言っているのか? 勝算はあるのか? コーラル司令官も今頃焦っているだろう。戦力を整えて攻め込んで来る事も充分考えられる。そうなった時、君達はどう切り抜けるつもりだ?」

 

「わかってるさ、そんな事は。その為の準備だって進めてるんだ」

 

「準備?」

 

 だが突如として会話は遮断されてしまう。外部からの攻撃によりCGSの施設が激しく揺れる。咄嗟に肘掛けで体を支えるクランク。オルガは通信機を取り出すとユージンに繋げだ。

 

「何が起こった? 敵か?」

 

『やべぇぜ、オルガ。ギャラルホルンの奴らもう来やがった。しかもモビルスーツの数がさっきよりも多い! どうすんだよ!』

 

「ミカに出てもらうしかない。二本角のモビルスーツはどうなってる?」

 

『オヤッサンに見て貰ってるけど望みがねぇぜ。三日月の機体だけでも苦労してるらしいのに、あんなのまで手に負えねぇって。二時間経っても全く進んでないらしい』

 

「こうなったら……」

 

 横目でクランクを見るオルガは揺れの続く社長室で彼に詰め寄る。

 

「おい、アンタ言ったよな? 俺達が死ぬ必要なねぇって」

 

「あぁ、言ったとも。俺のモビルスーツを使わせろ。コーラル司令官を何としても説得してみせる」

 

「コクピットに爆弾を仕掛ける事くらいはさせて貰うからな。モビルスーツはデッキに置いてある」

 

「感謝するぞ。我が名に誓って、これ以上君達のような少年を死なせる事はさせない」

 

 言うとクランクは自らのモビルスーツの元へと向かい、オルガもクーデリアとフミタンに逃げるように促す。

 

「また戦闘になる。その間はまた地下に隠れてくれ。あそこが一番強固で安全だ」

 

「わ、わかりましたが、本当に大丈夫なのですか?」

 

「ミカに出て貰う。それとアンタの付き人にもだ」

 

 クーデリアは一瞬だけ隣のフミタンに視線を向け、オルガの言っている意味を理解した。

 

「ベルリ・ゼナム……」

 

「兎に角、ここから移動しろ。俺はアイツの所へ行く」




 よぉ、整備を任されてる雪之丞ってモンだ。っても俺はモビルワーカー専門なんだが、厄祭戦時のモビルスーツも見ろだなんて無茶言いやがるよ。
 資材も金もねぇってのにどうしたモンかな……
 次回、鉄血のレコンギスタ――奇襲、ギャラルホルン!――
 ガキには刺激が強いから見ない方が良いんじゃないか?
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