ガンダム 鉄血のレコンギスタ   作:K-15

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第四話 奇襲、ギャラルホルン!

 指示に従う二人は地下へと向かい、オルガはベルリを隔離してある部屋に急いだ。その間にもギャラルホルンのモビルスーツを相手に賢明に攻撃を仕掛けている地上部隊の振動と爆音が響いて来る。

 正確な数はまだ把握できていないが前回よりも多いとなると四機は居る筈だ。それをモビルワーカー隊と三日月のモビルスーツだけで退けるのは難しい。けれども今はもう一機、戦いに使える強力なモビルスーツがある。

 その機体に乗れる人物は只一人。

 部屋にまで来たオルガは壁のパネルを触りロックを解除し彼と面会した。

 

「出て良いぞ、ベルリ・ゼナム」

 

「またギャラルホルンとか言うのが来たんですね?」

 

「それもある。だがお前の乗ってた機体、Gセルフか? 他の奴に乗せてみたがどうにもならない。あの機体はどうなってる?」

 

「Gセルフは僕にしか動かせません。誰でも使えるユニバーサルな機体とは違うんです」

 

「ユニバーサル? まぁ、そんな事はもうどうでも良い。お前、クーデリアの付き人なんだよな?」

 

「付き人? 厳密には違いますけれど……」

 

「信じて良いんだな? さっきの戦闘では一応こっちの味方をしてくれた。もう一度だけあの機体で戦ってくれるか? このままだとみんなお陀仏だ。ミカ一人だと無理かもしれねぇ」

 

「僕だってここで死ぬつもりはありません。Gセルフで出ます!」

 

 ベルリの意思を確認するとオルガは頷き隔離部屋から出る。ベルリもその後に続き、Gセルフを待機させてあるデッキへと急ぐ。

 そうしている間に三日月のバルバトスは出撃の準備が整っていた。コクピットで雪之丞に阿頼耶識のケーブルを接続して貰うと、簡単な状況説明を受ける。

 

「またギャラルホルンからモビルスーツが来たらしい」

 

「数は?」

 

「確認できただけで四機だ。メイスは直しておいたぞ。武器はアレしかないんだ。少しは慎重に使えよ」

 

「わかったよ」

 

 言うと雪之丞はコクピットから離れ機体のハッチが閉鎖された。エイハブリアクターが起動し全身に電力が供給されるとバルバトスは搭乗者である三日月と繋がり目覚める。

 網膜センサー、手足の感覚を確かめながら操縦桿を握り締め壁に立て掛けてあるメイスを手に取りエレベーターへと進む。

 機体を乗せるエレベーターが動き出すと地上に向かって上昇して行く。そしてその先に待つのは戦場。

 

「バルバトス……行くぞッ!」

 

 地上に出ると同時に地面を蹴るバルバトスはメインスラスターから青白い炎を噴射して飛び上がる。眼前に広がる赤い大地。そこに見えるのはギャラルホルンの緑のモビルスーツ、グレイズが報告通り四機居た。

 けれども前回の戦闘とは違いモビルワーカーの姿は確認できない。

 

「それでも四対一か。まずは目の前の奴から仕留める!」

 

 モビルワーカーが居ない事で戦い方も考えやすい。モビルワーカーの戦闘力はモビルスーツに遠く及ばないが、その小回りの良さと携帯火器で内部制圧が可能だ。そして今のCGSに数機でもモビルワーカーが入り込めば防衛手段は殆ど残っていない。

 燃料も弾薬も人も損傷が激しすぎる。立て続けの戦闘に少年達では対処できない。

 その点、モビルスーツなら対応はできる。その全長から内部までは入り込めないし、古い建造物ではあるが地下部分は頑丈に作られている。

 三日月はグレイズの一機に狙いを定めると上空から襲い掛かった。

 

「さっさと落とす!」

 

「舐めているのか? たかが一機で!」

 

 機体の重量と重力さえも合わせて振り下ろされるメイスにグレイズのパイロットは左手にバトルアックスを握らせながらも回避行動を取る。

 衝撃に舞い上がる土煙。着地するバルバトスは瞬時に体勢を整えると再びメイスで叩き付けた。グレイズはバトルアックスでこれを受け止めようとするが、メイスの重量とバルバトス自身の圧倒的パワーによりマニピュレーターから弾け飛ぶ。

 

「クッ!? 白い奴め!」

 

「この距離なら届く」

 

 グレイズはライフルの銃口を向けてトリガーを引く。激しいマズルフラッシュに続き連続して弾丸が発射される。だがバルバトスの動きも早い。白い装甲は弾丸を弾きながら、横薙ぎにされたメイスはグレイズの脇腹をひしゃげさせる。倒れ込む機体。

 コクピットに近い部分を鉄塊で歪ませた事で搭乗者もダメージを負う。血を流すギャラルホルンのパイロットは必死に操縦桿を握り締めるが、機体が再び立ち上がる事はなかった。

 鉄が潰れる鈍重な音が響く。重量とパワー、只それだけでぐちゃぐちゃに破壊されるコクピット。

 

「残りは三機。でも三方向か、どうする……」

 

 バルバトスの正面に一機、残りは左右に展開してまっすぐに向かって来る。三日月だけではどうやっても一機しか相手にできない。

 

「ん、後ろから? 白旗の奴か」

 

 片腕を失ったクランクのグレイズが出撃した。けれども目的は戦う事ではない。CGSの沈黙とクーデリア・藍那・バーンスタインを捉えようとするコーラルを説得し、これ以上の死人を出さないようにする為。

 コクピットシートに座るクランクはエイハブ反応でコーラルの機体を識別し、コンソールパネルを叩くと通信を繋げた。

 

「コーラル司令、これはどう言う事ですか?」

 

「今更おめおめ戻って来るとは……もはや時間はない! このままでは私は破滅だ。邪魔をするな!」

 

「司令!」

 

「マクギリスら監査官が火星支部に向かっているのだ! 私自らの手で証拠を隠滅しなければ……」

 

 ライフルの銃口を向けるコーラルは施設目掛けてトリガーを引く。舞い上がる土煙に増えるガレキ。コーラルの有様を見てクランクは悟る。

 

(ダメか、状況が見えていない。しかし監査官が来るか。マクギリス・ファリド、彼に掛かれば司令が裏で行った取引など簡単にさらけ出すだろう。自分の保身ともなれば必死になるか!)

 

 クランクは武器もなしにコーラルのグレイズに接近を試みる。やはり目的は変わらない、コーラルを止めるべく前に出た。

 倒す必要はない。強引にでも後退させる事さえできれば、他のパイロットには自分の権限でこの場を退却させ戦闘を終わらせられる。これ以上死者を増やさずに済む。

 そして監査官が火星支部にまで来れば彼の悪行は白昼にさらされる。その事でクランク、引いては他の兵達もペナルティが課せられるだろうが、人名に比べれば安い物。

 トリガーを引き続けるコーラルのグレイズにクランクの機体は組み付いた。

 

「司令、止めて下さい! こんな事を続ければ――」

 

「えぇい、邪魔をするのか! クーデリアさえ捕まえれば!」

 

 コーラルに言葉は届かない。自身の目的を妨げるクランクでさえ殺す勢いだ。銃口をクランク機の胸部へと向けるが、マニピュレーターが銃身を掴み上げると上空に弾丸が発射される。

 

「司令、アナタは!」

 

「邪魔をするなと言った!」

 

 戦闘態勢に入る二機。だが一直線にこちらに向かって来る機影が一つ。三日月のバルバトスだ。

 

「二機が固まってくれてる。バルバトスの使い方も段々わかって来た」

 

「白い奴!? オルノとトフガがやられたのか? チィッ、グレイズをこうも簡単に二機失うか」

 

 向かって来るバルバトスにコーラルは標的を切り替える。ライフルを向けてトリガーを引くが、バルバトスはメインスラスターで加速しながらも必要最小限の動きで攻撃を避けていく。

 距離を詰める動きにも無駄がない。機体の性能も合わさり瞬く間に接近戦ができる距離まで近づく。振り上げるメイスを叩き付けるバルバトスに組み合った二機は散開した。

 急いで回線を繋げるクランクは三日月に呼び掛ける。

 

「止めるんだ少年、ここは俺が引き受ける」

 

「でも向こうはそうじゃないみたい」

 

「それでもだな!」

 

 クランクの考えなど知った事ではないとコーラルはライフルの銃口を向けるし、三日月は戦闘態勢を解かない。

 発射される弾丸に姿勢を低くして避けるバルバトス。同時にメイスの柄を長く持ち直すと素早く振り上げる。鉄塊の先端がライフルを弾き飛ばす。

 操縦桿を動かすコーラルは腰部からバトルアックスを引き抜きバルバトス目掛けて袈裟斬り。だが火花と重音が響くとバトルアックスはメイスとぶつかり合い鍔迫り合いになる。

 

「このスピード……いや、反応速度か。どうなっている?」

 

「まだ一機残ってるんだ。お前に時間は掛けられない」

 

「笑わせるな! 貴様のような子どもに何ができる!」

 

「アンタを殺すくらいはできる!」

 

 バルバトスのパワーはグレイズを押し返す。そして相手の姿勢を崩す為に股関節部分に蹴りを入れる。衝撃に揺れるグレイズのコクピット、機体も背面から倒れ込む。

 殺気を漲らせる三日月の鋭い視線はコーラルを殺さんとメイスを叩き付ける。が、左腕のシールドに防がれてしまう。

 それでもバルバトスの攻撃は一撃でシールドを破壊していく。

 

「しぶとい! でも次は逃げられないだろ」

 

「このままでは!?」

 

「チッ、また後ろからか」

 

 トドメを刺そうと操縦桿を握り締める両手の力を強める三日月だったが、後方から弾丸が飛来する。視線を向けた先に居るのはアインが搭乗するグレイズがこちらに向けって来ていた。

 

「コーラル司令! クランク二尉! 援護します!」

 

「残りも来たか。これならみんな大丈夫、あとは俺が!」

 

 強襲を仕掛けて来たモビルスーツが一同にバルバトスを狙い集まって来る。これでCGSの施設を襲われる心配はなくなった。でも不利な状況には変わりない。

 整備も不完全なバルバトスで二機を相手にしなければならないが、三日月にも加勢が現れる。

 赤い大地に光が走り轟音が轟く。

 アインの眼前の大地から土煙が上がり進行を止めさせる。

 

「な、なんだ? 二本角か!」

 

「もう攻撃なんてさせません! ここの人達も死ぬな!」

 

 Gセルフはビームライフルを構え、フォトンリングを発生させて飛行する。他のモビルスーツと違い地形を気にせずに移動できるのもあるが、Gセルフの機動力は他の機体と比べて高い。

 瞬く間にアイン機に接近するとビームライフルのトリガーを引く。

 

「この光!? だが当たらなければ!」

 

「武装を破壊すれば!」

 

 ビーム攻撃を避けるアインは上空のGセルフに銃口を向けてトリガーを引く。アインはGセルフと始めての戦闘、相手の動きを見ながら戦うが未知なる機体の性能に舌を巻いた。

 

「早い!? 何なんだコイツは! 何なんだ!」

 

「行ける!」

 

「来るのか!? クッ!」

 

 弾丸を容易く避けるGセルフはビームライフルを続けて撃ち続ける。高出力のビームが連続してグレイズに襲い掛かり脚部に直撃した。が、ナノラミネートアーマーがビームを弾く。

 

「関節に狙い撃ちは無理か」

 

「装甲が受け切ったのか? 見た目が派手なだけで!」

 

「厄介な敵だけど付け入る隙はあるんだ。ビームサーベルで!」

 

「違う武器? だが!」

 

 今までの戦法通りビームサーベルでの接近戦に切り替えるベルリ。メインスラスターから青白い炎を噴射し加速、待ち構えるアイン機の横を一瞬ですり抜けて行く。

 するとグレイズが握っていたライフルが切断されていた。爆発する前に手放すグレイズ、その緑色の装甲の一部分は真っ赤に爛れている。

 

「コイツ違うぞ、普通の機体と!? エイハブ反応がないだけじゃない、グレイズともどのフレームとも違う!」

 

「敵の装甲はどんな性能をしているんだ? トラックフィン!」

 

「何としても情報を掴む必要がある。可能ならば鹵獲を――」

 

 振り返るアインだが戦闘と関係ない事を頭の片隅に置いたのが勝負を決めた。バックパックから射出されたトラックフィンから発射されるトラクタービームがグレイズの動きを縛る。

 

「しまった!? こんな所でぇ!」

 

 必死に操縦桿を動かすがグレイズがトラクタービームを抜け出す事はない。けれどもアインは死ななかった。ベルリは再びビームライフルを握ると動かないグレイズの両腕の付け根を撃ち抜く。

 ナノラミネートアーマーに守られていない関節部は一撃で破壊される。

 

「これなら帰れる筈だ。向こうの状況はどうなってるの?」

 

「手加減をしているつもりか? クッ、だが……」

 

 トラックフィンを回収するベルリは三日月のバルバトスの状況を見る。それはアインも同じで、司令官であるコーラルが戦闘を繰り広げていたが決着の時は近い。

 メイスを振り上げるバルバトス、目下のグレイズのコクピット目掛けて叩き付けようとするもクランク機の左腕がこれを防いだ。

 

「コーラル司令は離脱を! ここは俺が――」

 

「逃げている時間などないのだ! 白い奴はここで叩く!」

 

「司令! 止めるんだ少年!」

 

 未だに説得を続けるクランクだが二人共戦う姿勢を崩そうとはしない。そうしている間にもコーラルはバトルアックスをクランク機の脇から突き出す。

 敵の攻撃に対して瞬時に反応する三日月はメイスを受け止めるグレイズを押し倒した。

 そしてどうすれば相手を殺す事ができるのか。考えるよりも早く反射的に、阿頼耶識を通してバルバトスが動く。

 

「邪魔だ!」

 

「ッ!?」

 

 メイスを逆手に持ち切っ先を胸部に突き立てる。そして内蔵されているパイルバンカーを射出した。装甲を突き抜けパイロットを殺す一寸の釘はクランク機を突き抜けコーラル機にもダメージを与える。

 胸部装甲を貫いているがパイロットはギリギリの所で生きていた。

 

「ば、バケモノめ!」

 

「まだ奥の奴が生きてるのか? 今度は逃さない」

 

 盾になったクランク機の頭部をマニピュレーターで掴み上げて無造作に投げ捨てると本命であるコーラル機を視野に収める。

 もはやコーラルには逃げる力さえ残っておらず、彼が最後に目にしたのは殺意の芽生えた悪魔の顔。コーラルのグレイズもメイスで叩き付けられると、パイロットはひしゃげた鉄に圧縮されて絶命した。

 

「これで……」

 

「クランク二尉……クランク二尉ィィィ!」

 

 彼が死ぬ瞬間を見たアインは叫ぶ事しかできない。もはやグレイズに戦闘能力はなく、恩師の仇を取ろうものなら自分も死ぬのは目に見えている。

 そんな選択肢は選べない。そんな事を彼は望まないだろうから。

 

「うあ゛あ゛あ゛ぁぁぁッ!」

 

 ペダルを踏み込むアインは現領域から離脱する。ベルリはそれを攻撃しようとしないし、三日月もこの時は追い駆けない。

 

「ここから追い付けるか微妙だな」

 

『いや、追い駆けなくて良い。ミカ』

 

「オルガ?」

 

『敵の反応は取り敢えず消えたんだ。戦う以外にもやる事は一杯ある』

 

「わかった。すぐに戻るよ」

 

 戦闘態勢を解く三日月のバルバトスはメイスを肩に担ぎ歩いて施設へ戻って行く。

 けれどもベルリにはこの赤い大地に戻るべき場所は存在しない。コクピットの中から淡い空を見上げるベルリは肺に溜まった空気を吐き出した。

 

///

 

 監査局に所属する特務三佐であるマクギリス・ファリドはコーラル・コンラッドが権限を持つ火星支部に到着していた。彼の部下達はコンピューターのデータや書類を整理、内容を閲覧していく。

 その中で白と青の制服をきっちりと着込むマクギリスは自身の金色の髪の毛を人差し指でクルクルと触りながら、もう片方の手でタブレット端末を握る。

 

「六時間前にグレイズ四機が出撃。内容は火星圏内の暴動の鎮圧。司令官自らがモビルスーツに乗って出撃とは随分と仕事熱心なようですね」

 

 長身に甘いマスクは女性なら思わず見とれてしまう程に。その口から出る言葉も優しく落ち着いており気品を感じさせるが、彼の目の前に立つ下士官は顔を強張らせ背中に冷たい汗を流す。

 

「は、はい。恐縮であります」

 

「データの整理もそう時間は掛からない。監査が終わればすぐにここから立ち去るよ。コーラル司令官もすぐに戻るのだろう?」

 

「その予定です……」

 

「そう緊張しなくても良い。ここからはもう一人でできる。君は自分の仕事に戻ってくれ」

 

「はっ! 失礼します」

 

 敬礼する下士官はそう言われてマクギリスの元から離れ持ち場に戻って行く。離れて行く彼と入れ替わるようにして、マクギリスの補佐官であるガエリオ・ボードウィンが現れた。

 

「顔に似合わずえげつない事をするな。足が震えていたぞ」

 

「ガエリオか?」

 

「しかし火星の、しかもこんな田舎にコーラルは何しに行ったんだ?」

 

 ガエリオ・ボードウィン特務三佐、幼き頃からマクギリスと行動を共にする親友でもある。薄紫色の髪の毛の彼も身長が高く、マクギリスとはまた違う整った容姿をしている。

 子どもの時から一緒に居る彼だからこそ、マクギリスに対してフランクに話し掛ける事ができた。

 

「調査結果が報告されるのを待っていれば良い。だが今までのデータを見るにコーラル司令官はどこからか違法な資金を入手している」

 

「俺達が来る前にその証拠を隠滅しに行ったって事か。で、どうする?」

 

「今から向かった所で時間の無駄だ。それよりも先手を取る。コーラル司令はクリュセ・ガード・セキュリティに用があったみたいだ。けれどもほんの数時間前にこの社名は抹消され、同時に新しい企業が立ち上げられている」

 

「消したかったのは名前だけか、それとも……」

 

「船籍番号NOA-〇〇九三が出港予定に入っている。この船は元々クリュセ・ガード・セキュリティの物だ」

 

「船の時間なんていつの間に調べたんだ? でも、気になるなぁ」

 

「私はここで仕事を続ける必要がある。ガエリオ、行けるか?」

 

「謹んでお引き受けしよう。シュヴァルベで出る」

 

 ガエリオは自らの機体に搭乗すべくモビルスーツデッキに向かう。背を向けてエアロックを解除した扉から出て行くガエリオの背中を見届けたマクギリスは手に持ったタブレットを操作する。

 画面に表示されるのはCGSの領地でおこなわれた戦闘データ。僅かながらに送られたデータの中にはデータベースに登録のないモビルスーツが二機。マクギリスはそれをまじまじと見つめる。

 

(この二本角のモビルスーツ……にわかには信じがたいな。ビーム兵器、それもモビルスーツのマニピュレーターで持ち運びできるサイズ。更にエイハブ反応が感知されていない。警戒する必要はある。が、それよりも……)

 

 画面を指でタッチすると白いモビルスーツの画像が映し出される。その機体は三百年の眠りから蘇った悪魔。

 

(見間違える筈もない、これはガンダムフレームだ。リアクターを二基搭載している機体だ。整備がきちんとされていなくともグレイズを簡単に倒すだけのパワーはあるか。そして厄祭戦当時と変わっていなければ阿頼耶識システムも組み込まれている。ふふふ……楽しみだよ)

 

///

 

 二度の戦闘によりボロボロになったCGS。オルガ指揮の元で復旧作業を進める少年達だが、一日二日で終わる筈もなく、作業は困難を極める。それでも動けば腹は減るので、無尽蔵に働き続ける事はできない。

 火星時間十二時五分、オルガはひび割れたコンクリートの上で仁王立ちし、拡声器を手に持つと声を張り上げた。

 

「あ~、あ~、みんな作業を中断してくれ。今から一時間の休憩だ。飯は充分に用意してある。食うもん食って次の作業の活力にしてくれ。それからもう一つ、これが重要だ。今この瞬間から、CGSは捨てる」

 

 オルガのセリフを聞いて周囲がざわめく。

 少年達はこの場所で強制的に労働を強いられて来た。その労働は過酷な物で奴隷以下の扱い。給与は安く、毎日がキツイ肉体仕事。休暇などもなく、地面を這い蹲り弾丸の雨の中を進まなくてはならない時もある。

 それでも外界からの情報を手に入れられない少年達はこの環境が基準になってしまっており、逃げようとする感情さえも握り潰されていた。

 だから不安にもなる。オルガだけでやっていけるのか、自分達だけでやっていけるのか。

 

「社長のマルバももう居ない。俺達の事を散々こき使った一番組の奴らも殆ど出て行った。だから自分の意思で選べ。ここから出て行くか、それとも俺に付いて来るか。そして残ってくれるなら、俺に付いて来てくれるのなら、全力でお前らを引っ張って行く。それが俺にできる只一つの事だ」

 

 オルガの言葉を聞いてまだ十代の少年達は口々にざわつき、これからの進路を悩む。

 

「でも今すぐに決める必要はない。飯を食ってる間にでも考えておいてくれ。残る奴にはこれからちゃんと給料を払うし、出て行く奴にも退職金はきっちり出す。だから自分の意思で決めてくれ。自分の人生だ」

 

 言い終わるとオルガはこの場を去って行き、少年達は始めて自分の人生と言う感覚が芽生えつつあった。

 一方、三日月は食堂で一足早く食事を取っている。人工肉で作られたハムを頬張る三日月を傍で見守るのは彼と同じくらいの年齢の少女、アトラ・ミクスタ。

 エプロンを付け三角巾を被る彼女は幼いながらも三日月と同様に逞しい。

 

「三日月、今日のご飯は美味しい?」

 

「うん、アトラが作る飯は旨いよ」

 

「良かったぁ。それにしても今日は人が全然居ないね。やっぱりこの前の……」

 

「それもあるけれど辞めてった奴もいるし。残った奴も何人かは仕事に行ったし」

 

「仕事って?」

 

「クーデリアを地球に届ける準備だって。俺もバルバトスに乗らないといけないから、準備ができたら一緒に行くよ」

 

「行くって……もしかして地球に!?」

 

「そうだけど……」

 

 驚く彼女に平然と答える三日月は最後の一口を飲み込んだ。

 

「ごちそうさま。じゃあ俺は仕事に戻るよ」

 

「え゛ぇ!? ちょっと待って! うん……わかった! 私も一緒に行く!」

 

「一緒に? 俺は良いけれどオルガにも聞かないと。あと、店の女将さんにも言った方が良いよ」

 

「そ、そうだよね! なら私、今すぐ店に戻ってそれからまた来るから!」

 

「え? ちょっと――」

 

 慌てて半ばパニック状態のアトラは三日月の言葉も聞かずに走り出し食堂から飛び出して行く。扉を開けると誰かの体にぶつかってしまったが、気にもせずに走り出す。

 

「すみません! 私急いでいるので~~!」

 

「通信機使えば良いのに……」

 

 三日月の言葉はアトラに届かない。けれどもその言葉は別の人間には届いた。三日月と同じく昼食を取りに来たベルリ・ゼナムだ。

 

「あんな女の子居たかな?」

 

「ベルリか。仕事は終わったの?」

 

「はい、三日月さんのモビルスーツと僕のGセルフの積み込みも終わりましたから。あとは港まで行ってまた艦に運び込むだけです」

 

「そう。アトラ間に合うかな?」

 

 ベルリは三日月しか居ない食堂で歩を進め、キョロキョロと周囲を見渡しながら厨房に足を踏み入れる。コンロの上に置かれている大鍋の蓋を持ち上げると三日月を見た。

 

「これはポトフかな? 今日のお昼はコレを食べて良いのですか?」

 

「そうだよ。アトラは出て行ったけど勝手に食べても大丈夫だよ」

 

「そうですか。なら!」

 

 ベルリは皿の上に自分の分の料理を盛っていく。スープからは香辛料の香りが漂い食欲をそそる。体を使った後の温かい食事は疲れた心まで温めてくれるし、体力を回復させる以上の物が得られた。

 トレーの上には色とりどりに盛り付けられた料理を運ぶベルリは三日月の座る真正面に行く。

 

「三日月さんはもう食べたのですか?」

 

「うん。だから仕事に戻るよ」

 

 立ち上がる三日月はこの場を後にしようとするが、ふと立ち止まるとベルリに振り返った。

 

「そう言えば、ベルリも一緒に来るんだよね? 何で?」

 

「何で、と言われても……僕にもやるべき事がありますから。その為にはずっと火星に居る訳にはいかない。ジット団やキャピタルアーミーの動きも気になるけれど、メガファウナに合流して姉さんの手伝いもしないと」

 

「良くわかんないけど、クーデリアと同じで地球に用があるんだな」

 

「はい、そうです。だからそれまでの間はお手伝いさせて貰います」

 

「そうなんだ……ずっと思ってたんだけど、何であんな戦い方をするんだ?」

 

「あんな戦い方? 確かに僕達はモビルスーツに乗って戦っています。でも戦いが終わった後にはそれぞれの生活があるんです。戦う力さえ奪えば戦闘は終わります」

 

「でもそれだと敵はまた俺達を襲って来る。殺せる時に殺した方が良いだろ」

 

 ベルリと三日月との見解の違い。これは物事を長期的に見るか短期的に見るかの違いだ。三日月の言うように敵を殺せはその時の脅威は払拭できる。

 けれども相手は世界を統括するギャラルホルン。そんじょそこらの組織とは規模が違う。人も機械も少し減らした程度ではすぐに補充される。

 一方でベルリは戦いが終わった後の事も考えていた。

 

「少しでも早く戦闘を終わらせられれば味方への被害だって減らせます。それに人をそれだけ死なせてしまったら元に戻すのにだって時間が掛かってしまうでしょ」

 

「相手の事も考えてるって事? でも今の俺達にそこまでの余裕はないよ」

 

「だからコレは僕がやります。その為のGセルフです」

 

 納得がいかない様子の三日月だがベルリは自信満々に答える。

 

「いつもこんな戦いばかりやってるのか?」

 

「でも相手の武器だけを破壊するのも簡単じゃありません。けれどもできる事はしたいんです」

 

「俺はそんな面倒な事、嫌だな」

 

「かもしれません」 

 

 それを聞くと三日月は食堂から離れていった。一人になるベルリはスプーンを片手にポトフのじゃがいもを口に運ぶ。

 

「うん! 今日のも美味しいなぁ!」




 ガエリオだ。セブンスターズの俺に掛かれば不穏分子の殲滅など取るに足らん。さっさと終わらせて、休暇でも申請するかな。マクギリス、お前はどうする?
 次回、鉄血のレコンギスタ――赤いモビルスーツ――
 俺の操縦技術、その目で見ていろ!
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