満身創痍のCGS、それでもオルガが運営できているのは前社長であるマルバが置いていった資産のお陰だ。会社の運営資金とは別に抱え込んでいた金や宝石。逃げるのに必死だったマルバはそれらを全て置いていった為、収入がなくても数ヶ月は運営できる。
けれどもどんなにやりくりしても数ヶ月が限度。資金が底を突く前に新たな収入源を確保する必要がある。
その為の第一歩がクーデリアを地球まで送り届ける事。彼女から請け負った仕事を完遂すれば、それだけで社名が世間に広がる。同時に他企業とのパイプも繋げやすくなるだろう。
火星の重力は地球よりも弱いが、それでも振り切り宇宙に上がる為にはマスドライバが必要になる。けれどもCGSにマスドライバは存在しない。故に宇宙へ上がる為の港に行く準備を進めている所だ。
だがオルガ達の計画はギャラルホルンのマクギリスに見破られていた。彼らが準備を進めている間にも、マクギリス率いる部下達は包囲網を展開させている。
そうして準備が終わったのは火星時間の十九時を過ぎた頃。
コンテナに入れられたモビルスーツ、バルバトスとGセルフを大型トラックで港まで運ぶメンバーは用意した強襲装甲艦、 ウィル・オー・ザ・ウィスプに積み込みを開始する。
現場を指揮する雪之丞は少年達に声を張り上げながら作業を進めていた。
「宇宙は火星の重力圏とは違うんだ。ワイヤーできっちり固定しとけよ! 一つも忘れんじゃねぇぞ!」
「はい! わかってます!」
「にしてもこの艦も久しぶりに見たな。何年ぶりだ? マルバの奴、まだ持ってたんだな」
「オヤッサン、この艦の名前って何って言うの?」
「あぁ? 確か…… ウィル・オー・ザ・ウィスプ……だったか?」
「何それ? 何って意味?」
「そんな事は良いから手を止めるなよ。まだ積み込み品の確認だって残ってるんだ。良し、ここのワイヤーもできてるな」
雪之丞が言うように、マルバが所有していた頃は ウィル・オー・ザ・ウィスプと言う名前で呼ばれていた。けれども今は違う。CGSも、この強襲装甲艦も、全てはオルガの手の中だ。
全ての準備が完了し、ブリッジの艦長シートに座るオルガは肘掛けに備え付けてある受話器を手に取ると艦内放送で全員に声を届ける。
「みんな聞いてくれ。今から俺達の新しい門出が始まる。だからCGSなんてカビ臭い看板は金輪際使わねえ。良いか、今から俺達は鉄華団だ。決して散らない鉄の華。そんでこの艦、 ウィル・オー・ザ・ウィスプなんて縁起でもねぇ名前もナシだ。この艦はイサリビって呼んでくれ。俺達は今から火星を出て地球に向かう。でも前の襲撃でギャラルホルンにも目をつけられている。道中は過酷かもしれねぇ。けれども俺を信じて付いて来てくれ! そうすれば俺達は必ず地球までたどり着ける! そして金が入ればみんなを楽させてやれる。だからこの仕事は絶対に失敗できない。自分達の為に、みんなの為に、絶対に地球まで行くぞ!」
オルガの啖呵を聞いて各フロアに居るメンバーは右腕を大きく上げて雄叫びを上げる。本当は威勢ややる気だけで切り抜けられる程簡単な現実ではない。それでも威勢もやる気もないよりはマシだ。
部屋のベッドに腰掛けるクーデリアはいよいよ火星の地を離れる事に決意を新たにする。
「予定通りに地球へ行く事ができれば、火星の自治権を獲得できれば、ここの人達の生活を安定させる事ができる。このような境遇を失くす事ができる。だから私は……」
「お嬢様、出発まで残り三十分を切りました。シートベルトのある席に移動しましょう」
「わかりました。ねぇ、フミタン。私はまだまだ甘いのでしょうか? 恵まれない子ども達を助けたいと口では言いながら、彼らに危険な事をさせてしまっている」
「それを決めるのは私ではありません」
「ですが……そうですね。私が決める事ですね」
立ち上がるクーデリアはフミタンと共に部屋を出る。彼女の戦いの場は地球だ。
(私の為にここの人達が死んでしまった。この現実は受け止めなくてはなりません。もう立ち止まる訳にはいかないから)
強襲装甲艦イサリビはマスドライバに押されて遂に発進する。火星の重力を振り切るだけの加速がGとなり搭乗員に掛かって来る。
それでも火星の低軌道にまで到達するのにさほど時間は掛からない。重力を振り切れば艦内は無重力になり、船員達はシートベルトを外して仕事に取り掛かる。
でも幼い子ども達は始めての無重力を体験して興奮していた。
「すっげぇ、体が浮いてる!」
「逆立ち楽勝!」
「俺宇宙始めて来たぁ!」
年少組は遊んでいてもまだ問題ないが年長組はそうはいかない。艦の航行の為に役割を与えられた組員はその仕事を全うする必要がある。
艦長シートに座るオルガへビスケットは問い掛けた。
「無事に宇宙までは来れたね。けれども航路はどうするの?」
「問題ねぇ。事前にオルクス商会に話は通してある。ギャラルホルンに見つからない航路は確保してある」
「そう、なら良いんだけど」
大きな胸を撫で下ろすビスケットだが、突如とし通信を担当していたユージンが声を荒げる。
「全然大丈夫じゃねぇぜ、オルガ。進路上にギャラルホルンの艦が1隻、モビルスーツも展開してる」
「何? チッ、あの野郎。俺達の事を売ったな」
「どうすんだよ!? 始まったばっかりなのにこんなんじゃ!」
「まだ終わった訳じゃねぇ! この距離なら相手の艦は追い付いて来れない。チャド、最大船速で振り切れ!」
操舵士のチャド・チャダーンは操縦桿を両手で握り締め艦を加速させようとするが、先回りして展開するギャラルホルンの動きは早い。
既に四機のグレイズが武器を構えてイサリビを方位、更に紫色の専用機が大型ランスを機首に突き付けて来る。
『動くな。こちらはギャラルホルン所属、ガエリオ・ボードウィン特務三佐だ。お前達にはクリュセ地区での暴動に付いて容疑が掛かっている。抵抗すれば機首にランスをぶつける!』
正面の紫色のグレイズから送られて来る通信にチャドは躊躇せざるを得ない。イサリビは押すも引くもできない状況だ。
「どうするんだ、オルガ? ブリッジを潰されたらひとたまりも……」
「決まってる。こうなったらもう戦うしかねぇ」
「戦うったって……これじゃあ俺達、マジでギャラルホルンに目付けられるぞ?」
「どの道選択肢はねぇんだ。現にギャラルホルンは目の前に居る。それに投降なんてしてみろ。俺達だけじゃなくクーデリアのお嬢さんもどうなるかわかんねぇぞ。もう止まる訳にはいかないんだ。だったら増援が来る前にやるしかねぇ! デッキのミカにバルバトスで出るように伝えろ! イサリビを囲むモビルスーツの相手だ!」
言われてビスケットは通信機の前のシートに座りパネルを叩き出撃準備を進めるデッキへ回線を繋げる。
「でもオルガ、ベルリさんはどうするの? 戦力は少しでも多い方が良いんじゃ?」
「アイツには別の仕事をして貰う」
「別の仕事?」
「エイハブ反応を感知できない機体だからこそできる仕事だ」
ブリッジからモビルスーツデッキへ出撃命令が伝えられる。全身を包む茶色いパイロットスーツに着替えた三日月は慣れた様子で地面を蹴ると無重力空間の中を泳ぐ。整備されたバルバトスのコクピット部にまで来ると、タブレット端末を片手に雪之丞が待っていた。
「整備はバッチリだ。頼むぞ、三日月」
「うん、任せて」
「モビルスーツの数は五機だ」
「どれだけ居ても全部叩き潰すんだ。数はあんまり関係ないよ」
「良し、バルバトスも出すぞ! Gセルフは後だ!」
コクピットのシートに座る三日月は阿頼耶識システムを接続、機体と自分とを繋げバルバトスを動かす。ハッチを閉鎖させると雪之丞も機体から離れていき、機体はエレベーターに運ばれてカタパルトに固定される。
「宇宙か、久しぶりだな」
『三日月、発進させるよ』
「ビスケット……わかった」
イサリビがハッチを開放したのを確認するガエリオは装備する大型ランスのトリガーに指を掛けた。
「抵抗したな。勧告はしたぞ!」
けれどもトリガーを引くよりも早くビーム音が轟く。ガエリオのグレイズは胸部装甲に直撃を受けた。けれどもナノラミネートアーマーはこれを弾き飛ばすが、イザリビはその間に方向転換しグレイズから逃げていく。
大型ランスを撃ち込むタイミングは完全に失われた。
「な、なんの光だ? どこから来た?」
追撃は来ない。けれども驚いてばかりいられる状況でもなく、急発進したバルバトスは背中に背負った滑腔砲を右腕に抱えるとグレイズの一機に向けてトリガーを引く。
宇宙空間での使用を前提として作られている滑腔砲は命中精度を多少犠牲にし、ナノラミネートアーマーを一撃で破壊できるだけの威力を持った大型ライフル。
狙いを定める三日月は躊躇なくトリガーを引いた。大口径の弾丸が一直線にグレイズへ迫ると胸部装甲を貫き、頭部と左腕が衝撃でちぎれ飛ぶ。
「こんな感覚か。まずはひとつ」
「モビルスーツだと!? マクギリスからそんな情報は聞いてないぞ」
「まずは正面のアイツを叩く」
「抵抗するか。白い奴の相手は俺がやる。他は赤い艦を押さえ込め!」
ガエリオはイサリビからバルバトスにターゲットを切り替えると大型ランスに設置されたライフルの銃口を向ける。
発射される無数の弾をメインスラスターで機体を加速させながら回避するバルバトス。ガエリオはその動きに思わず舌を巻いた。
「何だあの動きは? 無重力を自在に動いてる? 回避パターン!」
「他の雑魚とは違うな」
コンピューターにインプットされている何万ものモビルスーツの回避パターンに照らし合わせ攻撃を続けるガエリオだが、三日月のバルバトスはいとも容易く攻撃を避け続ける。
阿頼耶識システムでパイロットと繋がっているバルバトスの反応槽度は通常よりも早い。通常ならパイロットが反応し手足を動かさなければ機体は動いてくれないが、阿頼耶識システムを繋げていればその分のタイムロスが失くなる。
更には複雑なプログラムや操縦技術を必要とせずともパイロットの意思に合わせて機体はスラスター制御、AMBAC制御で宇宙空間を文字通り自由自在に動ける為、ガエリオはストレスが募るばかり。
「クソッ、ちょこまかと動き回る! 何なんだコイツは!」
「避けるのは簡単だけど、当てるのは難しいな。近づくしかないか」
滑腔砲を何発が撃ってもガエリオのグレイズにはかすりもしない。それを見て三日月は背面に滑腔砲を戻すと、同時に武器をメイスに持ち替えた。
メインスラスターで青白い炎を噴射し弾丸を避けながら接近すると、鈍重なメイスを思い切り振り下ろす。
「当たるか!」
腰部からバトルアックスを手に取るガエリオは素早く操縦桿を動かすとバルバトスの攻撃を受け止める。
そして右腕の大型ランスを突き出し胸部装甲を狙うが、やはり相手の動きの方が早い。三日月は咄嗟に突き出された右腕を蹴り上げ軌道を反らした。が、ランスの切っ先はバルバトスの左肩の装甲を破壊していく。
「浅かった、装甲だけか」
「壊したらオヤッサンにどやされる。さっさと決めるか」
「これ以上思い通りになどさせるものかよ!」
メイスを振り下ろし、横一閃。鉄と鉄とがぶつかり合い火花が散る。匠な操縦技術で攻撃を受け流すガエリオはすかさずランスを突き出したがこれもまた避けられた。
両手に武器を持ち攻防一体の動きをして来るグレイズに、三日月はメイスを下から振り上げバトルアックスを弾き飛ばす。
「これなら……」
「この程度で!」
グレイズの左腕に装備されたアンカーが射出される。それはバルバトスの右腕に食らい付くと、ガエリオは右足でペダルを全開に踏み込み機体を加速させた。
「たかが一機に俺がこうも苦戦させられるとはな。コーラルの部下は何をやっている! 破壊できなくても艦を押さえ込むくらいできるだろ!」
「捕まえられた。でも!」
動きを捉えられないバルバトスを拘束しようとするガエリオだが三日月がそれを許さない。メイスを一旦手放し、繋がれたアンカーのワイヤー部分をマニピュレーターで掴むとパワー任せに引き寄せる。
「このパワーは!? 引き寄せられる!?」
「イサリビは耐えてるけど、ベルリはまだ来ない。だったら!」
イサリビのブリッジではオルガが指揮を取り対空砲火でモビルスーツを寄せ付けない。最大船速でモビルスーツを振り切る事も可能だが、そうなるとバルバトスの回収が困難になる。
リモコンで対空砲の操作をしているユージンはこの状況にオルガへ叫んだ。
「こんな事で本当に大丈夫なのかよ! 敵の方が数は多いんだぞ!」
「俺の思惑通りに進んでいるなら、もう少しで状況は変わる!」
「だからそれが――」
文句を垂れるユージンだが、そこにブリッジの扉が開放された。見るとそこに居たのはクーデリアとフミタンの二人。
ビスケットはそれを見ると慌てて二人を制止させる。
「何をしているんですか!? ここは危険なので部屋に戻って下さい!」
「ですが私はこの状況を自分の目で見たいのです。三日月はモビルスーツで出撃しているのですか?」
「本当に危ないんですから! もしもの事があったら――」
レーダーが新たなエイハブウェーブを感知する。スクリーンに表示されるモビルスーツの反応に、この場に居る人間は息を呑んだ。
そんな中でユージンは睨み付けるようにしてオルガに問う。
「これがお前の言ってた思惑か?」
「いいや、違う。ビスケット、識別は?」
「これは……ヴァルキュリアフレーム? グレイズとは違う」
全身を覆う深紅の装甲、頭部後方から伸びる二本のアンテナ、両腕に装備された専用シールドとそれに内蔵されるブレード。
突如として現れたモビルスーツはメインスラスターを全開にして加速するとギャラルホルンのグレイズに接近する。
「な、何だコイツは?」
『フフ……』
両腕のブレードを展開、相手が躊躇している間にマニピュレーターに握るライフルを弾き飛ばす。そして続けざまにコクピットへ鋭い切っ先を突き立てた。
正確無比な突きは装甲と装甲の隙間を貫きパイロットを絶命させる。
そこでようやく、ギャラルホルンのパイロットは目の前の機体が敵であると認識した。
「イクトがやられた。ガエリオ三佐と戦う白い奴も気になるが、赤い奴にも注意しろ」
「ですが艦の包囲が……」
「こちらの艦も近づいているんだ。奴らを取り逃がす訳にはいかん!」
イサリビにも警戒を向けながら深紅の機体の相手もしなくてはならないグレイズ部隊。けれども相手は後退する事もなく再び詰め寄る。
青白い炎を噴射しながら接近してくる相手に三機はライフルの銃口を向けた。
雨のように降り注ぐ弾丸。深紅の機体はその装甲にかすめる事もなくその中を潜り抜けて行く。
「なんて機動力と運動性能だ。こちらの性能が負けている」
「き、来ます!」
始めて遭遇するモビルスーツの性能に舌を巻くが、相手は射撃武器を一切装備していない。両腕のブレードが届く距離にまで接近されなければ勝てないまでも負ける事もないと考えていたが、パイロット達の想像を上回る程の機体性能、そしてパイロットの技術。
攻撃を避け続け、グレイズを凌駕する機動力で一気に接近戦へ持ち込む。ブレードを展開する深紅に機体にバトルアックスで応戦するグレイズ。
『悪いが時間がないのでね』
二本のブレードを連続して振るう。袈裟斬り、横一線、斬り上げてからコクピットを突く。硬いナノラミネートアーマーへ確実にダメージを与えパイロットを仕留める無駄のない洗礼された動き。
機体が戦闘不能になったのを確認するとすぐさま次の敵に目標を切り替え、機体を加速させ接近戦を仕掛ける。
「この機体にグレイズでは歯が立たない。ボードウィン特務三佐、こちらは――」
『遅いよ』
二機目のグレイズにも鋭い切っ先が突き立てられあっという間に残りは一機。逃げる隙など与える筈もなく、背を向けてメインスラスターを吹かすグレイズに一瞬で近づく。
右腕を振り下ろしメインスラスターを破壊、そのまま続けて背面から攻撃を叩き込む。両腕を関節から、頭部も斬り落とし、何もできなくなったグレイズを右脚部で蹴り飛ばした。
『これでひとまず邪魔な機体は排除できた。後は……』
頭部のメインカメラが光る先、そこには接近戦を繰り広げる三日月のバルバトスとガエリオのグレイズ。次の獲物を見つけたのか、深紅の機体は二機の元へ飛ぶ。
『ガンダム……その性能、確かめさせて貰う』
「なんだ……」
「味方がやられた!? こいつらの増援か!」
ガエリオはライフルでバルバトスに牽制すると距離を離し深紅の機体と対峙する。加速して右手のランスを突き出すグレイズ。ライフルのトリガーを引きながら相手の動きを見る。
深紅の機体は先程同様に高い運動性能で弾を回避。相手の技量を素早く見極めるガエリオは射撃では倒せないと瞬時に判断しそのまま加速しランスの切っ先をぶつける。
だが寸前でブレードを構えるとこれを簡単に往なされた。
「こいつの性能はなんだ? どいつもこいつも違法にモビルスーツを使いやがって!」
現在新たに生産されているモビルスーツはギャラルホルンのグレイズ系統のみ。他は全て厄祭戦時に開発されたモビルスーツをレストアされた物。
それが目の前に二機も現れ、しかもグレイズよりも性能が高いとなれば嫌味も出る。
再びランスを突き出すがこれもシールドに防がれ、深紅の機体は左腕のブレードで斬り上げた。鋭い斬撃は装甲ごとグレイズの左腕を斬り落とす。
「フレームを装甲ごと!? チィ!」
味方は全滅し、機体も損傷した。状況不利と見たガエリオは撤退すべくメインスラスターを全開にする。イザリビを確保する事もできずに苦渋を決断を強いられたが、逃げる先では更に過酷な状況が押し寄せていた。
帰艦する筈の艦が攻撃を受けている。その機体は全身から光を放ち、光る武器を使っていた。
「アサルトモード!」
ベルリの声を認識して機体のカラーリングが赤く変化する。バックパックが駆動し両脇から出ると高出力のビームを二本発射した。威力だけでなく貫通力も高いビームはギャラルホルンのハーフビーク級戦艦の主砲に直撃した。
だがアサルトモードから発射された高い貫通力のビームでも、ナノラミネートの塗布を剥がすだけに留まってしまう。それでも装甲の表面は真っ赤に焼けただれている。
「アサルトでも通らない。だったら!」
操縦桿のボタンを押し込み頭部バルカンを連射させる。焼けただれた装甲を無数の弾丸は容易に貫き、爆炎が発生し主砲が破壊される。
「これなら撃沈はしない筈だ」
「また新しい機体かァァァッ!」
「まだ来る!」
トリガーを引きライフルから弾丸を連射するガエリオのグレイズに身構えるベルリ。
両手の操縦桿を巧みに操作しビームライフルの銃口を向けると、敵の武装だけを撃ち抜いた。
爆発する大型ランスを手放すガエリオはギリギリと歯を食いしばりながら、現れたGセルフを睨む。
「たかが不穏分子の制圧で……滅茶苦茶だ! これ以上損害を出させるな! 撤退だ!」
損傷した艦とまだ後方で待機する艦に通達するガエリオはメインスラスターを全開にして逃げに徹する。
ベルリは逃げる先には艦隊が待ち受けているとあり深追いはせず、目視とレーダーで周囲を確認すると三日月が深紅の未確認機体と戦闘をしていた。
「艦隊は離脱を始めているんだぞ? って事はまた別の勢力? それとも……」
加速するGセルフは接近戦を繰り広げる二機の元へと向かう。
バルバトスに乗る三日月は目の前の敵の戦闘力に驚いていた。
「コイツ、違うぞ。今までの奴と」
『グレイズと一緒にされては困るな』
「邪魔だッ!」
振り下ろすメイスは両腕のブレードで受け止められる。けれどもそれは避けれなかったと言うよりワザと受けたように見えた。
『このパワー、さすがガンダムフレーム。ツイン・リアクターシステムは伊達ではないか』
「お前、何言ってるんだ!」
『何も知らずにその機体を操縦していたのか? ならば阿頼耶識システムの真の性能も知らないと見える』
「ごちゃごちゃと……」
『フフッ、阿頼耶識システムはガンダムフレームを動かす為に開発されたシステムだ』
両腕を引くと同時にスラスター制御で距離を取る。すかさずブレードで袈裟斬りするが、寸前の所でバルバトスもメイスで防ぐ。
『素晴らしい反応速度だ。だがガンダムの性能をすべて引き出せているとは言えないな』
「お前、俺の敵なんだろ? どうしてコイツの事をわざわざ教えるんだ?」
『私は君達の敵ではないよ。と言っても信用できないだろうね。それともう一つの質問、わざわざ君にガンダムフレームの事を教える理由。それは君に活躍して欲しいからさ。悪魔と呼ばれたガンダム。君はそれを駆り、世界に名を轟かすんだ!』
深紅の機体はブレードを振る。斬る、斬る、薙ぎ払う。
大振りな攻撃した繰り出せないメイスを持つバルバトスは防戦一方。
『だからガンダムフレームの性能は引き出して貰わなければ困るのだよ。阿頼耶識システムはパイロットと機体を同調させる為だけではない。その秘められた性能を開花させねば世界は変わらん!』
「訳わかんないアンタの言う事なんて聞くつもりはない。俺達の邪魔をするなら、お前は敵だッ!」
『フフ……』
メイスで薙ぎ払うバルバトスは敵機に詰め寄り再び振り下ろすが、スラスター制御とAMBACで簡単に避けられる。それでも三日月は加速して次は切っ先のパイルバンカーを突き刺そうとするも相手に動きは読まれていた。
バルバトスとそのパイロットの戦闘能力を確かめる為に敢えて接近戦を仕掛けてきたがもうその必要もない。
深紅の機体はメインスラスターで加速してバルバトスのメイスから繰り出される突きを避け、この領域から離脱を始める。
「逃がすか!」
『今日の所はここまでだ。君との勝負は預ける。そして!』
「三日月さん、深追いは危険です!」
ビーム音が轟き深紅の機体に飛来する。
援護に駆け付けたGセルフは首元からビームサーベルも引き抜き更に加速した。敵機に対して横一閃すると、ブレードの片方を切断する。
『二本角、エイハブ反応が探知されないのは本当か。それにこれは紛れもなくビーム兵器。それも想定よりも遥かに強力と来るか』
「アナタは何なんです! ギャラルホルンとか言う組織とは違うモビルスーツか?」
『これだけ情報が掴めれば充分だ。新しい組織の名前は鉄華団と言ったな? また会おう』
背を向ける謎の機体、ベルリはビームライフルの銃口を向け警戒はするがトリガーは引かない。レーダーを見て完全に敵影が引いたのを確認すると、シールドの先をバルバトスの白い装甲に軽く触れさせる。
「まだ警戒は必要ですけれど、一度イサリビに戻りましょう」
「あぁ……そうだな」
操舵をやってるユージンだ。なぁ、こんな調子で本当に地球まで行けんのかよ? それにどうせならもっと最新型の! カッチョイイ艦に乗ってみてぇよ! この仕事が終わったらもっと良い艦に変えようぜ!
次回、鉄血のレコンギスタ――新たなる障害――
げぇ!? これ以上面倒は見たくねぇぜ。