ガンダム 鉄血のレコンギスタ   作:K-15

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第七話 オルガの覚悟

 イサリビから出撃するGセルフは背中のバックパックを翼のように左右に広げ、メインスラスターとフォトンリングを発生させて加速する。バルバトスは正面から、Gセルフは迂回してタービンズに攻める作戦。

 けれどもタービンズは輸送を専門としてはいるが修羅場を潜り抜けた数は計り知れない。モビルスーツの運用も鉄華団よりも熟練しているのは確実。

 

「速度の早い機体が居る。でも今は敵艦に取り付くのを優先させる! 三日月さん、頼みます!」

 

 ペダルを踏み込むベルリはメインスラスターの出力を上げてビームライフルを構えるとタービンズの強襲装甲艦を視認する。

 

「むき出しの砲身を狙えば!」

 

 ビームライフルのトリガーを連続して引くと高出力のビームが発射される。巨大な主砲はナノラミネートが塗布されておりビームを弾くが、小型の対空砲は一撃で破壊できる。

 それを確認したベルリは敵の戦闘力を削ぐ為にまずは対空砲を集中して破壊しに行く。

 

「これなら! 後はスラスターを……まだ出て来る!」

 

 だが敵艦からは新たなモビルスーツが出撃して来る。ギャラルホルンのグレイズとは違う、テイワズが独自に開発したモビルスーツ、百錬。

 マッシブなフォルムは場所を選ばず機敏に動き高い戦闘力を誇る。

 パイロットであるアジー・グルミンの機体は蒼く、アミダ・アルカの機体は朱い。

 

「姐さん、やっぱりエイハブウェーブは探知できません。レーダーの故障って訳じゃありませんね。そんな機体を持ってるなんて。それにあの光る武器……」

 

「先制攻撃を受けたのは癪に障るけど、わかっちまえばこっちのものさ。やる事はいつもと変わらない。アタシが先行して仕掛ける。バックアップを頼むよ!」

 

「はい!」

 

「来るか!」

 

 朱い百錬はライフルのトリガーを引きながらGセルフとの距離を詰める。回避するベルリだが、逃げる先に正確に銃口を向け攻撃の手は緩めない。

 

「相手は手練てる。時間は掛けられないって言うのに」

 

「その武器の性能は見させて貰った。当たらなければ! アジー、グレネードを使うよ!」

 

 マニピュレーターに腰部のグレネードを握らせると素早く投げる。同時にライフルのトリガーを引き投げたグレネードに弾を当てると本来よりも早く起爆させ爆炎がGセルフの前に広がった。

 

「挟み込む!」

 

 左手に片刃のブレードを握らせ左右からGセルフに詰め寄る。その間もライフルでの砲撃は止まない。けれどもこの程度の目眩ましにやられるベルリでもなかった。

 

「何だって言うんだッ! コピペ・シールド!」

 

 シールドから透明なフォトン・エネルギーの障壁が幾つも発生すると左右から飛んで来る弾丸からGセルフを守る。

 通常の弾丸がどれだけ束になった所でフォトン・エネルギーを突き抜けるのは不可能。そしてベルリは視線を蒼い百錬に向けるとペダルを踏み込んだ。

 加速するGセルフ、それに対面するアジーは冷静に牽制射撃をしながら左手の片刃ブレードで接近戦に備える。

 

「あのシールド、普通のシールドじゃない。小賢しい!」

 

「無駄です! そんな機体で!」

 

 発射する弾丸はシールドに吸い込まれるようにして消えていく。そして蒼い百錬は片刃ブレードで袈裟斬り。だがベルリは素早く機体に逆噴射を掛けるとこの攻撃を回避。そして瞬時にバックパックのスラスターの向きを変えて右脚部を高トルクモードに切り替えた。

 振り下ろされている左腕を蹴り上げるとマニピュレータから片刃ブレードが飛んで行く。そして更に詰め寄るとビームライフルの銃口を右肩と胴体の繋ぎ目に密着させた。

 引かれるトリガー、ビーム音が轟くと百錬の右腕が一撃でちぎれ飛ぶ。

 

「これで戦闘力は奪いましたよ!」

 

「私がこんな一瞬で!? 機体の性能か?」

 

「帰って下さい!」

 

 百錬の胸部を足場にするようにして蹴ると機体を反転し加速。もう一機の朱い百錬に向かって飛ぶ。

 実力者であるアジーを瞬く間に倒すGセルフとそのパイロットの技量を見てアミダはペロリと唇を舐めた。

 

「アジー、艦に戻りな!」

 

「すみません、姐さん」

 

「あの娘があんな簡単にやられるなんて。それにパイロットは殺さず武器だけを狙うそのやり方、気に入らないね!」

 

「このモビルスーツを何とかすれば敵艦に取り付けるんだ。それにギャラルホルンとか言う組織にだって狙われてる。手加減はできませんよ!」

 

「アタシに敵うと思うな!」

 

 アジーの蒼い百錬は指示を受けてタービンズの艦に戻って行く。

 一方、アミダの射撃は緩急を付けてGセルフを狙う。それも狙いは正確で白い装甲に襲い掛かるがコピペ・シールドはまだ展開されている。

 

「チィッ、鬱陶しい武器を使う!」

 

「確かに強いけれど一本調子じゃ!」

 

「これなら!」

 

 腰部に残っている残り二個のグレネードの安全装置を解除して前方に投げ飛ばす。目視で確認したベルリはビームライフルをマウントさせると首元からビームサーベルを抜き横一閃。

 針のように細くとも高出力のビームサーベルが機体の全長よりも長く伸びると一瞬でグレネードを切断。爆炎が再び視界を覆う。

 

「仕留めるよ!」

 

「そんな戦い方じゃアナタは死にます!」

 

 迂回して朱い百錬が再び攻めて来る。ライフルのトリガーを引きながら片刃ブレードを振り下ろす。反応するベルリもビームサーベルで斬り上げるが切っ先はモビルスーツの装甲しか捕えられない。

 

「外した、でも!」

 

「遅いよ!」

 

 百錬の振るう刃が確実にGセルフの胸部装甲を捕えた。瞬間、全身の装甲が深い緑色に変化する。

 

「何だッ? ぐぅッ!?」

 

 振り払うシールドが百錬の頭部に叩き付けられる。Gセルフはそのまま握っているビームサーベルのグリップをコクピット部分に密着させた。

 

「ナノラミネートアーマーでも長時間のビーム攻撃には耐えられない!」

 

「賢しい子どもだね!」

 

「え……その声!」

 

 装甲を通して聞こえて来たのはベルリが良く知っている声。そしてベルリは思わず操縦桿を引くとビームサーベルの攻撃も止まった。

 だがアミダはその隙を逃さない。

 

「正気かい?」

 

「どうして母さんがモビルスーツになんて乗ってるんです!」

 

「母離れもしてない坊やが戦場に出て来るか!」

 

 片刃ブレードの切っ先がGセルフの腹部に突き立てられる。今度は高トルクモードに切り替える暇もなく衝撃が襲う。だがフォトン装甲にダメージはない。

 

「クッ……あんな単純な罠に引っ掛かるなんて!」

 

「なんて装甲だい!? キズも付いてない」

 

「トリッキー!」

 

 Gセルフの全身が一瞬光ると余剰フォトンエネルギーが発射される。全身を型取ったような光の幕は一直線に百錬に向かう。

 警戒するアミダは近づいて来る光を片刃ブレードで振り下ろした。が、光に触れた瞬間に機体の電気系統に異常が出る。

 

「また賢しいマネを! 坊主がッ!」

 

「今なら行ける、足を止める!」

 

 全身が痺れたかのように朱い百錬の動きが止まってしまう。アミダを突破するGセルフはタービンズの艦に接近するが、目の前に現れるのは片腕を失ったアジーの蒼い百錬。残された左手には新たなライフルが握られている。

 

「ウチらの艦はやらせないよ!」

 

「まだ……出て来る!」

 

「新型だからって!」

 

「しつこい!」

 

 ライフルのトリガーを引くアジー、ベルリは操縦桿を巧みに動かしGセルフを操る。バックパックから伸びる青白い炎は糸を縫うように攻撃をかい潜ると百錬に詰め寄った。

 両手にビームサーベルを握らせるベルリはGセルフの両腕で振り払う。高出力のビーム刃はライフルとマニピュレーター、頭部と胴体とを繋げる首を切断し、そのまま蒼い百錬を足場にして防衛網を抜けて行く。

 

「私が同じ奴に二度も負ける!? 名瀬、姐さん、ごめん……」

 

「これならもう追って来ない。敵の砲撃!」

 

 タービンズの艦から対空砲火が飛んで来る。けれどもそれではモビルスーツの動きを止める事はできない。ブリッジでも艦長を兼任している名瀬が声を飛ばしていた。

 

「あの二本角を近付けるんじゃない! アジーの機体は回収させろ! ラフタもどうなってる?」

 

「もう一機の白い機体と交戦中。呼び戻しますか?」

 

「どの道、間に合わない。アミダが頼みの綱か。おい、マルバ。あの二本角は何だ? あの機体の戦闘力はギャラルホルンとの戦闘で見てる。が、あんだけ見た事もない武器を使われたんじゃアミダとアジーでも辛いか。それにまだ底が知れない。マルバ、あの機体は何なんだ?」

 

 シートに座る名瀬は隣で震えながら立つ彼に向かって問い掛ける。けれどもマルバにも知る由もない。

 

「お、俺だって知りませんよ! あの機体はクーデリアがウチに来た時に一緒に付いて来ただけで。知ってるのはもう一機の方だけです!」

 

「あっちはラフタでどうにかなってる。それよりも……残りの主砲は全部正面の敵艦に向けろ! 面舵三十、ミサイルとナパーム弾もありったけぶち込め!」

 

「了解です」

 

 名瀬の指揮に従い艦が動く。全火力を持ってイサリビを撃沈すべく動き出した。

 このままGセルフに取り付かれれば敗北は免れない。そうなる前に敵の頭を潰そうと考え、加速するハンマーヘッドは一直線にイサリビへ向かう。

 全てのスラスターを駆使して加速するハンマーヘッドの動きにベルリも舌を巻く。

 

「敵艦の動きが早い!? 追い付けるの?」

 

「行かせないって言ってんだよッ!」

 

「アサルト!」

 

 全身が赤色に変化するGセルフはバックパックを両脇から突き出すと貫通力も高い高出力ビームを発射した。けれどもそれを防ごうとアミダの百錬が尚も立ち塞がる。

 右腕を一杯に伸ばしながら、発射体勢に入るGセルフの前に行こうとするが、それよりも早くにトリガーは引かれてしまう。

 発射される二本のビーム。でもアミダは辛うじてその内の一本に届いた。

 

「な、何の光だ!?」

 

 ビームがナノラミネートが塗布された朱い装甲に直撃した。その特性からビームは腕の装甲から弾かれてしまうが、アサルトモードのビームはビームバリアであるIフィールドでさえ貫けるようにできている。弾かれるのはその数秒だけ。

 ビームの熱量と貫通力が百錬の右腕を吹き飛ばす。

 

「私が……止められなかったって言うの?」

 

 もう一本のビームは遮られる事なくタービンズのハンマーヘッドのスラスター部分に直撃した。巨大な爆発が起こると艦はバランスを崩し航行不能となってしまう。

 艦内では乗組員が必死に消火活動に当っていた。

 

「十番から二十番までシェルターで格納。消化班はノーマルスーツの着用を」

 

「まだ対空砲の消化も終わってない!」

 

「動ける人間は負傷者を担ぎ出せ!」

 

 動いている人は全て女性だ。この艦には名瀬を除き女性しか乗員していない。彼女達は自分の仕事を真っ当しようと各々が必死に動いている。

 その様子はブリッジの名瀬にも届いており、彼は右手でアゴ髭を触ると瞬時に決断した。

 

「リアクターの出力を下げろ。このままの航行は無理だ。それと向こうに回線を繋げ」

 

「な、名瀬さん!? 諦めるって言うんですか?」

 

「アミダの機体も損傷してる。すぐに回収させろよ」

 

「名瀬さん!」

 

「終わりだ。今回はあいつら、と言うよりあの機体が規格外だった。もう反撃する手は持ち合わせてねぇよ」

 

「し、しかし……」

 

「何だ? まだ戦えって言うのか? 言っとくがそうなるとお前も死ぬぞ? わかってるんだろうな?」

 

「そ、そんな……わかりました」

 

 がくりと膝から崩れ落ちるマルバ。それを見て名瀬はアミダとラフタにも回線を繋げさせる。

 

「終わりだ、アミダ。今すぐ戻れ!」

 

『アンタ……良いのかい?』

 

「俺が話を付ける。その二本角とそれ以上やりあえば死ぬぞ。そんな事はさせねぇ」

 

『わかったよ。帰艦する』

 

 鉄華団とタービンズとの戦闘は終わった。動きの止まったハンマーヘッドと緩やかに戦線から離脱する百錬の動きを見てベルリもそれを悟る。

 

「離れて行く。諦めたのか……」

 

『Gセルフのベルリ・ゼナム、聞こえますね?』

 

「フミタンさん?」

 

『そちらもイサリビに帰艦を。これよりタービンズとは一時休戦です』

 

「了解しました。戻ります」

 

 指示に従い帰艦するベルリ。Gセルフはエネルギーを消耗しただけでさしたるダメージを受けていないが、三日月のバルバトスはそうもいってなかった。

 元々が急場凌ぎに動かした機体なのもあるが整備も万全ではない状態で立て続けに戦闘をおこない各部装甲が剥がされている。フレームの消耗も激しい。

 モビルスーツデッキに格納されたGセルフとバルバトス。コクピットから出て来た両パイロットはデッキで鉢合わせると互いの機体に目を向けた。

 

「三日月さん、ご無事で何よりです」

 

「俺の事なんて良いよ。今回は何もできなかった。この戦闘に勝てたのはベルリのお陰だ」

 

「そんな……」

 

「何もできなかった。オルガの為にもっと強くならないと。そうじゃなきゃ俺はここに居る意味がない」

 

「意味?」

 

「俺は飯食ってくる。また時間ができたら昭宏の練習に付き合ってやってくれ」

 

「わかりました」

 

 言うと三日月はモビルスーツデッキから出ていってしまう。三日月は役に立てなかった事にストレスを募らせるが、一方でベルリも地球に近づくにつれて心の中の不安が大きくなっていた。

 

///

 

 鉄華団とタービンズとの戦いは鉄華団の勝利に終わった。けれどもバルバトスは度重なる戦闘で全身の装甲はボロボロ。イサリビも主砲やナパーム弾の攻撃を受けてナノラミネートアーマーも消耗してしまっている。

 イサリビとハンマーヘッドは並列にゆっくりと、ギャラルホルンの目に触れない安全な航路を進んでいた。

 そしてベルリはバックパックも何も装備していないGセルフに搭乗しマニピュレーターで装甲板を掴むと、アサルトモードのビームにより穴の空いた箇所に持って行く。

 そのすぐ傍ではノーマルスーツを装備したタービンズの整備班が動いている。

 

「確かに攻撃したのは僕ですけれど……」

 

『二本角、ちゃんと誘導に従ってよね! それ、早く持って来る!』

 

「わかりましたよ。危ないから少し離れて下さい」

 

 動ける乗組員は艦の修復作業で賢明に動く中、オルガとビスケット、クーデリアは交渉の為にハンマーヘッドに招かれていた。

 応接室に通された三人、そこに居るのはタービンズの頭である名瀬・タービンとCGSの社長だったマルバ・アーケイ。

 

「よぉ、来たな。まぁ座ってくれ。今、アミダに茶を用意させてるからよ」

 

「いえ、そんな……俺達は一応交渉に来たので……」

 

「そうだけどよ。殺し合いをした相手と茶は飲めねぇってか?」

 

「そんな事は!? では、頂きます」

 

「舐められねぇように気を張るのは必要だが、だからって何でも突っぱねるなよ? 今回は許してやるが俺じゃなかったらこの時点で交渉は決裂する場合だってある」

 

「肝に銘じます」

 

 言われてオルガとクーデリアは広いソファーに腰を下ろし、体格の大きいビスケットはその後ろに立つ。。けれどもやはり気は抜けない。鋭い眼光は目の前の名瀬、そしてマルバを睨んだ。向けられる眼差し、今までにしてきた行いを振り返りマルバは思わずたじろぐ。

 

「うぐっ!? お、オルガ……生きていたとはな」

 

「白々しいぜ、死んでてくれた方が嬉しかった筈なのによ」

 

「そんな事は……俺は今までお前達を養ってやってたんだぞ? 仕事を与え武器の使い方を教えてやった。その恩を――」

 

「へぇ、まだ減らず口を叩くのか? 俺は忘れちゃいねぇぜ、今までお前にやられた事を。お前のせいで死んでいった仲間の事を。その怨念、この場で返して貰おうか?」

 

 懐に手を伸ばすオルガ。その動作を見てマルバの肥え太った全身から脂汗が吹き出し震える体で逃げ出そうとした。けれども名瀬の一声がそれを止める。

 

「やめとけ、こんな所で銃なんて使うんじゃねぇ。折角の絨毯やソファーが血で汚れる。どうしてもって言うなら止めねぇが、きっちり弁償して貰うからな。言っとくがこの部屋に置いてある家具は値打ち物ばかりだぞ。払えんのか?」

 

「ッ! わかりました」

 

 手を引くオルガ。もう一度だけマルバを見ると口から泡を拭いて白目を向いていた。名瀬はその事を全く気にせずに交渉を初めた。

 

「お前達の覚悟は見させて貰った。まずは聞かせてくれ。お前達の最終目標を」

 

「俺達の仕事はクーデリアを地球まで送り届ける事。その為にはギャラルホルンに見付からない安全な航路と案内役がどうしても必要なんです。その案内役を引き受けては貰えませんか? それともう一つ、俺達鉄華団をテイワズの傘下に入れて貰えないでしょうか?」

 

 最後の言葉を聞いた瞬間、名瀬の目付きが鋭くなる。

 

「俺達はギャラルホルンに目を付けられてます。でもテイワズの力があればそれも払拭できる」

 

「俺達を後ろ盾にしたいって訳か。なぁ、俺達の傘下に入る事の意味をちゃんと理解してるんだろうな? オルガ・イツカ」

 

 その鋭い視線を声を耳にしただけでビスケットは体が固まってしまう。怒り、殺意、恐怖、名瀬はたった一言発しただけでそれを感じさせるだけの気迫がある。

 だがオルガはそれに臆さない。ここで引いてしまえば全てが無駄になってしまう。鉄華団の為にもそんな事はできない。

 

「わかっています。マフィアに属するって事です。それくらいの覚悟ならもう決めてます」

 

「やっぱりお前わかってねぇよ」

 

「は? それは――」

 

 オルガが問い掛けようとした時、応接室の扉が開かれた。視線を向けるとトレーにティーポットとカップを乗せて運んで来た女性が立っている。

 タイトなジーンズ、胸元がざっくり開かれた赤いシャツから見える褐色な肌からは色気が漂ってくるが、大きく消えない傷痕が痛々しい。

 ウェーブの掛かったブラウンヘアをゴムで一本にして真っ赤なリップを塗る彼女はアミダ・アルカ。

 

「話は進んでる? 紅茶ができたよ」

 

「サンキュー、アミダ。それじゃ一杯頂くとするか。お前らも飲むよな?」

 

 同じ事を聞かれオルガは思わず目を見開くが、間違いのないようにゆっくりと口を開く。

 

「い、頂きます」

 

「そう。それじゃちょっと待ってて。全員分用意するから」

 

 ティーポットからカップに注がれる温かい紅茶は香しい。しかしこの紅茶の良さがわかるのはクーデリアだけだ。用意されたカップはテーブルの前に置かれ香りを楽しむクーデリア。

 オルガはちらりと紅色の液体を見ると本題に戻る。

 

「わかってないとはどう言う事ですか?」

 

「そのままの意味だよ。お前はマフィアに入る事の意味をまるでわかってねぇ。まだまだガキのお前が来るような所じゃねぇんだよ」

 

「でもそれじゃ――」

 

「だがもう一つの方は考えてやっても良い。地球までの水先案内人、引き受けてやる。でも当然だが安くねぇぞ。金はどれだけ用意できる?」

 

 テイワズの傘下に入れない事に納得がいってないオルガだが名瀬は話を強引に進めていく。金額を提示するように言われ、ビスケットは持っていたタブレットを指で操作してから名瀬の前に差し出す。

 

「こちらが僕達が今用意できる全額です」

 

「どれどれぇ……安いな」

 

「そんな!? 相場から考えても充分な金額はあります!」

 

「案内料はな。こっちの艦はお前らが用意した二本角のモビルスーツのせいで損害を受けてる。その分もきっちり耳を揃えて払って貰わないとな」

 

「それはそちらにだって非があります! 交渉にも応じて貰えず、艦隊戦とモビルスーツの攻撃を先に仕掛けたのもそちらです! 戦わなければ死んでいた!」

 

「だとよ、アミダ。どう思う?」

 

 横目で隣の彼女に伺う名瀬の様子はどこか楽しげにも見える。それがわかっているアミダはカップの紅茶を一口飲むと口を開く。

 

「少しからかい過ぎだよ。可哀想に」

 

「はは、そうかい。おい、真ん丸いの」

 

「ビスケット・グリフォンと申します」

 

「水先案内人、この金で引き受けてやるよ」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「あぁ、嘘は付かねぇよ。でもお前言ったな、この金は用意できる全額だって。そんなんじゃ組の運営もギリギリだろ? だからさ、こっちからも何人か人を送る。お前達が金を踏み倒さないようにな」

 

「そんなことはしません」

 

「そのつもりがなくても組が潰れたら払えないだろ? 道中でモビルスーツのパーツやら何やらを集めて売れば金になる。一人は闇ルート販売の仲介、もう二人は直接金目の物を集めて貰う。言っとくがお前らへの分前はないからな」

 

「わかりました。ではその旨でお願いします」

 

「交渉成立だな」

 

 名瀬は渡されたままのタブレットを操作するとテイワズのコンピューターからデータを読み込む。パネルに表示されるのはいつの間に作られたのか、先程の交渉の末に決まった内容が文章に置き換えられている。

 指でスライドすると名前を書く欄が。

 

「ならここに一筆書いて貰う。これは契約だ。途中で辞めるだなんて許されねぇ。書いて貰うぞ、鉄華団団長」

 

「許されないのはそちらも同じですよ」

 

「わかってるよ」

 

 渡されたタブレットに指で自らの名前を書くオルガ。この瞬間、鉄華団とタービンズは正式に契約が結ばれた。

 同時に水先案内人は引き受けてくれたがテイワズの傘下に入れない事が決定してしまう。

 

「良し、それじゃ今後とも宜しくな。鉄華団団長」

 

「こちらこそ、宜しく――」

 

 互いに手を伸ばし握手をしようとした時、突如として船体が揺れる。

 

「何の揺れだ!? アミダ、モビルスーツデッキに行って出撃の準備。俺はブリッジに戻る」

 

「わかった。頼んだよ」

 

「お前らはここから動くな。今から艦に戻るのは無理だ。状況がわかるまでは下手に動くなよ」

 

 言うと名瀬とアミダは応接室から出て行ってしまう。残された三人は名瀬に言われた通りこの場に留まるしかできない。




 テイワズ運送部門の名瀬・タービンズだ。お前らに一つ、タメになることを教えてやる。
 品を売りたい相手を誰にするのかをまず決める。それが起業をする時にまず最初に考えることだ。
 次回、鉄血のレコンギスタ――激闘、宇宙マフィア!――
 続きが聞きたいなら次も見な。
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