第1話 2人目=天才物理学者
3年前。
世界の人々はドイツで行われた1つの一大イベントに注目していた。
そのイベントの名前は、モンド・グロッソ。
日本に迫りくる2,000発以上のミサイルを漏らす事無く撃墜し、各国から送られてきた偵察機を難なく捌いて逃げ遂せたインフィニット・ストラトス、通称ISの初お目見えとなった一連の出来事は【白騎士事件】と名付けられた。そしてそのISは全世界で着目され、昨今まで開発が行われ続けてきた。
そんなISを兵器としてではなく、スポーツの一環として取り上げているのがこの大会だ。格闘、射撃等の部に分けられた競技はISの機動力によってハイスピードで展開され、見る者の心を躍らせた。
しかし第2回となる今大会の決勝戦において、衝撃の事態が発生する。
決勝を控えていた全大会の優勝者、織斑 千冬の突然の試合放棄。2連覇を期待していた世界中のファンはそれを受けて茫然とするしかなかった。決勝戦が始まる筈だった時間のアリーナには、彼女と戦うはずだった対戦相手の佇む姿と観客席に座る人々、そんな彼女達の衝撃や悲しみを表現するかのように通り雨が降り注いでいた。
そして、同日同国の郊外にて…………。
「俺は……誰だ?」
1人の少年が、目を覚ました。
――――――――――
「お前は誰だッ!俺の中の俺ェェ~♪」
とある研究ラボの一室。
そこでは1人の科学者が歌声を室内に響かせながら開発作業に打ち込んでいた。彼女の周りには機材や資料が乱雑しており、かなりゴチャゴチャしたことになっている。
「影に隠れたッ!その姿見せ――あでっ!?」
挙句には作業の手を止めてでも熱唱に生じようとした彼女の頭部に、鋭い一撃が炸裂する。発した痛みに耐えきれずに歌を中断し、頭を押さえて蹲ってしまう。
殴られた彼女は涙目になりながら顔を上げて、自身に手を出した犯人を上目遣いでグヌヌと見つめる。
「いた~いぃ……いきなり叩くなんて酷いよ、せんちゃん!」
「あんなデカい声で歌ってるアンタが悪いから。というか何でその歌選んだし」
せんちゃん、と呼ばれた少年は彼女の訴えを軽く流しながら自分の作業場に戻り始める。
少年の名前は【赤星 戦兎】。
とある事情で独り身の彼は、先程叩いた科学者の助手を務めているのだ。
「ぶーぶー、だってさっきすっごく良いアイデアが浮かんでテンションフォルテッシモ!になっちゃったんだよ!せんちゃんも束さんのグッドアイデア、聞きたいよね!聞きたいんだ!聞こう!」
「ゴリ押しな三段活用は止めんか!……というか、俺も丁度今こいつの浄化が完成したんだよね」
そう言いながら戦兎はいつの間にか背中に引っ付いている――篠ノ之 束に手に持っている小さな道具を見せつける。
それはボトルの形をしており、外装の中央に手裏剣のデザインと紫色のカラーリングが施されていることによる2種類の特徴がある。
「これは……なんじゃ?」
「忍者」
「あぁ知ってる!ブラックホールに消えた奴らでしょ?」
「そりゃなんじゃ……だが束さんよ、俺がこれだけで終わると思ったら大間違いだぜ」
「うぇい?」
「生憎、この忍者フルボトルとは関係無いんだが……」
そう言って戦兎がどこからともなく取り出したのは、オレンジとグレーのカラーリングが施されたワンハンドタイプのガトリングウェポンであった。
「遂に完成!【ホークガトリンガー】!」
「おおー!」
「ここの【サードアイホーク】は最大100体の敵を同時にロックオンし、更に必殺技発動時には特殊な結界を展開して敵を隔離する!更に先端の【シックスガンマズル】は照準センサーを元に弾速や発射角度を自動で、自動で微修正してくれる優れもの!殲滅光弾【バレットイレイザー】は着弾部を爆発と同時に消し飛ばす!」
「おおぉー!」
「更に更に!中央のリボルマガジンは手動回転式のリロードユニットを搭載!瞬時に弾丸を生成、装填して最大装填時は100発もの弾丸を連射!」
「おおぉぉー!!」
「これがてんっさい物理学者なこの俺の新・発・明ぃ!」
「イェーイ!せんちゃんサイコー!チョーイイネ!」
『Foo!!』
2人は意気揚揚とハイタッチを交わし、肩を組み合いながらその場でスキップをし始める。
バカと天才は紙一重。つまり今の2人はバカの領域に踏み切っているのであった。
「ぃよし!早速試し撃ちタイムという事で、さっき束さんが散らかしたその辺のガラクタ共をロック・オン!」
「イケイケせんちゃーん!」
「狙い撃つぜぃ。赤星 戦兎、いっきまー――」
ウィーン、と自動扉がスライドする音が。
「束様、戦兎様。頼まれていた備品の買い出しから戻って……」
「「あっ」」
――――――――――
「お2人とも、以前に私はお願いした筈ですよね?新しい武装等のテストはちゃんとラボを出てからやるようにと。でないとテスト後の片づけが大変なのですから」
「はい、すいませんでした」
「ごめんなさい」
外出から帰ってきた少女――クロエ・クロニクルの前で土下座をする2人のてんっさい科学者達。自分よりも年下の女の子に頭を下げる事に何の躊躇いも無いと感じさせるほどの綺麗な姿勢を保っている。
彼女を含めてこの場の3人がここのラボで暮らしているメンバーなのだが、反面教師が2人いながらも、寧ろいた所為なのか真っ当な考え方を保ったままクロエは成長してくれていたようだ。
「いえ。私も差し出がましい意見を言ってしまい、申し訳ありませんでした。それと戦兎様、こちらに今後必要になってくるであろう物を集めてきました。スペースはまだ空いていますので、後はご自分のお好きな物を入れていただくと宜しいかと」
「おぉ、サンキュ」
戦兎はクロエからキャリーバッグを受け取ると、開けて中身の確認を始める。パッと見でも替えの下着や外出用の衣服、細かな日用品が収まっていた。
「ふんふふーん……」
「戦兎様の出発は明日でした、よね?」
「そだよー、せんちゃんの記念すべき学園生活in IS学園!せんちゃんを知らない場所に送り出すなんて……およよ、これが我が子を見送るママの心境なのね!グスン!」
「誰がママだ、誰が。というか行くように頼んだのはアンタじゃん」
「あ、そうだったそうだった」
テヘ☆と星のエフェクトを発生させながら茶化してくる束。
ISを扱えるのは女性のみ。必然的にIS学園の生徒、教師、事務員等はほぼ全員女性となっている。男子生徒や男性職員がいるという前例はこれまで存在していなかった。
だがしかし、今年は違う。何とISを使える男子生徒が2名入学するのだ。
1人は織斑 一夏。
第1回モンド・グロッソの総合優勝者である織斑 千冬の弟。これといって目立った経歴は無いが、高校受験の折に藍越学園という学校で試験を受ける筈が試験会場を間違えてしまい、偶然そこにあった受験者用のISを男の身で起動させてしまった事により、IS学園への入学が決定されたのだ。
色々とツッコミ所のある話だが、男がISを動かしたという事実に世界中は大混乱。急遽全国で男性の適性検査が行われるなど、バタバタしていた。
そしてもう1人が、ここにいる赤星 戦兎だ。ただし、彼は全国で行われた適性検査には参加していない。
彼は、記憶喪失なのだ。
自分の過去の記憶をすべて失っており、最も古い記憶はどしゃ降りの雨が降ったドイツの郊外にて、束に拾われたことのみ。幸いにも言語や一般的な知識は身に着けており、彼女に拾われてからも日常生活に困ることは無かった。
そんな身であるにも関わらずIS学園に入学する理由は3つ。
織斑 一夏の護衛。
国籍豊かな学校に行き、自身の過去の手掛かりになるものや切っ掛けを探す。
とあるデータの採取。
「戦兎様がいなくなると、このラボも少し寂しくなってしまいますね」
「そうだね……でも、せんちゃんは私のわがままを聞いてくれたんだもんっ。ホントは十分な環境で研究もしたい筈なのに……」
戦兎は大の発明好きである。
記憶が無くなってはいるが、発明の技術に関しては保護されて間もない頃から束の開発風景を観察した影響で急激にその能力を高め、現在は彼女の右腕として十分に働けるレベルにまで到達している。てんっさいを自称している彼ではあるが、その発言に偽りは無い。彼もまた束と同じく天賦の才能を持っているのだ。時折発生する奇行はさて置き。
そんな3度の飯より発明好きな彼だが、意外にも束の頼み事は何だかんだ言いながらちゃんと叶えてあげている。時折発生する奇行はアレだが、彼なりにちゃんと彼女に恩義を感じている証拠である。
「そんなせんちゃんが、大好きっ」
彼の気持ちを知っているから、束も素直に嬉しかった。だからせめて、笑顔で見送ってあげて――。
「……大好きだから、離れるのはざびじぃぃぃぃ!!げんぢゃぁぁぁん!!」
「うおぅ何だ急に!?てか、げんちゃんて誰!?」
天才2人が楽しそうにじゃれつく姿を、クロエは微笑ましく見守るのであった。
「ところで戦兎様、その大量のお菓子袋は?」
「え?俺の向こうでの非常食だけど」
「没収します。戦兎様の事だから3日以内に食べ切るでしょうし、短期間でそんなに食べたら身体に毒です」
「ちょお!?返してくれよ俺のザビーゼク……じゃなくてお菓子袋ぉ!」
――――――――――
そしてIS学園入学式当日。
1年1組の教室は、静寂に包まれていた。28名の女子生徒が集まれば姦しくお喋りが繰り出されると思われるはずが、そんな事は無かった。
女子生徒たちが静かにしている理由。それはこのクラスに編入されている2人の男子生徒。
1人は最前列の教壇前の席に座っており、女子の視線に気付いているからか身体がカチコチに固まっている。彼の後ろ側の席に座っている子たちは見えないだろうが、今の彼の顔色は病に当てられているかのように悪くなっている。
そしてもう1人はというと……。
「(結局、忍者のベストマッチは見つからなかった……またライオンとロケットとロックがあぶれちゃったよ。『はーい2人組作ってくださーい』で何人組めてないんだよコレ。先生も困るよお前らさっさと組めやって)」
ボトル型アイテムを10個机の上に並べながら、思考を巡らせていた。現在進行形で四方から女子の視線を受けているにも関わらず、平然としている。というよりも気付いていないと言った方が正しいか。
ちなみに、彼の座っている椅子の背もたれにはベージュのトレンチコートが掛けられている。IS学園の制服はカスタマイズが可能なのだが、彼に関してはお気に入りのアウターを持参しているのだ。
「皆さん席に着いていますねー。それではSHRの方を始めますよ」
そうこうしている内に、このクラスの副担任である女性――山田 真耶が教室に到着し、教壇の元に立つ。
尚、赤星 戦兎は未だ思考の渦の中。
「(しかし、学園に入ってからはボトルもそう簡単に集まらなさそうだな……一応、ボトルの浄化作業はラボでもこっちでも出来るようにしてあるから、向こうで新しいボトルが出来上がったら届けてくれる寸法だけど……向こうに頼ってばかりなのもあれだな。……いや待てよ、IS学園は人が多い。ならそっち方面でボトルの成分を採取できる可能性も……)」
「――かほし―――くん、赤星くん!」
「ん?」
真耶の懸命な呼び掛けで漸く思考を止めた戦兎。彼が顔を上げてみると、不安そうに此方を見つめてくる童顔教師がいた。
「えっとですね、相川さんの自己紹介が終わったので次は赤星くんの番なんだけど……」
「あぁ成程、分かりました」
言われて理解した戦兎はスッと立ち上がった。壁際で真ん中の席なのでどこに身体を向けるか迷う所だが、その辺りを気にしない彼は前を向いたまま自己紹介を開始する。
「名前は赤星 戦兎。趣味は発明で好物は甘いもの。もし実験に使えそうな面白いネタがあったら、遠慮なく俺に教えて欲しい。以後、お見知り置きを」
取り敢えずパッと思い浮かんだ自分の特徴を上げてみた戦兎だったが、内容は無難な所に落とし込んでおり、女子たち+ティーチャーも満足げに彼の自己紹介を聞き入っていた。
「趣味が発明って事は、かなり秀才タイプ?」
「顔も良いし人当たりも良さそうだし、かなりの優良物件かも!」
「イケメンでインテリなのね!嫌いじゃないわ!」
脇でクネクネしている者は放置。
ワイワイ騒いでいる女子たちと、それを静めようと頑張る真耶を余所に戦兎は着席。思考がいつも通りになったところで、彼は改めてもう1人の男性IS操縦者である一夏を後ろから観察する。
彼は戦兎以上にどっぷりと思考の海に浸かっているようで、戦兎の自己紹介でクラスが賑わっていても尚動く気配が無い。多分、今頃はISに触るまでの回想に入っているのだろう。メメタァ。
その後、彼は自分の番になって真耶に声を掛けられ続けても中々気付かず、漸く気付いた後の自己紹介は名前だけ言うという超簡素なもので周囲をズッコケさせるという奇妙なスタートダッシュを始めた。
そんな彼が実の姉にして1組の副担任である織斑 千冬の来訪と共に、彼女によって出席簿で沈められるという流れを見ていた戦兎が抱いた感想はというと……。
「(変わった奴だなぁ)」
お前が言うな。
―――続く―――
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