昨日の夜は一夏の2人の幼馴染みが彼の部屋で衝突、戦兎がドラゴンフルボトルの完成で狂喜乱舞、寮内のフリースペースにて戦兎と鈴音が話をして鈴音の方針が定まる等、一夜で慌ただしいことが一斉に起こっていた。
鈴音が一夏と仲直りをし、あわよくばちゃんとした告白をしようということで最終的に落ち着いた。これにより事態は収束に向かっていくだろう。
の、筈だった。
「あぁぁぁぁぁ……!最っ悪……あたしのバカ……」
昨日同様、戦兎は鈴音と一緒に食堂で昼食をとっていた。前と同じく彼女に誘われたのだが、その様子は昨日と打って変わっていた。
落ち込んでいたのだ。それはもう深海の如く。
そこに至るまでの経緯を説明すると、まず鈴音は最初に一夏に謝ろうと思っていた。今日の朝方、授業が始まる前に彼の部屋に行って、そこで全部まるっと解決させるつもりでいたのだ。箒が同室なので案の定彼女から口を出されたのだが、鈴音は話を進める為にこれを華麗にスルー。
そして謝ることには成功した。一夏もちゃんと約束を覚えていなかったことを謝罪し、2人の仲が悪くなる事態は避けられた。ここまでは良い。
が、肝心のその先が叶わなかったのだ。
『もしかして、あの約束ってアレだったのか?ほら、毎日味噌汁を~ってやつ。酢豚だけど』
唐変朴の一夏が、突然核心を突いてきたのだ。普段は女心に疎い彼が、何故か急に鋭い読みをしてきた。とはいえ、鈴音にとっては告白にこじつけるチャンスでもあった。
が、ここで鈴音がヘタれた。まさかそんなことを言われるとは思っていなかった彼女は一瞬で頭がパニックになり、頭の中がごちゃごちゃになった状態で返した言葉が……。
『そ、そんなわけないでしょうが!あの、それ、あれよ!上達した料理の腕前をっ、幼馴染みのあんたに恵んでやろうと思っただけよっ!勘違いしないでよね!』
言った瞬間、鈴音は激しい後悔に襲われた。直ぐにでも今の発現を取り消したかったが、最早その場で訂正を効かせられるような啖呵ではなかったし、一夏も今の言葉を完全に納得してしまっていた。彼の隣にいた箒は、終始怒ったり焦ったり安堵したりと忙しそうだった。
こうして、鈴音は絶好のチャンスをふいにしてしまったのであった。
そして現在、午前中の授業を後悔のオーラを纏いながら机に突っ伏して乗り越えた鈴音は、戦兎に話を聞いてもらうべくこうして昼食を共にしているのだ。
そして経緯を聞き終えた戦兎の感想は……。
「なんか大変そうだな」
この一言である。
しかし今の鈴には中身のないその返答に食い付く気力も無かった。
「どうしよう……もうこれ取り返しのつかないところまでいったんじゃない……?昨日の今日でぇ……?」
「直ぐに言い辛いなら、日を置いてからまた取り消せばいいんじゃないか?」
「日を置いて、ねぇ……」
そう言いながら鈴音はここ最近の予定を思い返す。
IS学園の1学期は学年別トーナメントや臨海学校が控えており、直近ではクラス対抗戦が催される予定だ。
クラス対抗戦。
この言葉を脳に過らせた鈴音のインテリジェンスに電流が奔る!
「これよっ!」
「成程、それか」
「そうそう、それそれ!……って何も説明してないわよ」
言ってみただけである。特に理由の無い戦兎であった。
「今度、クラス対抗戦があるでしょ?確か一夏もクラス代表って聞いてるから、そこであたしが勝って今度こそあいつに正しい意味の方を言ってやるのよ!」
「ほうほう。けど君ってクラス代表だったっけ?転校生なのに」
「代わってほしいって頼まれたのよ。実力的にもあたしがやった方がそういうイベントの時に有利だしね」
ふふん、と得意げに胸を張る鈴音。
中学3年生の頃にISの勉強を始め、1年という短い期間で代表候補生にまで上り詰めた彼女の実力は間違いなく本物である。こう見えても筋金入りの努力家なのが彼女の長所の1つだ。
「そうと決まれば、早速特訓ね!戦兎、あんたあたしの特訓に付き合いなさい!」
「やだ」
「即答!?」
間髪入れずに答えて鈴音を驚かせる戦兎。
彼が断わる理由は2つ。
1つ目は研究の時間が削がれること。現在はドラゴンフルボトルに合わせた装備を開発中で、夜遅くまで勤しんでいる戦兎としては好ましくない話である。とはいえ、昨日部屋に戻ってからハイテンションによるハイペースでデータを纏めたために作業進行は早く、これは割と余裕はある。
2つ目はクラス対抗戦で鈴音が勝利してしまうと、学食デザート半年間フリーパス取得のチャンスを失ってしまうこと。好きなだけ好物の甘い物が食べられる戦兎としては、ただでさえ一夏と鈴音が戦おうものなら鈴音が勝つ確率が高いというのに、彼女の特訓に付き合って彼女を強くしてしまったら、余計に可能性は低くなってしまう。
勿論、特訓に付き合うことによるメリットが無いわけではない。戦兎としては強敵である鈴音と戦って各ボトルの更なるデータ収集が期待出来る。ドラゴン専用の武器の開発が完了すればそのまま彼女相手にテストも出来る等、その方面では都合がいい。
「そういうわけだから、俺は君の特訓に付き合うわけにはいかないんだよ」
「ったく、めんどくさいやつね……」
ノリの悪い戦兎に頬を膨らませる鈴音。
しかしその直後、彼女は名案を閃かせた。エレキ閃き発電王。
「ねぇ戦兎、今のあんたとしてはフリーパスが手に入らないのが一番の懸念事項なんでしょ?研究は特訓が終わった後にでも出来るんだし、煮詰まってるわけでもないんでしょ?」
「ふむ、まぁそうだな」
「じゃあこうしましょ。あたしの特訓に付き合ってくれたお礼として、あたしが優勝したら1組のあんたには特別にフリーパスの権限を有効にしてあげる。つまりあんたはあたしが勝とうが万が一に一夏が勝とうが半年間デザート食べ放題ってわけ」
「さぁ、特訓を始めようか」
酷い掌返しを見た。
全ては難波重工……じゃなくてフリーパスの為に。
「ところであんた、あたしの名前を全然言わないのはなんか理由でもあるの?」
「だって名前聞いてないし。あ、一夏が鈴って言ってたっけ」
「…………」
――――――――――
「さぁ、それじゃあ早速始めるわよ!」
放課後のアリーナにて、生身の戦兎と自身の専用機を装着した鈴音が対峙する。
鈴音の専用機であり、中国の最新第3世代機【甲龍】。
『実用性と効率化』を主眼に開発された機体は安定性と燃費に優れており、将来的な第3世代機ISシェアの有力候補として各国の視野に入っている。
装着者である鈴音の手に収まっている大型ブレード【双天牙月】は2本を連結させることによって双刃刀や投擲武器として使用可能である。
「そういえば、あんたが変身するところを見るのって初めてね。早く見せなさいよ」
「分かってるって。さぁ、実験を始めようか」
≪ラビット!≫≪ガトリング!≫
戦兎が最初に選んだフルボトルは、ラビットとガトリングのフルボトル。
それらを振ってドライバーに挿し込むと、戦兎はビルドの【トライアルフォーム・ラビットガトリング】に変身した。
現れた赤とメタルカラーの戦士の姿に、鈴音は関心を示す。
「それがビルドね……なら試合開始よ!」
「よし、来い!」
≪ISモード!≫
ビルドフォンでISモードを起動させ、背中にカスタム・ウイングを装着するビルド。
それと共に鈴音は空中へと身を乗り出し、ビルドはそれに続いた。
そして、ビルドクラッシャーと双天牙月が激突する。
2人は一進一退の鍔迫り合いの後、互いに距離をとって空中を旋回。そこから再度得物をぶつけ合うシーンを展開する。
「へぇ、普通に中々やるじゃない!」
「おいおい、まだビルドの力は全然見せてないぞ!」
≪Ready go!≫
武器を凌ぎ合わせる最中、ビルドはドリルクラッシャーに忍者フルボトルを装填。
≪ボルテックブレイク!≫
ブレードから放たれた紫色の手裏剣状の衝撃波。一振りする毎に発射されるそれは鈴音の防御を押し崩し、彼女を退かせる。
「くっ……!」
「まだまだ」
≪ホークガトリンガー!≫
戦兎はその隙をついてホークガトリンガーを召喚。更にマガジン部を回転させ、弾丸を装填し始める。
≪10!20!30!≫
「そぉい!」
30もの弾丸が連続射出。ビルドによって撃ち出された弾が鈴に襲い掛かる。
このまま全弾直撃すれば鈴音にとって相当な痛手になる攻撃だが、それを黙って受ける程彼女の実力は低くないし、甘くもない。
「やられて、たまるかっての!」
鈴音の甲龍の肩アーマーがスライドし、中心の球体が発光を始める。
その直後、鈴の身に降りかかる筈だった弾幕が掻き消され、2度目の発光が行われた後にはビルドの身体にも衝撃が走った。
「ぐ、おぉ!?」
突然の衝撃に驚きの声を上げながら仰け反るビルド。
そんなビルドの反応を面白がるように、鈴音は不敵に笑ってみせた。
「ふふん、どうよ?これが【衝撃砲】の力よ!」
衝撃砲。
鈴音の専用機、甲龍に搭載された第3世代兵装であるその内容は空間圧作用兵器。
非固定浮遊部位である肩部のスパイク・アーマーと腕部にそれぞれ備え付けられており、空間圧によって砲身を形成し、その際に生じる衝撃を砲弾として利用する仕組みである。空間の圧縮であるため、砲身も砲弾も基本的に不可視。ISのハイパーセンサーを用いれば大気の乱れや気流の変化から感知することが出来るが、射出後に分析しても間に合わない。
更に射出角度も自由自在で、前後左右真上真下にも対応可能という素敵な仕様。
そんな特殊兵装を目の当たりにし、直接その身で味わったビルドはというと……。
「見えない攻撃……ふおぉぉぉっ!テンション上がるゥ!」
1人で昂ぶっていた。
これには鈴音も結構引いている。
「え、ちょっと何よ急に変な声あげて」
「いやだって見えない攻撃とか面白いに決まってんじゃん!砲身の形成にあたる空間への干渉数値があれくらいだとすると、砲弾の出力もある程度算出されて……あの方式で計算されてるに違いないよな、後は……」
「ちょっとちょっと!試合中に分析始めてないでちゃんと戦いなさいよ!」
「……ん?おぉ、そうだったそうだった」
戦いに意識を向け直した戦兎は、フルボトルを取り換える。
≪ゴリラ!≫≪タンク!≫
≪Are you ready?≫
「ビルドアップ!」
レバーを回転させてビルドは【トライアルフォーム・ゴリラタンク】にフォームチェンジする。
青と茶色の装甲に切り替えた彼は、堂々とその場に佇む。
「わっ、本当に姿が変わっちゃったわ……」
「よし、さぁ来い!」
「はぁ?」
「いやだから、衝撃砲だよ衝撃砲!あれを詳しく調べるためにフォームを物理耐性の高いやつに替えたんだから、ほら早く早く!」
「ホントに変なやつ……じゃあお望み通り、たらふく食らいなさい!」
鈴音は呆れながらも戦兎の要望に応え、衝撃砲を連発。衝撃砲は出力次第でキャノンのような単発射撃やマシンガンのような連続射撃を行うことが出来るのだ。
ビルドは見えない連続攻撃で全身にパンチを受けているような感覚を味わいつつも、耐久力の高いフォームでそれを踏み耐えてみせている。必要に迫られてやっているわけではないので、何やってんだコイツと思いたくなる光景だ。
「っていうか、あたしはあんたの実験に協力してるわけじゃないんだから、真面目にやんなさいよ!」
「うおぉっ!?」
これではまともな訓練にならないと気付いた鈴音は、ツッコミと共に高出力の衝撃砲を放ち、ビルドを大きく吹き飛ばす。
強力な一撃を貰ったビルドは地面に向かって墜落し、ゴロゴロと地面を転がる。
「おーいてて……けどまぁ、大体分かった」
「何がよ?」
「球体の発光から発射までの時間、弾速、威力、一度に発射出来る砲弾の総量と次発までのインターバル……砲角は全方位らしいし、リーチもこのアリーナ内なら届くだろうし、そんなところかな」
「つまり、ほぼ全部分かったってこと?そんなんで知られる程、衝撃砲は甘くないわよっ!」
戦兎の言葉に眉を顰めた鈴音が、啖呵と共に衝撃砲を放つ。
しかしビルドは右腕部の【サドンデストロイヤー】を力強く振るい、衝撃が到達するタイミングを完璧に見切ってみせたのだ。
嘘偽りなく実行してみせた彼の行動は、鈴音を驚かせた。
「嘘、本当に衝撃砲を見切ったっての!?」
「てんっさいならこれくらいチョロいもん」
そう言いながら戦兎は新しいボトルを取り出す。
≪忍者!≫≪コミック!≫
≪ベストマッチ!≫
黄色と紫色のフルボトル、忍者とコミックをそれぞれドライバーに挿し込み、レバーを回していく。
≪Are you ready?≫
「ビルドアップ!」
黄色と紫色の成分がビルドの周囲に現れたパイプを伝い、前後にハーフボディを形成する。そしてそれらはビルドを挟み込むように機動し、彼の姿を再び変化させる。
一夏との戦いで見せたベストマッチ、ニンニンコミックフォームがその姿を見せる。
≪忍びのエンターテイナー!ニンニンコミック!イェイ!≫
フォームに合わせた専用武器、4コマ忍法刀を携えた彼はそのトリガー部を4回引く。
≪隠れ身の術!ドロン!≫
4コマ忍法刀のトリガーを4回引くことによって発動する隠れ身の術。それは刀身から濃い煙幕を発生させ、自らの身体を覆い隠す技である。
本来ならば緊急回避等に用いられるが、ビルドはその煙幕をアリーナ全体に張るという手段をとってみせた。散布範囲が非常に広く、忍法刀の力だけでは本来のようにビルドの姿を覆うほどの濃度ではなくなっている。
この場一帯を覆う薄い煙幕の意図に、鈴音はハッと気づいた。
「……成程ね、こうされたら衝撃砲も丸見えね」
「そゆこと。衝撃が空間作用に関わる以上、この煙幕を無視するなんて無理無理」
只でさえ見切られているというのに、砲身も砲弾も見えるようになってしまってはこの先用いても意味が無いのと同意。
鈴音のメインウェポンの1つである衝撃砲は、忍者の奇策によってほぼ無効化されてしまったのである。
そんな鈴に残されている頼みの綱は、愛刀である2振りの大型ブレード。
それを連結させて双刃刀に組み上げた彼女はバトンのようにそれをグルグルと振り回して、構える。
「だったら、こいつで押し切るのみよ!」
「知ってるか?忍ばない忍者もいるらしい」
そう言いながらビルドは忍法刀を構える。忍術や暗器を使う気満々であるが、刀主体で戦うという旨での発言だ。
「さぁ、まだまだ実験はここからだ」
2人の訓練は、互いのシールドエネルギーが0になるまで継続するのであった。
そして日は過ぎていき、時はクラス対抗戦にまで進んでいく……。
―――続く―――