INFINITE・BUILD-無限創造-   作:たいお

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第11話 開幕の対抗戦=侵略のイレギュラー

 戦兎と鈴音が放課後に特訓を行っているという話は、あっという間に学園内に広がった。

 やれ織斑 一夏と喧嘩したから代わりに鈴音を使って彼に仕返しするつもりだとか、やれ鈴音に言い包められて2組の手先になっただとか、真相が靄にかかったまま噂が広まっていった。

 この噂をきっかけに彼への印象が良くなったのは、1年2組。学園でたった2人の男子の内の片割れが自分達のクラスの力になってくれるというのだから、喜ばない手は無いだろう。

 特に評価が変わらなかったのは1年1組。彼が大の甘党だと知っているクラスメイト達は察していた。『あぁ、フリーパスに釣られたんだな』と。

 

 そして事実を知らない他のクラス、学年はというと……。

 

「ねぇ、あれが千冬様の弟じゃない方の……」

「自分のクラスをルラギッタンディスって。薄情よね」

「嘘だそんなことー!!」

 

 廊下で戦兎とすれ違う女子生徒が、口々に囁いている。あまり良い噂が流れていない所為で、その内容も彼に対して批判的であった。

 元々、戦兎と一夏は彼女達によって比較されがちであった。どちらがカッコイイか、頭がいいか、強いか、性格がいいか、仲良くなれそうか、将来性がありそうか、受けか攻めか。

 しかし世界最強で女性ファンも多数いる千冬の弟、という身内によるアドバンテージもあって一夏の方が人気が高かった。一方の戦兎は頭は良くてクラス代表を決める決闘でも2勝し、見た目も良いので寧ろ一夏に対して有利かと思いきや……。

 

『っはぁぁぁぁん!!キタキタキタキタ降りてきた最っ高のインスピレーション!!これはもう夜通し研究するっきゃないっしょ!』

 

 時々現れるハイテンションが有名になり、他の高評価を台無しにしていた。分かりやすい欠点があるお陰で戦兎の評価はイマイチであった。

 もしこのまま彼がイメージアップに繋がるアクションをしなければ、彼の評価は低いままであろう。

 

「戦兎くんはそれでいいの!?」

「え、どうでもよくない?」

 

 一番気にするべき本人が気にしていない始末。

 

 クラス対抗戦1試合目はまさかまさかの一夏対鈴音。まるで神が悪巧みをしたかのような組み合わせである。取り敢えずユグドラシル絶対許さねぇ!

 クラス代表以外の生徒は観客としてアリーナの席で試合を見学することとなっている。1組から4組の1年生、100名以上が今回の観客だ。

 

「どうでもよくないことないよ!」

「噂の中には謂れの無い内容だって混ざってるんだよ!今なら名誉毀損で告訴して賠償金貰って牛丼卵付き100杯食べてビルを1,000件買って女子アナと結婚してウハウハになるチャンスなんだよ!」

「最高50万円でも足りねーよ」

 

 1組の生徒達で彼の悪印象を払拭しようと友人間で掛け合ってくれている動きもあるが、線の薄い上級生達にはあまり伝えられていないのが現状である。仮に伝わったとしても、時折見せる彼の奇行を踏まえた上で信じてくれるのかは分からないが。

 

 一先ず戦兎の噂については置いておくとして、アリーナで行われている一夏と鈴音の試合に視点を向ける。

 戦局を分析してみると、現状は鈴音の方が優勢であった。片やISを本格的に動かしてたったの1ヶ月、片や1年間の猛勉強と鍛錬を経て代表候補生にまで上り詰めた努力と才覚を持っている。後者の方が圧倒的にアドバンテージがある。

 だがそれに拍車をかけているのが、ここ最近の戦兎との特訓にある。彼と戦って経験値を貯めるだけでなく、現在戦っている一夏の戦法や攻撃の癖等も教えてもらったお陰で、立ち回りが正確になっているのだ。

 

「ほらほら一夏ぁ!あんたの実力はそんなもんなのっ!」

「くそっ、強ぇ……!」

 

 連結させた双天牙月を巧みに振り回す鈴音の攻撃を辛うじて防ぎながら、苦しげに言葉を吐き捨てる一夏。

 セシリアとの戦いでは相手の油断と動揺の瞬間を突いて勝利寸前にまで辿り着いた彼であったが、それは奇跡と言ってもいい出来事だった。

 だが、奇跡はそう何度も起こらない。ましてや今回の相手は近距離戦を苦手とする相手どころか、逆に得意としているのだから。

 

「そぉらぁ!」

 

 双刃刀による強力な一撃。大剣を振るったかのような強靭な攻撃は一夏の防御を押し切り、彼を地面へと大きく吹き飛ばした。

 更に鈴音は地面に落ちた一夏に対して、衝撃砲による追撃を敢行。強出力による不可視の弾丸が土煙に向かって射出され、煙の勢いを激しくさせた。

 

 ボフン、と立ち込める土煙の中から姿を現す一夏。

 しかしそのダメージは少ないとは言えず、ISの絶対防御を超えた攻撃によって彼の身体やIS装甲には傷が出来上がっていた。

 

「あらっ。結構いいのをあげたつもりだったんだけど、中々頑張るじゃない」

「……あんまり調子に乗るなよ。俺も本気でいかせてもらう」

 

 顔を土埃で汚しながらも、その表情は真剣を帯びていた。

 

 鈴音は一夏のその表情に思わずトクンと心の臓に強い鼓動を波打たせる。そうだ、自分は彼のこういうところにも惚れたのだ。外見の良さだけではなく、そこに灯す強い意志にも惹かれた。

 しかし鈴音はハッと我に返って首を激しく横に振る。今は試合中だし、今回はお国の模擬戦と違ってどうしても勝たなくてはならないのだ。

 

「そう……なら、さっさと来なさい!」

「言われなくても!」

 

 2人が再度、正面から獲物をぶつけ合う。

 拮抗しては一度距離を取り、旋回してから再び相手と激突する。ヒット&アウェイを繰り返しながら2人は激しい空中戦を披露していく。

 

 そんな中で、鈴音は一夏に言葉を掛けた。

 

「あんた、なんで戦兎のことをそんなに嫌ってんのよ!」

 

 それはここ最近の鈴音が疑問に思っていたことだった。

 一夏の前で彼の話をすると、決まって目の前にいるこの男は苦い表情を浮かべていた。一夏がここまで特定の人物を嫌っているのは珍しいことだと鈴は知っている。

 

「お前には関係無いだろ!」

「あるわよ!あんたの、幼馴染みのことでもあるし……それに!」

 

 ガキィン!と得物を弾く鈴音。

 

「あいつがどう思ってるのかは知らないけど、あたしは戦兎のことを悪いようには思ってない」

「っ!……あいつはっ!あいつはお前のことを助けようとしなかったんだぞっ!」

 

 激しい剣幕で鈴音に迫る一夏は、雪片弐型を彼女に向けて振りかざす。

 

「俺は聞いた!人助けと自分の研究、どっちが大事なんだって!そしたらあいつは迷わずに言い切ったんだよ、ビルド(自分の研究)の方だって!」

「だから、あいつのことが嫌いってわけっ?」

「あぁそうだ!お前があの時弱ってたっていうのに、あいつが気にしてたのはフルボトルとかいう小さな道具のことだった!俺はそれが許せねぇ!」

 

 一度零した不満は収まりがつかず、一夏は己が抱えている不満を鈴音に向けて一気に吐き出した。

 

 それとは対照的に、鈴音の感情は冷静であった。

 一夏が言った、スマッシュから元に戻った自分よりもフルボトルのことを優先したという話に何も思わないというわけではなかった。

 だがそれ以上に、鈴音には思うところがあった。

 

「あいつさ、記憶喪失なんだって」

「えっ……」

「覚えてるのはここ3年間の出来事だけで、それ以前のことは何1つ覚えてないって言ってた。家族も、故郷も、学校も、友達も……これっぽっちも思い出せてないって」

 

 その話を聞いた一夏は絶句した。

 確かに彼に対して身の上話をした覚えは無い。入学してから一夏自身は勉強や特訓、女子達の質問捌きに追われていたし、戦兎は研究と称して部屋に籠る機会が多く、2人が落ち着いて話をする機会は殆ど無かった。基本的に、一夏の周りには誰かしら女子がいるし。

 更に記憶喪失ということに関しても、一夏は他人事のように感じられなかった。

 彼もまた、2つの記憶を失っているからだ。物心がつく前の記憶、そして姉である千冬のモンド・グロッソ2連覇が掛かった日の内の、数時間の記憶。

 

「あんた、ビルドが初めて現れたのがいつか覚えてる?」

「えっと、スマッシュが2、3年前くらいに現れて、それから少しした時……だったか?」

「戦兎がビルドってことはさ……あいつ、記憶を失ったっていうのにその間にビルドになってたって計算にならない?」

「……!!」

 

 確かにその通りだ。

 最初に現れたビルド、そしてそれ以降もずっと彼が変身していたのであれば、彼は記憶を失いながらもたった1人で異形の怪人スマッシュと戦い続けたことになる。普通ならば、自分の記憶を取り戻すことを優先する道もある筈なのに。

 

「それに気付いて、ここ最近であいつと話してて、あたし思ったの。あいつは人助けをしない薄情者とかじゃなくて、ただ知らないだけなんだって。研究とか実験とか、そういうのを拠り所にしたのかもって」

「拠り所?」

「だって記憶を失くして、色んな喪失感があった筈でしょ?そんな中でビルドに関する発明や研究が肌にあったとか、好きになったとかそういうことなんじゃないの?だからあいつも、その在り方に満足しちゃってるんだとあたしは思う」

 

 その辺りについては、本人から確証を得られていないので完全に鈴音の推測するになる。

 だが自分の感覚は鋭い方だと自覚している彼女は、概ね合っている筈だという自信もある。

 

 実際、鈴音の推測は的を得ていた。

 戦兎がビルドの開発や研究にばかり目を向けているのは、束と共に生活し始めた頃からそういった方面に興味を持ったのが根底である。

 いつの間にか自分の所持品に加わっていた2本のフルボトルと得体の知れない四角い黒の箱。それらを解明する為に戦兎は束の研究風景を盗み見て、いつしか自分の技術として取り入れてそれらの開発を進めていった。

 そうして出来上がったのがビルドドライバー、そしてそれを使って変身するビルドである。

 

「あたしはあいつのことに一々口出しするつもりは無いわ。学校生活を続けてる内にあいつの考え方も変わるかもしれないし、変わらないかもしれない。だけどどっちにしてもその結果があいつにとって一番いいと思った選択なら、あたしがどうこう言う資格は無い。……で、あんたはどうしたいの?」

「俺……?」

「そ。あたしの話を聞いても、全部納得したって顔してないわよ。あんたがあいつに何かしてやりたいんじゃないの?」

「俺は……俺は……!」

 

 その答えを口に出そうとした一夏。

 

 しかしその瞬間、アリーナ全体に強力な衝撃が奔った。

 アリーナの遮断シールドが砕け散る音、アリーナのフィールドに到来する巨大な影、その質量を感じさせる鈍重な衝突音、先程一夏が起こしたものよりも激しい土煙。

 

 一夏が、鈴音が、観客席にいる戦兎達が、そして管制室にいる千冬達の脳内に『緊急事態』の4文字が共通して浮かび上がる。

 

「キャァァァァァァっ!?」

 

 誰かが悲鳴を上げたことが、混乱の切っ掛けとなる。

 観客席にいた少女達は各々でその場から逃げようとアリーナの出口に押し掛け始める。小、中学校の時に習った避難訓練のイロハなどいざという時になると頭から抜け落ちてしまっており、雑多な人海が出来上がっている。

 だが非情なことに、何故かアリーナ内の扉は全てロック状態に入っていた。

 

「ねぇ!?扉が閉まってるの!?」

「お願い開いてよ!開いてぇ!」

「ゥ私をここから出せェ!ゥ私は神の才能を持っているんだぞォ!」

 

 1人だけ見当違いのことを言っているが、無視。

 

「おーすげぇ何あれ。出力とか絶対競技用じゃないじゃん」

 

 1人だけ見当違いの反応をしているが、これが主人公なので無視出来ない。

 他の生徒が席から立って避難をしようとしている中、戦兎だけはその場から動かないでいた。その場に留まり、アリーナに侵入してきたイレギュラーを興味深そうに観察しているのだ。

 

 イレギュラーはスマッシュではないようだが、その形状はどこか歪であった。

 手は異常に長く、つま先より下にまで伸びている。頭部には首と思われる個所が無く、深灰色の全身装甲と相まって全体的に不出来な人型ロボットのような印象を感じさせた。

 煙の中から現れたそのイレギュラー――ゴーレムは一夏と鈴音による2名と交戦を始めている。アリーナ内の遮断シールドがレベル4にまで設定、全ての扉がロックされているので救援も避難も叶わず、必然的に一夏と鈴音がゴーレムと戦う羽目になっているのだ。

 

「戦況は……あまりよろしくない、か」

 

 ゴーレムは高出力による機敏な回避行動を行って一夏と鈴音の連携攻撃を用意に躱してみせ、でたらめに長い腕をコマのように無茶苦茶に振り回したり垣間にレーザーを発射したりして着実に2人を追い詰めている。

 

 一夏と鈴音は先程の試合の消耗も残っているので、敗北は時間の問題だろう。

 

「他人の獲物を横取りするのは主義じゃないけど……ま、今回は仕方ないか」

 

 そう言いながら戦兎は懐から金色のフルボトル【ロックフルボトル】を取り出して、それをシャカシャカと振りながらアリーナの遮断シールドに近づいていく。

 本来ならば身体が遮断シールドに遮られてアリーナの舞台内に入ることは叶わない。

 

「お邪魔しまーす」

 

 しかし戦兎は、まるでシールドがそこに存在しないかのように、自然にシールドをすり抜けてみせたのだ。

 

「「はぁっ!?」」

 

 その光景を偶々目にした一夏と鈴音は、揃って驚愕の声を放つ。シールドなどお構い無しに入って来たことにもだが、こんな火事場に態々飛び込んできたことにも驚かされた。

 

「ちょっと戦兎!あんたなんでこっちに入って来てんのよ!?てかどうやって入ったの!?」

「ふふーん、何を隠そうロックフルボトルにはエネルギー物質を遮断する力があるんだなコレが。遮断シールドがエネルギーで構成されている以上、これを振って持ち歩けばそんなものは意味を為さないってわけ」

 

 戦兎がアリーナに降り立ったことによって、ゴーレムも彼に反応を示し始める。

 戦兎とゴーレム、両者が対峙する中で戦兎は新たに2本のフルボトルを取り出した。

 

「さぁ、実験を始めようか」

≪ゴリラ!≫≪ロケット!≫

 

 フルボトルをそれぞれセットし、レバーを回して周囲にファクトリーを形成する。

 相手がスマッシュだろうとISだろうとゴーレムだろうと、戦兎のやるべきことは変わらない。

 

≪Are you ready?≫

「変身!」

 

 茶色と空色のボディで組み上がった【トライアルフォーム・ゴリラロケット】への半身を完了させるビルド。

 身体から吹き上がる白い蒸気を背景に、ビルドは腰を低く構える。

 

「行くぞ!」

 

 左肩部に備わっているロケット型のパーツからエネルギーを噴出させ、勢いのある突撃を仕掛ける。反対の右腕はいつでも拳を振れる姿勢に入っていた。

 一夏&鈴音対ゴーレムの戦いに参戦したビルド。彼の介入によって戦況は大きく変わろうとしていた。

 

 

 

―――続く―――

 




ちなみにフルボトルを振った際の効果は大体独自設定です。今回のロックフルボトルがその一例です。

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